ジャムの空壜

  • 新潮社 (2001年9月27日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (160ページ) / ISBN・EAN: 9784104441020

みんなの感想まとめ

不妊症夫婦の日常とその心の葛藤を描いた作品は、幸福を求めるあまり、現在の幸せを犠牲にする人間の複雑な心理を浮き彫りにしています。人工受精に向けた日々の中で、互いを思いやりながらも、時には無意識に傷つけ...

感想・レビュー・書評

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  • 不妊症夫婦の日常、人工受精に臨む日々でうごくこころの中を描写。人はいまある十分な幸せよりも更に先にある不確実な幸せを目指して、今を犠牲にする可能性がある。お互いを大切に思い、日々を真面目に過ごしていても少しづつボタンの掛け違えや傷つけあってしまうことがある。当事者は気づくことが難しいが客観的に見ることと、棍を詰めすぎないことが大事。人生はいろいろな捉え方がある。と考えさせられた一冊。

  • 難しい。

  • 自伝的なものなのかな?
    不妊症であることに気づいた夫婦が
    多分内心すごく本気で、
    でも表面的にはゆるく不妊治療をしてる
    、ように感じた。

  • 7月から週に一度、佐川光晴が新聞コラムを書いている。何か作品を読んだことがあるような気もするが、しかと思い出せず、それはさておき、コラムはなかなかおもしろくて(他の曜日の執筆者もおもしろく)、夕刊を読むたのしみのひとつ。

    佐川のこないだのコラムのタイトルは「不妊症と私と妻」というものだった。調べたところ、精子減少症が判明して、「なんとも心もとない気持ち」になり、「自分の存在が希薄になったような感覚がしばらく続いた」という。「ついには、ぶどうの「種無し」という表記にまで敏感になるしまつ」で、「やりきれない思い」だった、とある。

    だが、人工授精という操作を始めてみれば、大変なのは妻の方だった。まだ読んでいないが、ちかごろ出た『ヒキタさん!ご懐妊ですよ』にも、不妊治療を始めてみれば、原因は自分なのに健康な妻の方が大変だ、という話が書いてあるらしい(と、書評で読んだ)。

    コラムを読み進むと、佐川はみずからの経験もふまえて、男性の不妊をテーマにした小説を書いたのがあるそうで、それが、この『ジャムの空壜』だった。へええ、もう10年以上も前に、男性不妊をテーマにした小説があったのかと、図書館で借りてきて読んでみた。

    小説の主人公である「男」は、著者がそう診断されたように、精子減少症とわかり、妊娠を望むならば人工授精によらなければならないであろうと告げられる。医師の話は、人工授精による妊娠は望まないという考え方もあり、人工授精をするかどうかは「ご夫婦の選択の自由に属する」と続いた。

    《選択の自由》ということを男は考える。選択の自由に必要なのは、《明確な理由》ではないか? しかし、それは誰にとって必要なのだろう? 自分が人工授精を選択するとして、それを選択するための《明確な理由》とは何だろう?

    男はアパートに向って、「妊娠選択の自由!」「職業選択の自由!」と掛け声のように繰り返しながら、自転車をこいだ。そして男は、かつて突然銀行に就職することになったことにも、そこを退職することになったことにも《明確な理由》を言えない自分を発見する。

    「透明な選択でもなく、大げさな拒否でもなく、ある心許なさを感じたまま人工授精に移って行けばいいのではないだろうか?」と、男が考えるところが、私には新鮮だった。

    そしてまた(新聞のコラムにも書かれていたエピソードだが)、男の妹が妊娠したことを告げる電話で、男の父親が「おかあさんになることになりました」という言葉をつかったことで、男が思いをめぐらせるところもおもしろかった。なぜか男の父親は、素朴に、無邪気に、力強く、「妊娠=おかあさん(おとうさん)になること」と確信し、実際そう口にしているのだ。男は、父にそう言われるまで、一度もそう考えたことがなかったのだ。

    おそらくは佐川が不妊治療を受けていて感じたこもごもや、妻にさえ打ち明けられなかったという胸の内が、小説というかたちをとって書き込まれていて、こういう感情を男性の側が表現できるところが、いいなと思った。『ヒキタさん!…』の本も読んでみたい。

    佐川は新聞コラムのしまいに、こう書いていた。
    ▼不妊治療を受け続けていると、自分たちが子どもを作るためだけに存在しているような気になってくる。子どもがいなければ、夫婦として失格であるように思い込みもする。
     しかし、子どもがいようといまいと、夫婦は夫婦である。「ジャムの空壜」を書きながら、私は繰り返し自分に言い聞かせていた。

    (11/10了)

  • 淡々としている。

  • このところ読み進めている佐川さんのデビュー第2作。かなり著者自身の体験を織り交ぜた内容のようだ。不妊治療を行うことになった若い夫婦の日常を淡々と描きながら、偶然のように思えるそれまでの人生の選択と人の手を借りて妊娠しようとする行為の相違を生真面目に対比させている。 不妊治療で少しづつリズムを狂わされていく様子がリアルだ。男の側に問題があるため、人工授精のために自分自身で精子を容器に入れて医師の元へ持ち運ぶところの浮ついた気分の描写は、まるで通常の性交による射精を補うかのような様子で可笑しい。 ともあれ、穏やかにそして写実的に淡々とこうしたやり取りを読めるものにしているところが力量か。用済みとなってゴミ箱のなかで見つかったジャムの空壜は少し哀しい。

  • 不妊治療を男の側から書いた また違った作品 

  • たまたま図書館で見かけて借りた本。作者自身の体験を基に書かれているとのことですが、リアリティありすぎでした。男の人の側からの目線、という意味では興味深かったかも。

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著者プロフィール

1965年、東京生まれ・茅ヶ崎育ち。北海道大学法学部出身。在学中は恵迪寮で生活し、現在は埼玉県志木市で暮らす。2000年「生活の設計」で第32回新潮新人賞。2002年『縮んだ愛』で第24回野間文芸新人賞受賞。2011年『おれのおばさん』で第26回坪田譲治文学賞受賞。

「2021年 『満天の花』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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