- Amazon.co.jp ・本 (152ページ)
- / ISBN・EAN: 9784104695010
感想・レビュー・書評
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初・鹿島田作品
独特の文章で、内容が曖昧模糊としているので賛否両論あると思いますが、
私は魅了され、この作品をきっかけに彼女のファンになりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
もう、何と説明すればいいのかわかりません。そういうたぐいの小説です――と、お茶を濁すほかありません。
誤解を恐れずあらすじを述べると、ある事件をめぐる、ひとつの家庭(と恋人)の物語です。
町で起こった、四姉妹事件。地域新聞に載る事件の記事から、事件を想像し、演じる女と男。自らの子どもたちの「関係」を疑う婦人。そして、婚約者。登場人物たちの会話と独白からのみ語られる四姉妹事件が、少しづつ妄想と絡み合って、いつの間にか、彼女たちの家庭といびつに重なり合っていきます。
この作品の特徴としてはまず、「意識の流れ」といわれる文学的手法が採用されています。人間の思考を無秩序に、当に「流れ」るままに描写するやり方で、有名なところでは、ジェイムズ・ジョイスやヴァージニア・ウルフ、ウィリアム・フォークナーといった作家が使った手法です。
この作品は性質上、この「意識の流れ」によって物語られる婦人、または女の独白と、地の文を挟みつつ交わされる会話によって構成されています。
また、登場人物たちには、基本的に名前が与えられていません。それは「女」であり「男」であり「婦人」であり「婚約者」であり「女医」であり、登場人物たちにはそういった記号的な呼称しか与えられず、誰でもない(代替可能な)存在としてしか、彼女らは描かれていません。
また、文中の会話に、(独白部分と話中の科白を除いて)「」と改行がなく、それらは――のみで、辛うじて区別されています。例えばこんなふうに
――ママ、そのテレビおもしろいの?――おもしろいっていうか、猫はかわいいわねえ――大事な話があるのよ――ニュース速報が入ったわ――大事なニュースよ――南部で大きな地震ですって――プロポーズされたの――血統書つきかしら――ええ。社長の息子ですもの、外食産業の。主にパスタ料理なんだけど――これが回虫なのね――けっこうおいしいのよ――どうやって殺すのかしら――アルデンテよ。熱湯に放りこんで掻き回すやつのこと――なるほどねえ――その早さが売りなのよ。
ママは猫が虫くだしを飲めば、回虫が死ぬことを知り、やっとこちらを向いた――あんたはその血統書つきのアルデンテと結婚したいの?
引用したのは、「女」と「婦人」の会話ですが、これに、さらに他の話者や地の文が混ざり合い、話題も交錯すれば、この科白は誰のものか、今、何を話しているのか、言葉からも固有性が剥奪され、曖昧になっていくのです。
同等に書かれる妄想と現実、記号的な登場人物、固有性を剥奪された文章――それらが渾然一体となっており、作品は茫漠とした印象を与えますが、複雑な構成と優美な筆致で、物語と読者を繋ぎ止めます。
最後に忘れてならないのが、これが女性の物語だということです。
閉経した母親と、生理で汚れたパンツを自分で洗おうともしない娘。夫を亡くした「婦人」と、今から結婚をしようとする「女」。
家庭という劇場で、抽象化された母親と娘の、また一人一人の女性の物語が、対比されつつひとつのリアリティをもって描出されています。
――殺したのは誰で、殺されたのは誰か?
この作品は、第17回三島由紀夫賞の候補に選ばれ、次の第18回で、鹿島田真希は『六〇〇〇度の愛』で三島賞を受賞しました。
ちなみに表紙の絵は、ベルギーの画家、ルネ・マグリットの作品『恋人達』です。
(ウィークリィ洋子) -
野々市図書館でブラウジングより。
なかなか好感触。恩田陸のようなねっとりした内容なのに、どことなく大理石みたいなさらっとした文体である。文章の盛り上げ方が、言葉の連想をつらねて操っていくような感じで、わたしの書き方とすこしにている。
他作も読みたいと思わせる作家である。 -
駄目だ…この人のは本質的に合わない…感覚としては、お芝居を見てるような気になった。
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最後まで読むことは出来たんですが、最後までもう一度読み返さないと誰が誰でどうなっのか解らなくなりました。とはいってもう一度読み直す気にもなれず。幻想ものなのでしょうか、ミステリーなのでしょうかこの作品。図書館の新刊コーナーにあり、つい手にとって読み出したが自分には合わなかったみたい。最後の1ページでほっとしたのですが、話が終わってほっとしたのか、事件が解決してほっとしたのか曖昧でした。
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作者の本を読むのは初めてなのだけれど、結構楽しめた。表紙のルネ・マグリットと作品の内容の雰囲気がかみ合っているところもよかった。物語は、重層的、変奏的に語られる。エピソードの反復と、微細なズラし、拡張によって、物語はゆるやかに終焉に向かっていく。バナナやソーセージのわかりやすい?比喩はどうかと思うが、ゆるゆるして、解釈の余地がたぶんに持たされていて、なにもはっきりとはさせないのが、脳をゆすられる感じでここちよかった。
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紅茶色の件(くだり)に、まんまとやられた。
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高校の時に読んだ本。
内容はほとんど覚えてないケド・・・優美で残酷な異色な物語。 -
2008.03.16. いろんな意味で印象的な本。登場人物の名前が一切出てこない。ねっとりと続く会話(要領を得ない感じがまた苛つく)に、明瞭としていたはずの人間関係がどんどん抽象的になってくる。町の「地域新聞」というものが気になる。そこに載った四姉妹殺人事件というのは、なんだったんだろう。妄想?現実?どんどん曖昧になる。娘の血で汚したパンツ(自分で洗わない)が、1番印象的だった。ああ、気持ち悪い。
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あの人が私を殺す。家族だからという理由で―。27歳、文学の鬼才、優美で
残酷な異色作。三島由紀夫賞候補作。