談志歳時記: 名月のような落語家がいた

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104118076

作品紹介・あらすじ

名人立川談志との半世紀を振り返るメモワール。そして、最晩年の姿を間近で綴った感涙の日記五年分-。

感想・レビュー・書評

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  • 立川談志が亡くなった後、その多くの弟子が、自分の談志にまつわる思い出噺を本にしました。

    しかし、その中でも抜群によくできたものが、吉川さんのこの一冊です。

    談志との出会いから、訃報を知るまでの出来事がここまで詳細に書かれたものは他に類を見ないでしょう。おそらく自伝よりもこちらのほうが内容はまとまっていると思います。

  •  松岡弓子の『ザッツ・ア・プレンティ』が「父親の介護記録なんだけど、その父親がたまたま立川談志だった」本だったとすると、『談志歳時記』は「恩師に最後まで付き合った教え子の記録なんだけど、その恩師が立川談志だった」という本。
     吉川潮が家元を直接看取ったわけではないけど、最盛期から晩年衰えるまでを、関係者の中では一番冷静に見ていた人なんじゃないかしら。それは「恩師と教え子」という関係であり、落語家における「師匠と弟子」の関係とはまったく違う関係なのです。乱暴な線の引き方をしてしまえば、血を、DNAを引き継ぐのが「師匠と弟子」ならば、「恩師と教え子」は世界観を、了見を共有する。こう書くと比較的思ったことに近いかしら。

     親の悪口のように家元をネタにするか、一歩引いたところから、血を分けずに家元を描写できるか。
     お弟子さんが家元について書かれたものもずいぶん読みましたが、この辺が大きな違いだなぁと思います。

     『赤めだか』も凄まじくうまいなぁと思ったけれども、やはり文章のプロは、文章のプロなのです。えらいものです。

  • 声が出なくなった談志晩年の落語に、寂しさを感じつつ、記録としてとどめ、ダメだしすらする著者の心の揺らぎが伝わってくる。

  • 談志追悼本二冊纏めての読んだところだ。

    まずは弟子の談四楼の「談志が死んだ」。ここのところお手軽本の出版でお茶を濁していたが、久しぶりに読み応えのある談志追悼本になっている。名著「師匠」以来の談志本とも言える。

    しかも弟子であるにも関わらず綺麗事だけでは無く老いに苦しみ病気にまた苦しむ「等身大」の師匠を描いている。談志の晩年、闘病生活中の「狂い」とその理不尽な要求に遭遇する体験などはまさに弟子で無ければ書けないであろう。例えばある日突然に談志から電話を受け、弟弟子である談春の「赤めだか」出版時に書いた書評が何故か談志の逆鱗に触れ、理由は判らないままに詫びをを入れさせられたりという逸話だ。若い修行中の弟子に対してではない、立派な立川流の高弟であり真打である談四楼が相手なのだ。

    談四楼の旧知の医者の言葉として語られているが、若い頃出来た事が老いと共に身体が付いていかずそのギャップに苛立つ一方で、「名人」と奉られ誰も批判する人間も居ないことに苦しみ周囲に当りちらす。また若い頃から常習している睡眠薬の影響、そして抗癌剤治療の影響による心の病がそれに追い打ちを掛け、更に過激になる。そんな談志の孤独感と近親者の苦労がなんとも物哀しいではないか。

    談志の死後すぐに不肖の弟子で立川流から破門になっている快楽亭ブラックが追悼本を出しているものの、歯に衣着せぬブラックでさえも談志との良き思い出を描くことで批判精神は封じ手にしていたのでだが、高弟である談四楼が談志の苦しみを描いた本書を上梓する意義は大きいし称賛に値する。

    一方で、演芸評論家にして作家、そして立川流顧問の地位にある吉川潮の「談志歳時記」は徹頭徹尾、談志の良い面に光を当てそして病に倒れて弱っていく談志への個人的な思いをこれでもかと綴っている対照的なものだ。ある意味では「追悼本」としては王道をいくべき内容とも言える。

    吉川の芸人小説、例えば「江戸前の男―春風亭柳朝一代記」などは非常に好きであったが、何時しか立川流顧問になり談志への個人的崇拝が目につくようになってからは、ちょっとばかり鼻白む気分でいたので本書を買うのも少しばかり躊躇っていた。上述、談四楼本を読んだ後でもあるので対比の為に買ってみたのだがやはりその評価に間違いは無かった。

    確かに、かつて四天王と呼ばれた落語家で落語家として評価できるのは志ん朝と談志だけという面もあり、志ん朝亡き後は談志の独り舞台であったわけだが、それを割り引いても立川流顧問に就任して以降の談志にべったりと寄り添う姿は談志同様にまた哀しいものがある。

  • 不祥事で仕事を干された人に仕事場を提供する、来客に家にある品々を贈る、それだけではなく階下のタクシーのトランクに乗せ、雨の中、戸外で客人を見送る、新潟の農家と交流しながら毎年田植えと稲刈りを楽しむ、農家はその人柄をしのんでいる、娘の結婚式で娘を抱き抱え満面の笑みを見せる、ぬいぐるみ好き―。
    すべて立川流家元、立川談志のエピソード。談志を表面的にしか知らない人は意外に感じるかもしれません。
    傲慢、不遜、乱暴、異端―。家元はそんなイメージで語られることが多いですが、家元に関する書物を読むと根は温かい人だったようです。そうしたエピソードが満載なのが本書です。
    ただ、家元自身はこうした心温まるエピソードを自ら語ることはもちろんしません。そこは江戸っ子の照れがあったのでしょう。
    家元は自らをこう評しています。
    「柄は悪いけど下品ではない」
    私もそう思います。
    家元の大ファン、というより談志教の熱心な信者である私は、いまだに家元の死を心の中で整理できずにいます。

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著者プロフィール

演芸評論家、小説家。1948年生まれ。
立教大学卒業後、放送作家、ルポライターを経て演芸評論の道に。
1980年からは小説を書きはじめ、「芸人小説」というジャンルを切り開く。
2003年~2014年、落語立川流の顧問をつとめる。
著書に『江戸前の男』(新田次郎文学賞)、『浮かれ三亀松』(以上、新潮文庫)、『流行歌 西條八十物語』(大衆文学研究賞、ちくま文庫)、『談志歳時記』(新潮社)、『芸人という生きもの』(新潮選書)などがある。

「2016年 『深川の風 昭和の情話それぞれに』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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