国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104752010

作品紹介・あらすじ

「背任」と「偽計業務妨害」容疑で、東京拘置所での勾留生活512日。第一審判決懲役2年6カ月、執行猶予4年。有能な外交官にして傑出した情報マン-。国を愛し、国のために尽くしたにもかかわらず、すべてを奪われた男が、沈黙を破り、「鈴木宗男事件」の真実を明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • 佐藤優はもともとロシアを専門とする外務省の官僚だった。本書の舞台は2002年から2003年にかけてのことであるが、当時の(今でもそうであるが)日ロ間の最大の懸案は(少なくとも日本側からは)、北方領土の問題であった。北方領土の問題を含む日ロ間の懸案事項の改善に向かって外務官僚を務めていたのが佐藤優であり、政治家としてのその「同志」であったのが、鈴木宗男である。
    2002年5月に筆者は東京地検特捜部に背任容疑で逮捕され、東京拘置所に収監される。のちに、背任罪でも起訴を受け拘留が延長される。しかし、筆者の逮捕は筆者を狙ったものではなく、鈴木宗男を狙ったものであった。鈴木宗男を斡旋収賄容疑で逮捕し、有罪とするために、関係する何人かの人たちが逮捕されている。
    筆者は、鈴木宗男を有罪にするための動きを「国策捜査」と呼び、自分たちは、その「国家の罠」に捕まった者たち、という意味で本書の題名をつけている。鈴木宗男事件については、弘中弁護士の「生涯弁護人」の中で取り上げられていた。そこでも、弘中弁護士は、本事件を、鈴木宗男を有罪にするために、特捜部が事件を「つくった」、いわゆる「国策捜査」であったと断罪している。弘中弁護士の著作で読んだ鈴木宗男事件に興味を惹かれたので、読んでみたのが本書である。

    筆者は、起訴・逮捕・取り調べ・裁判といった過程を、筆者が判決を受けるまで、背景を含めて本書で細かく記している。それは、「記録している」と言った方が良いような記述の仕方である。
    筆者がユニークなのは、「国策捜査といったものはあり得る。自分がそれで逮捕されたのは、運が悪かったから」という風に、国策捜査自体について争っていないことである。また、取り調べの過程の記録も面白い。取り調べの中で、筆者は「無罪になる」ということを一番の目標とはせず、例えば、「外交関係にダメージを与えない」「情報源を守る」「チームを守る」等を優先目標にあげ、それに沿った形での供述を行うことを決める。それに対しての取り調べの担当検事との虚々実々の駆け引きも本書の読みどころのひとつである。
    とても面白い話であった。上記した弘中弁護士の「生涯弁護人」の鈴木宗男事件と合わせて読むと、更に面白いと思う。

  • 日露平和条約締結に邁進した著者。外交というのは相手国の文化・歴史・思想をよく知ることでここまで重要だと知らなかった。様々な交渉・対談を行う中でのそれぞれの思惑や駆け引きや根回しは、本当にやっていた人だからの迫力を感じました。この事件発生当時、自分は低俗なマスコミが報じるワイドショー報道だけで鈴木宗男を悪者に思っていたことが恥ずかしい。 しかし初めて聞いたけど『情報家』って、すごい人なんだな~

  • 基本的に当人からの視点で書かれてるので、佐藤氏や鈴木宗男氏のアンチの方にとっては受け入れられないでしょうね。
    ただ事実として、日本はロシアにおける大切なパイプを失ったなとは思います。
    政権は変われど外交官は生き続けるので、その辺が当時はわかってないなあとは思いました。
    現に田中元外務大臣はすでに時の人になってますが、彼らは現役ですしね。

  • 外務省 鈴木宗男 イスラエル

  • この本に書いてあることが全て真実なのかは今は判断できないが、筆者の記憶力には本当に敬服する。
    この事件により筆者は外交に係る職務からは降りて、文筆家になったのだと思うが、それが国益を損ねる結果になっているような気がしてならない…

