大使とその妻 (上)

  • 新潮社 (2024年9月26日発売)
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  • 本 ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104077045

作品紹介・あらすじ

大使夫妻はなぜ軽井沢追分から姿を消したのか。12年ぶり、待望の新作長篇小説。2020年、翻訳者のケヴィンは軽井沢の小さな山荘から、人けのない隣家を見やっていた。親しい隣人だった元外交官夫妻は、前年から姿を消したままだった。能を舞い、嫋やかに着物を着こなす夫人・貴子。ケヴィンはその数奇な半生を、日本語で書き残そうと決意する。失われた「日本」への切ない思慕が溢れる新作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 軽井沢を舞台にした長編小説の上巻。
    日本に長いアメリカ出身のケヴィンとその隣家の夫妻の物語。登場人物がミステリアスなことに加え、いずれも日本文化への造詣がそれぞれの視点から深く、全員が1950~60年代前半生まれで別荘地という非日常空間が舞台だからだろうか、現代の話なのにまるで昭和のよう。前編では、隣家の夫妻(タイトルの通り元大使とその妻)との交流を通して彼らがどのような人なのかが徐々に明らかにされている。大使を歴任し夫妻が長く暮らした南アメリカの話もよく出てくる。下巻ではさらに話が進むだろうが、具体的な展開が想像つかず、少し不穏でどきどきする。
    水村美苗さん(今回初読み)はご自身も米国に長い経歴をお持ちで、その実体験が多々盛り込まれているのだろうなと思われる作品。

  • たとえば、嵐が丘のような、
    たとえば、源氏物語のような、
    そういう例え、そぐわないかもしれないけれど、深淵で高貴で雅で、しかも海外も感じられ軽井沢の風も感じられるような。
    「下」にまた感想を書き綴ります。

  • ああ、水村美苗さんの新作小説を読めた!
    その喜びに、読む前から感涙、
    そして上巻を読み終えた今は、感動の涙。

    初代ブクログでは、おそらく好きな作家欄に
    水村美苗さんの名前を出していたはず。

    『本格小説』がとにかく大好き!

    それから、辻邦生さんとの往復書簡『手紙、栞を添えて』は、一つ一つ確認するように、
    横書きの『私小説』は違和感を抱きつつも、必死に、読んだ。
    水村さんの知的で聡明な、そして近代日本と西洋が入り交じる
    あの世界が大好きだったのだ。

    でも、あまりにも前作『新聞小説 母の遺産』から間が開きすぎた。
    そして、残念なことに、どうもあの小説が好きになれず。
    いつしか、水村さんは、小説をもうお書きにならないかも・・・などと思い込んで
    時だけが流れていた。
    そうしたら、思いがけず、新作がやってきたとな♫

    ばんざ~~~い

    即、図書館に予約。すぐに借りられてラッキ~
    でも、これは、自分の手元に置いて、ずっと読み続けたい本。
    週末には本屋さんへGO!

    ・・・肝心の小説。

    読売新聞で水村さんはおっしゃった。
    「アメリカ人の男性の目で文化人類学的に日本を見たい気持ちがあった」
    大使とその妻、つまり周一と貴子夫妻と親しくなるケヴィンの手記の形で
    小説は進む。夫妻との出会いと別れ・・・

    上巻ラストでは、貴子の秘密が明かされ、驚愕する・・・
    一方で、ケヴイン同様、ああ、そうだったのかと、腑に落ちる。
    まさにわたしはケヴィンを通して二人を見ていたわけだね!

    「読売」では「日本語だから可能な表現とか、書き言葉の面白みを
    継承して後につなげたい」とも、おっしゃる。
    なるほど!ああ、本当によくわかる!

    読んでいて、ふと、中里恒子『時雨の記』が蘇ってくるのは
    その「書き言葉の面白み」のせいだろうか。
    あのときと同じように、本作も大事に大事に文字を追っている。
    一つ一つをきちんと味わうことができる文章だ。

    下巻も、大事に読みたい。
    一気読みしてしまいそうだけれどねw

  • アメリカ人のケビンは一人で軽井沢の追分の小屋に住んでいる。冬の寒い頃は東京のマンションに移っているが、気候が良くなると軽井沢に戻ってくるのが習慣になってしまった。そんなケビンの隣の別荘が改築され新しい住人が越してくるという。静けさを愛するケビンは家族ずれなら困るなと心配していたが、やってくるのは夫婦ずれだという。少しほっとしたケビンだった。そしてその夫婦が越してきて、少しずつお互いの来歴を知るにつれ、ケビンにはその夫婦が忘れられない人たちになっていく。

  • ケヴィンと貴子、それぞれの過去から今に至るまで、国を跨ぎ時代を超え、何層にも物語りが織りなされていく。それは、とうの昔に亡くなったかけがえのない者との対話でもある。最後に二人が再会できることを願わずにはいられなかった。

  • 亡くなった兄キリアンへの想いと家族への疎外感からアメリカを離れ日本に暮らすケヴィン.彼の軽井沢の隠れ家のような山荘の隣に越してきた元大使の夫妻との交流をつうじて日本文化が立ち現れてくる.妻貴子の謎めい佇まいが想像と違っていて,その生い立ちも含めて下巻が楽しみである.

  • 2025年の最高作にもう逢ってしまったよ。
    水村美苗さまの久々の最新作は、鎌倉が舞台。失われゆく日本の美を嘆きながらひっそりと別荘地はずれの庵に暮らすアメリカ人の隣へ、夢見た日本を体現したかのような女性とその夫が越してくる。彼女の正体は…ああ、もうなんと美しい文章か。読んでるだけで血が洗われる。

  • 語り手の日本に住むアメリカ人、
    高等難民みたいで
    どこか日本を見下してるし
    最初は鼻についてたんですが
    読み進むうちにやめられなくなり!

    それは実は彼も
    もう一人の主人公の女性と同様、
    過去に故郷で重い出来事があり
    それをずっと引きずりながら
    生きているから。

    女性の主人公が話す日本語が美しく
    背筋が伸びる気持ちになりました。

    最後は書かれていませんが
    哀しい結末を想像しちゃった!


  • 薄い布を一枚一枚剥ぐように貴子の真実が明らかになっていく
    ケヴィンと同じくわたしも次々に訪れる驚きにただ茫然とするばかり。
    冒頭で夫妻との別れが描かれているので、これからさらに何があきらかになって何が起こるのか、怖いような気持ちで下巻に、、、

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著者プロフィール

水村美苗(みずむら・みなえ)
東京生まれ。12歳で渡米。イェール大学卒、仏文専攻。同大学院修了後、帰国。のち、プリンストン大学などで日本近代文学を教える。1990年『續明暗』を刊行し芸術選奨新人賞、95年に『私小説from left to right』で野間文芸新人賞、2002年『本格小説』で読売文学賞、08年『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』で小林秀雄賞、12年『母の遺産―新聞小説』で大佛次郎賞を受賞。

「2022年 『日本語で書くということ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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