明るい夜に出かけて

著者 :
  • 新潮社
3.50
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本棚登録 : 1691
感想 : 229
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104190041

作品紹介・あらすじ

『一瞬の風になれ』(本屋大賞受賞作)の著者、書下ろし! 青春小説に名作がまた誕生した。今は学生でいたくなかった。コンビニでバイトし、青くない海の街でひとり暮らしを始めた。唯一のアイデンティティは深夜ラジオのリスナーってこと。期間限定のこのエセ自立で考え直すつもりが、ヘンな奴らに出会っちまった。つまずき、人づきあい、好きだって気持ち、夢……若さと生きることのすべてが詰まった長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • コンビニが舞台となる小説を探していて手に取りました。
    主人公がコンビニ夜勤のバイトをしており、そこでの働き方の様子を垣間見ることができます。
    夜勤のシフトに入るスタッフはあまり多くありませんから、そこでの人間関係もある程度固定されることになります。人と関わることが苦手な主人公が、大学に行けなくなり、実家を出て一人暮らしをしながらコンビニの夜勤バイトをする、という設定は少し無理があるような気がしないではありませんが、周囲の登場人物が彼を支えている様子は心が温まります。
    深夜ラジオや、それを支えるハガキ職人たちのアレコレも出てきて、趣味人には垂涎ものではないでしょうか。

    一年間の「逃避」生活と、そこでの出会いを経たことで、主人公の成長を感じることができまる、読後感の良い小説です。

  • あるトラブルをきっかけに大学を休学し、ひとり暮らししながらコンビニで深夜バイトをする富山。偶然コンビニで出会った客は、大好きなラジオ番組のハガキ職人だった。
    コンビニの頼れる同僚で「歌い手」の鹿沢、お節介な同級生でヘビーなラジオリスナーの永川、ハガキ職人で個性的な女子高生の佐古田。富山を中心として出来上がった、ちょっと不思議なコミュニティ。煩わしいと思いながらも彼らと関わることで、過去の傷と向き合わざるを得なくなる富山。
    本書で大きく取り上げられるのは、伝説のラジオ番組と言われるアルコ&ピースの「オールナイトニッポン」。まだANN歴の浅い私はその番組を聴いたことはなかったけど、ラジオ好きな人ならあの独特のワクワクする空気感が伝わってくるのではないかと思う。読みながらANNオープニングの「ビタースウィート・サンバ」が脳内を駆け巡った。
    LINE、Twitter、ニコ動、アメーバピグ…多様なコミュニケーションツールが頻出し、巻き込まれていくうちに、富山の内に秘めていたものがだんだんと溢れていく過程がさすが。読む側もどんどん引き込まれていく。ANNといいSNSといい、作品に軽やかに絡ませてくるなんて、佐藤さん…感性が若いなぁと驚いた!(佐藤さんより若いはずの私が初めて知ることもあり。)でも、繊細な心理描写や包容力はベテランならでは。一歩間違えば薄っぺらくなりそうなところを丁寧に描いており、懐かしさと新しさがバランスよく感じられる。
    よくよく考えたら、佐藤さんの作品を読むのは実に27年振り。MOEでデビュー作を読んで以来…あっという間に人気作家の仲間入りで、敷居が高くなっちゃった気がしていたのだ。でも、今回久しぶりに読んで、醸し出す空気感が当時とあまり変わらない気がして…ほんのり嬉しかった。
    アルピーのANNを聴いてたら、細かいネタの意味がわかってもっと面白かったのかなぁ、と思うとちょっと悔しいが。それでも、ラジオ番組を愛する気持ちはすごく共感できる。リアタイは無理だがANNを聴くようになり、パーソナリティとリスナーの程よくも濃い距離感がたまらなく心地よいからこそ。ANNに関わらず、ラジオという媒体のよさを再認識しているからこそ。
    そして、友達って安易に呼びたくない…あえて名前を付けたくないような彼らの繋がりがすごくいい。終始泣きそうになりながらページを捲ってました。物語終盤の、意外な人物による意外な言葉がとても誠実で、ものすごくしみたなぁ。
    表紙はニッポン放送のスタジオの写真、カバーを外すと舞台の金沢八景の夜景と、内容にピッタリな装丁が素敵。年齢的に夜更かしすることも夜に出歩くこともなくなったけど、若い頃の「明るい夜」の思い出って、誰もがあるのではないだろうか。本書を読んだことで、痛くて甘くて懐かしい、そんな思い出が甦り…点々と今につながって、私の足もとを照らしてくれている気がした。

    • koharakazumaさん
      あのセリフ、僕らもちゃんとオトナしないといけないなという自覚を感じさせられました。
      あのセリフ、僕らもちゃんとオトナしないといけないなという自覚を感じさせられました。
      2017/01/23
    • メイプルマフィンさん
      koharakazumaさん:コメントありがとうございます!
      本当に、セリフの一つ一つが心に響きました。何度も読み返したくなる一冊ですね(...
      koharakazumaさん:コメントありがとうございます!
      本当に、セリフの一つ一つが心に響きました。何度も読み返したくなる一冊ですね(^^)
      2017/01/24
  • ーああ、なんかいいなぁ。

