ニシノユキヒコの恋と冒険

著者 :
  • 新潮社
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レビュー : 242
  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104412037

感想・レビュー・書評

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  • とめどない世の中に、しょうもない男の物語。でも切ない。
    個人的な理由でドツボなので満点ですが、客観的には3.7点くらいです。

    ニシノユキヒコ(西野幸彦)という男の、中学生から50代までの恋愛遍歴を、彼と濃密なひととき(直截的な意味ではない)を過ごした10人の女性の視点から。
    連作短編集ということになるのか。

    「恋と冒険」とはいうものの、ニシノくんは日常のなかで普通に恋愛するだけで、一見、別に冒険はしない。びっくりするような奇抜な事件は、全然起こらない。
    ただ彼女たちはニシノくんと出会い、恋愛的な状況に陥り、やがて離れていく。その繰り返し。
    いちおうニシノくんは真実の愛を探してるらしいので、それが冒険か。

    そんな話のどこがおもしろいのかというと、
    一番おもしろいのは、言葉の扱われ方かもしれない。
    意図的に多用されるひらがな表示と、やや硬い文語的な言い回しの絶妙なバランス。
    軽妙な詩のような文体に油断していると、時たま、チクリ、またはグサリと刺し込まれる。
    痛いんだけど、その痛みは甘い。ヤバイ(笑)。
    洗って磨いた人工の砂浜で、さらさらと砂遊びをしていると、
    時々光る石やきれいな貝殻が埋まっているのを見つけるような。
    ・・とでも言えば、自分の感覚としては近いんですが。

    10人の女の人たちは、バリエーションに富んでいるようにもみえるが、みんな、賢くて理性的で誇り高い、似通った部分があるように思う。
    彼女たちの多くはニシノくんの「滑らかに上の空」な本質を見抜くし、「真摯に向き合ってくれていない」「愛されていない」ことに気づくと、
    自分の気持ちに折り合いをつけて、離れていく。
    女性関係のお盛んな人なら特に、こんなきれいな別れ方ばかりってわけにはいくまい。
    どんなに惨めでもみっともなくても、間違っていても、褪せた恋愛にしがみつく女の人は数知れない。
    でも、そういう傾向の人は、そもそも恋愛関係になるほどはニシノくんに近寄れないのか。
    ある程度の自制心を持った潔い女性だけが、ある意味贅沢な思い出を手にできる。

    彼女たちの中で、特に印象に残ったのは、まずはマナミさん。
    この人の賢さは群を抜いてる。警戒しすぎだけど。彼女の話は、ひとつの柱だと思う。
    その後のエリ子さんや、名前忘れたけど作家の彼女なんかは、このバリエに見える。
    でもエリ子さんも好き。猫がいなくなって寂しい彼女が好き。

    「草の中で」の、中学生の彼女も好き。
    ニシノくんに流されることなく、彼という人と、自分に起こった出来事の本質を正確に捉えて、その上で、「自己」と「他者」の概念を把握してBFに向き合おうと決める彼女は鮮やか。

    それから別の意味で、ササキサユリさん。好みで言えば、この人が一番好き。
    このとき37歳ののニシノくんより10歳以上年上で、50代で孫もいて、何十年もきちんと専業主婦をしていて、人目に立つようなことはないけど、主張しないけど誇り高く、ユーモアがあって視点が鋭くて感性も豊か。
    だからニシノくんにかかわることになった。と、思う。
    ほかの女性と違ってわかりやすい恋愛関係にはならないけど、
    やっぱり恋だったと思う。ただ電話で話すだけでも。最後まで受身でも。
    3ヶ月苦しんだ末の「ニシノくん、さよなら」にはどっかがグサリと穿たれた。
    私も10年経ったらマリモを買おうか。忘れていなければ。

    彼女たち全てにとって、ニシノくんは「運命の人」だったなと思う。
    それはもちろん、一生にただひとりのベターハーフ的な運命じゃなくて、
    それぞれの人生に、とても大きな影響と刻印を残す、いくつかのポイントのひとつ。
    ニシノくんは不実で身勝手でしょうもないヤツなのも確かなので、
    彼に好意的になれるかどうかが、この本の評価の別れ道かも。
    そして私は、サユリさんのようにニシノくんに会いたいなーと、
    ちょっとヒソカに考えてみるわけです。とりとめもなく。

  • ニシノユキヒコみたいな人は大嫌い。でもいざ出逢ったなら、私もたくさんの女の子たちと同じように好きになったりするのかもしれない。

  • 2004年7月27日読了。

  • みなさんいい女性ばかりで!うっとりするような女性ばかりで!
    いい本なんですが!
    私はマナミさん派です。みなさんどうですか。
    やっぱり、お互い諦めているようなそういう感じが、身に覚えがありすぎて(こんなにモテる男友達はもちろんいませんけど)怖くて、いやなかんじになってしまって。それほどいい本だということだとは思うんですけど。
    でも、すごいことだなあと思いました。ひとりの人物に対して、こういうふうにかけるなんてすごいことだなあ。

  • 2010/01/17 連作短編。しかもある男に関わった主に女が語るというパターンを2冊も借りていた。現実の知り合いだったらイラつくにちがいない。

  • ニシノユキヒコがその生涯で出会った女の人たちの視点から描かれる、ニシノユキヒコの恋とか人生とかの話。
    愛すべき駄目男として描かれているのだけれど、どうにも私にはこの駄目男を愛せなかった(笑)。

    死んだ後のニシノユキヒコが、庭に来る話が好きでした。

  • どうしようもないやつなのになぜ嫌いになれないか?

