神よ憐れみたまえ

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 89
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  • Amazon.co.jp ・本 (570ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104098101

作品紹介・あらすじ

私の人生は何度も塗り替えられた――。最愛の伴侶を看取るなか、十年の歳月をかけて紡がれた別離と再生の長篇小説。昭和三十八年、三井三池炭鉱の爆発と国鉄事故が同日に発生。「魔の土曜日」と言われたその夜、十二歳の黒沢百々子は何者かに両親を惨殺された。なに不自由のない家庭に生まれ育ち、母ゆずりの美貌で音楽家をめざしていた百々子だが、事件は重く立ちはだかり、暗く歪んだ悪夢が待ち構えていた……。著者畢生の書下ろし大河ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • 小池真理子さんの渾身の作だそうです。

    女性の一生を描いています。
    570ページありましたが、長いとは思いませんでした。
    むしろもっと読みたかったと思いました。

    私立聖蘭学園初等科に通っていたお嬢様の黒沢百々子12歳は、三井三池炭鉱が爆発し、電車の二重衝突事故があった「魔の土曜日」と呼ばれるようになった日に、父の太一郎、母の須恵を惨殺されて、孤児となります。

    父方の祖父母や叔父の孝二郎と暮らすのは嫌だと百々子は言い、黒沢家の家政婦だった石川たづの家に身を寄せるようになります。
    たづの家には夫の多吉、百々子より四つ上の紘一、一つ上の美佐がいます。
    百々子は紘一のことが好きですが紘一は百々子のことをお嬢様としか思っておらず同じ家に住みながらそういう対象としてみたことは生涯一度もありません。
    百々子は美佐とはとても仲がよく生涯の親友です。

    百々子には叔父が二人いますが父方の叔父の孝二郎は大嫌いで母方の叔父で独身の左千夫のみを慕っています。

    百々子の父母を殺した犯人は捕まりません。
    でも、読者は作中で犯人がわかるように描かれていて、犯人と百々子の関係にハラハラします。

    百々子は紘一のことを一生慕い続けますが、北島という高校からの同級生と付き合い始めます。
    さらに百々子には生涯更なる試練が、これでもかと思うくらい待ち受けています。
    そして現在、百々子が60代になるまで話は続きますが飽きることなく静かな感動に包まれて読了しました。

    この物語の中の人物では、黒沢家の家政婦であったたづが百々子に向ける気遣いが、なんてあたたかいのだろうと思いました。ひとつの嘘もない人生を送ったたづ。忘れられない人物になりました。
    そして、息子の紘一も、百々子に好意を寄せられながらもそれに全く気付かないふりをするところなど大変好感が持てました。
    たづの一家の一員としていた百々子がとても幸せそうだったのは、とてもあたたかい気持ちになれました。

    もちろん百々子が一番幸せだったのは幼い頃、音楽好きだった両親と三人で暮らしていた日々だったことはいうまでもありません。

  • 読みたかった小池さんの作品、そして本作、やっと手にとりました。

    描かれていたのは1人の女性、黒沢百々子の人生。 

    誰もが羨む幼少期を過ごした百々子の人生は12歳のある日を境に一変する。







    説明
    内容紹介
    ラストの告白に衝撃、落涙必至!
    10年の歳月をかけて紡がれた別離と再生。

    わたしの人生は何度も塗り変えられた。いくつもの死と性とともに──。
    昭和38年11月、三井三池炭鉱の爆発と国鉄の事故が同じ日に発生し、「魔の土曜日」と言われた夜、12歳の黒沢百々子は何者かに両親を惨殺された。
    母ゆずりの美貌で、音楽家をめざしていたが、事件が行く手に重く立ちはだかる。
    黒く歪んだ悪夢、移ろいゆく歳月のなかで運命の歯車が交錯し、動き出す……。
    著者畢生の書下ろし長篇小説。
    著者について
    小池真理子(こいけまりこ) 1952年、東京生まれ。成蹊大学文学部英米文学科卒。 1978年、エッセイ集『知的悪女のすすめ』で作家デビュー、同書はベストセラーとなり、一躍、時の人に。 89年、「妻の女友達」で日本推理作家協会賞を受賞し、小説家デビューを飾る。95年、『恋』で直木賞、96年、『欲望』で島清恋愛文学賞、2006年、『虹の彼方』で柴田錬三郎賞、11年、『無花果の森』で芸術選奨文部科学大臣賞、13年、『沈黙の人』で吉川英治文学賞を受賞。

