旬の味、だしの味

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104724017

作品紹介・あらすじ

この人にこそ、日本料理のすべてを聞きたい。旬の出合いもの、味の含ませかた。そして、一品に宿る豊かな知恵と技。名人が伝える、日本料理の真髄。

感想・レビュー・書評

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  • ・それは(手を抜く事)、とるに足らないような料理にも表れるからこわい。たとえば、一寸豆。そら豆の皮をむき、包丁目を入れ、湯がいて、水でさらし、おだしを含ませながらじっくり炊く。でも、それを湯がかないで直炊きにすると、まったくおいしさが違う。おなじ湯がくのでも、火を通しすぎるとだめ、湯がき足りないと、まただめ。つまり、なんということのない当たり前の作業のなかに、決しておろそかにできない大切なことがたくさん含まれているのです。
    頭がやわらかいことも大事です。なんでも受け容れて咀嚼し、さらに表現するだけのものが自分のなかになければならない。そういうことが、哀しい哉ようやくこの頃わかってきた(笑)。ああ、もっと勉強しておくのだった、と。普通だったら歯牙にもかけない、「なんだあんなもの」というものでも、いったん覗いてみないとだめですね。・・
    「料理屋の料理は、家庭料理から半歩出よ。」そうおっしゃった先達の言葉が強く心に残っています。二歩も三歩も出てしまうからだんだん悪くなっていくんだ、と。もちろん驚かせる料理、決して真似のできない料理も必要でしょうけれど、家庭料理の延長線上にあって、やろうと思えばできる料理、そういうものをきちんと大切にすることも必要です。
    ですから、聞かれれば嘘も隠しもしない。なんでもお教えします。職人さんに聞かれても、教えちゃう。出来上がったものが自分で納得できなければ、その方はさらに工夫なさってもうひとつ先へ進むかもしれない。そうしたら、私はまた勉強させていただけるのですもの。

    料理人のエッセイっていいなあ。毎日工夫と努力をこらして料理を作る。自分の体調や精神と向き合って整える必要があり、毎日アウトプットがあるから、インプット・内省・アウトプットが日頃から良いバランスなのかも知れない。
    「料理人が仕入れからすべてひとりで手掛けられるようになるには、最低十五年はかかりますね。長いと思われるかも知れませんが、ひとつの季節をわずか十五回しか経験できないのですよ。そのうえ鮪一つ取っても、ボストンもあればイタリアも、アフリカも、世界中どこからでも集まってきている。それらを識別して仕入れを采配するには、もう自分の経験しかありません。」
    とか読むと、そう、建築家のエッセイとも違う、移ろいをとらえて切ないような気にさえなる。

  •  最近はいつでもどこでもどこからでも読めるので、料理やお菓子に関する本をよく読む。
     この本を読めば、やっぱり美味しそうで手間のかかるものはやっぱり高いんだなあと実感します。
     京都の「つる家」で修業をしていただけあって、出てくるエピソードの一つ一つが驚嘆の域に達している。読みながらどうして料亭のランチやお弁当が高いのか納得しました。
     逆を言えば美味しい物っていうのは手間をかけないと出来ないんだということなんでしょうけれど。
     中華と和食以外は、基本的に素材の値段かお酒の値段で大体の価値が決まります。これだけ「人件費」を食に盛り込むのはこの二つしかあるまいよ・・・。
     お料理とかの本は中のカラーページが素敵なので、ハードでも躊躇いなく買ってしまいます。
     今田美奈子さんの本も素敵だし、村上信夫さんの本も面白い。平野レミさんとか、いわゆる料理研究家の家庭料理のような系統の本よりは、本格的にそれだけしか学んでませんって人の本の方が私は好きだなあ。

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著者プロフィール

平松洋子=1958年、倉敷生まれ。東京女子大学卒業。エッセイスト。食文化、暮らし、本のことをテーマに執筆をしている。『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞受賞。著書に『夜中にジャムを煮る』『平松洋子の台所』『食べる私』『忘れない味』『下着の捨どき』など。

「2021年 『東海林さだおアンソロジー 人間は哀れである』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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