無常という力: 「方丈記」に学ぶ心の在り方

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (127ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104456079

作品紹介・あらすじ

八百年の時を超えてよみがえる智恵と覚悟。

感想・レビュー・書評

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  • ■2012.10 TV
    ■方丈記
    ■2013.10 図書館

    方丈記と福島の対比、現代語訳、原文の3部構成
    個人的には逆の順番の方が良かったかな
    最後まで読んで、もう一度最初を読み直した



    ●メモ
    ・大火事、竜巻、遷都、飢饉、大地震
    ・大穴牟遅(オオナムチ)=大穴持→大国主命、大穴とは噴火口
    ・心の濁りとは執着を持つこと。執着とは自分勝手な都合で今の状態がずっと続くと思い込むこと。無常=すべては移ろっていくと知ること=心の濁りが薄まる。
    ・何事も「いつまでもある」と思ってはいけないが、つい忘れてしまう、つい執着してしまうのが人間
    ・「こうじゃないと絶対いけないんだ」という断定的な考え方は、人間が生きていく上で非常に妨げになる。
    ・風流=「揺らぐ」=毎回新鮮な気持ちで対応しようという姿勢
    ・心の在り方としての究極の「無常」とは風流のこと
    ・常見(物ごとはずっと変わらないという思い込み。執着)と断見(こんなものは続かないと決めつける)という両極端の間を、ずっと揺らぎつづけて生きていかなくてはならない。=中道を行く



    名著16 鴨長明『方丈記』:100分 de 名著
    http://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/16_hojoki/index.html

  • 方丈記を読みたくてこの本を選択。
    原文の短さは予想外だった。
    800年前に生きた鴨長明が感じ、考えていたことを今の自分に共感できることは自分にとって気付きだった。
    考え方の柔らかさを参考にしたい。

  • 東日本震災と原発事故を経て、「方丈記」を読み返すひとが増えているという。
    NHKの番組を見て方丈記への興味がわき、久しぶりの文学作品として読んでみた。

    国語の時間に方丈記の冒頭の部分、

    ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。

    を習ったひとも多いと思う。
    子供の時の鴨長明の印章は、

    「隠遁生活をする世捨て人の気難しいおじいさん」

    というものだった。
    でも、本書を読み返してみて、子供の時には分からなかった無常という考えが、すごく心にしみた。
    大人になり後にしてきた時間が多くなったのもあるけど、やはり震災からの影響が大きい。

    作者の方は福島で住職をされている。
    そして、この本の冒頭部分は、「震災と原発事故後の福島から見た方丈記」という内容になっている。

    方丈記を読もうと現代語訳をkindleで探していた時、この本を選ぶのに、当初抵抗があった。
    震災後に読まれているという「方丈記」だけど、その本質を知る為には、「震災」というフィルタがない方が望ましいと思ったからだ。

    しかし、試し読みで読んだところ、一番読みやすく、率直に書かれていた為、この書籍を手にとった。

    本書の構成は

    1.無常という力(震災後から見た方丈記のエッセンスの解説)
    2.方丈記 現代語訳
    3.方丈記 原文

    となっている。
    なので、著者の意見もしっかりわかるが、鴨長明の文章と原文もある。
    構成としては、2,1,3の順が良さそうだけど、読み進めるにはこの順番が、やはり妥当なのだろう。


    一番印象的な所は、鴨長明は出家して方丈(移動可能なぐらいの掘っ立て小屋。現代のダンボールハウス)で生活しているのだけど、悟ったひとの説教ではなかったという事。

    平安末期、ちょうど、平家末期の源平争乱機。
    京都は戦乱、大火災、竜巻、飢饉、大地震に連続して見まわれ、酷い有様だった。
    この当時の災害の記録では、参考文献として方丈記がよく挙げられている。

    鴨長明は元々貴族であったが、跡目争いから脱落し、貴族としての人生をドロップアウトして、出家し、方丈の生活に入る。

    人里離れた場所で、方丈の庵で生活を始めた鴨長明が記した随筆が方丈記。

    面白いのが、方丈の生活を始めた頃の様子を描いた場面が、ドヤ顔で書かれているところだった(笑)。

    相次ぐ災害と流転の人生から、無常感を強く意識した彼は、

    「都の人々は、こんなに儚く脆い世の中なのに、大金を積んで立派な館を建て、偉いひとの顔色を伺い、まわりを妬ましく思うなんて、なんて愚かな事だろう。この小さな方丈の中にこそ、安息と平和があるのだ。」

