著者 :
  • 新潮社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104372041

作品紹介・あらすじ

9つの物語を包みこみ、生き地獄のような世界に希望を灯す、かつてない小説体験! 親の介護に追われる男は謎の団体に父親を託し潜入取材を始め、人間がお金となり自らを売買する社会で「ぼく」が見たものとは。真夏の炎天下の公園で、涙が止まらない人で溢れかえる世界で、自分ではない何かになりたいと切望する人々が、自らの物語を語りはじめたとき――。地上に生きるすべてのものに捧ぐ著者渾身作

感想・レビュー・書評

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  • 書評を読んで購入してみた。
    こんなことを言うと、双方のファンに怒られるかもしれないが、かすかに小川洋子の香りを感じる。

    40度を超える酷暑の中、シングルマザーである姉に頼まれ、姉の子の子守をしに公園に向かう七桜海。
    暑さの中で閃いた、人間扇風機。自分がぐるぐる回れば風が起きて涼しくなる(というより頭がクラクラする)という話「ピンク」から始まる。

    何が……という話だ!と言われるだろう(笑)
    この人間扇風機が、実は同時多発的に行われ、一種の祭祀の体を成していく。
    更にはぐるぐる回っている間に、姉の子・品紅の成長が促進されていくことも分かった(!なんか、となりの……みたいだな )

    変わった話だなあと思っていると、突然、七桜海は徴兵され、そこでの戦闘が原因で身体に障害が残る。
    七桜海を憧れに感じていた品紅は、反面教師的に軍に志願し命を落とすし、姉はその死によって狂人のようになってしまう。
    と、これらの出来事が約一ページで展開される。

    小説であるなら、ページが割かれるであろう破滅に、語りは触れない。
    反対回りにぐるぐる回れば、時間が戻っていくのではないかという祈りで、語りは終わる。
    さて。この絶妙なバランスを好きと感じるかどうか。

    「人間バンク」「何が俺をそうさせたか」は、どちらもおぞましい社会システムの話だ。
    「人間バンク」は、人間の命を担保にして、「人円」という通貨を手に入れる話。
    それを元手に儲けても、貯蓄の代わりに労働力となる人間がやってくる。
    労働力となった人間は、そこで働いて借りた分を返すことが出来れば、解放される。
    金への執着から逃げたい主人公は、結局、人間自身が金であることの気持ち悪さを目の当たりにする。

    「何が俺をそうさせたか」は、認知症を患う父を、殺したい程憎むジャーナリストが主人公である。
    彼は、違法臭のする介護会社に父を預け、スキャンダラスな事実を世間に晒すことで、お金を得ようという選択肢を思いつく。
    父がどうなったかは、想像に難くない。

    この二本も、見たい部分が敢えて見えないように書かれている。
    読者が読んで気になる所がハッキリと示されないのは、ある意味じれったい。けれど、美辞麗句に彩られた裏側にある、悪というか、醜さというか。
    なにか「在ってはならないもの」が、自分自身の、人間としての感覚に直接訴えてきて面白い。

    「眠魚」を読み始めて、「エリカ(ヒース)」ってどんな花なんだ?と思って、検索かけた自分を自分で恨んだ(笑)
    確かに眼がいっぱいの感じ、、、こんなんに見られてるって、怖すぎません?

  • 事件前夜、のような妙な予感を孕んだ、謎の高揚感と悪夢感があり、しりあがり寿に通ずるものを感じた。読ませる文章で面白かった。

  • なんとも不思議な感じのする作品、短編9編を繋いでいく部分が書き下ろしであり短編自体はさまざまな誌に2011年から2017年に亘って発表された作品。

  • ★「焔」というより「熔」★人が人でなくなるような、溶けていくような瞬間を味わえる。ばらばらの短編なのか、もともと一連のものとして構想したのかは分からないが、各編をつなぐブリッジを入れることで趣きが3倍になる。うまいなあ。
     半地下に暮らす男が土と一体になる小説が特に好き。地下では土に囲まれて暮らしていることをすっかり忘れていた。純血信仰の正反対をいく「混血でなければ弱い」という未来の相撲の設定も見事。

  • 焔を囲む人々が、渾身の思いを込めて一人ずつ不可思議な話を語っては消えていく。

    九つそれぞれの物語は、人が生きていくうえでのアイデンティティが揺らいでいて、不気味。そして、そもそも語り手たちは何のために集まっているのか、具体的な状況は明らかにされず、取り残されていく「私」がどうなるのか、何が起こっているのかと引き込まれて読み進めた。
    そしたらなんと、それぞれの物語の初出媒体は様々で、単行本化するにあたり不可思議な設定を書き下ろして長編に仕立てたようだ。
    なるほど、これを単なる短編集として読んだら印象は薄まり、読後の高揚感は味わえなかっただろう。巧みな仕立てに舌を巻いた一冊だった。

  • 自分とは、人間とは何かを認識し、自分以外の、人間以外の何かになりたいと渇望する。
    人間に対する絶望。世界の崩壊。でも。焔は燃え続けている。
    排除することは簡単なのだ。完全なる相互理解は叶わなくとも、理解しようと努めることは出来る。ただ知ることだけでもいい。そこから始められる。
    自分とは何か。自分の物語を語る術を得たならば、他人の物語を生きることができる。絶望に満ちたこの世界で、希望はきっと、そこにしかない。

  • 文学

  • 語ること、物語のすばらしさ

  • 「私」も野原のようなところで輪になって座っている。
    中央にはオレンジ色の焔。
    ふいに草の香りが立つ。星は一つも光ってない。
    窓の外にはカラス。「じんえん」…
    本を読み終えて間も無く。
    小説と現実の境目が揺らぎ出すほどの豪雨と
    暴力的なニュースが飛び込んで来て…
    ひょっとしてくるくる回れば涼しくなるかもよ?
    そんな馬鹿な想像に背筋が凍る思いがした。

  • 面白いものとそうでないもののバラツキがある。
    ディストピア的なものは凄く良かったが、最後の二つは私には全く理解できない。

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著者プロフィール

1965年、 アメリカ・ロサンゼルス市生まれ。88年、 早稲田大学卒業。2年半の新聞社勤務後、 メキシコに留学。97年 「最後の吐息」 で文藝賞を受賞しデビュー。2000年 「目覚めよと人魚は歌う」 で三島由紀夫賞、 03年 『ファンタジスタ』 で野間文芸新人賞、11年 『俺俺』 で大江健三郎賞、15年 『夜は終わらない』 で読売文学賞を受賞。『呪文』 『未来の記憶は蘭のなかで作られる』 など著書多数。

「2018年 『ナラ・レポート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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