籠の鸚鵡

著者 : 辻原登
  • 新潮社 (2016年9月30日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104563067

作品紹介

欲望と殺意の果てに現れる、むき出しの人間の姿。迫真のクライム・ノヴェル。ヤクザ、ホステス、不動産業者、町役場の出納室長。欲望と思惑は複雑に絡み合い、互いを取り返しのつかない地点へと追い詰める。情事と裏切り、そして二つの巧妙な殺人の後、彼らの目に映った世界とは? 八〇年代半ば、バブル期の和歌山を舞台に、怒濤のスリルと静謐な思索が交錯する。著者の新たな到達点を示す傑作長篇。

籠の鸚鵡の感想・レビュー・書評

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  • 帯に「著者の新たな到達点を示す、迫真のクライム・ノヴェル」とあった。これは読まねば、と思って読みはじめ、しばらくたってから「ふうむ」と、首をひねった。たしかに、いつもの辻原登ではない。だが、これが新たな到達点だというのは、ちょっと待ってほしい。新たな高みを目指して登っていたら、目標としていた山とはちがう別の山頂に着いていた、というのが本当のところではないのか。

    辻原登といえば、豊かな文学性、歴史的資料を駆使した物語性の面白さに、清新な気風を兼ね備えた稀代の小説巧者というのが評者の作家像だ。たしかに、近作は、悪や死、犯罪への傾斜を思わせる暗い情念が潜む小説を手掛けていた。だが、それらには巷にあふれる通俗的な読物とは一線を画し、どこかに辻原登らしい気韻のようなものがあった。

    本作にも、辻原登らしい部分はある。小説中盤、峯尾が湯の峰温泉の湯治場に身を隠す場面がそれだ。逃亡中の身であることを忘れたかのように、父が炭を焼いていた大台山系に連日分け入るあたリには、奥山の大気を呼吸することで、やくざ稼業で身に着いた垢が落ち、心身ともに浄化されていく心境が感じられる。冒頭の太鼓腹に角刈り頭の峯尾とは別人の、まるで中上健次描くところの秋幸を思わせるものがある

    冒頭、下津町役場出納室長の梶のところに先日行ったスナックのママ、増本カヨ子から手紙が届く。一通目は小出楢重の絵葉書に吉野英雄の短歌という文学趣味を感じさせるものだったが、その後数を重ねるごとに露悪的で卑猥なものに変わっていく。まるで官能小説から抜き出した文体をわざと歪めてみせたような偽悪的な代物で、個人的には、これがどうにも口に合わない。

    カヨ子は、情夫である峯尾から色仕掛けで梶を落とすように指示を受けている。最初の絵葉書は名刺をもらった相手なら誰にでも出す挨拶状。それ以降は、慎重で用心深い梶を振り向かせるためのカヨ子なりの色仕掛けだ。それにしても、下卑た内容の手紙の末尾に伊藤静雄の「わがひとに与ふる哀歌」を持ってくるという神経が気に障る。大方、カヨ子の出身が長崎であることから諫早出身の伊藤静雄を思いついたのだろう。スナックを訪れた梶が吉本隆明の死を諳んじるところといい、妙な文学趣味がクライム・ノヴェルのテンポを崩している。

    一人の女と金をめぐる三人の男の犯罪の顛末を描いたクライム・ノヴェルである。カヨ子は横顔が女優のイングリッド・バーグマン似の大柄な女。不動産業を営む紙谷という夫がある身で春駒組の峯尾と情を通じている。その紙谷は岸井という男と組んで痴呆症の老人が所有する農地を、書類を偽造して相続し、一億円手に入れた過去がある。岸井から話を聞いた峯尾は、ばらされたくなかったら女房と別れろと紙谷を脅迫。紙谷はやむなくカヨ子と別れたが、関係は続いている。

    時代は八十年代。山口組と一和会の抗争が激しかった時で、舞台となる和歌山にもそれは波及していた。組長から資金調達を命じられた峯尾は、大金を扱える出納室長という立場にある梶がカヨ子に気があるとみて美人局を思いつく。二人の情事を盗撮し、それをネタに公金横領を迫る計画だ。ここまでを読む限り、どこがクライム・ノヴェル?と訊きたくなる、せこい犯罪ばかり。

    それらしくなるのは、角逐する金指組に梃入れとして神戸から送り込まれてきた若頭白神が登場してからだ。それまではうまく棲み分けていた二つの組に衝突が相次いで起こる。その張本人である白神を殺すため武闘派の峯尾に白羽の矢が立つ。沖縄への武器調達の帰途、復路の船上で白神をどうやって仕留め、無事逃げ切るかというこの部分はサスペンスに溢れ、上質のクライム・ノヴェルといっていい。

