遮断

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 99
感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104629022

感想・レビュー・書評

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  • 終戦間近の沖縄戦における出来事を記載している。アメリカ軍の捕虜になったほうが生きていける、友軍と出会ったが最後、脱走兵として処刑される、そういった現在からは想像もできないような異常世界で発生した、敵占拠地に生きているはずのない4か月の娘を探しにいくというある意味逃避行について描いた物語。なぜか途中で同行(というか拉致というか連行)した傷病将校とともに娘を置いてきたという洞窟を目指し、敵軍に踏み込んでいく姿を描いている。
    終戦間近というだけで上下関係や軍/一般市民の垣根も希薄となり、どれだけ強い気持ちや立場を維持していることができているのかが生存を勝ち取っていく状況で、それでもあるいはだからこそその信じ込んだ世界を達成させようという人間の性あるいは業のようなものが丁寧に描かれている良作。

  • とあるブロガーさんが勧めていた作家さんで、初めて読みました。第二次世界大戦の沖縄での出来事。
    戦にかり出された沖縄人が、同僚を撃ってそこから逃げ出し、成り行きでその同僚の奥さんとともに、その子どもを探しに行く。子供はどう考えても死んだとしか思えないのだけど、奥さんは生きてると信じて、別れ別れになった場所を目指す。
    好みの文体ではなかったので、途中やめようかと思ったけど、じわじわと凄みを感じてきて、最後まで読んじゃいました。

  • 第二次世界大戦時沖縄でのある男の生き様を描いた小説。主人公は敗戦濃厚な状況で首里にもベングんが迫ってきたような状況化、陸軍に徴用されながらその先頭のさなかに逃げだしてします。なぜ戦う乃かという明確な目的が腹に落ちない中若い主人公は仲間を撃ってまで戦闘の場を離れる。だがその直後に爆撃の中逃げ惑い、その最中に自分の幼子を壕のなかに置いてきてしまい仲間の妻に出会うところから彼の人生は大きくまた転換する。その後のけがをした少尉との出会い、その少尉の目的と自分たちの無益かもと思いながらの戦地での行動、そして生き残った彼の死病にかかり余命ない中での心境が描かれるまでのかれの孤独が鮮やかに描かれている。明るい話ではないのでおすすめはできないが、知っておいていい話かも。

  • なんか骨太だった。甘っちょろいものもいいけど、こういうかったかたなのもいい。はっとする。

  • 老人ホームに暮らす死を間近にした主人公は、一通の手紙を読みながら沖縄戦へと記憶を遡らせる。防衛隊から逃亡した当時19才の真一は、防空壕へ子を残してきたという幼馴染のチヨと、途中で銃を向けてきた負傷した少尉と共に戦線を逆行する。それぞれの想いを胸に…。
    かすかな希望にすがりつくような気持ちで読み進めたけど、何ともいえぬ読後感。「もし生き残ってしまえば、おそらく一生苦しまねばならない」戦闘中に感じたこの思いが消えることのなかった生涯。死ぬことの重さ。生き続けることの重さ。確かな読み応えがあった。

  •  『接近』に続き古処誠二が描く沖縄戦。
     昭和20年、米軍による攻撃が熾烈を極める中、19歳の青年・真市は幼なじみであるチヨの赤ん坊を連れ戻すため砲弾の中を北上する。無論、戦火の中で置き去りにされた赤ん坊が生きているとは思えず、それは自殺行為に等しいものだったが―。

     前作『接近』では少年を主人公に据えることで子供の視点から沖縄戦を描き、その不条理さを浮き彫りにした古処だが、今回は冷徹なまでに突き放した視点で、戦争の惨状を描き出す。そこには心の余裕など入る余地もなく、理屈と感情が、人間と人間が遮断されていく。
     前作と比べると文章が非常に洗練された印象がある。感情的な側面は逆に押し殺されているようである。安易な悲劇に仕立てて空疎な感動を煽ることをせず、ただ虚脱感が充満した沖縄の苦痛を提示するだけだ。

     ストーリーの合間合間にある手紙の文章が挿入される。その手紙の主が誰なのかが解ったとき、読者は言いようのない感情に神経をえぐられるだろう。
    <この世は生きているだけで苦痛だった。にもかかわらず死を回避しようと踠(もが)くのは馬鹿げていた。 … もうこの世はごめんだった>(本文より)
     救いようのない世界で、自分の行動の意味に悩みながらもとりあえず現在を生き延びるために赤ん坊を探す青年。
     凄惨な戦場では、自分と世界を遮断してしまう事が生き抜くために必要であり、<強い絆とは強い束縛>(本文より)だった。