  • 佐藤氏の著作は何冊か読みましたが、こちらは迫力ある内容で良かったです。

    外交の舞台、そして検察の立件の裏側で何が起きているかを知るだけでも刺激的でした。外交官というのは凡人に勤まる仕事ではないのですね。でも論理自体はどの仕事でも変わらないとは思いました。どこまで徹底できるかは別にして。

    もちろん私は真実が何であったかを知る立場にはありません。ただ、その後の佐藤氏の活躍や、鈴木宗男氏が20年ほど経った今でも議員をされていて、北方領土関連では力を持っているところを見ると、この著作で描かれている内容は概ね真相を現していると想像します。

    マスコミや検察の存在意義については随分と疑問を持つことも多いですが、民主主義と同じで酷い点は多々あるものの無いよりまし、他よりまし、ということなのでしょうか。

  • なかなか読ませる本。一読を勧める。

    (言及文献)
    日本聖書協会 共同訳聖書 旧約続編・引照付き聖書 (プロの牧師が使う。銀座の教文館で売っている。)
    外務省国内広報課 われらの北方領土
    和田春樹 北方領土問題 朝日新聞社
    ボルフガング・ロッツ スパイのためのハンドブック ハヤカワ文庫
    内藤国夫 悶死 中川一郎怪死事件 草思社
    宗男の言い分 飛鳥新社
    ヘーゲル 精神現象学
    太平記 長谷川端訳 新編日本古典文学全集54~57巻

  • 「国策捜査」という言葉については大まかなイメージはあったけど、この本を読むことでそれが明確になった気がします。
    取り調べ中に著者が検察官と論じ合う国策捜査論が展開される部分は非常に刺激的です。
    国策捜査とは「国家の意思」に基づき検察が「作り上げる」犯罪捜査。
    では「国家の意思」とは何か?
    実体のない擬制的な存在であるはずの国家が意思を持つとは如何なることか?
    結局それはポピュリズムに重なっていくのではないか…

    最近の例を挙げれば、防衛省の守屋前事務次官の事件。
    この本を読むと守屋事件も国策捜査だったんだろうなと思わざるを得なくなります。
    タイミングだって小池百合子との一悶着があって有名になった直後だったしね。
    マスコミから流れる容疑事実や捜査状況に関する情報だって、検察側からのリークだと考えなきゃ説明がつかない。
    ワイドショーで語られる人物像を鵜呑みにしてるだけじゃ真実は見えてこないということ。
    あ、だからといって守屋に非がないと言ってるわけじゃないですよ。
    国策捜査のターゲットになることは、その人が法律的に無罪であることに必ずしも直リンクしないのです。
    冤罪と国策捜査の違いについてはこの本でも詳しく説明されています。
    スピード違反の例で説明されると非常にわかりやすい。

    著者のようなパーソナリティを有した人物がターゲットにならなければ、国策捜査がこのような形で広く公になることはなかっただろう。
    そう考えると何か皮肉めいたものを感じてしまいます。
    そしてもう一つ。
    この本が多くの人に読まれたことが、鈴木宗男という一人の政治家の名誉回復に一定の寄与をもたらしたことは間違いないように思います。
    今でも政権中枢からはかけ離れたところにいる彼ではありますすが。

    それとこの本は”獄中記”としてもなかなか興味深い。
    獄中の生活を記述したものでは、この本でも一部登場する山本譲司元衆議院議員の「獄窓記」を読んだことがあります。
    我々は簡単に「刑務所にぶちこんでしまえ」などと言ってしまいがちですが、”塀の中”がどんな様子なのかはドラマなどで創られたイメージしか持っていない。
    著者の場合実刑判決は受けていないので、記述されているのは刑務所ではなく拘置所での様子のみですが、こういった生の体験を読む機会はなかなかないので貴重だと思います。

  • "佐藤優さんの著書。ときどき読むようにしている。外務省職員であった彼が逮捕され、保釈となるまでの1年半の出来事の手記。一読の価値あり、とくに
    第5章「時代のけじめ」としての「国策捜査」
    は、現在進行形の報道と照らして考えながら読んだ。
    政権与党(民主党)の幹事長である小沢一郎氏の起訴という報道がある。今の時代は何にけじめをつけようとしているのだろう。"