  • 久しぶりに小池真理子の世界に入り込んでしまった。

    12歳の危うくて、多感な年ごろの百々子。
    彼女が、合宿中に両親が惨殺された。
    そこから彼女の人生も少なからず変化する。
    ただ家政婦のたづが、たづの家族が、いつも親身になり百々子の心に安寧をもたらしていた。

    百々子は、令嬢に多く見られる自己本位的な強さ、というものではない、前へ前へと生き抜いていくための、底力、生命力そのものがあった。

    両親を殺害した犯人も、途中からそうではないか…と思った。

    ミステリー的な要素をあまり感じず、ただ百々子の成長とともに変化していく感情やたづの家族との関わり方に重きを置いているように思えた。

    いくつもの別れと再生があり、60歳を過ぎた百々子の心情がラストでわかる。

  • 介護した母を看取り、続いて小説家だった夫の藤田宜永さんを亡くすという小池さんが10年の歳月をかけて執筆したという大作。書き終えて自分の原稿を読み不覚にも落涙したと語っている。
    主人公の百々子が辿(たど)った12歳から62歳までの激動の人生に敬服する。最終章になっても彼女に与えられた試練にむごさを感じずにはいられないが、きっと百々子は「私はただ、自分で自分に負けたくないだけ」と立ち向かっていくのだろう。小池さんご本人が凄まじい牽引力を持つ百々子に投影されていると思わずにいられない。
    百々子が生まれた黒沢家で家政婦だった石川たづの存在は大きい。たづは家政婦を辞めてからも百々子に寄り添ってくれている母親のような女性。輝く主人公の後ろにはたいてい支える人が居る(このような存在を母親のようなステレオタイプで描かれるのは抵抗がかなりある。必ずしも女性でなくてもいいのに・・・)。『後列のひと』というノンフィクション作品のタイトルが浮かんだ。

  •  芳醇なワインを飲んだ後のような余韻に包まれている。ものすごく豊潤な物語。 

     こんなにも心揺さぶられたのはいつ以来だろう?

     百々子は裕福な家庭に育ったお嬢様。そして誰もが振り向くような美貌を持っていて、何不自由なく暮らしていた。

     百々子が12歳の時、合宿に行っている時に両親が揃って殺されるという事件が起こった。

     まだ12歳の百々子は、家政婦のたづの家で暮らすことになる。石川家のみんなはたづをはじめ、本当にいい人ばかりで、1つ歳上の美佐とは姉妹のように仲良く、美佐の兄の紘一も優しく、百々子は密かに恋をしていた。

     事件が解決しないまま百々子は大学生になり、北海道へ叔父の左千夫と両親の墓参りに向かうのだが、東京に戻った百々子は衝撃の事実を突き付けられる。

     富豪の夫婦が殺害されるという事件を軸にストーリーが展開されるのだが、むしろ注目すべきは、百々子を取り巻く人物たち。特にたづとの関係性は素晴らしかった。

     数奇な運命に翻弄されながらも逞しく生きる百々子をいつまでも見守っていたい想いに駆られた。

     これから読む人たちは百々子の人生をじっくりと味わってください。

  • 金持ちの夫婦が殺害される事件が起きる。
    事件が起きた日、悲惨な鉄道事故が起き、夫婦の一人娘、百々子は修学旅行中だった。
    事件の第一発見者となった家政婦は百々子を可愛がっており、百々子も彼女が好きだった事から、一時期、家政婦の家で百々子は暮らす事となる。
    やがて、その家の同年代の息子を好きになる百々子。
    百々子は非常に美しい少女で、小さな頃から男たちはそんな彼女に性的な興味をもっていた。
    その中には思いがけない人物もいた。
    だけど、肝心の相手は彼女に興味を示していない。
    そんな彼女が両親を殺されるという心の傷を抱えながらも彼女らしく強く生きていく様子、その周囲の様子を描いている。

