渡りの足跡

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 81
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  • Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104299065

感想・レビュー・書評

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  • 雑誌「考える人」に2006年から2009年に掲載された~北海道で切れていた航路が開くのを待ってオジロワシ・オオワシは海を越えていく。ヒヨドリの中には渡るものと渡らないものがいる。新潟県の福島潟にオオヒシクイが飛来したと聞いて出掛けると今朝旅だったとアマチュアカメラマンが教えてくれる。無線による追跡ではコースを外れて死んでいるのが発見されたがそこには悲劇も喜劇もあるのだろう。ニセコに行くとベーリング海をシーカヤックで漕いで渡った人がいる。諏訪湖に来るハチクマを追跡すると避寒地であるジャワ島まで近畿・瀬戸内沿岸・福岡・五島列島・長江河口・ベトナム・ラオス・タイ・ミャンマー・マレーからスマトラ島にはいることがわかり,帰りは経路を西に大回りして朝鮮半島付け根まで到達後,半島を南下し九州福岡から90度転針して安曇野を目指すことが分かった。なぜという想いがひろがる。関空行きの列車で戦中抑留された日系2世アメリカ人と知り合い,祖国に反抗的な態度から市民権を抹消され日本国籍が造られて戻ってきた人々の個々の人生を見る。語ることはできても,個々に事情は異なり,ある者は市民権復活にやっきになり,ある者は日本に来て自殺する。人の渡りにも悲劇は付きまとう。諏訪湖で保護されたオオワシも道行きが怪しくても何とか生きて行かなくてはならない。ウラジオストックでトランジットをし,デルスー・ウザラーに想いを馳せ,カムチャッカに辿り着くとウミガラスを確認し,エトピリカ・ツノメドリ・ヒメウも確認,奇岩の上にオオワシも発見し,渡りに備えて練習している風景を見る。知床で渡ってくるオオワシを見る。知床に開拓に乗り出した人々も渡りかも知れない。定期的に渡りを繰り返す生き物にとって,毎年ある時期が来ると「帰りたい」という衝動が生まれるのか~「渡り鳥」は毎年同じコースを辿り往復するが,無事に行って帰ってこられるものばかりではない。オオワシはどこから来るのか? カムチャッカから? 余り興味のない話なので,引き込まれることもなく,漫然と読んでしまった。彼女は,何が書きたかったのだろう。読者に向けて語りたい部分は何なのか。日本に来る(帰ってくる)渡り鳥を知って欲しかったのか,人にもその姿を見ているのか。書き下ろしの最終章「もっと違う場所・帰りたい場所」でまとめているのだろう。よく分からない

  • 鳥のことがよくわからないわたしは、ふ〜んといった感じで読み進めていたけど、これは鳥よりも「渡り」の本でした。各章の渡りにつらなるエピソードが心にしみる。装丁がいいです。

  • 10.9.5~

  • この本は飛行機に乗ったときに…と思って開かずにいた。「渡りは、一つ一つの個性が目の前に広がる景色と関わりながら自分の進路を切り拓いていく、旅の物語の集合体である。」今年は函館も暑い。

  • 梨木さんのはいつもストイックな感じがする。

  • 渡り鳥を追って北の水辺を旅する、観察日記のようなエッセイ。カヤックで巡る旅のエッセイ「水辺にて」といい、本書といい、意外にアウトドア派の著者である。
    名前の挙がっている鳥たちは、ほとんど聞いたこともないような名前ばかり。が、著者の個人的な思い入れたっぷりの解説欄は面白い。(2010/07/15記)

  • まんが「とりぱん」の愛読者としては、出てくる鳥達の挿絵をつけて欲しい。文章だけでは伝わらないものがあるので。「沈黙の春」は現実になっているようだ。

  • カヤックを漕ぎ、空を仰いだとき
    はるかな大地へ向かって羽ばたく渡り鳥たち
    目印とするにはあまりにも曖昧な情報しかない中で彼らは必死に羽を動かし、渡って行く。
    ちょうど自分が川面に浮かぶ頼りない木の葉のようにカヤックの上でゆらゆら揺れているときに目に入った光景は、彼女を強く励ましたことだろう。

    野鳥に対しての知識が乏しく、文章の中心となる鳥たちの姿が思い浮かばないので、文章の途中で思考が中断してしまうことがたびたびあってじっくり「味わう」ことはできなかったけれど、作家の思考を探るという意味では大事な一冊だと感じた。

  • 『西の魔女が死んだ』『村田エフェンディ滞土録』などで有名な作家・梨木香歩による渡りに関するエッセイ。

    どの著書からも自然に対する敬意と憧憬が伝わってくる氏であるが、この本で焦点となるのは渡り鳥。
    作者は渡り鳥たちに会うため日本各地を旅し、ときにカムチャッカまで訪れる。
    そして、その旅のなかで得た知見とこころの動きを語る。
    その姿はさながら、渡り鳥と同様である。

    氏にとっての「還っていける場所」は見つかったのだろうか。

    途中に語られるアメリカ移民のエピソードが印象的だった。

    近年、スピリチュアル方面への傾倒が目立った氏だが、このエッセイではその匂いはあまり感じられず少し安心した。
    また、作中で紹介された『おれ にんげんたち』という本を読みたくなった。
    新作と目される「カフェ経営の話」にも期待したい。

  • 梨木さんにはとてもついていけない崇高さがあります。
    鳥になって大地を、地球を鳥瞰している梨木さんの朗読が聞こえてきそうな本でした。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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