残夢の骸 満州国演義9 (満州国演義 9)

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  • 新潮社
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104623105

感想・レビュー・書評

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  • 船戸さんの大作『満州国演義』完結。父方の祖父母は満洲へ渡って引き上げを経験しているので、興味深く読ませていただきました。1巻から図書館利用だけど文庫化されたら買うぞ!
    しかし、『不毛地帯』の主人公のモデルの一人とされる瀬島参謀の書かれ方は少し驚いた。

  • 満州国演義の最終巻。

    本巻の中盤で終戦になり、満州国は消滅するのですが、その後の満州国に残された日本人たち、中国の迷走まで、がっつり描ききられたと思います。
    2007年の第一巻から8年目にして完結し、作者はもちろん自分にもお疲れ様といいたいです。
    途中連載から描き下ろしになったり、1年以上の出版の空白があったりと、やきもきしながら読み続けて良かったです。
    ただ、途中から、国際情勢や戦況や国内情報が同じ解釈で、各兄弟の章に出てくるのはマイナス点でした。
    同じ事実をさまざまな角度でとらえてこそ、当時の情報の曖昧さが浮き彫りに出るのではないかと思い、残念でした。
    それにしても、満州国の歴史は悲惨なので、通史的に読めて、大変勉強になりました。
    後半は物語性がちょっと弱くなってきてましたが、最終章はすごく盛り上がって、感動しました。

  • 柳条湖事件によって始まったアジアの徒花、満州国の歴史がポツダム宣言受諾により消え去るまでを描いた「満州国演義」の最終巻。巻半ばにしてポツダム宣言は受諾され、後半は国民党軍と八路軍、そしてソビエト軍による三つ巴の内戦が描かれる。
    狂気に包まれていたのは軍人だけではない。官僚も民衆も皆が狂気に陥っていた時代。
    敷島4兄弟の数奇な運命を描くことによって、あの戦争に係った人々翻弄された運命を描いた巨編ここに完結。

  •  船戸与一自らの手による「あとがき」の付いた作品なんてまるで記憶にない。しかし、この10年に渡って書き続けられてきた船戸一世一代の大作『満州国演義』の完結編なのだ。日本冒険小説界の誇る巨匠のライフワークの最後に、膨大な量の文献と、長大な作品に対してあまりに謙虚な2頁の「あとがき」が加えられるのは妥当と言えばあまりに妥当のように思える。

     世界中の国の基盤に潜む暗渠のような秘密を探り当てては、大衆読物としての小説という形で常に語り部たる立場を取ってきたこの作家にとっては、もちろん日本とは最も書かれるべき問題に満ちた祖国であるに相違ない。早稲田大学の探検部OBとして、船戸はヨーロッパ経由で国後島のチャチャヌプリに登っている。かつての国境地帯であり現在ロシアの領土内の山、知床岬より70kmほどの距離にありながら、北海道から直接渡るわけにはゆかない島に学術隊という名目で入国したというニュースを聴いたのは、未だソ連邦崩壊崩壊前夜のことである。

     船戸のペンの先は、本書においては、終戦に至る時代・終戦の真実・終戦後の知られざる歴史に向かっている。またそれらの時代の各国の思惑と駆け引きと、日本国が払った代償についても描写は手を緩めることなく貫かれている。近くて遠い北方領土のことをこの書で書いているわけではないが、留萌・釧路を結ぶ線でそれより北は東日本人民社会主義共和国を樹立しようとしていたソ連の思惑については抑留者たちの強制労働や思想教育の日々の中で示している。

     船戸という作家が身をもって踏んだ領土の土と、シベリア抑留の過去を持つ我が父の個人史が小説の中で繋がってゆくのを感じざるを得ないということで、ぼくにとっては苦しくも自分の中に流れる血の温度を感じ取らざるを得ない重要な読書体験といつか知らずなっていた。

     父は函館商業高校を出た後上京し電気通信の専門学校に通っていたことから終戦近くになって通信兵として徴兵され満州に行ったらしい。父から戦争経験の話を聴いたことは一切なく、生前はすべて私の母、父の死後は再婚した義母からしか、父の戦争経験のことは知らされていない。ぼくが生まれた時から父の左手の親指は半分しかなかったのだが、強制労働中の事故でこれがあったから3年後に復員できたのだという。怪我がなければ命まで失っていただろう、と。

     母は東京大空襲を何度も生き延びている。復員した父と生き延びた母は焼け跡の東京で出逢い、ぼくは戦後10年にしてこの日本に生まれた。おそらくぼくと同世代かそれ以上の年齢の日本人の多くが、日本が起こして滅びそうになった戦争の記憶に関しては共有しているばかりではなく、個別の家族史を持っていることだろう。その意味で、この時代のことがこうして親しく読んできた冒険小説作家の手によって記述され、それを改めて生きた空気や風、温度や心の震えなどを伴った小説という最も抒情的でありながら、最も震撼に値するリアリズムを含んだ形で提供された意義は巨きい。

     思えば、亡き父のことがあるからか、どこかでこの戦争に関してはぼくは労を惜しまず読もうとしてきた方だと思う。五味川純平の大作『戦争と人間』、阿川弘之『暗い波濤』『雲の墓標』、早乙女勝元『東京大空襲』、加賀乙彦『帰らざる夏』『錨のない船』、大岡昇平『野火』『レイテ戦記』等々。いずれも忘れ難い作品だが、そこに最も新しく船戸の世界が加わった。いつになろうと、戦争がどれだけ時間の向こうに遠ざかろうと、作品は、呼吸をするものとして、熱い血の流れるものとして、慟哭する涙の溢れるものとしての、傷ついた人間と失われたすべてのものたちのために書き継がれねばならない。

     『満州国演義』は船戸の書いた作品であるから、基本的には娯楽作品である。満州の四季の美しさや大きな大陸的舞台のなかで、勇猛な男たちや、たくましい女たちの生きざまがドラマティックに展開する冒険小説である。その舞台は歴史という素材であるが、歴史とは吐かれた嘘の集積で成り立っており、そのなかに詩と真実を求めることこそがおそらく船戸の宿命であると作者は感じていると思う。できるだけ多くの人に読まれるかたちとしての小説。その見本のような作品として、我々日本人に最も近しい共通のテーマ、満州事変から太平洋戦争までを背景として供されたのが本書である。

     戦争が滅びに近づくにつれ、初期にはまだ見られていた牧歌的なものがなくなってゆくという印象を船戸は「あとがき」で書いている。小説自体からもその牧歌性が消えていかざるを得ない真実の重みこそが、船戸を心底、歯痒くさせ、また語るべきという自らの宿命を強めた要素に他なるまい。父や母が提供してくれた血の記憶に重ねるべき大作として、ぼくは本書の最終行を眼にも心にも焼きつけようと思う。

  • 張作霖爆殺事件で幕を開けたシリーズが、10年の歳月を経て完結した。1巻、2巻の発売を記念して著者が『週刊ブックレビュー』に出演したのを覚えている。最後というより最期は予想に違わずあまりに著者らしく、複雑な読了感が募る。この巻では抒情的な描写が薄れ、史実に沿った歴史小説風となった。『不毛地帯』で壱岐正のモデルになった瀬島龍三がきわどい立場で紹介される。瀬島とともに抑留された志位正二が登場するが、彼を是非小説にしてもらいたい。志位和夫共産党委員長の伯父にあたるんだ。富永恭次も実在したようだが、あまりにひどい。

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