    久しぶりに小説を読んだ、という気になった。
    これぞ、私が昔から知っている小説というものだと思う。
    とにかく、人物の心理描写、置かれている状況描写が素晴らしくて、ああ、人を殺した人間はこういう心の流れになるか・・・と思わせられる。
    人物像も通り一辺でなく、素朴で良心的な家政婦がただ単純な物の見方をするのでなく、意外にも人を鋭く見抜く眼がある事、心根の優しい娘の道ならぬ恋に落ちていく様子など、読んでいく内にこの世界は本当にあるのだと思えた。

    私がこの本で最も心に残ったのはタイトルになっている「神よ憐れみたまえ」ではなく、「豊かな人間性」というような言葉。
    それは家政婦一家を表現した言葉で、私も見ていて本当にその通りで、そんな風に生きられるというのは稀有な事のように思えたし、「豊かな人間性」でない人間の方も彼らの存在のおかげで際立って感じられた。
    エゴ、自分しか見えない幼稚な様子、女性、妻を性の対象物としか見ない様子・・・。

    不幸な運命に翻弄されながらも自分らしく強く生きていく主人公が魅力的。
    だけど、どんなに数奇な運命を体験した人も何れそれは霧散してしまう。
    それでもただ生きるという事が素晴らしい。
    豊かな人間性という言葉を心に刻みたい。
    エゴに走りそうな時、思い出そうと思う。
    彼らならどうするか・・・と。

  • 小池真理子さんの作品を久しぶりに読みました。
    図書館で見た時の本の厚さにちょっと戸惑いました。
    570ページの長編です。
    しかし、読み始めたら止まらなくなりました。
    最近評判になった本を借りてきても、以前ほどのめり込むことがなく、途中で止めてしまう本もあるのですが今回は時間を見つけては読みました。

  • ❇︎
    長編

    一人の人間が女という性別で生まれ、
    美しい容貌と人を魅了する色香故に
    運命に翻弄され続けながらそれでも強い意思を
    もって人生を強く生きる物語。

    筆者が10年をかけて書き上げたと
    帯にある通りとにかく長い。
    そしてバードカバーだったのですが、
    字が小さくて目がつらかった。

    一つの章の中で話手が度々入れ替わるため、
    誰が何の話をしているのかしっかり
    文字からついていく必要があります。

    でも、えっ飛んだと戸惑うのは束の間で
    また次の流れに引っ張られるのは、
    やっぱり大御所さんならではでしょうか。

    これでもか!と言うほど主人に様々なことが
    起こるので結構お腹いっぱいになります。

    それでも腐らず歪まず、生来の気の強さを
    失わず生き抜く主人公の強さや逞しさは、
    数奇な運命に翻弄された人生ではありますが、
    神に生きることを強く祝福された類い稀な人
    と感じました。

    ーーーーー
    何不自由ない環境に生まれ優しい両親の愛情に
    育まれて伸びやかに育つ百々子は、
    ある日、何者かに両親を殺され生活が一変する。

    犯人逮捕への手がかりが見つからない中、
    周囲の憐憫と同情の目に晒されながらも
    強靭な生命力に支えられ生きる百々子。

    美しい容姿、人を魅了してやまない色香を
    持って生まれたために、波乱に満ちた運命に
    翻弄される一人の女性の物語。


  •  久しぶりにしっかりと小説を読んだという満足感がありました。学生時代に、三浦綾子さんの『塩狩峠』を読んでいた時の感覚と近いような…。かなりの長編で、著者のこの作品に対する意気込みのようなものを、読みながらひしひしと感じました。

    裕福な家の娘で、誰をも魅了する美しいお嬢様、百々子が何者かに両親を殺害され、家政婦のたづやその家族など、周りの人に支えられながら、その後も起こる数々の試練に耐え、強く生き抜いていくお話です。

    ミステリーの要素もあり、家族のありようも考えさせてれます。

    主人公はお嬢様の百々子ですが、影の主役は家政婦のたづでした。「豊かな人間性」を存分に持っているたづの言動は、今の時代にはそぐわない部分もありますが、情深く、どこまでも信用できる女性で、その人間性は誰もが憧れ、目指したいものだと思いました。

    純粋に話の筋だけでここまで惹きつけられたのは久しぶりで、百々子の波瀾万丈の人生を供になぞり、心地よい疲れを感じる読後でした。

  • 一気に読み終え、百々子の波乱に満ちた壮大な人生を共に生きた感覚が続いています。しばらく余韻を愉しみたい。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小池真理子の作品

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