海の仙人

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (154ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104669011

感想・レビュー・書評

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  • 絲山作品は,男女の関係を描いたものが多いが,「孤独」というものを絶妙なタッチで描いている。
    愛におぼれるでもなく、孤独にひた走るのでもない。
    すぐそこに人肌の温度が感じられるからこそ、孤独が輪郭を表すのだ。

    登場人物はみな,「人間は孤独である」ということを真っ向に捉えている。
    孤独というものはそういうものだ。
    彼らはその孤独を紛らわそうとはしていない。
    他者のことを考えているようで,結局は自分の孤独について考えている。
    それぞれお互いの目を見ているようで,
    その視線は相手の目を透き通り、
    自分の内面を見つめている。

    敦賀の誰もいない海岸で,
    みんなが思い思いの方向を,
    遠い目で見ながら,
    その視線は交わらない。
    そんな情景が思い浮かぶ。
     ファンタジーが,「孤独というのは人間の心の輪郭」のようなことを言っていたのが印象的だった。自分の中で,絲山作品ベスト1。
     自分が本当にそう思っていないことを、幸か不幸か、書けてしまう作家はいる。
    しかし、絲山さんのブログを拝見していると、やはりこの作品は彼女にしか書けないのだと思う。

  • 敦賀で暮らす河野は超然とした仙人のような男だ。
    銀座のデパートで働いていた数年前に宝くじで三億円を当てて仕事をやめたあと、敦賀で空き家を買い取って暮らし始めた。そんな彼に興味を持ったのか、「ファンタジー」が訪れた(ファンタジーは神様のような存在のおじさん)。

    河野は女と出会って恋人になったが、セックスができない。幼いころ姉から受けた性的虐待の記憶が彼を縛りつけていた。
    デパート時代の同僚も彼に想いを寄せているが、彼はそれに応えない。

    恋人は癌で亡くなり、河野は雷に打たれて失明する。
    「ファンタジー」はなんだかそれっぽいことを言い、河野のところにデパート時代の同僚がやってくる。

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    素晴らしい小説だった。登場人物たちと「ファンタジー」の掛け合いがとてもよかった。
    幸せとは過去を共有することなのかと「ファンタジー」が聞くと、河野に想いを寄せる片桐は、ありのままを満足することだと答える。
    淡々と進む会話と、いつのまにか進んでいく月日の流れは読んでいて心地よかった。

    恋人が亡くなり、河野も失明し、片桐が敦賀にやってくるラストがハッピーエンドなのかバッドエンドだったのかはわからない。河野と片桐の関係が友人から発展するのかもわからない。「ファンタジー」が何だったのかはもちろんわからない。
    ただ、心地よい読了感だけが残って、いい本を読んだなと思った。

  • むわー。泣いた。

  • 『沖で待つ』『袋小路の男』を読んだときにも感じたのだけれど、絲山作品の登場人物を見ていると【存在というものの本質的な孤独】を強く意識させられる。と言っても、これは必ずしも否定的な意味ではないのだけれど…要するに全員が個として実に明確な輪郭を持って潔く存在しており、それぞれが孤高の存在として強い光を放っている。【個の本質的な独立性】とでも言おうか、そういうものを感じるのだ。

    登場人物は、ときにはその「本質的孤高」とでも呼べそうなものを半自覚的に玩ぶ余裕を見せ、またときにはそれに制御できない苦しみを覚えて懊悩する。そしてそんな営みを繰り返しながら、互いに向かって手を延べ合う。独立した小宇宙どうしがダイナミックに引き合い、反発し合い、交錯しながら関係を紡いでゆく。

    このようなひととひととの関係性こそが、絲山作品の機軸となっているように思われる。

    人間の本質的な孤独が決して癒され得ないものだとしても、せめてそれをささやかに、美しく彩って眺め遣るぐらいのことはしてみてもいい。大切な人と一緒にであれば、それができるのだと思う。とどのつまりひとの関係というものは、こういう孤独を持ち寄り(共有するのではなく、あくまで「持ち寄る」だけだ)、笑い飛ばし合って束の間の安息を得るためのもの…これに尽きるんじゃないのかなぁ(まぁ、これはどちらかというと絲山作品を離れて、私の価値観の話になってしまうのだけれど)。

    静謐の中に激情、諦念、希望…あらゆる情念を予感させるラストシーンが素晴らしい。【ガープの世界】を彷彿とさせられた。

  • 好きな絲山作品にまた出会う///

  • 一気に読了。全体的にこの小説に流れている空気がとても好きです。突然出会った恋人、主人公の生い立ち、取り巻く人物、流れていく時間。本ってこういう流れに不意に乗れるから好きなんだなと思わせてくれた作品でした。ファンタジーの存在は最後までわからなかったけど、深読みもしようかと思ったけど、ファンタジーはファンタジーかな

  • 砂が敷き詰められた部屋。変な神様。
    目を閉じると情景を想像したくなる。切なくて素敵なお話。

  • 【メモ】ファンタジーは孤独の話し相手・敦賀・宝くじで仙人のような暮らし・好きなのに一緒に暮らさない・眠りと死は絶対独り・チェロ

  • やはりこの作家さんの文章の紡ぎ方がすごく好きでした。
    片桐の気持ちがなんかわかってちょっと切なかった。ファンタジーの飄々としたかんじも好きでした。あたしもファンタジーに会いたい。
    それにしても主人公の住んでいた砂の床、やってみたい!羨ましすぎる。

  • 神様ってきっとこういうかんじなんだな、だったらいいなと思う。
    きらきらした海に入りたくなる。

著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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