キャンセルされた街の案内

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 463
感想 : 95
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104628056

感想・レビュー・書評

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  • 吉田修一による街をテーマにした短編集。表紙の装丁には架空の街の地図が描かれ、エアメールのようなカバーもかわいらしい。東京、大阪、ソウル、長崎の軍艦島と、それぞれの街を舞台にしているが、あくまでも舞台としてそこにあり、その土地に関わり暮らしている人々の日常は千差万別である。

    吉田小説を無条件に愛す、と決めて以来、どんな内容でも賞賛する心構えができている。だからこの短編集も無条件に素敵だなと思う。ただ、各作品の読み方についてはその時々の自分の状況や彼の過去作が影響してくるのは仕方がないと割り切っている。個人的には、悪人の描き方、というのが最近の吉田修一の作品に対する注目点となっている。

    決して悪人が多く登場する本ではないのだけど、『灯台』という短編の悪事が心に残る。飲み潰れ、金がないままにタクシーに無賃乗車するという話が、すごく身につまされるような気がした。

    【部屋に戻ったところで金などなかった。布団に潜り込むと、耳を塞いで目を閉じた。すぐそこで待っている運転手に、心の中で何度も何度も謝った。本当に気分が悪かった。胃はムカムカして、目が回った。大勢に囲まれて、蹴られているような気分だった。二千数百円という金額が、はした金にも、もう取り返しのつかない大金にも思えた。】

    表題作の『キャンセルされた街の案内』は軍艦島の周辺に住む少年の話である。当地のガイドとして小遣いを稼いだ青年の今と昔の記憶を描いている。軍艦島というのは、歴史的背景からしても観光的にも人気のある、いわゆるキャッチーな土地、と言える場所である。そこに関わる人物にももちろんドラマがあり、そこをテーマに小説を書くというのが吉田修一の着眼点の良さだと思う。ただ、島はあくまでも舞台であり、そこに関わる人の描き方にこそ、この小説の良さがある。

    取り立ててコレ! という主題がないような短編が並ぶ。結末もなんとなく、日々の延長のように終わる。そこが物足りないという人には物足りないのかもしれない。ただ、こんな過去があり、こんな現在があり、こんな人が生きているんです、と、そんな市井の人を鮮やかに描ける筆致はさすがだと思う。

  • 街を題材にした短編集。盛り上がりはないものの人物描写が素晴らしいと感じた。

  • 読みやすいけどあまり残らない…断片的すぎる。新米社員くんが気になる先輩OLのお話と、午前二時に隣人男性が忍び込んでくるお話くらいしか記憶にないです。

    シングルマザーと怠惰な日々を過ごす青年が、その連れ子のお守りを惰性で続けるお話もなんだか暗かったなぁ。表題作も然り。

  • 短編集。

    たくさんいる人たちの、それぞれの生活を、過剰に色づけたりすることなく、短編のサイズに切りだして、そのまま「はいどうぞ」と出してきたような、ただただ共感したり、あるあると思ったりする、ただそれだけの。

    ただ、近くでよく見てみると、写真だと思っていたものが、細かい鉛筆の線で描かれていたものだと気づいて驚いたり、感動したりする。そういうものをちりばめて、それでもなお、「はいどうぞ」と、軽く投げてよこすような、そういう短編集だと思う。

  • 短編集。収録作品のなかで古いほうがわたし好み。1998年の表題作と最初に掲載されている2003年の「日々の春」が良かった。
    同じ作家の短編集の場合、えてしてテーマが違ってもテイストが同じ
    場合が多いのだが、彼の作品はそれぞれ味わいが違う。どんなに短い作品でもあなどれない雰囲気がある。文の力だろう。そこがいい。

  • 表題含んだ10編からの短編集。最初の「日々の春」を読み始めたときは、これこれって、ぞくぞくしたけれどそのあとは「大阪ほのか」以外正直物足りなかった。「日々の春」は、年上の今井さんと年下の立野くんの微妙な関係、やりとりが、絶妙に描かれていて、二人の気持ちの動きがとってもよく見えた。まるで二人のそばにいるように感じるくらい。

  • 短篇集はいろいろな味わいが楽しめるけれど、あっさり終わってしまう。その分どことなく素の吉田修一が感じられるように思う。自分としてはそれがうれしい。読み終わって鮮烈に残るわけではないけれど、読んでいる時間が至福の時です。この人にしか書けない表現がいきなり出てきてぐっとくる。好きだなぁ吉田修一。この本では表題作「キャンセルされた街の案内」が一番すき。現実の世界と作品内で主人公が書いている小説の話と思い出す子供の頃の話、軍艦島の話の交差する感じがすごくいい。自分が子供の頃に漠然と抱いていた不安な切ないような気持ちが思い起こされたりもした。なんでだか理由もなくいいな。やっぱファンなんだろうと思う。心に響く文章がいくつもあった。そのうちの1つ。         ※誰かをゆっくりと好きになれるのだろうか。誰かを好きになったことを ゆっくりと認めることはできるかもしれない。でも、ゆっくりと誰かを好きになることはやはり不可能なような気がする。         

  • f.②2023/7/3
    f.①2018/3/30
    p.2009/9/1

  • 短編集
    読みやすい
    やや物足りなさを感じるが、のんびりとした時間を過ごす時に良い
    平成のスタイリッシュだった今では懐かしい恋愛感が味わえる

  • 短編集・凝った装丁~僕がクラス東京のワンルームに長崎でぼんやり過ごしている兄が来た。僕は勤めの傍らで小説を書いているのだが、長崎にいる頃は端島に渡る船の主に軍艦島のガイドをやるように勧められていたのだ~表題作のあらすじを書こうとしたが、ぱっとしない内容だなぁ。ほかは短くて、どこかですれ違った二人が違う思いを抱えていたって話が多かったような気がする

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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