道行きや

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104324033

作品紹介・あらすじ

「あたしはまだ生きてるんだ!」いのち有限、果てなき旅路。カリフォルニアで男と暮らし、子ども育てて介護に行き来、父母を見送り夫を看取り、娘と離れて日本に帰国。今日は熊本、明日は早稲田、樹木花犬鳥猫を愛で、故郷の森や川べり歩き、学生たちと詩歌やジェンダーを語り合う。人生いろいろ、不可解不思議な日常を、漂泊しながら書き綴る。これから何が始まるのか――。

感想・レビュー・書評

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  • 熊本の自然や植物たち
    愛犬たちとの生活
    と書くと いかにも
    枯れた生活に思いますが
    伊藤先生が書くと
    内蔵を触ったように
    美しくて体温が伝わるんです
    どこがどう とは言えないですが
    この生々しさが好きだなぁ

    死ぬまで まだ道半ばが続く
    ちくしょう 生きてるんだから
    生々しく生きるんです

  • 熊本の情景が目に浮かぶ。

    いろいろなところが刺さったけど、
    やはり異国で生きていくには、
    相当な覚悟が必要。
    語学と文化を自分に染み込ませるには、血の滲む努力が必要。

    ひろみさんは、子を育て、植物を育て、夫を看取り、両親を介護し、犬の面倒をみて、学生たちの世話もする。
    これでは、自分の人生を生きてないようだけど、
    それがそうならないところが、ひろみさんの凄さ。
    どこまでも、自分に正直に。
    剥き出しの生の短編集。
    ブレイディさんとのトークショーが楽しみ。

  • 一番好きだったのは「四足の靴」
    いい先生だなぁと思ったし、男子学生を伊藤さんの目とペンを通して見るわけだけど、なんかとてもいい感じだった。
    伊藤比呂美さんの講義に文句つける学生がいるとか信じられない。学生の時ってわからないんだ。その先生がどんなにエライ人なのかって。そうだった、自分も。わからない人に批評させるって、おかしいだろう。そういう大学のシステムが古い私には理解できない。学生が教授を評するって何?って思ってしまう。

    ずっと著作を通して、後を追って来た私としては、ずっとずっとたくさんたくさん書き続けてほしい。先の道を照らしてほしい。

  • 老いていく自分を、どのように見つめ、どのように諫め、どのように励ますのか、人生の折り返し地点というものを過ぎてから、それが自分にとっての重要なタスクとなりました。
    ほんのわずかな不安ではあるが、毎日少しずつ積み重なり、そして、ある時は思いがけない形で自分を脅かす、今まで通りでない得体の知れない何かを、嘘なくそのまま受け入れ、格闘し、情の強さで最後は抑え込んじゃう伊藤比呂美という人!爽快!痛快!
    この人がこんなふうに生きていてくれるから、私もがんばれる。こんなふうに解放していいんだなと今までどれだけ励まされたか。
    今回もゆっくり丁寧に読ませてもらいました。
    ジュンバラヒリやルシアベルリンの短編小説を彷彿させる各章の最後の一文。その突き放しと余韻、相変わらずセンス抜群でした。
    詩であり、短編小説でもあり、日記でもあり、エッセイでもある、贅沢な一冊です。

  • 読売新聞に紹介されていた本
    著者・伊藤比呂美1955年生まれ
    才能があるから生き方がパワフルで
    人との出会いも犬や自然との付き合い方も
    生きること全てが異次元の人と感じた

    人間に生まれてきても
    人生で経験できる器の量は
    1人1人決まっているのかな

    授業を受けられる
    早稲田の学生さんたちが羨ましい

    学生のうちに
    こういう刺激を受けたかった

  • 自由に生きている人だなぁという印象。行動力があってバイタリティーがあってすごい。出てくる言葉とかも時に過激で驚いた。でも「経血なんぞ、ひとったらしも出てこない」とか入国審査でのヨーコさんと係員とのやり取りのセリフは面白かった。

  • 何とも風変わりなエッセイ集だ.22編もある.落ち着きのない著者の失敗談が満載だが、動植物への関心が素晴らしい.聞いたことのない名前がどんどん出てくる.オオキンケイギクの話が面白かった.鴉の種類で、ハシブトとハシボソの区別があることを知った.よく見るので観察してみよう.ボーランドに赴任していた話も、視点が想定外で楽しめた.