  • 図書館の除籍本

  • 鈴木宗男事件繋がりで、初めて佐藤優さんのことを知りましたが、当初はマスメディアの”外務省のラスプーチン”という悪名のみを知るのみで、あまり関心ありませんでした。
    しかし、何気に書店でとったこの書籍を読んで、佐藤さんや鈴木宗男さんに対する印象が大きく変わりました。
    佐藤さんは、いい意味での”ラスプーチン”でした(笑)

    拘置所という自由の利かない閉所空間での生活を差し引いても、非常に綿密な描写で読めば読むほど引き込まれました。

    「国策捜査」 恐るべき検察および国家権力。
    そして、現地現物を地でいく一級品のオフィサー。

    感動の一冊でした。

  • 佐藤優の初刊行本。・・・のはず。佐藤優の記憶力の凄さに驚いた。

  • 2005年刊行。鈴木宗男の元で対露外交に奔走した著者の自叙伝。本書で叙述される内容から推察される著者の記憶力には驚嘆。特に、特捜検察による取り調べ、勾留とその再現に彼の力量が如実に現れている。また、鈴木宗男対田中真紀子のバトルの内幕も開陳されている。国策捜査という言い方は、個人的には共感を感じないが(犯罪事実がなければ、国策も何もない)、取調べの内幕など、余り窺い知ることの出来ない事情が暴露されている。参考になる一書(ただし、本書が全容を開陳していない可能性も残るが)。

  • 2016年12月31日読了

  • 外交官時代の佐藤優さんの仕事ぶりが伝わってきたし、国策捜査とか検察に対することや拘置所のことなど初めて知ることも多く勉強になった。

  • 佐藤氏は単に優れた外交官・情報屋ではなく、人間としての胆力がものすごいということが分かる。

  • 実名バンバン!!!
    しかも「事件」当時の関係者のヤリトリを生々しい会話で「記録」していて迫力がある。

     田中眞紀子大臣とムネオ議員の抗争、外務省内の権力闘争と混乱、そして地検特捜部によるムネオ議員と著者佐藤氏、三井物産関係者への起訴。
    そして拘置所での検事による取調べから法廷闘争へ。
     そこに日露平和条約交渉を巡る外交の舞台裏、北方4島の実情などが織り込まれて、これまた面白い。

     事件当時、ムネオ議員と佐藤氏に対するバッシング報道が加熱しており、私もその影響を受けて両者にダーティな印象を抱いてしまっていた。
    メディアのイメージ作り恐ろしや。

     あまりに“目からウロコ”の面白さで、果たして本書の記述を100%鵜呑みにしてよいのだろうか…、と疑心暗鬼になってしまうほどである。

     本日(本文執筆当時)報道されている外務省欧州局ロシア課長をめぐるスキャンダルへの考察など、外務省のその後の展開を検証する面白さも得られて、二度美味しい。
    また、ホリエモンへの「国策捜査」の意味を考える一助にもなる。

     さて、ラスプーチンこと佐藤氏らへの「国策捜査」による政治事件化を推し進めたのは“何者”なのか? 
     それは、本書を読んでのお楽しみ…。

    必読級お薦めで5つ星。

  • 読むのに実に時間がかかった。

    国益を守り、自分の信念を守りつづけるとは 
    どういうことなのか に対する 冷静なる判断力には
    優れたものがある。
    そして、その考察をつうじて
    ロシアとの平和条約、それをめぐる 歴史的ながれ。
    イスラエルという国のもつ特殊性。
    北方領土問題。
    鈴木宗男と田中眞紀子。そして、外務省。

    ワイドショウ的になった 政治が もっと深いところで
    考察される。
    著者の胆力に 驚くばかりである。
    書かずにはいられないものが 溢れているようだ。
    それにしても、なんと言う 記憶力を持っているのだろう。