    と語る。そのウキウキした、ちょっと自慢そうな文面は、とても愛らしい。

    現代で例えるなら、会社員での人生をやめて、フリーになり、ノマドワーカーとしてスタバでライフハック系のブログを書いているような感じだ。

    都での暮らしから離れていると、いろいろと人間関係が客観的に見えるようで、
    (以下、僕の現代語訳)

    「リア充はウザいし、独り者だと馬鹿にされるし、資産があればいろいろ心配事ばかりだし、貧乏だったら妬み事ばかりだ。」
    「人に頼ると、なんかその人のものみたいに扱われるし、人を愛したら、心が束縛されてしまう。」
    「もう、どうせいっちゅーねん」

    とボヤキ出すw


    それに比べると、自分の今の生活はなんて幸せなんだろう!何事にもとらわれない生き方は素晴らしい!

    でも、最後の最後、彼はこう考える。

    「いや、待てよ。無常と執着しない心を唱えていた私だけど、この方丈の生活を嬉々として語る私って、もうこの生活に「執着」しちゃっているよね?」

    と急に不安になる。そして、そこで本編はぱったり終わる。



    僕は今まで、自然回帰とか、反グローバリズムとかをあまり信用していなかったのは、語っている人たちが資本化とグローバリズムで得た快適さを維持しながら、ファッションで自然や地方に篭ろうというように見えたからだ。

    方丈記でも都の人々の愚かしさを馬鹿にしながら、でも、鴨長明はしっかり都の人から托鉢で食べ物を得ている。

    方丈記のこの唐突な終わり方について、作者は

    「無常とは揺らぎ続ける事」

    と語っている。

    政治の世界では「変化する事」は攻撃の材料になる。
    だけど、全てのものが無常であれば、ブレない事になんの意味があるのだろう?

    仕事でもそうだけど、変化する事と優柔不断は違う。


    作者がこの「変化する力」「揺らぐ力」を「風流」と例えた箇所ば素晴らしかった。


    ----------------

    <i>風流というのは、もともと「揺らぐ」という事です。
    揺らぐというのは、何かことが起こった時に、毎回新鮮な気持ちでそれに対応しようという姿勢です。
    「こうしよう」とあらかじめ決めてあった通りに行動することはできない。
    どこかの政党のように、マニフェストに書いてあるから変えられない、なんていうのは全然揺らいでいない。
    今まさに起こっている事に対して揺らぐつもりがないわけで、あれほど風流から離れている事はない。
    揺るぎない信念を持つ、なんて一見褒め言葉ですが、そんなの、デクノボーと同じです。
    本当は、世の中の成り立ちに合わせて揺らがないといけないのです。
    今現在を見つめて、どんどん揺らげばいい。</i>

    --------------------


    経済と原発に関する考えでは、僕と作者の方は違う意見なのですが、この言葉はとても心にしみました。

    そして、おそらく、この言葉に、方丈記のエッセンスがつまっているのでしょう。

  • もともと好きだった方丈記。もともと好きな作家の玄侑宗久。方丈記が800年前の火事・地震・津波・竜巻の記録満載なことは知っていたので、どう今の福島と絡めてくるかに興味がありました。
     驚いたのは、地震のあとしばらく本をよむことができなかったというくだり。実は私も震災後半年ぐらいは、本が読めなくなりました。当時本を「読まなければならない」事情があったのですが、読んでも読んでも目が上滑りして頭に入らず、好きだった本すら手にとる気にもならず、本当に困りました。プロの作家、僧侶という立場の人でも本が読めなくなっていたんだ。と妙なところで安心しました。
     もう一つ個人的に驚いたのは、黒澤明の映画「夢」で「放射能の姿を見せるために毒々しいピンクの色をつけましたが、」とあるところ。私はこの映画を昔昔に見たはずなのに、この挿話のことを完全に忘れていて、でも原発事故の話を「どこかできいたような・・・チェルノブイリではなく」とずっとひっかかっていました。このくだりで「え、そんな話あったっけ?」とネット検索し、「ああ、デジャヴ感はこれだったんだ」と納得しました。
     このように、この本は単なる方丈記の現代語訳ではありません。800年前の京と今のフクシマを縦横無尽に行き来します。西日本でも、東日本でも、800年前でも現代でも似たようなもの。そう思わせてくれる本でした。

