本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Amazon.co.jp ・本 (640ページ) / ISBN・EAN: 9784105058739
AIがまとめたこの本の要点
この本を表す言葉
みんなの感想まとめ
テーマは、脳の障害とアイデンティティの探求であり、登場人物たちがそれぞれの苦悩を抱えながら自己を見つめ直す姿が描かれています。事故によってカプグラ症候群を発症したマークと、その影響を受ける姉カリン、元...
感想・レビュー・書評
-
これは私にとって、この人生で出会って良かったと思える一冊。
重大な事故に遭い、奇跡的に一命を取り留めたものの、脳の障害の一つ、カプグラ症候群を発症したマーク。
そしてそのマークのカプグラ症候群により、他人と認識されるようになってしまった姉、カリン。
途方に暮れたカリンが縋るように頼った元恋人ダニエルや著名な脳神経科学者ウェーバー。
カプグラ症候群により奇異な言動を繰り返すマークによって、それに関わる周囲の人間も期せずして自分自身が人生で抱える問題に直面し、そして苦悩していく。
マークはもちろん、カリンやウェーバーも、マークの言動をきっかけに「自分は何者であるか」という一貫したアイデンティティを取り戻そうと必死にあがく。
登場人物が全員必死にあがいていく中で、とりわけ、カプグラ症候群を患ったマークの少年のような純粋さが心に刺さる。
登場人物にも、そして我々読者にも。
最初はやっかいだな、と思っていた症状。中盤になると「もう、このままでもいいんじゃないか?」と思うようになり、最後には、「治らないで欲しい」とまで思うようになる。
すごいんだ。これ。本当に。
ニュアンスとしては少し「アルジャーノン」っぽいというと伝わるかもしれない。
ただし、圧倒される具合は、本作の方が上だと個人的には思っている。
パワーズなので、一筋縄ではいかない。
分量としても600ページ強あるので、読み進めるのに結構時間がかかる。
圧倒的に調べ上げた脳の機能障害に関する知見。本作のテーマを比喩的に支える鶴の生態と行動学。
そしていかにもパワーズな暗喩と詩的表現が全体にちりばめられている。
難解な部分も多い。
それでも、時間をかけてでも、この物語を読み進めていきたいという衝動は最後までなくならなかった。
私は2週間くらいかかったかな。忙しかったのもあるけど、それでも時間をみつけては読み進めた。
読み進めざるを得なかった。
今、具体的に何が面白かったのかと問われて「これ!」と言えるものが出てこない。
ただ断片を思い出す度に、「ああ、素晴らしかった」という感想だけが出てくる。
もう少し時間が経ったら、うまく良さを抽出できるのかもしれない。
まあでもそれは、その時に。
全然伝わらない感想になっちゃったけど、とにかく私にとっては、人生で出会って良かった一冊だった。
それに尽きる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『われらが歌う時』はあんなに好きだったのに『舞踏会』と『幸福の遺伝子』はなぜか全く入り込めなくて途中で読むのをやめてしまったパワーズ。今回、背水の陣でこの本を手にとりました。
『われら』は私にとってわかりやすく感動的だったのに対し、こちらはわかりづらく、しかし確実にじわじわくる感じ。
序盤は冗長な気がしないでもなかったけども、途中でふと、パワーズは好きなことを好きなだけ好きなように書いているのでは?と気づいてからは、ならば、とにかく今回はそれに付き合おうと腹をくくった。
んで、迎えた終盤。登場人物ひとりひとりが、自分自身のどうにもならなさ、やむにやまれなさに、ばったばったと膝から崩れ落ちていくさまが、とにかく圧巻で美しくかなしく、もう動悸がとまらなかった。そして、私もまた、人生のあるときに、カリンであり、マークであり、ウェーバーであり、シルヴィーであり、ダニエルであるのだと思って本を閉じた。で、一夜明けて読んだ訳者あとがきには、この小説の構造自体が脳なんだって書いてあるじゃないか。唸る。
