エレホン

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105071516

作品紹介・あらすじ

一五〇年前に描かれた「理想郷」に、私たちはいま辿り着こうとしている――。羊飼いの青年が迷い込んだ謎の国「エレホン」。人びとはみな優しく、健康的で美しく―。でも、それには“しかるべき理由”があった。自己責任、優生思想、経済至上主義、そしてシンギュラリティ……。社会の幸福とはいったい何なのか? ディストピア小説の源流とされる幻の長篇が、現代人の心の底に潜む宿痾をあぶり出す。

感想・レビュー・書評

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  • ディストピア小説の源流とされる本の新訳版が出版されたので読んでみた。
    ものすごく興味深い本だった。

    1872年(明治5年)に書かれた本書は後の多くのユートピア、ディストピア小説の元となった。
    オルダス・ハクスリーは、自身のディストピア小説『すばらしい新世界』がこの『エレホン』の影響を受けていることを公式に認めているという。『すばらしき新世界』は 1932年に出版だ。
    ちなみにディストピア小説の傑作のひとつであるジョージ・オーウェルの『1984年』は1949年に刊行である。

    本書『エレホン』が出版された1872年といえば、この前年の1871年にドストエフスキーの5大傑作長編の一つ『悪霊』が出版された年である。
    著書のバトラーとドストエフスキーはほぼ同時期の作家といえる。
    この事実を踏まえて改めて本書の内容を考えると、本書に描かれた世界観はまさに驚愕の一言に尽きる。
    本書の中で、著者のバトラーは今のAI時代やシンギュラリティの到来を予想しているのである。

    本書の内容であるが、あるイギリスの若者が旅をし、旅の果てに他の地域と隔絶された「エレホン国」を発見、そこでの生活を記録していくという話であり、オリバー・スウィフトの『ガリバー旅行記』を彷彿させる。

    この「エレホン国」は他の文明とは隔絶されているものそこに暮らす人々の外見や生活様式は他のヨーロッパ諸国とあまり変らない。

    しかし、最もほかのヨーロッパ諸国と違うのは、人々の価値観である。
    エレホン国では、
      「外見の美しさがすべてに勝る」
    と考えられており、「病気」は最悪の罪なのである。

    もしエレホン国で病気になれば、その者は刑務所に投獄され、治療ではなく刑罰(最悪は死刑)を受けるのである。
    また逆に詐欺や泥棒のような「犯罪」は我々でいうところの「病気」のように扱われ、詐欺や泥棒を犯した「犯罪者」は人々から慰められる。

    そして、機械を持つことは重罪なのである。
    主人公は懐中時計を持っていたために投獄されたが、主人公の外見が金髪でハンサムであったために裁判で許される。

    ここが本書の真の価値というべきところであるが、エレホン国で機械を禁止しているのは理由が、我々今の現代人にとっては驚愕すべき理由なのである。

    それは、
      機械が今後意思を持って人間を支配するようになるのを防ぐ為
    ということなのである。

    エレホン国の人々は、以前は自由に機械を使っていた。まさに蒸気機関車などを利用していたのである。
    しかし、あるとき彼らはこう考えてしまった。

    地球は、太古は植物が支配し、何万年もかけて植物は進化していった。しかし人間が地球に誕生して数千年で非常に進化し、地球を支配してしまった。さらに機械が生まれ、蒸気機関車が誕生するまでに数十年、あるいは100年弱しかかからなかった。

    では、あと1000年後、あるいは1万年後には何が起こっているだろうか?
    機械の進化のスピードは人間の進化のスピードよりも格段に速い、いずれ機械が意思を持ち、地球を支配するようになるのは当然の帰結であると・・・。

    まさに、今の現代で起こっていることをエレホン国の人々は予言しているのである。

    こういった物語が本書のなかでは淡々と繰り広げられていく。機械の件だけでなく、出産は悪と考えられているが、出産を防ぐことはできないので、その言い訳だとか、いろいろと笑ってしまうようなエピソードも満載である。

    非常に考えさせられた小説である。ディストピア小説が好きな方はぜひ読んでみてもらいたい。

  • 1872年に出版されたユートピア・ディストピア小説の新訳版です。
    イギリス植民地で羊飼いをする主人公は、文明社会に知られていないエレホン国を発見します。
    そこの常識は我々のそれと正反対で、病気は罰せられて犯罪は治療される世界でした。
    又、機械を極度に拒絶するのですが、それにはなかなか深い意味があります。
    人間は長い時間を掛けて進化してきましたが、機械の進歩・進化は驚異的な速度のために人間を瞬く間に超越して支配するようになると考えられているためなのでした。
    未知の病気が流行し感染者は白い目で見られ、AIが人間を凌駕することが現実味を帯びてきた現在、エレホンの思想は決して夢物語ではないように思えるのです。
    古い作品ですが全く色褪せず、今を生きる読者の心を揺さぶる物語に違いありません。

