冬虫夏草

著者 :
  • 新潮社
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レビュー : 249
  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104299096

感想・レビュー・書評

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  • 『家守綺譚』の続編。前回は家とその周辺が舞台だったと思うのですが、今回は鈴鹿の神々のおわします地へ。
    大好きな『丹生都比売』と似たテイスト。『りかさん』で梨木さん作品を読み始め、難解だったり合わないものもありましたが、やはりこれらの作品に漂う気品と胡乱さはクセになりますね。
    梨木さんの教養の深さに感銘を受けつつ、世界観の虜となり、私の心も鈴鹿の深奥にまで持って行かれました。
    とにかくゴローさん!あなたの行方が気になって気になって…ラストは涙。
    前作も再読したくなりました。
    文庫化したら、これも買おう。

  • 『家守綺譚』の続編。

    やっぱり、この閑けさが好き。

    内容で読むというより、本から漂ってくる閑かな空気に浸ることが出来る。
    例えるなら『夏目友人帳』の空気感に似ているなあ、と勝手に思っている。

    人と、人でないものの織り成す場。
    今回は鈴鹿山中を舞台に、綿貫征四郎が様々なものと出会い、感じてゆく。
    ふと、此の世なのか彼の世なのか分からなくなる中で、征四郎は相変わらず驚きながら淡々と受け入れていくのだから面白い。

    でも、こうした危うさこそ、日本という場の持っている魅力なのではないかと思う。

    日常のほんの隙間に非日常が介在しているような、ふと隣を見るとおやあれは?と思うモノがいるような。
    そういう曖昧さがいい。

    蛇足だが、今年の春に永源寺には程近い場所にある百済寺に行く機会があった。
    今度は八風街道を通って征四郎の歩んだ道程を辿ってみたいなあと思う。

  • 『家守綺譚』の続編。舞台は家を離れて鈴鹿の山中に遷る。山々の重なる鄙びた村や温泉に、人や人でないものが混在する。主人公綿貫は、見慣れたものも異質なものも、幽霊も河童も獺(?)も神も人間も、出会うものすべてを「そのまま」受け入れる。ボーダーやバウンダリーを作らないそのありかたが、魅力的かつ危なっかしい。

    ところでゴロー、あんたは何者? 綿貫さん、「家に帰るぞ」でいいの?

  • 家守奇譚の続編。
    何が現実で何が幻想なのか、そんな事は大切な事ではない。様々な境界線が揺らめきの中にあって、そして自然と共に在る。居なくなった愛犬とイワナの夫婦が営んでいる宿を探しながら山を、村を歩いて、ヒトや幽霊、河童や天狗、そして龍と出会う。厳かで神聖な何かを纏いながら真面目に出逢っていく。不思議は不思議ではない。
    例えば現代に置き換えると興ざめしてしまう気もするけれど、不思議が在る事の奥ゆかしさを大切に心に留めていたい。

  • どこまでも淡々と話が書かれ、それなのに懐かしく切ない気持ちになる一冊。 「家守綺譚」は主人公綿貫征四郎の住む生活域周辺の話で、小さい世界で話が終わっていたが、本作では話が広がり、鈴鹿山中へ足を赴ける。 本作では時代も生き方も徐々に変わっていっているような気がする。その変化を綿貫は村々に住む人と話をし、その暮らしぶりを見て感じとり、自身も変わっていっているように思う。 切なさが残る読後感であるが、今はまだ、この味に浸っていたい。 ゴロー。 来い、ゴロー。 家へ、帰るぞ。

  • 「家守綺譚」の続編作品。ゴローを見つけるために、他のことを後回しにし、ゴローの行方を追うのに、自然の中を旅していくのは、ゴローを何としても見つけたい気持ちの表れであり、大事なパートナー同然の存在だろう。探す旅をしていく中で、自然豊かな風景と植物との関わり、村田エフェンディ関連の人物との関わりで、旅の中で、自然や動植物との触れ合いでお互いの共存で大切な何かを見出していく。そして、自然の風景溢れる幻想感ある世界、水墨画の中に入り込んでいくかのような感じで、素朴感と温かみがある物語の印象。

  • とても好き。
    刺激はないけれど、決して退屈ではない。
    こんな風に時間が流れたら良いのに。

  • 味わって味わって、ゆっくり読みました。

    動物も植物も、あり得ないもののことをもあるがままに受け入れる綿貫。
    極めて真面目で真っ当でな綿貫が、ちょっと普通ではない出来事に遭遇する。
    ただそれだけの物語が、たいそう読んでいて心地よい。

    この本を読むときは安楽椅子ではなく、日当たりのよい座敷で、座卓に向い正座して読みたいものである。
    美しい日本語で綴られる流麗な文章。
    思わず背筋がピッと伸びる。

    はずなんだけど、どうしたことか漏れ出るくすくす笑い。
    綿貫はいつも淡々と日常を送っているだけだ。
    けれど、ごく普通の日常からずれた出来事にも生真面目に対応する綿貫からは、ごくごく自然に可笑しみが漂ってくるのである。
    ずれた真面目って、どうしてこんなに面白いのだろう。