他にも、理系ぽいテーマなのに詩的(というか詩そのもの)なところとか、アメリカ社会のなんともいえない寂しさを鋭すぎる切れ味でちょこちょこ入れ込んでくるところとか、ほんとうにみごとだったのだけれど、なんといっても、鶴。
鶴が想起させるイメージの豊さよ。
何年か前に読んだ、南北朝鮮の境界線を舞台にした、アンソニー・ドーアの『The Demilitarized Zone』っていう短編でも、鶴がものすごく印象的に使われていたのを思い出した。パワーズがすごいのか鶴がすごすぎるのか、もはや私にはよくわからない。 -
発売と同時に買って読む本なんてリチャード・パワーズくらいしかいない。「われらが歌う時」もそうだったけど、この「エコーメイカー」も一気に読んだ(とはいいつつ、途中「生物の進化大図鑑」という分厚いのを買ってしまったせいで読書ペースはがた落ちだったけど)。
「囚人のジレンマ」や「われらが歌う時」と同じく、この本も家族が濃密に描かれる。親や姉や弟など人と人の距離が近いという感じ。それをさらっとさまざまな知識をおりまぜつつ(ほんと博識だなあと思う)、読み手自身の日々日常のイライラを彷彿とさせながらいろんな複線を絡ませ(このあたりはいつも村上春樹と重ね合わせてしまう部分と感じる)、とても読みやすくしあげてしまうのはあいかわらずだな(これも村上春樹っぽい)と思う。
「ガラティア2.2」自体が人工知能、そしてこの「エコーメイカー」は脳それ自体を模して作られている感があるのが面白い。今回はミステリーっぽく読めるところもいい。
読んでる最中に寄り道して「脳のなかの幽霊」を読みたくなって仕方なかった。例の章だけでもちょっと読んでみてもよかったかも。
さて「2666」をいつ読むか。 -
読み終えたくない本に出会うと嬉しいが、読み終えるのが淋しい。
こちらは2020年のベスト。発行年でなく自分が読んだ年の。 -
いやー長かった。なぜこんなに長いのか、著者なりの理由はあるのだろうが、そこまでの熱心な読者でない人間からすると、もう少し核心をコンパクトにまとめてほしかった。
911後のアフガン・イラク戦争について、おそらくはリベラルであろう著者と違った登場人物たちの思いが丁寧に描かれているところは感心した。 -
表現の仕方がとっても美しい本です。
私が無知なせいで途中何度か読めない漢字が出てきて、調べてる間にリズムが途切れてしまったのが悔やまれます(自業自得です…)
登場人物が抱えるそれぞれの荷物や葛藤の中に身を置いた時、いいようのない息苦しさのようなものを感じました。ストーリー的には途中でなんとなくオチが読めてしまうところが少しだけ残念。 -
タイラーのLIVEに持っててまで読みたくなる気持ちわかったわ
-
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/2368 -
-
カナダヅルの飛来地ネブラスカを舞台に、事故から親しい人を偽物と感じてしまうカプグラ症候群を発症した青年を巡る物語。
ケアマネ、介護士としての私の仕事柄、脳が萎縮したり、傷ついたりしたときに生じる心や性格の変化、その中でなんとか統合を守ろうとする本人や他者の受容について考えてしまう。新しい〝その人らしさ〟として接していくのか、それとも改善すべきものとして治癒を目指していくのか。
分厚いけど一気読み、専門用語など全て理解できたわけじゃなけれど、あとがきの言うとおり、この本自体か脳を模した構造をしているとするならその脳というものの凄み、そして著者の力量を強く感じました。
カナダヅルの大群を、いつか死ぬまでに見に行きたい。 -
事故で脳損傷を受けた弟(損傷した脳で施行される事柄やパターンが凄く面白い)と、それを親身に看病する姉や周囲の人々が織り成すドラマ。社会的状況、水域・環境問題、鶴の保護、姉の置かれた状況、脳神経学者の葛藤、事故の真相と残された謎のメッセージ。それぞれが絡み合って物語はすすむ。登場人物の全てが大なり小なり問題を抱えている。飽きることなく最後までグイグイと引っ張られるようにページが進む。最後の方に出てくる鶴が舞う描写は凄く詩的で美しい。パワーズは美しいものを実物よりも美しく描写する作家だと思う。