    大学にいたくない。とある出来事がきっかけで、うまく周囲に溶け込めなくなった富山。1年の休学を決め、一人暮らし、深夜のコンビニのバイトをはじめる。バイト先の鹿沢、同級生の永川、お客さんで女子高生の佐古田。友達じゃない、コンビニで出会った限定的な出会い。相手のことを知らないのに、どんな奴かはわかってる。深夜ラジオで広がる世界。何か変わらないようで変わったような、そんな夜が続いていく。

    タイトルで選んだ本です。
    「明るい夜に出かけて」ってなんかいい。
    読みはじめて、主人公の語り口調と口の悪さに驚きました(笑)
    女子の声のことを「人類の声じゃない、鳥か妖怪」とか言ってるところとか、笑っちゃいます。あと、クソとか死ねとか激しい激しい。
    深夜ラジオ番組が大好きな主人公で、ずーっと解説してくれるのですが、もう、正直意味わかんないです。笑
    わたしはラジオも聞かないし、お笑い芸人も全くと言っていいくらい分からなくて、でも富山たちがすごく熱中してるのはすごく伝わってきます。
    なんか、これといって事件も起こらなければ、ひたすら夜のお散歩してる気持ちにもなるし、本当に不思議な感覚になる本です。でもなんかそれが心地いい。
    謎の4人組の関係、いいなって思います。

    途中で、この話の中での「大人」が、ちょうどいいタイミングで、欲しい言葉をくれます。
    欲しい言葉をくれる人ってなかなかいなくって、相手のことをちゃんとみてるからなんだなぁって感動します。素敵だなあ。

  • 長いこと深夜ラジオを聞いてきた者にとって、「現実の日常から切り離しておきたい聖域」を初めてエンタメを通じて共有出来た。そんな気がする。
    深夜1時、受験勉強そっちのけでラジオにかじりついていた青臭い時代をもつ人には全員刺さると思う。
    勝手に不可能だと思っていた「サンクチュアリ」の共有が出来るのだから。
    「明るい夜に出かけて」なんとも素敵なタイトルだな。

  • タイトルがまず本当に良い。すべてが詰まってる。
    高校生の頃、深夜ラジオを聴いていたころを思い出した。
    田舎の片隅、山の奥の一軒家の子供部屋で。
    雑音だらけの電波を受信しようとアルミホイル巻いたアンテナ目一杯立てて方向もダイヤルも微調整しまくった赤いダブルデッキで。
    下ネタだらけのオールナイトニッポン。
    静かで真っ暗な夜の底でラジオから聞こえてくる人の声だけが明るい、あの感覚。
    時代が変わっても、見知らぬ誰か達とつながっている、心強さみたいなものは変わらないのだなあと。

    あと、ラスト近くでコンビニでの深夜バイト、2人で8時間も10時間も過ごすことはなくなるのだな、と主人公がふと思う、その猛烈なさびしさとかにも覚えがあって。
    未来へ進むためのステップの一つだからどうしようもないんだけど、それでもさびしいっていう感覚。モラトリアムの贅沢と言わば言え。あーわかる、ってなった。

    リアルな若者とか言うとかっこわるいのかな。
    でもこんなだよね。
    つながり方も。
    家族構成も最終学歴も知らない。
    でもどんな声で歌うのかとか、どんなネタが好きなのかは知ってる。
    良し悪しではなくてそういうものなんだっていうのを切り取って見せてくれてる。

    明るい夜に出かけて。

    とりあえずradikoでアルピーの番組は聞いてみたよ。

  • ぐわあ…そうね、ハガキ職人って憧れですよね…。
    オールナイトニッポンのすごさはあまりよく知らなかったけど、アニラジ…szbhが大好きだった身としては、あの謎の「つながっている感」を思い出さざるを得なかった…。
    うう、まさに紛うことなき青春…夜の片隅の青春である…。

  • 私には面白さを見出せなかった…。
    年齢的に合わなかったのかな?

  • 読後感すっきり。

    芸人さんやラジオ番組が実在するので、凄くリアルに感じた。
    私はラジオはほとんど聴いた事がないけど、実際聴いてる人にとったらもっと共感出来るんだろうな。

    キャラも良かった。

  • 本を読んでいるのに、深夜ラジオを聴いているよう

    休学中の大学生がバイト仲間やラジオリスナーから刺激を受け、成長していく。

    「本当に孤独を愛する人間なら、夜の闇から響いてくる明るい声に、こんなに心を揺さぶられるものかな。」

  • SNS時代にラジオを通してしか描けない人間関係の機微が。どんどん熱量が上がって終わった。特別なことは何も起きずに。登場する人物がみな愛おしい。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。1989年、「サマータイムで」月刊MOE童話大賞を受賞しデビュー。『イグアナくんのおじゃまな毎日』で98年、産経児童出版文化賞、日本児童文学者協会賞、99年に路傍の石文学賞を受賞。ほかの著書に『しゃべれども しゃべれども』『神様がくれた指』『黄色い目の魚』日本代表リレーチームを描くノンフィクション『夏から夏へ』などがある。http://www009.upp.sonet.ne.jp/umigarasuto/

「2009年 『一瞬の風になれ 第三部 -ドン-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

佐藤多佳子の作品

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