- Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
- / ISBN・EAN: 9784104471041
感想・レビュー・書評
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9編の短編集。
誰かの日常を覗いた様なそんな話の数々だが、やはり文章が素晴らしい。
優しい中にもヒヤッとする場面があったり、終わりもあれっ?な話もありつつなんとなく繋がっている事もだんだんわかってきたりして面白い。
日本のどこかでこんなことあるのかなぁ〜と思ってしまう。
プリンと消毒液がよかった!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
未見坂という坂がある街に住んでいる人々を描いた短編集。
「少年」が主人公のいくつかの短編以外はすべて「○○さんは」という三人称で進む。
この距離を置いた主語にかすかなたくらみを感じる。
少年の視点は少年の視点。見える部分はとても限られていて、でも大人にはいろいろあって街も時間も流れていく、という雰囲気がこのどくとくの人称と構成で浮き彫りになっているように感じた。
作品全体を通して、このような表現で描かれた物語を読んだことが無かったのでとても感心した。
ものすごくよかった。
好き嫌いとか血縁とか友達とかそれだけじゃはかれない人と人の距離の温かみやえぐみが描き出されていた。 -
図書館で見かけるとなぜかつい手に取ってしまう堀江敏幸氏。読み始めると、中学生の頃、背伸びして村上春樹氏の作品を読んでいたときのような落ち着かなさというか、自分自身の未熟さを痛感して怯んでしまうのだけれど、そのちょっと無理をしているような心もとなさがどうも病みつきになっているようで、今回も懲りずに借りてしまった。前に読んだ『燃焼のための習作』は、作品が持つキーンと研ぎ澄まされたような静謐な空気感に耐え兼ねてところどころすっ飛ばして読んでしまい、読了後にどうしてももったいないような気持ちに陥って慌てて読み直す、という阿呆なことをした。今作は短編集なので、好きだなあと思うものはじっくりと、そうでもないものはさらっと読んだ(要するにまたところどころすっ飛ばしている)。
最後の『トンネルのおじさん』がすごく好き。家庭に生じた不具合の解決のため、夏休みのあいだ田舎の親戚に預けられた少年。突然現れた家族以外の大人と同じ時間を過ごす中で、いつもとは違う日常に気付けば没頭している。大人が気を遣って何か特別なことを用意しなくても、子どもは勝手にいろいろなことを感じて、考えて、成長していくんだなあと。私も幼い頃の記憶として実感があるけど、田舎のおじちゃんとかってほんとなんもしないよね。ただ一緒にいるだけというか。その中でなんか勝手にやっとけよ、っていう態度に最初はめっちゃ戸惑うんだけど、そのうち慣れてくると、大人に構わることなくぽんとそこにいるだけの状態が不思議と心地良くなってきて、周りの謎の大人たちをじっと観察してみたり、くっついて回ってみたり、そのうち鬱陶しがられたりして、でもなんか本気で嫌がっているわけじゃなさそうだぞ、まだ大丈夫だな、みたいな。それでそんな生活に慣れてきた頃に突然また親が迎えに来たりして、家に戻るとまたあらゆる方向からこれでもかってほどに構われる生活が再開して、まあ明確にやるべきことや答えるべき質問があって楽っちゃ楽なんだけど、面倒っちゃ面倒だな、みたいな。子どもながらにそういう感覚があったような気がする。
あと堀江さんの作品が好きな理由のもう一つが、フォント。この本も良かった。これで書けば私のしょうもない駄文なんかもわりあいそれなりの感じに仕上がるんじゃないかと思うくらい、本当に素敵なフォント。 -
未見坂にまつわる短編集。
相変わらず文章が綺麗ですてき。 -
連作短編集。私にとっては読みにくい彼の文章ですが、ゆっくり丁寧に読めば、その情景や雰囲気をしっかり感じ取れます。とくに大きな事件も起こらずに、淡々と紡がれる人々の暮らしが、とても身近に思えます。
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『雪沼とその周辺』に連なる短編集。
日本の小説なのに、日本のことを描いているのに、どうしてだか、堀江先生いの小説にはヨーロッパの香りがします。 -
雪沼的な、坂のある町の様々な人生。そういえば手作りプリンを習ったのが雪沼の料理教室だというから、同作の姉妹編だろうか。
心に残るのは電子レンジを上司にもらった、肥満の独身男性。右手が苦手だという彼が、電子レンジ(使い方云々ではなく存在そのもの)と格闘する。温かいけど何か冷たい感じの町で、彼の行く末さえ悲しく浮かび上がらせる話だった。そう、たかが電子レンジなのに。それにしても、抜き差しならぬ話し合いをする夫婦が田舎に子供を預ける、という話は常に子供か第三者から語られるせいもあるが、遠いお伽話のよう。世の中には私が知らないだけで、そうして抜き差しならぬ話をしている人が実は結構いるのだろうか。 -
橋本紡の「いつかのきみへ」とあわせて読んだら、こんぐらかったのはここだけの話。同じベクトルを持ってる短編集。というのはさておき。
田舎の小さな町。偏屈な住人。それはどこにでも、はいて捨てるほどある日常で。そんな日常を、物語に落としこめる堀江さんの筆致力はすごいと思う。 淡々と。変わらないようで、変わる毎日。同じ家にいて、同じご飯を食べて、顔をつきあわせていても起こる擦れ違いや勘違い。でも、どうしようもなくて、それが「営む」ことなのかもしれない。