-
どういう種類の小説なのか、よくわからないまま読み進んだ。ホラーじゃないし心理小説でもないし、鶴が出てくるし、脳機能障害のことがたくさん出てくるし、でもただの小説でもないし、何だかわからないまま終わった。
訳者あとがきを見て、ああ、ジョイスとプルーストね……と。知っていたら手を出さなかったんだけど。でもまあ、面白くなくはなかった。 -
やっと読み終えた
こんなに長い必要ある? -
すさまじい。ポスト伊藤計劃は全てこの本が語っている。「意識の役目とは、自分にとって自分が馴染み深いものだと思わせることだ」
-
パワーズは著書ごとにテーマを設ける。「われらが歌う時」は音楽、本書では脳科学だ。テーマの書き込みの専門性と緻密さの裏には、膨大な知識、それを得るための膨大な研究があるのであり、作者の知性に敬服する。
そして彼のストーリーテリングは超一流だ。大きな流れに身を任せる快感、強烈なドライブ感がありつつ、どこに連れて行かれるか予想もできない。これほどの物語力は世界有数、少なくとも日本にはいない。村上春樹も遠く及ばない。そもそもタイプが異なる。村上春樹はパーソナルで内に向いているが、パワーズの物語は外に向かって伸び、社会や国家を語る。アメリカそのものを語っている。
われらが・・・と同じ表現を使うが、ミクロにはカプグラ症候群になった弟、姉、友人たち、医師のパーソナルな物語がある。自信を失い行き場を失い、途方に暮れた人々がぶつかり合いながら軋んだ音を立てる。更に顕微鏡を覗くように、脳のニューロンにまで仔細に言及するが、きっちり物語に織り込まれ、読者の誰も置いて行かない。「白鯨」の鯨の説明は飛ばしたくなるが、ああいうことは起きない。弟が逢った事故の原因は?置手紙の書き手は?カプグラ症候群のマークはどうなる?謎解きを含んでストーリーはスリリングに進む。
そうして一人一人をありありと描きながら、マクロに浮かんでくるのは9.11後の社会だ。決定的に損なわれ、喪われ、先が見えず、テロへの報復という妄想に取りつかれて暴走するアメリカが重ねあわされる。舞台はニューヨークではなく中西部の田舎町であり、戦争やテロの狂気はどこか遠いこだまのよう。真実とフィクションの見分けが曖昧になる。これは多くのアメリカ人、そして我々日本人の実感ではないだろうか。
また、全体を通して大きな存在感を持つのは鶴。動物の脳と本能が人間のそれと比較されこだましあいつつ、環境問題というもう一つのテーマがオーバーラップする。ミクロとマクロの構成のダイナミズムは、細胞から構成された生命体のように息づいている。
同時代性を重視して書かれたことは明らかであり、もっと早く翻訳を出してほしかった。そして訳者の日本語の言葉づかいがやや気になる。そもそもこだま=谺って漢字も分かり辛いわ・・・ -
マークが、事故に遭った。カリン・シュルーターはこの世に残ったたった一人の肉親の急を知らせる深夜の電話に、駆り立てられるように故郷へと戻る。カーニー。ネブラスカ州の鶴の町。繁殖地へと渡る無数の鳥たちが羽を休めるプラット川を望む小さな田舎町へと。頭部に損傷を受け、生死の境を彷徨うマーク。だが、奇跡的な生還を歓び、言葉を失ったマークの長い長いリハビリにキャリアをなげうって献身したカリンを待っていたのは、自分を姉と認めぬ弟の言葉だった。「あんた俺の姉貴のつもりなのか?姉貴のつもりでいるんなら、頭がおかしいぜ」カプグラ症候群と呼ばれる、脳が作り出した出口のない迷宮に翻弄される姉弟。事故の、あからさまな不審さ。そして、病室に残されていた謎の紙片―。
-
最後の訳者解説によりあ!そういうことだったんだ!という驚きも含めて面白かった。実験的で理解しにくい構造の中にハッと琴線に触れるような一文を紛れ込ませるさすあのパワーズらしさもあって好きは好きなんだけど、他のパワーズに比べていまいち愛着がわかないのは、登場人物に特に共感できる人がいなかったからなんだろうな、きっと。
本棚登録 :
感想 :