  • もう少し早く読むべきだったかもしれません。
    作品は読者が作るものだということを教えてくれた本となりました。
    私にとって鴨長明は無常観とか悟りとか言いながら、住居に強い執着のある矛盾した老人、というイメージでしたが、玄侑宗久氏の作り上げた鴨長明は決してそういう人物ではなかったのです。こうして、読者が作品を作り上げていくんだなあ。
    今だから必要な本なのでしょう。
    本の帯は早くに捨てるのですが、この本の帯については、筆者の笑顔に慰められたので、大切にしたいと思います。
    明るい無常観のススメ、ですね。

  • 37ページ
    心の濁りとは執着を持つことです。この場合の執着とは、自分の勝手な都合で今の状態がずっと続くと思い込むことです。


    63ページ
    方丈記は長明が様々な天災や人災に会い、長年不運をかこち、ひとり山で暮らした挙句に掴んだ想い。そこから我々は学び取る。何が起ころうとも悩むことはない。断定することはない。すべてを受け入れ、揺らぎ続けるしかないのだ。玄侑さんは言う。どんどん揺らげばいい。それが自由になることであり、強くなることでもあり、未来を楽しむことだと私は思います、と。
    ところで揺らぐとはどういうことだろう?全てを受け入れたら揺らぐことはないのではないか? 自由になること、強くなること、未来を楽しむこと・・・・なんかよくわからないなぁ
    五木寛之さんの文章を読んでいたら、「人間はその瞬間瞬間で考え方が変わり、右へ左へと揺れながら生きているもの。僕自身にしても、あぁ、もう生きて行くのが嫌になったと思うこともあれば、ふっと心の中によみがえってくる言葉に救われたりしながら、今日まで生きてきたわけです。」と言っていた。揺らぐとはこういうことか?でも、それが自由になること、強くなることなどに繋がっていくのだろうか?

  •  僧侶で作家で福島に住む玄侑宗久が東日本大震災後に語る方丈記の勧め。

     平安の昔も今も厄災はあり、人が得るものは等しく無常で儚いものである。作者は東日本大震災を経て改めてそれを強く感じ、とらわれない生き方を投げかけている。
     方丈記の原文と現代語訳もそのまま載っている。今だからこそ手元に置いておきたい一冊。

  • 方丈記との出逢いを通して得た力を「無常という力」と名づけた 人はこの世に仮住まいしている 揺らぎつづけろ 

  • ブレるだのブレないだのと最近騒がしいけども、世の中は無常。たゆたってて当たり前。揺らいだっていいじゃないと、方丈記を通して福島・三春町に住む著者は言います。

    揺るがない信念というと、響きは確かに良いが、それは結局のところ何かに執着するということ。特に印象深い一文は、「何事だって断定してはいけない。絶対にこうなんだという思い込みでは、これまで起きたことについてしか、解釈できない。今後どうなるかわからない世界へは、風流(中道)の力で、無情の世界を一歩一歩、歩んでいく。」のところ。
    今日受けた研修もそうだったけど、とかくビジネスの世界では、いろんなフレームを使って、一方向に分かりやすくハメようとしがち。それはそれで便利なんだけど、もっと手探り感で思考して行動することのほうが大事かと思う。

    「結局オレ、この方丈の庵の生活で良かったワケ?」って自問自答で締めくくられる方丈記。人生の本質を突いているからこそ、名著なのだと思った。

  • 「無常はけっして静的な諦観であるだけでなく、ある種の安定を崩し、当座のバランスを失っても、一歩を踏み出す積極的な行動のこと」として「無常の力」と名づけたとのこと。
    すべてへのこだわりがないことは自由なのだ。「寿命は天に任せ、命を惜しむこともしないし、死を厭うこともしない。生涯の愉しみは、うたた寝しつつ見る夢に尽き、生涯の望みは四季折々に出会う絶景の中にこそある」・・・。そこまで往き付くのが難しい。

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著者プロフィール

一九五六年福島県生まれ。慶應義塾大学中国文学科卒業。八三年、天龍寺専門道場入門。現在、臨済宗妙心寺派福聚寺住職。花園大学仏教学科および新潟薬科大学応用生命科学部客員教授。二〇〇一年「中陰の花」で芥川賞を、一四年「光の山」で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。著書に、『禅的生活』(ちくま新書)、『荘子と遊ぶ』(ちくま文庫)、『やがて死ぬけしき』(サンガ新書)、『竹林精舎』(朝日新聞出版)などがある。

「2020年 『なりゆきを生きる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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