    曖昧にしない 時系列が 驚きに値する。

  • 誠に面白い。

  • 東西冷戦期には共産主義に対抗する反共主義で西側陣営が結束することが個別国家の利益に適っていたので、イデオロギー外交と現実主義外交の間に大きな差はなかった。

    国際情報屋には猟犬型と野良猫型がいる。猟犬型の情報屋はヒエラルキーの中で与えられた場所をよく守り、上司の命令に忠実に遂行する。全体像がわからなくても危険な仕事に邁進する。野良猫型はたとえ与えられた命令でも自分が心底納得し、自分成るの全体像をつかまないと決してリスクは引き受けない。独立心が強く癖がある。しかし難しい情報源に食い込んだり、通常の分析家に描けないような構図を見て取るのも野良猫型の情報屋である。

    情報入手の手法はトラ式とクモ式に分かれる。
    情報専門家の間では秘密情報の98%は実は公開情報の中に埋もれている、と言われるが、それをつかむ手掛かりになるのは新聞を精読し、切抜き、整理することから始まる。情報はデータベースに入力していても意味がなく、記憶にきとんと定着させなくてはならない。この基本を怠っていくら情報を聞き込んだり、地方調査を進めても上滑りした情報を得ることしかできず、実務に役立たない。
    情報屋の基礎体力は記憶力。

  • 鈴木宗男氏がやり玉に挙がっていた時、私は政治の事にはとんと疎く、興味もなく、「あー、なんか悪い事した政治家が捕まったんだ」位にしか思ってませんでした。この本は一連の逮捕劇に巻き込まれた外交官が書く鈴木宗男氏側からの真実。どちらが本当で正しいかはまた別の話として、とても興味深く読みました。検察官とのやりとりは面白かったです。

  •  鈴木宗男と一蓮托生で有罪判決を食らったもと外務省のお役人による手記。
     ムネオハウスの真相のところとか、なかなかおもしろかった。鈴木宗男という政治家に対する評価も一部改めたし、同時に田中真紀子という政治家の評価も相対的に改めた。鈴木宗男と自分をハメた「国策捜査について、たんに「不当だ」というのではなく、「時代のけじめ」としての意味づけをしている冷静さも端倪すべき。
     有能であり、かつそれを隠さない人というのは、組織から疎まれる。本書には、鈴木宗男について「嫉妬心がない、そこが政治家として致命的な欠点」と何度も書かれている。著者自身の「役人として致命的な欠点」というのにも興味あるなぁ。
     秘密のベールに包まれた「外交」というなりわいのリアルが描かれていて、そーいう細部も興味深い。
     真実は「藪の中」かもしれないが、政治と外交の闇をリアルに描いているこの本が、とにかくひじょーにおもしろい「読み物」であることは、間違いないっす。

  • 著者の逮捕が鈴木宗男逮捕への突破口となった国策捜査によるものだったとの主張が非常に説得力がありました。500日以上に及ぶ拘留が半ば本人が希望したためであり、本人はこの期間にかねてから勉強したかったサンスクリット語とアルバニア語に取り組んだというのは凄い知的好奇心です。拘置所の中の風景も興味深かったですが、未決死刑囚が拘置所にいるというのは、私もこれまで気が付きませんでした。隣房があの坂口弘としか思えないような記載であり、この人の凛とした姿に著者が尊敬の念さえ抱いていたことが感じられます。拘置所を出てすぐに、この隣人の獄中日記を買い求めたそうです。また拘置所の正月3が日の食事の豪勢さは経験者ならではですね。東郷和彦氏と著者が永田町に受け入れられていたわけが、霞が関と永田町の通訳能力があったという説明は笑ええます。政治家が「俺は気にしていないぞ」と言えば、「お前の方で深く反省して何か言ってこい」、「東郷局長は元気かな、忙しそうなので、今度俺から挨拶に行くよ」は、「最近他の政治家のところをちょろちょろしているようだな。俺のところに顔を出せ」。その翻訳が出来た人が逮捕されるということになったらしい。この東郷氏は元外交官の祖父茂徳の妻エディがユダヤ系ドイツ人。そして母いせ(父文彦は養子)を経て、ユダヤ人として資格を有し、イスラエル国籍取得が出来るという話も楽しい実話です。

  • 前半、外務省の内幕、対露外交の実務について興味深く読んだ。後半、検事との駆け引き、国策捜査の絵解きが圧巻だった。鈴木氏への印象は西村検事と同感なのでにわかには信じがたいな・・・。

