「弱くても勝てます」―開成高校野球部のセオリー

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  • 新潮社
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レビュー : 245
  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104738045

感想・レビュー・書評

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  • とてもあたたかく柔らかな気持ちになった。

  • 言わずと知れた御三家の一校開成高校の野球部を取材したものである。
    東大合格者数日本一の学校が激戦区の東京大会で16強にまで勝ち残る。これは一般の人には普通には思われない事でニュースになる。そこで雑誌の連載記事になった。

    本書に綴られた著者と学生達(と監督)の会話には、優等生達の強さと弱さが生々しく浮き彫りにされていてとても面白い。
    ・「苦手ではなく下手なんです」と自らを客観的、論理的に分析して方法を考える能力。
    ・常識にとらわれてあきらめず、事実をベースに考えて一見破天荒な戦略を論理的に導く創造力。
    ・自ら考え、やる事を決めて実行する自律性。
    ・しかし時に、何でも意味付けをしたがり、考えることに時間を費やしてしまう評論家癖。
    ・客観的に評論してしまい、当事者性と主体性が薄れがちになる。
    ・自分の能力が壁にぶつかると「できない」理由付を考え続けて抜け出せなくなってしまう。
    など・・・開成を卒業し東大を経て日本のいろいろな要職についている年配の先輩達がいるわけでが、これらはそれら先輩達を含むおとなのリーダーたちの有り様を彷彿とさせる。

    この本の面白さは、「どさくさに紛れて勝つ」という戦法の背後に考え抜かれた?論理がある意外性にある。
    前半「さすが開成の生徒達は違う」と思わせ、それが試合の勝利に結びつく痛快な展開がある。読者も「東大が六大学で優勝するよりも開成が甲子園に出る方が可能性が高い」に同意してしまうが、後半になると、なかなかうまく行かない現実に直面した彼らの行動と言葉を読む事になる。その彼らとその指導者の弱さも浮かび上がってくるという構図だ。本の最後は春の大会の一回戦での敗退の中に可能性を見て締めくくっている。
    著者の書き方は淡々と取材したことを時系列に並べ、しかもどう話をまとめるのか自分の悩みにも触れながら、肩肘張った意義付けやストーリー無しに進む。散漫な印象を持つ読者もいるかもしれない。しかし事実、現実はこのようなものだ。
    とはいえこの本に記された若者たちの会話には、過去から未来へ続く彼らの成長過程の断片が確実に捉えられている。

  • 帯では考えながらやる野球部の話っぽいけど、半分は身体が動かず理屈をこねる部員の話。最高。守備は型、型で取れない玉はあきらめる、どさくさに紛れて大量点をとる、などなど。試合中の監督さんのベンチからの嘆きが憐れみを誘います。

  • あの超進学校、開成高校野球部のドキュメント。これは傑作!グランド練習は週1回。エラー当たり前、投手の役目は四球の連続でゲームを壊さないこと。でも都大会でベスト16に進出。おもろいでえ。星4つ

  • ストライクを投げられる事がマナー。不敬であったり茶化してる訳でも無い。でも、読んでいて声を出して笑った。

  • 「一生懸命投げようとするな!」「コントロールしようとするな!」
    「甘い球を投げろ!」
    野球である。が。しかし。
    「ピッチャーをやるな!」
    「野球しようとするな!」
    挙句の果てに、
    「これじゃまるで強いチームじゃないか!」
    監督の、選手への罵声である。

    野球のことはよく知らないが、これが「常識はずれ」であることくらいはよくわかっている。
    しかし、これが日本でも有数の進学校、開成高校野球部の「練習」の常。
    勝てない。弱い。しかも、グラウンドの使用も週1回、練習時間も場所も極めて限られている。
    設備も不十分、部員たちの動きは緩い。声も積極的ではない。エラー頻発。欠損だらけ。
    しかし、勝ちたい気持ちはきっちりとある。ひとりひとり、「固有」の心の中で。
    そして、「東大が六大学で優勝するより、開成が甲子園に出るほうが先になる確率が高い」。
    甲子園に出る気でいる「練習」であり、これで、東東京地区でベスト16に入るのだ。なんて、‥‥。

