迷宮

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 95
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  • Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104588053

作品紹介・あらすじ

「僕」が何気なく知りあった女性は、ある一家殺人事件の遺児だった。密室状態の家で両親と兄が惨殺され、小学生だった彼女だけが生き残った。「僕」は事件のことを調べてゆく。「折鶴事件」と呼ばれる事件の現場の写真を見る。そして……

感想・レビュー・書評

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  • これは、あなたについて書かれた本です。
    あなたの人生が書かれています。
    あなたの性質、あなたの秘密、人にちょっと言えないこと、人に絶対言えないことが書かれています。
    あなた自身もまだ気づいていない、あなたの本性・・・読みますか。

    言い訳をしてみてください。あなたの存在に対しての言い訳を。
    客観的に誰もが納得できる言い訳を。

    (本文より抜粋)


    とある迷宮事件の遺児と出会い、彼女の得体のしれない陰鬱の中にのまれていく、という話だが、
    やはりいつものごとく私が惹かれるのは内容そのものよりもその根底に流れている暗い暗い川である。

    自分は新見ほどの大きな陰鬱は持ち合わせていないが、
    だれしも少なからず心に秘めた鬱鬱としたものがあり、
    (果たして本当にそういったものがない人などいるのだろうか?)
    それはまるで忌むべきもの、というように皆ひた隠しにして毎日を生活している。

    落ち込んでいる人がいたら、元気だそうよ!と、励ますのが正解。
    暗い話をするより、楽しい話をするのが正解。
    死を選ぼうとする人は止めるのが正解。

    だが、この世界の正解に、うまくなじめない時だってある。
    人間なんだから、陰と陽があって当たり前で、
    陰の部分をもっとちゃんと消化することができたら。
    この違和感を。

    新見が暇を埋めるために娯楽を詰め込む場面や、
    笑いで違和感をごまかす場面は読んでいてやりきれなさを感じずにはいられなかった。

    『世界の本当は、残酷で無造作で無関心なんだって。』

    この事実を意識している人間がどれほどいるだろうか。

    『本当の賢さとは世界を斜めから見ることじゃない。
    日常から受けられるものを謙虚に受け取ることだ。』

    何のために生きるのか、
    生きるとは何なのか。

    そんな疑問が、乱暴に眼前に迫ってくるような小説。あいかわらず。

    暗くなるなぁ、、、やっぱり、この人の本。笑


    ラストは一見、ハッピーエンド感漂う終わり方だが、
    私個人としては違うと。
    コーヒーのくだり(世界の幸せを象徴したような)に未だ違和感を感じていることや、
    最後のデュエットの表現。
    彼は決して、この言葉を、一度も良い意味では使っていないから。

  • 中村文則の小説はそれが小説だからこそパフォーマンスが最大になるとしか思えない筆運びが最大の魅力だ。それは当たり前かもしれないが、どうにも映画を見ているようだったり、ドラマを見ているようだったりする読書感が他作家ではしばしばある。
     読書ならではの悦楽を与えてくれる作家としては現在最高だと思う。
     今作もしかり。面白いに加え、異常なほどの心理描写は完全に小説のアドバンテージ、それを駆使して愉悦をもたらす。ああ気持ちよかった。

  • 主人公は幼い頃、自分の中に時々現れ話しかけてくる実体のない(R)という存在がいた。
    幼い彼に、白衣を着た男は言う。
    「君は好き勝手生きるわけにはいかない。
    自分だけの内面に生きているわけにもいかない。
    いつか世界は君を攻撃する。
    そして攻撃を受けた君はその世界に復讐しようとする。
    そうなる前に君は変わらなければいけない・・・」

    バーで出会った中学の同級生紗奈江は、猟奇的殺人で家族を殺され唯一生き残った少女だった。
    彼女の混沌に入り込んでいく中で、
    主人公もまた自分の泥沼に入り込む。



    中村文則の小説を読むたびに、
    この小説家はいつも町の片隅に生きる「たった一人」のために書いていると感じていた。
    読む者全てにではなく、
    読んでいる者、そのたった一人のために。

    この小説は特に、その「たった一人のため」を強く感じさせる一冊であったと思う。

    私はいつもその「たった一人」の読者である。
    たった一人に、確実に届くと言うことが、
    どれほどの希望をこの世界にもたらすことができるのだろうか。逆もまた然り。

    「たった一人」を甘く見てはいけない。

    中村文則は、小説の登場人物の光と闇を通して、
    いつもいつも「一人の人間」に手を差し伸べている。

  • 初読みの作者さん。ハマりました。制覇しなくちゃ。のめり込みすぎて、日常のバランスを崩しそうだった。私の中のもう一人の自分の方が強烈な個性を持ってると思う。

  • のめりこんでしまった。独特の言い回しを多用した一人称の文章もさることながら、あまりにもダークなその世界観に。あくまでも健全に生きている人にはおそらく理解すらできない世界観なのかもしれない。でも、ある種の人にはこれ以上ない共感を持って迎えられるだろう。そして、僕もその一人であったということだ。
    僕の中にはRはいなかったし、多神もいなかった。でも、だから健全なのかと問われると自信をもって返答することはできない。この小説で描かれる事件が迷宮であり、と同時に自分の内部こそが迷宮なのだ。
    ところどころに、はっとさせられる描写が満載。又吉が推薦していた作家だということは知っていたが、初めて読んでみてなるほど、と思った。他のもぜひ読んでみよう。

  • 冒頭の医者とのやりとりから早くも精神の奥底をえぐられるような感覚を覚え、一気に読んでしまった。
    中村さんの小説は心配になるくらい人間の陰鬱を掘り下げていて、それを自分自身、他人事として、ただの小説として客観視できない部分も多くて怖くて苦しくなる。
    今回読後は正直、自分の中にある目を向けたくないことや、気付かないですむことはもう考えないようにしよう、そんなことしない方が絶対楽に幸せに生きていけるよ、と思った。中村さんの本読まないようにしようとさえ思った。
    でもたぶんすぐに読むだろう。

  • 高1 ◯

  • 図書館。久しぶりに著者の作品を読みたくて。
    相変わらず思想がキャラクターの台詞によく出ているところが好きだと思ったけれど、お話自体はちよっとわかりづらく、進めにくかった。

  • 幼いとき、母親に捨てられ狂ってしまった少年。表向きに変わることに成功してまともな生活をしていたが日置事件の生き残りの少女だった女性との関係により元の本性が戻っていく。日置事件の真相を告白するシーンには、恐ろしく感じた。とても美しい容姿を持つ妻、その妻を愛する真面目な夫、ここまで聞くとごく普通のように思えるが、夫のいきすぎた愛のせいで、自分の子は、美人なゆえモテるの妻の不倫相手の子ではないか?と疑い、遠くに行けないよう自転車を壊したり、家中に監視カメラをつけたり、引きこもりになった長男を心配せずむしろ妻を監視できると考えたり、、その生活により家族全員気が狂う様をみた。人間おかしくなるのはすぐで、伝染していく。世に流れる事件も遠いものでないように感じた。

  • 「普通」の人間を装っていた主人公が内面に秘める「異常さ」を徐々に解放していく様子にゾクゾクしていた。日置事件の真相に近づけば近づくほどどんどん壊れていく。紗奈江から真相を聞かされた後、「悪の機会」に気づかされる主人公。
    「一度しかない人生を常に健全に生き続けろと?何のために?」
    しかし完全に壊れて終わるのではなく、最後には社会生活に戻っている。どこか希望を持たされたような気もするし、社会、そして自然災害に対する無力感の前に絶望を突きつけられたような気もする。とりあえず主題がつかみづらかった。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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