  • 人や動物や植物のありのままの姿を映し出す。
    声なきものたちの代弁者。

  •  ドガは行かない。パピヨンは崖から飛び降りて海に泳ぎ出していく。崖の上からドガが見下ろしている。感傷的な音楽が流れるドガは立ち去る。海の上ではパピヨンが筏の上に仰向けになって、空に向かって、(死肉を食う鳥が上空を旋回しているのだろう)叫ぶ。
    「Hey, you bastards !(ちくしょう)」
    「I’m still here ! (わたしはまだ生きてるんだ)」(p.93)


     入国審査のピリピリする場から出て、市民や移民の行き来する区域に入った。一足歩くごとに浮世の汚れが身にしみ通り、身に馴染んだ。やがて階段があった。そこを降りれば、すっかり「外」である。(p.121)

     わたしの家にははめ殺しの大きな窓がある。観葉植物の鉢は、その窓のあたりに並べてある。春から夏、そこにはあまり日があたらない。ところが日があたらないというのは、人間であるわたしの考えで、室内の観葉植物にとっては、明るすぎ、熱すぎて、耐えがたいようで、サトイモ科もウコギ科もシダ植物もあっという間に葉やけを起こしてしまった。それで窓際にはトウダイグサ科を置いている。(p.126)

     地下鉄の大門駅に階段がある。
     浅草線の大門駅と大江戸線の大門駅は一つの構内にあり、改札を出て、地上に上がって数分歩けば、JRの浜松町駅、モノレールの浜松町駅に行き着く。
     改札を出て、「浜松町駅」という表示にしたがって歩いて、エスカレータ、エスカレータ、もう一つエスカレータ、あと一息で地上、というそのときに、エスカレータが途切れる。階段だけになる。階段がある。
     エレベータは実はある。しかし奥まったところにあるから、知る人ぞ知る。知らない人は気づかずに行き過ぎる。(pp.178-179)

     ときどきわたしの脇で、階段だけになることを知らずにそこにたどり着いた外国人が、立ち止まって、はるか向こうの空を見あげている。それから、観念したような表情で、息を吐くと、特大のスーツケースをむんずとつかんで、身体を反らせ、歯を食いしばり、顔をまっ赤にして、上へ、外へと運びあげていくのだった。(pp.179-180)

     初めて海辺に連れていったときの犬の目は忘れられない。目の前にある知らないものを、ほんの数秒ただ見つめていた。それから波の中に突進していった。犬は波の中で跳ねて遊んだ。筋肉や毛の一つ一つが楽しくてたまらないように動いた。(p.216)

     インターは、何かと何かをつなぐとい意味だ。インターステイトは、ステイト(州)をつなぐという意味だ。インターステイト5号線が、カリフォルニア州のうちの前から、オレゴン州、ワシントン州をつないでいった。その道を北上し、娘たちの住むオークランドに行き、バークリーに行き、橋を渡ってサンフランシスコに行き、同じ道を南下して帰った。路上でタンブルウィードが、道路脇のフェンス際に、まるで、まるで何だろう、今までいちども見たことの無い光景だった、命の無くなった骸が、フェンス際に吹き寄せられて、まるで満潮の波打ち際のように、吹き寄せられて、積み上がるそばから崩れはじめて、最も、動きも、存在も、いかにも過剰だった。過剰なのだった。過剰に吹き寄せられ、過剰に吹き溜まり、風が吹くと、風なら、絶え間なく吹きつづけていたのだったが、次から次へと路上に転がり出ていって、車に轢き潰された。(p.221)

  • 今までの作品と同様、リズム感のある文章に引き込まれてどんどん読み進めてしまう。内容的には、読んでいて疲れてくるものもあったが…

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著者プロフィール

伊藤比呂美
1955年、東京都生まれ。詩人。78年に現代詩手帖賞を受賞してデビュー。80年代の女性詩人ブームをリードし、『良いおっぱい 悪いおっぱい』にはじまる一連のシリーズで「育児エッセイ」という分野を開拓。「女の生」に寄り添い、独自の文学に昇華する創作姿勢が共感を呼び、人生相談の回答者としても長年の支持を得る。米国・カリフォルニアと熊本を往復しながら活動を続け、介護や老い、死を見つめた『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』(萩原朔太郎賞、紫式部文学賞受賞)『犬心』『閉経記』『父の生きる』、お経の現代語訳に取り組んだ『読み解き「般若心経」』『たどたどしく声に出して読む歎異抄』を刊行。2018年より熊本に拠点を移す。その他の著書に『切腹考』『たそがれてゆく子さん』『道行きや』などがある。

「2022年 『伊藤ふきげん製作所』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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