  • イギリス人が未開の土地を開拓している最中にエレホン国に迷い込んでしまう。表面的には良い感じの人々だったが、そこで生活するにあたって大きな違和感を感じてしまう、というあらすじ。「おとぎ話」なら抵抗ないのに「SF」ってなると急に難解に感じるが、それはもしかして作者の力量ゆえだったのだろうか?登場人物に血肉が通った印象を受けるとおとぎ話に感じる。失敗作がSF?この作品に関しては、ウルトラマンを見ている感覚になった。現代現実とは違う、しかしどこかで起こっているんだろうという、血肉感があった。

  • 2023.9 半分まで読んだけど…離脱。

  • 大学のヴィクトリア文学の授業で登場したユートピア文学作品。nowhere(どこでもない場所)を逆から読んでerehwon(エレホン)という名称になっているのは面白いと思った。

    イギリスの有名なユートピア作品といえば、モアの『ユートピア』とスウィフトの『ガリバー旅行記』であり、その数百年後に書かれたのがこの『エレホン』である。エレホン人の価値観は確かに新しいのだが、若干の二番煎じ感はあった。

  • 「人の目を気にした結果の国」という印象。人が人を干渉しきって監視をする現代(SNS)にも、きちんと繋がる糸がある。保守的である。

    一種の思考実験のようでもある。
    どの時代で読んでも、きっと、近い未来の話と捉えることが出来る本だ。それほど人間の芯は時代で跨ぐことの出来ない堂々巡りなのかもしれない。

    1回の入国では理解できない部分が多かったので、また読みたい。次は旅行気分で。

  • エレホンはどこにもない国。
    主人公は金儲けのために旅をする。
    現代社会とかけ離れたような価値観がつぎつぎにでてくるけど、比喩って考えれないこともない。
    発想がいろいろ考えさせられるSFなんかな?

  • 全く古さを感じさせない。翻訳は定期的にやり直すべきと改めて感じる。どこか藤子不二雄的な的なSF感があり面白い

  • NOWHERE↔EREWHON。どこでもない場所をイメージされた題名なのだと思いますが、どこでもない場所の反対語はどこか特定の場所でもあり、その特定の場所として2021年現在の世界が重なりあうことに驚きます。そしてNOWHEREがユートピアさとしたら、その反対はディストピアであり、それは今の社会なのか…1872年出版の本が2020年に翻訳出版されたのは翻訳者の今、再び読まれるべき本としての熱い想いがあったからなのかもしれません。あとがき、ではなく解題、として翻訳者自ら補助線をひいて解き明かすシンギュラリティ、格差社会、宗教の位置づけ、子どもの教育、という現代的テーマの150年前の予言も、このタイミングだからこそ自分事化できるような気がしました。さらに、たぶん本書の刊行予定の際は見えてなかったwith coronaの世界がさらに、それを加速しています。なんとなくCOVID-19によって世界は産業革命ぐらい、変わるのではないか、と感じていましたが、まさに産業革命の後の変化の時代に書かれたSF(?)が、こんなにシンクロするなんて。ニューノーマルって、まだまだ分からないけど激動なのかもしれませんね。そして本書、そして「資本論」(1867年)「種の起源」(1859年)「夢判断」(1900年)のように世界を変えるコンテンツが、ここ10年ぐらいで生まれてくる予感。

  • エレホン国、美しい人々が暮らす国。
    ただ、価値観などが違う。
    何が罪になるのかも違ったりするが、そこの国民は満ち足りている。
    信じることは簡単だが、どんどん引き返せなくなる怖さを感じた。

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著者プロフィール

1613年、イングランドはウースターの農家に生まれる。大学教育は受けず、十代後半から秘書として働き、多くの貴族や有力者に仕えながら、清教徒革命から王政復古にいたる英国の激変を目の当たりにする。『ヒューディブラス』第一部を1963年に、第二部を64年に発表。当時の世情を痛烈に風刺した本作は爆発的な成功を収め、一躍有名人となった。ただ、著者への金銭的な見返りは少なく、経済的には余裕のない生活を送った。1678年に『ヒューディブラス』第三部を発表したものの好評は得られず、1680年、貧窮のうちに死去した。

「2018年 『ヒューディブラス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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