  • 元外交官佐藤優氏による「鈴木宗男事件」の背景、自身へ掛けられた疑惑に対する内幕を詳細に書いた本。外務省を背景とした田中真紀子氏と鈴木宗男氏との対決から始まり、北方領土を巡るロシアとの駆け引きとそれに関わる人々、ロシアとイスラエルとの意外な関係など、事件の背景にある様々な問題を知る事が出来る。
    また、検察による逮捕が行われた後の拘置所の様子、取り調べの中での検事との丁々発止のやり取りにも重点が置かれている。密室の中で長時間に及ぶ取り調べの中、初めは完全に敵対関係でしかなかった検事との間で作られる一見、奇妙な人間関係も、この本の見所。
    無味乾燥としたマスコミの報道からは抜け落ちてしまいがちな当事者の心の動き、心情などが垣間見える。
    この本の内容を全面的に信じるべきかは、個々の読者が判断するべきことだと思うが、政治の混乱の中、一体何があったのかを知る上で欠かすことの出来ない本だと思う。

  •  元外務省国際情報局分析第一課主任分析官の佐藤優氏による、自身が巻き込まれた「国策捜査」に関する暴露本。本書の全てを理解できたとは言い難いが、国家権力、官僚、政治家、マスコミ、大衆が織りなす「日本」の構造について深く考えさせられるものがある。佐藤氏は自身が巻き込まれたことを鈴木宗男氏に近かったからと述べているが、もう一つの理由は「有能すぎたから」かもしれない。「国策捜査」を実行するのは検察であるが、その背後には出る杭に対して嫉妬する大衆と嫉妬を煽るマスコミの存在が浮かび上がる。物事には2面性があり、マスコミ情報が全てではないことを留意しておきたい。
     佐藤氏の鈴木宗男氏に対する評価については割り引いて聞く必要はあるかもしれないが、氏の情報収集力と分析力、筋を通す信念については敬服に値する。

  • 国策捜査は、「時代のけじめ」をつけるために必要だ(西村検事)。

    鈴木宗男氏は、「公平配分モデル」から「傾斜配分モデル」へ、「国際協調的愛国主義」から「排外主義的ナショナリズム」へという現在日本で進行している国家路線転換を促進するための格好の標的になった。鈴木氏をターゲットとしたことによって、二つの大きな政策転換が容易になったと言っても過言ではない。

    冤罪事件とは、捜査当局が犯罪を摘発する過程で無理や過ちが生じ、無実の人を犯人としてしまったにもかかわらず、捜査当局の面子や組織防衛のために自らの誤りを認めずに犯罪として処理する。従って、犯人とされる人は偶然、そのような状況に陥れられてしまうのである。これに対して、国策捜査とは、国家がいわば「自己保存の本能」に基づいて、検察を道具にして政治事件を作り出していくことだ。冤罪事件と違って、初めから特定の人物を断罪することを想定した捜査が始まるのである。