     この小説では全編にわたり雨が降っている。あまりにも多く流れすぎた住民の血を洗い流そうとしているかのようだ。梅雨の時期、戦争は佳境を迎えていた。たくさんの人が死んでいた。
     毎年6月23日、「慰霊の日」の前後に沖縄では梅雨があける。沖縄県民は晴れ上がって夏の日ざしが差し始めた空を見上げる度に、あの戦争の記憶を呼び起こしている。

  • <沖縄戦>
    古処作品の装丁とタイトルのセンスはすごいと思います。
    読後、確かに遮断だ…。というまた呆然とした気持ち、逆に、では、繋がるということはどういうことなのか、考えてしまいます。
    極限の戦場の中で、実際におかれた人たちが捨てたもの、捨てられなかったもの、その後大きな穴になったもの。今を生きる我々は「共感」を許されないもののように思います。

  • 悲しいなあ。読んだあとの感想を一言で言えば悲しい、それだけだ。作者は1970年生まれという事で戦争など全く知らない世代、でも元自衛官という事だから、軍隊というものは判っているのかも知れない。沖縄戦は日本で唯一の戦場でありその後も戦争の傷跡を今に引きずっている。米兵の少女レイプ事件といい、島民の自決が日本軍の指示か否かが今争われたりとか、過去を知る人がだんだんと亡くなってきている今歴史は真実を霞にかけて都合よく解釈されようとしている気がする。もうだいぶ以前旅行で行った沖縄で戦場跡をめぐるバスツアーに乗ったことがある。もう25年以上前のことだ。そのとき島民が隠れ軍が利用したという壕にも行った。本来暗い穴の中には観光用に電気がついて綺麗になっていたが、それでも独特の臭いと何か息苦しい怖さを感じた。実際案内してくれた人は戦争を体験した人でまだ子供だったといっていた。怖かった。こんな穴倉で、迫る米軍に脅えていたのかと怖かった。でも、米軍だけではなかった。物語は年老いて死を目前にした真市に届いた手紙と過去の出来事が交互に出来事で綴られる。民間人でありながら軍に徴用された19歳の真市は脱走兵となるが、居場所はなく最前線となった村に取り残された赤ん坊を探しにその母親で幼なじみの千代と戻ることになる。途中であった負傷した日本軍の少尉と3人砲撃にさらされながら故郷の村を目指すうち少しづつ明らかになる真実。途中に挟まれる手紙の文章、その手紙を書いたのが誰なのか、充分にミステリー的な要素もありながら戦争の過酷さ悲惨さ、そして愚かしさが明らかになっていく。日本を守るために軍が創設され、その軍を守るために沖縄人はいる。無様な下士官の下で無意味に動き回る自分たちも無様で、島民を追い出した壕で一夜の宿を得たことを喜ぶのはさらに無様。「無様」という言葉が重い。誰もが敗北を感じていながらそれでもあるものは沖縄人を犠牲にし、あるものは苦痛を伴わない死を望み、あるものは米軍の勝利の日まで逃げ切ることを選ぶ。そのどれもが何者かの犠牲の上にありどれもが無様であり恥じである。でもどんな選択肢があるというのか。<無様な戦いだった。><根こそぎ動員とは、未来から借金して戦いというバクチに臨むことだった。>未来から前倒しで借りたのは人だけではない。畑も林もそれら全てが破壊され消えていった。道徳や感情を遮断して生き残ったとき、消し去る事の出来ないものが残った。それが伝わってきてこんなに悲しいのだろう。

  • 「プロ」と「素人」。「親」と「独り身」。
    「誰かのプライド」と「自分の現実」。
    解り合えないし解りたくもない。
    無意味で悲惨なできごとは、何と何を断絶させるのだろう。
    最後の四行が至極当然の考えに思えた。

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著者プロフィール

1970年福岡県生まれ。2000年4月『UNKNOWN』でメフィスト賞でデビュー。2010年、第3回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」受賞。17年『いくさの底』で第71回「毎日出版文化賞」、翌年同作で第71回「日本推理作家協会賞(長編部門)」を受賞。著書に『ルール』『七月七日』『中尉』『生き残り』などがある。

「2020年 『いくさの底』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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