無国籍

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104740017

感想・レビュー・書評

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  • どの国籍も持たない「無国籍」であった著者。
    当初、日本で生活していた子ども時代には不便を感じなかったものの、海外旅行の際に台湾にも日本にも入国できないというトラブルに巻き込まれ、自身の「所属」や「アイデンティティ」を大きく揺さぶられます。
    華僑として育った著者と同じ境遇の人びと、そして様々な理由で国籍を取得できず「無国籍」となった人びとの生きざまを取材する中で、研究者として、また一人の人として考えたことをつづったエッセイのような本。
    2004年と少しデータは古いかもしれませんが、2016年に読んでも考えるべきテーマを示唆されたような、素敵な作品でした。
    まずは「無国籍」という“国籍”の人がいるということを知り、また彼らが生活の様々な面で苦労を強いられていることを知る事が必要だと感じます。
    そして、「無国籍」という現状に至っているそれぞれの理由に思いを致し(「自己責任」などで思考をとめるのではなく)、多くの人々が生きやすい世界を建設するために、どのような方策があるかを考えることが大切ではないでしょうか。

    (p.247)
    国籍は、国によって与えられるもの。生まれながらにして持っているものではなく、むしろ国と個人の関係を証明するものとして後から与えられているものだ。髪や瞳、そして肌の色などは生まれながらにして与えられ、容易に変えられるものではない。しかし、国家が与えてくれる国籍は、国の変動によってかわってしまうこともあれば、移住や帰化により変えることもできる。複数の国籍を持ったり、何も持たず無国籍となったりすることもある。▼これまで、私たちは、そんな「国に与えられる国籍」によって、自分の帰属やアイデンティティを規定したり、他者を「外国人」「何々人」と区別してきた。▼人の存在証明や法的立場を決める国籍。しかし、国籍を誰に与えるかということは、それぞれの国家が、自国の事情や法律によって定めるものであり、国際社会に共通したシステムはない。▼現代のようにグローバル化が進み、国境を超える人の移動が増えるなか、個人の国籍やアイデンティティに関わる問題は、どんどん複雑化してくる。…▼これまで、そして今現在も、私たちは国籍を与えてくれている国家を「自国」とし、自分のアイデンティティのよりどころとしてきた。ときにはそのために戦い、他人の命を奪うこともあった。では、無国籍者はどうなのか?無国籍者は、どの国に対しても帰属意識を持てないのであろうか。…人は本来、いろんな場所に愛着を持ち、いろいろな人によって支えられて生きて行く。だからアイデンティティも一元的なものではありえない。▼無国籍者として生きてきたこと、そして今、日本をはじめ各国にいる無国籍の人々と触れ合い、彼らの研究を通して学んだことがある。▼人はしばしば、育った場所に愛着を持ち、愛する家族、そして愛する人を支えに生きるものである。国籍を持つ人も、無国籍の人も、みな変わらず同じだ。

  • 寄る辺なさはこんなにも人を生き難くするものなのか。
    どうしようもない状況に置かれている人は、どこにも行けないのにどこに居ることも拒まれる。
    比較的恵まれた環境にいる著者でさえ、無国籍だから無国籍を調べたいのに無国籍ゆえに自由に動けない、調べられない、働けないという壁にぶち当たる。

    無国籍者の置かれている状況の理不尽さを描きつつ、不幸なだけの書き方じゃないところが良い。
    たとえば「無国籍」というアイデンティティ。家族やコミュニティのこと。
    それはそういった資源がなければ生きのびられないことを逆説的に表してもいるのだけれど。


    本文で「チェン ティェン シー」を大切に扱っていることを書いているのに表紙と奥付の著者名が「ちん・てんじ」なのは酷いよ新潮社。

  • 衝撃だった。
    あまりにも世界を知らない自分にも気づいた。

  • 国籍が、日本人であるという事実がアイデンティティの重要な部分であることを考えさせられる。

  • ビッグイシューの紹介記事を見て読んだ。

著者プロフィール

早稲田大学国際学術院国際教養学部 教授,博士(国際政治経済学)
おもな編著書・論文等 『無国籍』(新潮社,2005年),『忘れられた人々――日本の「無国籍」者』(編著,明石書店,2010年),『東アジアのディアスポラ』(駒井洋監修,小林知子との共編,明石書店,2011年),「日本における無国籍者の類型」(『移民政策研究』第5号,2013年)など。


「2016年 『パスポート学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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