枯葉の中の青い炎

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104563029

感想・レビュー・書評

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  • 6編の短編からなる.
    前半の3遍はボルヘスのような幻想的で奇妙な話.辻原登がこのようなテイストの話を書くとは知らなかった.
    自分の好みはスタルヒンが主人公の表題作(第31回川端康成文学賞を受賞している).スタルヒンが300勝を達成した西京極球場での試合と,スタルヒンそしてもう1人の主人公であるアイザワ=ススムの過去,さらには魔術(!)とを交え,謎が多いとされるスタルヒンの自動車事故死に収斂させる手腕は見事だ.

  • 桜庭一樹の書評本に出てきたので気になっていた短編集。表題作が面白かった。最初のうちは野球のこととかよくわからないので「???」って感じだったのだけど、これ中島敦じゃないの!?って気づいたあたりから俄然興味が沸き。

    登場人物は実在のプロ野球選手・相沢進(名前は完全に日本人だが、日本人の父親とミクロネシアのトール島の酋長の娘との間に生まれたハーフ)、同じくプロ野球投手のスタルヒン(北海道育ちのロシア人)、そして相沢進がトール島にいた少年時代に南洋庁の編修書記として赴任してきたのが中島敦。もちろん彼らの邂逅自体は著者の創造であり、スタルヒン300勝のために相沢進が酋長の祖父から教わった魔術を使うのも創作だけれど、もしかして本当にそうだったのかも、と考えてみるのは楽しい。中島敦の南洋ものは読んでいなかったのでこれを機会に読んでみたい。

    「日付のある物語」も実在の人物と事件がモチーフ。昭和54年の三菱銀行人質事件で、銀行に立て籠もって行員と警察官合計4名を殺戮した犯人の梅川昭美の話。「ザーサイの甕」は中国に起源を遡る金魚とザーサイのマジックリアリズム的な話だけれど、途中ちらりと同じ著者のシリーズものの主人公・遊動亭円木が登場。なるほど、あの池の話ね。

    「ちょっと歪んだわたしのブローチ」は、好きな女性ができだと妻に堂々宣言、相手の女子大生は卒業後郷里で婚約者と結婚することになっているので、その前に1ヶ月だけ同棲させてほしいと言い出す夫と妻のイビツな関係の話。最初は妻がこれを受け入れたことにビックリするけれど、もちろん本心では平静でいられるわけがなく…。同棲中も毎日決まった時間に夫から妻に電話する約束になっており、最初のうちはその電話のときは席を外していた浮気相手と、そのうちやってる最中に電話したりする夫の悪趣味、調子に乗ったことが妻の何かに火を付けてしまったのかもと思う。オチを怖いと思う反面、ざまあ、とも思ってしまう。

    ※収録
    ちょっと歪んだわたしのブローチ/水いらず/日付のある物語/ザーサイの甕/野球王/枯葉の中の青い炎

  • 辻原登は巧すぎる書き手である。そのままで一篇の小説として立派に通用するだろう題材にさらに一ひねり二ひねりを加えないと満足できない。そのひねりの基となっているのがこれまでに読んできた世界中の物語や小説だ。おそらく無類の本好きで、作家自身の幾分かは本でできているにちがいない。どの話にも時間や空間を隔てた異国の物語が影を落としている。というより、異国の物語を読んだ経験が作家をして新しい物語を紡せている。物語が物語を産む。登場人物も作家も我々人間はみな物語を語る器官のようなものだ。

    青いラピスラズリのブローチを故郷で待つ許嫁への土産として持ち帰った男が、部屋の壁に掛かった絵の中の世界へと迷い込み、向こうで別の女性と何年かを過ごして帰ってくると、こちらの世界では数分間しか経っていなかったというメルヘンがある。「一炊の夢」を主題にしたヴァリエーションだが、世界を往還するのはいつも男だ。女は壁の絵と扉の向こうでただ男の帰りを待つしかない。

