裁判所の正体:法服を着た役人たち

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104405039

感想・レビュー・書評

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  • 三権分立の制度の中で,司法はそれなりに独立して動いているものと予想していたが,全く違うことが良くわかる.最高裁判所が権力をチェックする機構ではなく,権力を補完するものだとの説明には唖然とするばかりだ.冤罪が起こるのもありうることだと認識した.メディアの対応も不十分なのは,司法ばかりでないと思うが,ジャーナリストの奮起に期待する.第8章の提案で,法曹一元化があったが検討に値するものだと感じた.

  • 『犯人はそこにいる』などの冤罪ルポで有名な清水潔と、元裁判官の瀬木比呂志による対談本。
    清水が瀬木に裁判所や裁判官の実態を聞く形で進んでいく。

    誰もが裁判所や裁判官に対して漠然と抱いていた信頼感(もちろん冤罪などはあるがごく一部の例外はあったが)が、この本を読んで崩壊した。
    裁判官も普通の人間だし、裁判所はその性質が故に通常の官公庁以上に官僚的だということがよくわかった。

  • 元裁判官学者と独立系ジャーナリストの対談、もともと両者とも日本の司法制度には経験的に否定的であるが、それが強調されている。大岡裁きのようなものは期待するものではなく、なるべく捕まらないことが大事と思われる。
    基本的には政治を見ている役人であり、外の世界とは触れ合わず、堅いヒエラルキーの中で一生を終える仕組みになっているため、広い視野や一般性を持つことが難しく、政治に逆らうことはない。特に刑事事件は99.9%有罪になり、特に権力が絡むものは絶対である。地裁で画期的な判決を出したとしても現在の原発裁判のように統一見解が出され、当裁判官は左遷されていることもある。(がそれをメディアは報じないような記者クラブ内の癒着構造がある)。

  • 桶川ストーカー事件の真相を追った『桶川ストーカー殺人事件 - 遺言』と菅谷元死刑囚の冤罪も明らかにし、真犯人にまで迫った『殺人犯はそこにいる』という二つの調査報道の金字塔ともいえる力作の著者の清水潔さんと、元裁判官という立場から日本の裁判制度の問題を世に問うた瀬木比呂志の対談。

    両者とも日本の裁判制度・検察制度について絶望感に近いほどの批判的見解を持っている。清水さんは外部から、瀬木さんは内部からの視点で強くそう考えている。実際にそれは組織論の観点でも構造的な問題であるといえる。清水さんは「この取材以降、裁判への見方は大きく変わった」と書いているが、おそらくはその事実は自分の考えている範囲であったはずだ。それが、改めてどちらかというとひどい方向で確認できたということだと思う。

    瀬木さんが、裁判官の統治と支配に関して「上からの統制」と「半ば無意識の自己規制」によってなされるという表現を使っているけれども、ある程度大きな組織になるとそうなる。ただし裁判所は、それがかなり閉鎖された中で行われ、細かなヒエラルキーが存在する中で分散化されて強化されることでより一層強固なものになるのだろう。またそれが、三権分立のひとつであり、時に人ひとりの人生に大きな影響を与えることもある「司法」を司るものであるので問題なのである。

    最後に憲法および司法と政治の話となり、最高裁が「憲法の番人」ではなく「権力の番犬」になっていて、「権力のチェック機構」ではなく「権力補完機構」として働いていると指摘する。つまり、国が判断してやっていることなんで合憲ですよ、とほとんどいいがちなのだと。それは、裁判所の組織としての構造的問題であるのだというのである。瀬木さんは法曹一元化というけれども、大きく組織が変わらなければ、ずっとこれは続くのだろうな。ソビエト共産圏は自壊したし、一般の法人は失敗するとつぶれていくけれども、官製組織はそこが解決の難しい問題なのだと思う。


    それぞれの著者の著作を読んでいると特に新しい情報はないのではないだろうか。読む前から、二人にとっての「悪者」=「裁判所」というものが前提とされていた上での対話なので、話が合わないはずはない。合いすぎて、新しいことが出なかったのかなというくらいである。悪くはないけれども、対談ものなので、こういうところかなと。

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    『桶川ストーカー殺人事件 - 遺言』(清水潔)のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4101492212
    『殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(清水潔)のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4104405027
    『ニッポンの裁判』(瀬木比呂)のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4062882973
    『絶望の裁判所』 (瀬木比呂志)のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4062882507

著者プロフィール

1954年、名古屋市生まれ。東京大学法学部卒業。1979年から裁判官。2012年明治大学教授に転身、専門は民事訴訟法・法社会学。在米研究2回。著書に、『絶望の裁判所』『ニッポンの裁判』(第2回城山三郎賞受賞)『民事裁判入門』(いずれも講談社現代新書)、『檻の中の裁判官』(角川新書)、『リベラルアーツの学び方』『究極の独学術』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『教養としての現代漫画』(日本文芸社)、『裁判官・学者の哲学と意見』(現代書館)、小説『黒い巨塔 最高裁判所』(講談社文庫)、また、専門書として、『民事訴訟法』『民事保全法』『民事訴訟の本質と諸相』『民事訴訟実務・制度要論』『ケース演習 民事訴訟実務と法的思考』(いずれも日本評論社)、『民事裁判実務と理論の架橋』(判例タイムズ社)等がある。

「2023年 『我が身を守る法律知識』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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