はい、泳げません

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 141
レビュー : 36
  • Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104738021

感想・レビュー・書評

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  •  事実を身も蓋もないくらい客観的に、透徹した視線で描き出す著者のルポルタージュ。そして本作での取材対象は「泳げない自分」です。

     水が怖く、泳げない著者が、ゼロから水泳を習い、上達していく様子がつぶさに記録されています。
     そして、そのとき泳げない人(著者)がどんな気持ちでいるのか、その人が泳ぎのヒントを得たときにどんなことを感じ、考えていたのかが丁寧に記述されています。

     水泳の教本は世に溢れかえっていますが、泳げない人目線から、その心理に寄り添って書かれた本書のような本は希有なんじゃないかと思います。
     ちなみに、うちの母もここ数年水泳にハマって毎日泳ぎに行ってますが、本書を渡したところ、どハマりし、水泳仲間に貸した挙げ句借りパクされました…orz 歳行ってから水泳を始めた母に、共感を覚えるところ大だったのでしょう。

     本書では、桂コーチがめんどくさい生徒(失礼!)である著者を根気よく指導しているのですが、その言葉の一つ一つが「さすがプロだなぁ」と思わされるものばかりです。
     泳ぐときは「力を抜け」とよく言いますが、漠然と力を抜けと言われても難しいんですよね。そこで、「泳ごうとせずに、ただ伸びようとして下さい」など、少し考え方を変えるようなアドバイスがなされます。
     私は合気道を少しやっているのですが、そこでも「力を抜け」と言われます。が、これがなかなか難しいんです。
     しかし、「掴まれている腕のことは放っといて、向こうにいる彼の肩を叩いて振り返らせようとして」と言われると、思いっきり腕を握られているのに難なく動いたりするのです。スポーツでも武道でも、根底にある身体操作のコツは一緒なのかな、と読んでいて感じました。
     おそらく、力を抜くためには意識を向けないということが重要な要素なんでしょうね。ただ、そこで自分に対し否定形の命令をしてしまうと途端にできなくなります。どこかで読んだんですが、人間の深層意識は否定形を理解できないそうです。論理構造で言っても、否定形というのは一度ないものを現出させてそれに×をつけることであり、ないものを一度意識せざるをえません。つまり、「力を抜こう」と思ったら、まず抜くための力を意識しなければならないわけです。ガッチガチに力が入っている状態であれば、それもある程度有効でしょうが、無駄な力を完全に抜こうと思うと、「力を抜く」というアプローチは、かえってドツボにハマる危険性も有しているわけです。
     だから、否定形の命令ではなく、別の動作を目的とする肯定的な動作で考えた方が、余計な力を抜くのには良いのかな…と本書を読みながらつらつら考えました。

     あと、個人的に面白かったのが、著者が泳ぎの感覚を掴んだときに、その場で立ってしまうことです。
     桂コーチは「せっかくできているのに、それを崩して立ってしまうのはもったいない」と考えていますが、おそらく桂コーチは感覚的に物事を捉えるタイプの人なんだと思います(私もそうです)。だから、泳ぎながら感じたことをそのままキープしようとします。
     これに対して著者は、おそらく物事を理解しようとするタイプです。だから、今自分が掴んだ感覚もすぐ「理解」しようとし、落ち着いて「考え」「反芻する」ために立ち上がってしまうんだと思います。
     この二人の感覚の違いというのは、多分頭では理解できても、腑に落ちてわかることはないんじゃないかなぁ、と思います。著者の物事の捉え方がそうだとしても、私もやっぱり腑に落ちないものを感じますから。

     色々ゴチャゴチャ書きましたが、難しいことは抜きにして読んでみて下さい。読んでる内にとにかく泳ぎたくなってくる一冊です。

  • 水泳人なら,絶対に読んで欲しい一冊.水泳人ではなくても体育人でヒトに運動を教える立場のヒトなら,「なぜ,動きの指導がうまく伝わらないのか?」が,カナヅチの著者の目線で理解できる.著者にはお会いしたことがないが,こういう生徒に教えるときっと指導力がアップすると思える.

  • 久しぶりにこの人の本、やはり面白い。ついついうなずいてしまう。
    二年間のスイミングレッスンで泳げるようになる話、いちいち理屈っぽいツッコミをしながら試行錯誤を繰り返して進む様に大いに共感。

  • オリンピックもたけなわというので、スポーツに関連する本ばかりを集めたコーナーにありました。
    確かに水泳の本らしいけど、泳げませんって・・・

    しかし私はビビっときました。
    実は私もちょうど水泳を習っていて、クロールの息継ぎで躓いているんですよね。
    「まあ、私は泳げないこともないんだよね~」なんて自分に言って借りました。
    作者は何を思われたのか40歳くらいの時に、泳ぎたいと思って、プールに行かれましたが、その時は水が怖い、という状況、本当に一からの水泳ですね。
    まず、プールというものの認識からです。
    他人にしぶきをかけておいて挨拶もなしにさっさと行ってしまう人、水が怖いのでもたもたしていると、さも邪魔だとばかりに後ろから煽ってくる人、
    そんな無礼な人たちに心でぶつぶつ言いながらプールとは純粋に泳ぐところ、必要以上に他人とかかわる必要はないと教わります。
    さていよいよコーチについて泳ぐ練習、このコーチ女の人ですが厳しいです。
    息が苦しいといえば、あなたはここに息をしに来ているのですか、泳ぎに来ているのでしょう、とわかったようなわからないような・・・
    その教え方もユニークなものが多く、今までスクールに通っていて(私が)、聞いたことのないやり方や、ふんふんなるほど、となんとなく言われていることがわかることもあります。
    すると、今すぐそのやり方を試してみたい、できるような気がする、プールで泳いでみたい、家にプールが欲しい!と思いました。
    高橋さんも、試行錯誤を繰り返し、だんだん泳げるようになっていくのです。
    これは立派な水泳のハウツー本です。
    プールで習ったことを帰ってから思い起こし細かく記録した、立派なルポです。
    今度のスクールに持っていって、プールサイドに置いときたいくらいです。
    あっ、それはまずいですよね、私にもコーチがおられました。

  • どくどくの世界観にはまった。面白い。泳げる人も泳げない人も泳ぐとは何かという哲学にも似ているこの本を読むことをお勧めします。

  • 40歳を向え、心機一転カナヅチを克服するためにスポーツジムの水泳教室に通った2年間の奮闘記。

    「どう泳ぐか」などが書かれた本は数あれど、泳げない人が泳ぎながらも何を考え、水中で何を見ているかなど何気ないことが書かれていて目の付け所がニクい。
    通勤途中で読んでいると、文中に出てくる「腕の回し方」などをついマネしていまいそうになってしまうから気をつけないと。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。1961年、横浜市生まれ。東京外国語大学モンゴル語学科卒。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家に。開成高校野球部の奮闘を描いた近著『弱くても勝てます』がベストセラーに。
『ご先祖様はどちら様』で小林秀雄賞受賞。

「2015年 『損したくないニッポン人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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