    「ちょっと歪んだわたしのブローチ」は、男を待つ女の側の視点から書かれている。愛人と同棲するためにひと月の間だけ家を空けたいという夫の願いを冷静に受けとめたように見えた妻だったが、二人の部屋を突きとめると、向かいの建物の空き部屋を借り、オペラグラスで二人を眺めるようになる。向かいと同じ色のカーテンを掛け、同じ花を部屋に飾る。奇妙なシンクロニシティが起こる。向かいの花とこちらの花が同じ散り方をするのだ。約束のひと月がたち、夫が家に帰ってみると、妻の胸には女にプレゼントしたはずのラピスラズリのブローチが……。

    「枯葉の中の青い炎」では、新聞に載った小さなコラム記事から、往年の野球ファンを湧かせたスタルヒンの三百勝という偉業と、続いて起きた悲惨な事故死の間に横たわるミステリアスな共時性に目を止めるよう読者を促す。天皇の太平洋三カ国訪問中止を告げる記事で見つけたのは大酋長であるアイザワ・ススムという名前。かつての高橋ユニオンズの名選手だ。彼が少年だった頃、その島には『ツシタラ(後に「光と風と夢」と改題)』を書いた中島敦がいた。

    「物理世界と精神世界を秘かに結ぶシンクロニシティは、日常生活にいくらでも起きていることではないか。ただわれわれは、それを自分の意志で起こすことができない。秘蹟を起こすことのできる儀式、方法を我々は持っていないだけなのだ」と、作中ツシタラ(物語大酋長)は語る。

    書名は短編集の掉尾を飾る一篇から取られているが、硝子瓶の中に封じ込められた枯葉をちろちろと舐める青い炎は、現実世界に隠れながら、知らぬ間に裡側からそれを焼尽していく物語世界の暗喩でもあるのだろう。二篇の他にも現実と物語の間に強引に架橋した稀有な物語世界を見せる短篇が四篇収められている。作家はどのような儀式でもって、これらの秘蹟を成し遂げたのだろうか。

  • なんか嫌な話から始まった、
    短編集だった
    前半の3篇と後半の3篇で趣きが異なっていた
    全体的にファンタジーなのかな

  • 個人的には最初の2編を推す。特に水入らずが強烈。ここまでの変態を描けるとは・・・。

    場面の切り替えに合わせた頭の切り替えが要求される作品。ついていけない作品もあったので、均して星3つ。

  • 筆者の作品初読みでした。

    無駄がいっさいない研ぎ澄まされた文章で場面がどんどん切り替わって行く。

    筆者の読んだ文献と事実とが交錯してゆくがあまりの早い切り替えについていけないことしばしば。

    自分のあたまの悪さを思い知らせれるような作品群だった。
    1編目の話は有りえない設定だが、妻が狂ってゆくさまが怖かった。舞台にしたら面白そう。

    是非他の著書をよんでみたい。

  • 文章がものすごく巧い作家さんだなと思うけれど、いまいち入り込めなかった。ぼんやりとした輪郭をなぞるような短編という印象。薄暗くて難解な幻想系短編集。

  • 表題作が白眉。どこかすっとぼけたホラ話感。 #suihoan

  • 短編集。運命が交わる瞬間が描かれているような物語たち。
    表題作の登場人物をWikiで調べると、まさに物語のような人生。ナカジマがこんなところに。

  • おもしろい短編集だった。
    特に「ザーサイの甕」「野球王」が◎。なんとなくボルヘスを感じたのは気のせいか。

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著者プロフィール

辻原登
一九四五年(昭和二〇)和歌山県生まれ。九〇年『村の名前』で第一〇三回芥川賞受賞。九九年『翔べ麒麟』で第五〇回読売文学賞、二〇〇〇年『遊動亭円木』で第三六回谷崎潤一郎賞、〇五年『枯葉の中の青い炎』で第三一回川端康成文学賞、〇六年『花はさくら木』で第三三回大佛次郎賞を受賞。その他の作品に『円朝芝居噺 夫婦幽霊』『闇の奥』『冬の旅』『籠の鸚鵡』『不意撃ち』などがある。

「2023年 『卍どもえ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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