  • 駄目男によわい私…

    大好きだニシノユキヒコ。
    しかしリアルで出会いたくないタイプだ。

    絶対はまる。(笑)

  • (2003.12.07読了)(2003.12.05拝借)
    ニシノユキヒコは、西野幸彦なのに、カタカナで書かれたり、漢字で書かれたりする。どうしてなのかな。わかりません。
    題名が「恋と冒険」になっているけど、恋らしきものはあるけど冒険はどこにあったのかな。題名は、「ニシノユキヒコの女性遍歴」とか「女たらしニシノユキヒコ」の方が相応しいような気がする。全体としてちょっとけだるそうでゆったりした川上弘美さんの雰囲気そのものという印象だ。
    ニシノユキヒコの高校生ぐらいから50歳ぐらいで死ぬまでに関わった女性が語り継ぐような形で、話が進んでゆく、ニシノユキヒコは、常に二人称で語られる。
    ニシノユキヒコは、女性に好かれるのだけれど、どういうわけが結婚に至る前に女性のほうから離れて言ってしまう。とうとう独身のまま交通事故で死亡してしまう。
    これって、現代の男女間の多くのあり方なのかもしれない。作家の感性が、時代の雰囲気をうまく捕まえることができたのかもしれない。

    ふしぎな文章を幾つか。
     わたしは「カノコ」のことをいりいりと想像していた。
     ずんずん歩いた。氷原をふみしめるマンモスのように、力づよく。「怒ってる?」ずんずん。「どうしてかなあ」ずんずん。
    ふしぎな文章に引きずられながらついつい読んでしまう。川上弘美さんの文章は、そんな文章だ。

    ☆川上弘美さんの本(既読)
    「おめでとう」川上弘美著、新潮社、2000.11.20
    「椰子・椰子」川上弘美著、新潮文庫、2001.05.01
    「センセイの鞄」川上弘美著、平凡社、2001.06.25
    「神様」川上弘美著、中公文庫、2001.10.25
    「ゆっくりさよならをとなえる」川上弘美著、新潮社、2001.11.20
    「龍宮」川上弘美著、文芸春秋、2002.06.30
    「溺レる」川上弘美著、文春文庫、2002.09.10
    「光ってみえるもの、あれは」川上弘美著、中央公論新社、2003.09.07
    著者 川上弘美[カワカミヒロミ]
    1958年 東京生まれ。
    1980年 お茶の水女子大学理学部生物学科卒業。
    1982年より1986年まで私立田園調布双葉中学高等学校に勤務。
    1994年 「神様」で第一回パスカル短篇文学新人賞を受賞しデビュー。
    1996年 「蛇を踏む」で芥川賞受賞。
    1999年 『神様』で紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。
    2000年 『溺レる』で伊藤整文学賞、女流文学賞受賞。
    2001年 『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞受賞。

    (「BOOK」データベースより)amazon
    ニシノ君とのキスは、さみしかった。今まで知ったどんなさみしい瞬間よりも。女には一も二もなく優しい。姿よしセックスよし。女に関して懲りることを知らない。だけど最後には必ず去られてしまう…とめどないこの世に、真実の愛を探してさまよった、男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情あった十人の女が思い語る。はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる、著者初の連作集。

  • 題名から、もっと楽しい本かと思っていたのですが・・・
    さみしくなる本でしたね。

    ニシノユキヒコと関わりのあった女性たちが
    ニシノくんの思い出を語っていきます。
    ニシノくんは、悪気なく、いろんな女の人と関係を持ちます。
    それでいて憎まれないという、現実にはいそうにない人です。

    ニシノくんにすごく魅力を感じる人もいるのでしょうが、
    私には理解できない人というか、
    この繊細な小説の良さが、情緒的な部分で読み取れないというか。
    理屈としては解ります。

    10人の女性の一人称の文章。
    女性達の眼を通して、読者はニシノくんを知っていきます。
    こういう形式の小説でが読んだことがあるのは、
    有吉佐和子の「悪女について」。
    まったく違ったジャンルの小説ですが、
    どちらが技巧的によく出来ているかといえば、
    「悪女について」の方でしょう。

    「悪女について」もたくさんの人が一人の女性を語ります。
    たくさんの話を繋げることで、
    その女性だけでなく、語り手の人生や人格、秘密も
    明らかになっていきます。

    ニシノくんについて惜しいと思うのは、
    どの人が語るニシノくんも、同じイメージということです。
    「悪女について」は人間の表と裏を描いたものですから、
    語り手によって、印象が全く違います。
    その話を元にパズルを組み立てるのは読者という楽しみがあります。
    ニシノくんは裏表のない人ですから、
    時間によって、ニシノくんが少しずつ変化していく様子が
    読み取れたら、もっと面白かったと思います。
    最後の話に、
    それまで書かれなかったニシノくんの過去が明らかになっていますが、最後で、これが種明かしだよと見せられるより、
    いろんなエピソードから、
    読者の推理がそこにたどり着くようになっていたら
    もっと良かったのではないでしょうか?

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著者プロフィール

川上弘美(かわかみ・ひろみ)
一九五八年東京都生まれ。一九九四年「神様」でパスカル短篇文学新人賞を受賞しデビュー。一九九六年「蛇を踏む」で芥川賞、一九九九年『神様』で紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞、二〇〇〇年『溺レる』で伊藤整文学賞、女流文学賞、二〇〇一年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、二〇〇七年『真鶴』で芸術選奨文部科学大臣賞、二〇一五年『水声』で読売文学賞、二〇一六年『大きな鳥にさらわれないよう』で泉鏡花文学賞を受賞。二〇一九年紫綬褒章受章。

「2019年 『掌篇歳時記 秋冬』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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