著者 :
  • 新潮社
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感想 : 72
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  • Amazon.co.jp ・本 (187ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104588015

感想・レビュー・書評

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  • 雨が降る日、川の橋の下で拳銃自殺した人を見つけた「私」。死体の右腕から少し離れたところにあった銃に魅了され、銃を持ち帰る。興奮し喜びで満たされながら銃を持ち歩くが、やがて撃ちたくなり…

    一人称で書かれています。始まりの数ページは主人公像がわからないので少し読みにくかったけれども、徐々に引きこまれていきました。
    「私」の名前がトオルだとわかるのは、本の半分を過ぎてから。恋人の名前はヨシカワユウコと片仮名表記のみ。人への興味のなさが文字からも伝わってきました。
    心の声がそのまま表現されているということを差し引いても、「私」の性格の違和感が半端ない。
    ルックスが良く、頭もよく、人当たりがいいが、心はどこにも全くない。人の気持ちがわからず、わかろうともしないがどういう態度をとればいいかが分かっている。そういう人間だからこそ銃への固執と偏愛ぶりが、違和感なく読めてしまいます。そして、結末は、そう終わるか!という感じです。私なら…と読み終わっても一人称の世界から抜け出せずにずっと考えています。私なら、銃を拾わずにいられるか…この本を読んだ今なら、拾ってしまうかもしれません。

  • 退屈な日々を過ごす大学生、西川(主人公)は無意識に非日常感を求めていた。しかしある大雨の夜、人目につかない場所で見知らぬ人の死体と銃を見つける。西川はタナトス(死)を感じさせるものに興味があり、そこにあった銃に惹かれついに拾ってしまう。銃を持つことで日々、非日常を体感し満たされた。
    やがて銃をこの手で撃ってみたい欲望に駆られた西川は、己より下等な生き物を害することを嫌うことなく衝動的に行い、むしろ快感を覚える。この快感で味を占めた西川は、無意識に人を殺したいといつしか考えるようになる。
    もちろん、冒頭にあった死体は発見され、警察は銃の行方を捜索するが...果たして主人公の結末やいかに。
    ーー
    殺人には様々な動機があると思うがその一つとして、この主人公のように殺人鬼ってある種の小さな好奇心から生まれるのかもしれないと、ふと考えた。
    記事でよく目にする殺人鬼の特徴として、幼少期からの家庭環境が複雑で、親や周囲の人間からの愛を受けて育っていないことが多いが、この主人公の家庭環境も複雑。もちろん、このような境遇でも素晴らしい人格を持った人はいて、逆に親の愛を受けて育っていても罪を犯す人はいる。
    特に何かあるわけではないけれど、身近な感情の機微(闇)に私達はもっと俯瞰的な立場から気づくべきなのだ。人を殺めてしまう前に。

    「退屈な人間が集まったとしても、そこには退屈さしか生まれない」この言葉から主人公が思う人間関係の付き合い方がわかる。
    この世にまったく同じ人間はいない。退屈な人間なんてこの世に存在しないと思うのが私の持論。この主人公は上っ面だけで人を表面的に判断し、本質を理解しようとしないため、人が退屈な人として目に映るのだ。私はこのような人間が苦手なので、現実にいたらなるべく関わりたくない。

    ザリガニや黒猫の表現も気持ち悪く、愛猫家の私は途中で目を背けるほど苦しくなった。きっと主人公に見つかる前からてんかんを患っていたのかなと。また他の方も言ってあるように、何よりも著者の心理描写の描き方が抜群に上手い。小説家とは、言葉に上手く表せられない感情を豊富な語彙を巧みに使って表現できる人にしかなれないなとつくづく思う。作品の内容は個人的に好きではないが、特にその点において高評価をつけた。


    ー追記ー
    好きな俳優さんがこの方の作品を推していたので読んでみたけれど、こんなにも陰鬱な作品だとは知らず、正直少し引いてしまいました。私が最近読む本の雰囲気と大きくかけ離れており、読んだ後とても疲れたので、再読はきっとしないだろうと思います。

  • 『銃』ひとつ手に入れただけで、そーなっちゃう!?
    な展開が面白かった。

  • 201804
    デビュー作かーすごいな。らしさが出てる。
    いかにも純文学的な内面でありながら、外面は普通のチャラい大学生という主人公が面白い。
    最後の数行もまたとても面白い。

  • 銃を拾った大学生が、それに囚われ、それで人を撃ちたいという感情に支配されるが、そんな馬鹿げた行為をしてはいけないと思いなおすが、結局は衝動的に発射してしまい電車で居合わせた男性と自分の人生を終わらせることになる話。

    ---------------------------------

    主人公は、記憶にも残っていないほど昔に自分を捨てた父親と再会した時、父親がドラマの台詞のようなことを言ったことがおかしいと笑った。テレビドラマでよくある親子の再会のテンプレートみたいな会話をそっくりそのまま再現されたのが馬鹿らしかったんだと思う。
    ”チェーホフの銃”というルールがある。”物語に登場した鉄砲は発射されなければならない”という掟のようなものだ。
    主人公はまんまとそのルールに従ってしまった。自分の人生に突如登場した銃を不必要なことに使ってしまった。彼だって父親と同じ。
    親子の再会、という場面でありきたりなことを言ってしまった父親。
    手に入れた銃、にかき乱されどうでもいいことに使用してしまった主人公。
    どちらも浅はかでどうしようもなくて、自分や自分の周りにいる人たちみたいだと思った。