    今作の前半は、ボートを漕ぎに出たまま行方不明になった親友の実家に暮らしている綿貫の、日常の一こまが短い章で紹介されているもの。

    そして後半は、短い章の積み重ねという点では前半と同じだが、行方不明になった愛犬ゴローを探す、珍しくアクティブな綿貫の話である。

    とはいえやはり綿貫。
    イワナの夫婦が営む宿屋、旅館で働く河童、長虫屋のかわうそ、何年も姿を見せない龍、風に乗って飛ぶ天狗などが普通に人間とまじわって生きている。

    川上弘美も人間にあらざるものを作品に登場させることが多いが、彼女の場合それはどことなく不穏な気配を漂わせるのに対し、このシリーズは人間にあらざる者も自然に生活を楽しみ、暮らしの苦労を味わう。
    今いる場所、生きる時間に溶け込むように生きている。

    山の神社の鳥居の上に天狗を見かけた綿貫。
    “さて、天狗と出会ったら、どう挨拶すべきか。まずは礼をすべきなのか、礼をすべきだとして立礼でいいのか、頭を下げる時間は通常でいいのか若干長くすべきなのか、その際口上は述べた方がいいのか述べるにしてどう述べるか。仰仰しすぎるのも考えものだ、足下を見られる。かといって馴れ馴れしいのは論外だ。その後鳥居をくぐるべきか、それとも鳥居をくぐるのは礼を失することであるのか、その脇を通った方がいいのか。短い時間にあれこれ考え、悩む。”

    さて、天狗と出会ったら、まずは腰を抜かすべきなのでは?
    なぜそうも冷静にあれこれ悩めるのか。
    ゆっくりとこの世界を味わいつつ、くすくす笑えるのはこういうところである。
    そしてこの作品には、こういうところが盛りだくさんなのである。
    綿貫征四郎とは一事が万事こういう男なのだから。

    個人的に猛烈に惜しいのが、『家守綺譚』を読んでいたときには、茫洋と、輪郭がわかるようなわからないようなだった綿貫の顔が、今回ははっきりイメージできてしまったこと。
    あんまりはっきりイメージできてしまうと、それより先に拡がって行かないような気がするので、あまり固定イメージを持ちたくなかったのだけれど…。

    珍しくお気に入りの今の月9「デート」の、長谷川博己が綿貫になって脳内スクリーンに出てくるのである。
    精神労働者→高等遊民という流れ?
    安直だな、自分。

    読み始めて、なんだかやけに綿貫のイメージがはっきりしているなと思っていたのだが、読み進めるにつれて明らかに長谷川博己。
    参ったなあ。

    ゴローの行方を探す時、ゴローの外見の説明をするつもりが、つい、ゴローの人となりを熱く語ってしまう長谷川博己綿貫征四郎。
    ゴローと再会した時の感動的なシーンだって、脳内スクリーンに大写しにされる長谷川博己の演技に私は涙したのかもしれない。
    参ったなあ。

    綿貫の友だちの村田君はまだトルコに滞在しているようなので「村田エフェンディ滞土録2」もそのうち出るかしら。

    固く閉じようとする心をほっこりとほぐしてくれるような読書。
    そういうのもたまにはいいね。

  • 愛犬ゴローを探す旅。家守綺譚の時も感じましたが本当に綺麗な文体で、不思議な出来事が起こっているのに、すらすらと頭の中に入ってきます。優しく、ふんわりしていて、この世界観は大好きです♪自然や想像上の生物、亡くなった親友が何事も無かったかのように語りかけてくる。こういう時代が本当にあったのなら私はその時に生まれたかった。出てくる地名に馴染み深い所もあり、そこもまた楽しかったです。超自然を普通に受け入れる彼が書く文章とはどんなものなのか・・・読んでみたいです。最後の再会のシーンはちょっと目頭が熱くなりました。

  • 「家守綺譚」の続編。

    後半、主人公はあるものを探して旅に出る。
    山奥の街道で、人間の世界と「人ならざるもの」の世界がぼんやりと交差する。


    どちらかというとファンタジーは苦手なほうだが、これはすんなりと世界に入っていける。
    明治~大正あたり?の設定なのではないかと思うが、そのころなら、こうした不思議な世界がまだあったんじゃないか、と思える。

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著者プロフィール

梨木 香歩(なしき かほ)
1959年、鹿児島県生まれの小説家、児童文学作家、絵本作家。
『西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞を受賞。映画化もされたこの受賞作が最も著名な代表作となる。
ほかに新美南吉児童文学賞、小学館文学賞を、『裏庭』で児童文学ファンタジー大賞、『渡りの足跡』で読売文学賞随筆・紀行部門をそれぞれ受賞。
受賞作以外の代表作として、『家守綺譚』、『沼地のある森を抜けて』、『ぐるりのこと』などがある。

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