現な像

著者 :
  • 新潮社
4.05
  • (21)
  • (18)
  • (16)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 192
感想 : 15
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104781027

作品紹介・あらすじ

国際的美術家による芸術と文明を巡る12章。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 京セラ美術館で行われていた「瑠璃の浄土」の個展がきっかけで杉本氏に興味をもった。日本人性を透明な眼差しで捉え、透明なまま芸術に昇華しているのがひどく不思議だった。というのも、杉本氏が表す「日本」があまりに心地良かったからである。その理由が、これらの文章からわかった気がする。
    杉本氏は、芸術から社会学、政治学、考古学、歴史まで、あらゆる分野の知見をバランス良くもち、混沌とした世界をフラットに見つめられているからだと思う。どこまでも透明でどこまでも水平な杉本氏の眼差しに敬慕した。

  • ふむ

  • 日経新聞私の履歴書で杉本博司氏に関心を持って本著作を読了。
    現代アーティストとしてよりも、歴史研究者としてのモダンな視点が鋭い。勉強になりました。

    響いたフレーズは以下:

    世の為人の為は気が楽だ、それは自分が果てしなく広がる因果の鎖のただ一つの鎖の役割を果たしているにすぎないと思えるからだ、


    そもそも戦後の喪失感のなかで教育を受けた私には、なぜ戦争が起きたのかを教えてくれる大人は一人もいなかった。父も母も小学校の先生も、誰もそのことには触れたくないという顔をしていた。そしてそのまま多くの子供は私も含めて大人になってしまった。


    日本の戦争指導者達が愚昧な人達であったとは思えない。むしろ愚昧であったのは大衆としての日本国民たそれを煽動した大新聞だったと私には思える。
    新聞にとって戦争は正気ではなく商機だった。

  • 杉本博司氏が神道を手掛かりにして制作している感覚がよく理解出来た。

  • 現代芸術家、杉本博司の著作。

    本書を読んで、まず驚かされたのが、その博識さ。
    12編から構成されたそれぞれは、歴史・社会思想・科学と、縦横無尽に広がっていく。
    杉本の芸術作品には、なにか哲学めいたものを感じてたが、その創作における秘密を伺い知ることができる内容となっている。

    私が特に興味を持ったのが、歴史と杉本との距離感。
    「フランス人民は、自分たちの共和国フランスを守る為に戦った。
    つまり死んでも守るべき価値というのを見いだしたのだ。(中略)
    フランス革命によって導き出された十八世紀のデモクラシー理念、十九世紀のコミュニズムの理念と世界は百年ごとに美しいファンタジーを考え出し、その美を実現する為に多くの戦争が起こり人々がその為に死んでいった」

    また、自ら耳を切断して一心不乱に経を唱えて生活した、明恵上人と、ヴィンセントヴァンゴッホの共通点を見いだし、両人とも自分を見つめつづけた求道者として解説している。
    さらに、ゴッホ作「坊主としての自画像」と「明恵上人像」を比較することで、時間と空間を超えたふたりの狂気と宗教的体験を重ねあわせ、ひとつの物語として結んでいる。

    つまり、芸術作品を単体として見るのではなく、横又は斜めから重ねあわせることで見えてくる作品の広がりについて、杉本は解説しているのだと思う。

    最後に印象に残った杉本の作品制作に向かう内面が印象的だったので明記しておく。

    「私にとっての西洋の咀嚼とは、自らの日本的霊性の発見であり、またその日本的霊性の西洋文脈での再提示が私のアートとなり得ていると思われる」

  • ほかの杉本の本にくらべて少し読みづらかったか。でもやはり面白い。

  • 意外に、ジャーナリスティックなところあるという印象。随筆家(文筆家)も加えられそう。「利休・モダン」は練られた構成。

  • 難しかった。まだまだ勉強不足だなと痛感です…。
    デュシャンが好きなので時間よ止まれあたりがすごく面白かったかな。

  • 仏教、歴史、人の業

  • 古美術品に相見えるところから彼の作品は始まる かつてのモノが持つ時代的背景や意味を手繰り 己が感じ取った「気」の正体を探る 時代を越え 洋の東西を自在に行き来するそのダイナミックな視点や思考の展開がなんとも心地よいグルーヴ感を帯びて描き出される

    彼のその変幻自在の思考を可能にさせているのは 彼の見つめ続けるところの一点である 日本的霊性なるものにある それはいつも原始型との対比によって象徴される 写真 仏教 現代アート 建築 対象となる事物はやがて太平洋戦争における天皇制国家を取り巻くテーマへと集約されてゆく 敗戦の衝撃を経てなお現代に生きる「なにごとか」とは

    本地垂迹思想における「顕現」がもたらした観音信仰 時間をめぐる人間の欲求がもたらした写真技術 「本歌取り」の手法 「旧式大判カメラが作り出す事の出来る無限の諧調」 「引かれ者の小唄」を歌い続けること 明恵 ゴッホ フランチェスコが生きた「あるべきようわ」 舎利信仰や建築素材を通し受け取った途方もない古代性に見る創作の極点 「死」と「艶」を結ぶ土偶の衝動 利休より続く「様式なき様式」の美 タイム誌が見た天皇裕仁と日本国のパラダイム A級戦犯26人の写真と獄中記が表す天皇制国家としての未来 

    常に動的なる原理を見定める目こそが 確かな「なにごとか」をもたらしてくれるような気がする

全15件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1947年東京生まれ。1974年よりNY在住。活動分野は、写真、彫刻、インスタレーション、演劇、建築、造園、執筆、料理と多岐にわたる。2008年建築設 計事務所「新素材研究所」、2009年公益財団法人小田原文化財団を設立。1988年毎日芸術賞、2001年ハッセルブラッド国際写真賞、2009年高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)受賞。2010年秋の紫綬褒章受章。2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ叙勲、2017年文化功労者。

「2022年 『杉本博司 本歌取り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

杉本博司の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×