    電車のなかで発砲していまい、「これは、なしだ」と主人公が呟く最後の場面。ああ、この感覚だ、と読んでいて震えた。
    自分の悪さや失敗が明るみになった瞬間、今日を一日やり直せたら、30分前に戻れたら、とかそういうことを考えてしまう自分と全く同じだった。自分は衝動で誰かを殺したりしない人間だといいな。

  • デビュー作としては、面白かった。
    初期の作品の方が面白いかな

  • 銃を拾ったことからどんどんその魔力に取り憑かれて破滅していく物語。観念的で少し古い精神世界なのが気になるところ。

  • 再度、借りてしまう。

  • 著者のデビュー作ということであるが、流石に物語の展開という点においては物足りない。銃を拾った主人公の起こす行動を分析して物語にしていくが、若い作家のこだわりからか観念的になったかと思うと短絡的になったりで振り幅が大きい、最後にやっと正気に戻ったかと思ったらカタストロフが待ち受けていたというお話。

  • 主人公が男だからか、思考回路が全然理解できない。
    子どもを虐待する親に嫌悪感を抱く伏線もあやふやだし。
    どうも、この作家とは相性が悪いみたいだけど、代表作を読んでいないからかもしれない。

  • 同い年作家、中村文則のデビュー作
    2002年当時の自分を想いながら、作品の世界に浸ることができた1冊。
    中村文則の原点を実感することができた。

  • 死をもって、生を感じる。そのギリギリのバランスが、全編に緊張をみなぎらせている。主人公の乖離した心理状態が迫真の描写だ。最後は悪夢としか言いようがない。

    心に大きな空白を抱えた人、例えば人格障害や依存症のような。そういう人に、この物語は他人事ではないのではないか。

  • 図書館で借りた本。

    銃に取り憑かれたような話。

  • ひょんなことから銃を手に入れた主人公がその興奮を元に変化していく話。
    さっきも見たぞというくらいしつこい同じような心の葛藤があるのですが
    そこにちょっとした変化が加わっていく様が面白いですね。
    そして最終的には救いのある方向へ行くと見せつつ破滅へ向かってしまうという
    ちょっと救いの無い話なのですが物語の重点は
    あくまでしつこい心の葛藤にあると思うので味わい深さはありますし
    読後感もあまり悪いものではありません。

    銃についてそこまで考えた事は無かったし
    銃というものはよくテレビとかで見て知っているものの
    実物を見た事も触った事も無いのですが、
    実際に撃つことの出来る本物を手に入れた時
    人を狂わせる何かがあるのかもなと感じさせてくれる作品でした。

  • 徐々に狂っていく様が気持ち悪かった。
    猫を撃って刑事に問い詰められたところから狂気が加速した。描写がくどくなり、一人称が頻出した。
    銃を磨いているだけで何故満足しなかったのか。
    ケチな喧嘩をして相手の頭を吹き飛ばす。身の破滅。
    「やってはいけない」ことをやってしまうのか。
    そこまでの魅力があったのかは分からなかった。

  • ゴロウデラックスに中村文則さんが出演していて、中村さんの作品を読んでみたいと思った。かなり衝撃的。これがデビュー作とは凄い。他の作品も読んでみたい。

  • 凄いわ。これがデビュー作なんて。
    拳銃に憑かれた男の行く先は‥。
    作品を覆う空気感が、いい。
    淡々とした中にのぞき見える、ぐろぐろとしたエネルギーが、いい。

  • 中村文則さん初読み。こんなにも引き込まれるとは・・・。主人公の内面をこっそりとずっとのぞいていたような気持ちになり、現実との境がわからなくなりそうな不思議な読書体験だった。コーヒーをやたらと飲む主人公に影響されて、わたしもやたらとコーヒーを飲んだ。中村文則さんの作品は全作読みたいと思う。

  • これだ。これこそ中村文則だ。
    たぶん中村さんの初期作品であるこの本には、すべてがつまっていると言ってもいいのではないだろうか。
    ほんの偶然から銃を手に入れた大学生が、それに魅入られて破滅していく過程を驚くほど丹念に描き切っているこの本に、そして僕も魅入られてしまった。
    ただ一言で言えば「疎外感」であり、それは社会からの疎外感、他人からの疎外感、自分からの疎外感である。中村作品のほとんどすべてに通底しているこの感覚を、今までで一番強く感じた作品だった。
    とにかく素晴らしい。本当の傑作だ。

  • 図書館本 第34回 新潮新人賞 著者の処女作。
    生死を扱う物(武器)を手に入れた優越感から狂気に変わっていく様。遮光と内容は同じものではあるが物を違う事にすることでアプローチを変えている。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中村文則の作品

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