    自分のプレー・自分のかたち・普段の自分・自分らしく、‥‥
    勝負の世界であるスポーツの中ではよく言われることだが、あくまでも個人(チーム)の努力の末のそれであり、明快には見えにくい。
    スポーツに興味がわきにくい立場としては、その感覚はどうもよくわからない。
    しかし、この野球部には「開成の野球」というものが明快にある。それは痛快ですらある。
    ハイリスク・ハイリターン。エラー頻発で油断を誘い、相手の間隙を突いて大量得点、一気に逃げ切るコールドゲームねらい。
    これを厳密に、非常に厳密に守りさえすれば、強豪校にも勝てる。「とりあえず」。
    だから点差がついても平気。取り返せるからあわてずに済む。打つ。打つ。とにかく打つ。走る。どんどん走って生還する。守備は捨てる。ピッチャーはキチンとど真ん中に投げる。それが「マナー」だから。そして、各々がバットを思い切り振りぬく野球‥‥。
    正岡子規がベースボールを日本に紹介した当時の、野球を楽しむための野球がそこにある。
    「俺たちは小賢しい野球、ちょっと上手いとかそんな野球はしない。自分たちのやりたいことを仕掛けて、そのやり方に相手を引っ張りこんでやっつける。俺たちは失敗するかもしれない。勝つこともあれば負けることもあるけど、勝つという可能性を高めるんだ! これなら国士舘や帝京にも通用するんだよ!」
    そう言ってはばからない開成高校野球部・青木監督の「ぶれなさ具合」、そしてひとりひとりの部員たちの中で監督の強い「言葉」が鎮座し、彼らを縛りあげる。彼らはハイレベルの頭脳を以てして、真摯に言葉の「呪」の中でもがきつつ、おのおのの論理で監督の「弱者の兵法・下手の矜持」を強化する。
    まどろっこしいか? いやいや、これがまた痛快なのだ。
    弱くても勝てます。そのままなのだ。
    いずれ甲子園にほんとうに出るかもしれない。そんな気がほんとうにしてくるのだ。

    強さが美徳。強さが至上。そういう価値観が横溢する世界において、希有な価値観、生き方を彼らは野球から吸い上げている。将来の日本を担うような頭脳たちだ。何やら楽しみにならないか?
    弱ければ。弱いなら。弱いんだから。そのままだからできることがある。弱さの可能性に賭ける。
    マイナス+マイナスはプラスになる。しかし、弱さ+弱さは強さではない。やはり弱さ。弱さで恫喝する狡さではなく、世間を凌駕し刮目させる弱さ。己を知りぬく者だけが得ることができる、おそらくこの世の誰もに保障されている「未知」を探求していく時代が、これからは来るのかもしれないし、来てほしいなと願うのは変か?

  • 監督が「強い」チームをつくるのではなく、「弱い」ままで勝つためにはどうするかを考えているのが非常に面白い。その結論は分散を大きくすること。

    公営ギャンブルで本命に賭け続けると、大数の法則で必ず負けるわけだが、穴馬に賭け続けると大多数の人は大負けするがごく僅かの人間は大勝ちする。それと同様、「弱い」チームは当たり前の試合をずっとやれば必ず「強い」チームに負け越すことになるので、わざと常に荒れた展開になるような試合を作ろうとする。

    自分たちが「弱い」ことをふまえたうえでのこの作戦は非常に面白いのだが、悲しいかな、この確率論を著者が理解できずに人間ドラマにしている。また読者も少なくない率でマネーボール的な野球と誤読している。

    もっともそのことを周囲がちゃんと理解してしまうとこの野球部の勝てる率が減ってしまうので、それは監督にとってはありがたいことなのかもしれない。

  • 面白いには面白いんだけれど…
    結局、「勝てます」が今ひとつ実証されていないのでインパクトが弱い。
    まあ、プレーの「下手さ加減」からみれば、 十分勝っているとも言えるけれども。
    もう少しレベルが上のチームが、このやり方を実践してくれれば、もっと面白いと思う。

  • 自分も、中学、高校、大学と野球をやってました。そんなに強くない学校で。
    あの頃に、こんな考え方に出会えていたらと、少し残念に思いつつ、開成高校が、いつか甲子園に行くんじゃないかと、「私が思う。」事にしました。

  • 一気に読んでしまいました。
    高校野球の前提を考え、少ない練習時間の中で
    いかに勝つかを考えぬいた結果なのでしょう。
    それが、本来の野球小僧の姿のような
    思い切ってバットを振る、攻撃野球になって
    いったのが楽しい。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。1961年、横浜市生まれ。東京外国語大学モンゴル語学科卒。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家に。開成高校野球部の奮闘を描いた近著『弱くても勝てます』がベストセラーに。
『ご先祖様はどちら様』で小林秀雄賞受賞。

「2015年 『損したくないニッポン人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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