  •  コミックの連載を読んで興味を持ち本書を読んでみたが、時代の一つを切り取った内容と思え、高く評価したい。
     本書の著者の「事件」は、当時世間で大きな話題となったが、刑事被告人となった著者の主張は、それなりの一貫性と正当性もあるものと思えた。
     外務省における「田中真紀子」と「鈴木宗男」をめぐる確執は、当時マスコミで大きな話題となったが、その詳細な内幕は、一般には知られていない外務省の内実がよくわかるものとなっている点でよくできた小説のような面白さがある。
     著者は、小泉政権成立によって外務省という組織がどのように変貌したのかを冷静に分析している点は興味深い。著者は当時の外務省を「水槽」、外務官僚を「熱帯魚」にたとえているが、その描かれる世界は、水が澱んでいるようにも思えた。
     本書で特に興味を引いたのが「国策捜査」についての主張である。「国策捜査とは国家が自己保存の本能に基づいて検察を道具にして政治事件を作り出していくこと」だというのだ。
     著者の相手の西村検事は語る。「僕たち(特捜部)は、冤罪はやらないよ。ハードルを下げて引っかけるんだ」と語る。
     なるほど、誰しもがすべてを洗われれば、厳密には違法でも誰しもがおこなっている行為ぐらいはあるかもしれない。国民が不審を持った人物に対し、検察が身柄を抑えて集中的に捜査をおこない、それがたとえその世界では誰しもがおこなっている行為であっても、法的には厳密には違法行為であるとして断罪することによって、検察が世間の喝采を集める行為が「国策捜査」であるとする本書の主張は、それなりに説得力がある。
     確かにそう考えると、東京地検特捜部の「厚生労働省の村木局長の無罪事件」や「小沢一郎の政治資金規正法をめぐる事件」も理解ができる。
     「村木局長事件」は、ハードルを下げても事件化できない案件を「検事が自分の評判を守るために証拠を作ってしまった事件」だろうし、「小沢一郎事件」も、違法な金をめぐるイメージが強い「小沢一郎」に対し、東京地検特捜部が捜査に着手はしてはみたものの、ゼネコンからの違法献金がいくら捜査しても見つからず、引くに引けずに「政治資金規制法」という微罪での起訴をめぐるドタバタと読むとわかりやすいとも思えた。
     そういえば、日本人はだれしもが「水戸黄門」が好きだが、あれは、大きな権力をもつご隠居が権力と癒着する社会的悪を懲らしめる物語だった。しかし、物語ならばともかく、現代政治においての「国策捜査」は、検察組織の劣化といえるのではないだろうか。
     本書は、あまり知られることがない東京拘置所の留置の実態についても詳細に描かれており、知らない世界を知ることができる小説の要素も、また著者の刑事事件に対する詳細な法的世界も興味深くよめた。東京地検特捜部の反論がないのがちょっと物足りないが、本書は高く評価できるお薦めの本と思えた。

  • 初の佐藤優本。あまりに面白くて一気読み。
    国策捜査の生贄となり血を流し、彼がそういった諸々を世の中にリークしたのだ。
    今でこそ、検察の悪やらを知る時代になったが、これは走りという感じ。
    外交官として諜報活動を経た彼の『秘密情報の98パーセントは、公開情報の中に埋もれている』 という言葉は印象的だった。
    彼の冷静沈着さ、緻密さ、忍耐強さ、精神力の逞しさ、e.t.c...
    こんなに凄い人が日本にいたんだと驚いた。

  • やっぱり面白いです、佐藤優氏の本は。

    やや鈴木宗男氏に対して妄信的な感があるので、そこは多少は割り引いて考えなきゃいけないけど、佐藤氏の尋常ではない記憶力と構成力により、かなり読ませる本になっています。これを読むと、北方領土問題をどんな切り口で考えなければならないのかがうっすらと理解できてくる。

    あくまで国益を重視する佐藤氏と、悪い意味で他人からの目に無頓着な鈴木氏。そして、小泉政権下のパラダイムシフトのために彼らを見殺しにしようと決めた外務省の一部の官僚たち。その時の外務大臣が田中真紀子であり、外務官僚からも「婆さん」呼ばわりされて煙たがられていたという事実が書かれているところで現防衛大臣のバカガエルの顔が頭をよぎり、「あぁ、田中一族は本当にカスの集まりだ」と認識を新たにしました(笑)

    氏が何度か触れている「愛国者」と「ナショナリスト」の違いも、読み終えた今は納得できました。周りに詐欺師みたいな国が多い日本だからこそ、愛国者でなければならないんだな、という意識を持たなければならないと、この本から学びました。

    氏は逮捕されて外務官僚を辞められたことをプラスに捉えてます。ここ数年の著作や雑誌のコラムを見ていても、やはり鋭い人だという印象は変わらないので、今後もペンで国家権力の闇に挑んでいただきたい。

    個人的には、母校のロシア研究の教授が逮捕後に見事なまでの裏切りっぷりを見せているところと、以前お仕事でお世話になった某外務省職員の方が「お堅いヤツ」として実名で出てきているところに、面白さを感じて今いました。まぁ、あの教授ならそのぐらいの裏切りはやりかねんわなー。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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