    峯尾の高飛び用の資金をめぐってカヨ子と梶、紙谷がそれぞれの思惑で動く後半部分が締まっていれば、クライム・ノヴェルの格好はついたのだろうが、ファム・ファタルとは到底いえない中途半端なカヨ子という女をヒロインに持ってきたことと、横領はしても荒っぽい犯罪は似合わない男二人のせいでノワール色が薄れ、緊迫感のない終幕となったのが惜しい。題名は、スナックでかかる歌謡曲、高峰三枝子が歌う『南の花嫁さん』の歌詞から。地方にも映画館が何軒もあり、日活ロマンポルノがかかるなど、程よい時代色が往時を知る読者にとっては懐かしい一篇。

  • ある年代の男性にとってはこういうヒロインが理想なのだろうなあ。男性に都合よく色気を振りまくイメージ(手紙のくだりは苦手で飛ばした)。彼女に共感できるかどうかで評価が違うのだと思う。

  • 一人の女を巡って、ヤクザ、元夫、馴染みの客の3人が対立しながら騙しあい、金と欲に翻弄される。さらに背景に山口組の抗争と内部分裂がからんで、話が複雑になっていく。

    単にピカレスク物というほど悪党ばかりではなく、どこか憎めない男女の騙しあいは、エルモア・レナードなどよりウエストレイクに近いが、それが思いっきりウェットなのが日本風。
    読後感も悪くないが、読み終わってみると全く不要なエピソードや枝葉もあったが、これは連載故仕方のないことかな。
    感情描写よりも、背景や事実描写が多く映像向きの作品かもしれない。

  • 山口組と一和会の抗争、いわゆる山一抗争の時代、和歌山で実際に起こった横領事件を題材にヤクザの抗争の中での性欲、物欲、金銭欲にまみれた男と女がそれぞれの欲望で騙し騙されていく世界を描いている。

    ヤクザの愛人と知らずに騙されて関係を持ち、それをネタにゆすられる町役場の出納室の室長。
    ヤクザの抗争でやられたらやり返す、ヤクザ稼業も心落ち着くことがないそんな世界での抗争相手の若頭を狙うヒットマン。
    孤独な老人が所有する不動産をまんまとだまし取り金に換える悪徳不動産屋。

    過去の話、別世界の話のようでありながら、舞台も和歌山、難波、尼崎ということもあるが、妙に身近で起こっているかのようでぐいぐいと引き込まれていく。所々で些細な出来事を挟み込んできているが結局、本筋と関係ない描写は、なんだったのだろうと妙に期待させるのはやめて欲しかったし、結末は私にとっては歯切れが悪かった。

  • 次々と焦点の当たる人物が変わり、話が広がっていくのだけど、まあろくでもない人間ばかり。
    陰惨な物語ではあるものの、不思議とカラッとしていて、面白くて一気読みだった。
    しがらみや欲の鳥籠の中から鳴きわめく鸚鵡達、その鳥籠は何重にもなっていて決して逃れられはしないのだけど、あの人は少なくとも一つの籠の扉を開けることは出来たのかな。
    読後感も良かった。

  • 作りが雑な感じがする。

  • ロマン・ノワールというのか、ヤクザ小説というのか、あんまり読んだことのないジャンル。以前に「本の雑誌」か何かで絶賛されていたので読みたい本リストに入っていた。プロットは雑な箇所も目立つが、一気に読ませる面白さがあり、微妙にタイミングをズラしてくるラストも嫌いではない。

  • まずは、カヨ子の魔性の手紙にしびれました。この表現で、並みのクライムノベルとの格が違いますね。付き合った相手に染まりやすく、気がつくと口癖を真似るのはチェーホフの「可愛い女」ですね。でも、最後で自分の意思を見せるのですね。これまで読んだ辻原登の作風とは違うノワールの世界は、ラテンナンバーがバックに流れ、昭和の匂いが漂っています。

  • ハラハラする、あっ死亡フラグ立った?という張り詰める緊張感が帯びてくると、急に情景が変わって読み手もひと呼吸置ける、と緩急のコントロールが絶妙。いつの間にか諸悪の根源みたいなヤクザに少し感情移入してったり、相変わらず巧みだなぁ辻原登さん。

  • ヤクザ、ホステス、町役場の出納室長。欲望と殺意の果てに現れるむき出しの人間の姿-。80年代半ば、バブル期の和歌山を舞台に、怒涛のスリルと静謐な思索が交錯する傑作長篇。

    読み始めてすぐどこかで読んだ感じと思ったら、週刊新潮の長寿連載「黒い報告書」のタッチにそっくりだった。そういえばこの本は新潮社から出ているし、書評でこの本を激賞していたのも(覚えていないけど)週刊新潮だったのかも…。
    (C)

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