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本 ・本 (448ページ) / ISBN・EAN: 9784105090128
感想・レビュー・書評
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6本の短篇を含むが、メインは表題作「族長の秋」。
290ページ弱に渡るボリュームなので通常の書籍なら1冊分であろうが、全集の1分冊なので、お得感ある構成。
『百年の孤独』の文庫版巻末に、筒井康隆が激賞し、激しくお勧めしてくる本作。
とある小国の独裁者である大統領が思うがままに権力をふりかざし濫用しそして息をするように人を殺す。
驚くほどの長寿で、永遠とも思える時間権力の座につき傍若無人に振る舞う。
まだ比較的若いときは、しっかりとした認識のもとで残虐性を発揮し、心身が衰えてきた後は、衰えたなりに都合の良い解釈をしながらやはり残虐性を発揮する。
とにかく人が死ぬ。
それだけの物語と言っても過言ではない。
それだけの物語なのだが、本作、相当クセがある。
「百年」も若干クセがあったがそれでもかなり読みやすかった。
一方の本作のクセは、若干どころではない。
まずすぐに気がつくのは、段落がほとんどない。
一つの段落だけで100ページ近く、一息に綴られる。だいぶ辛い。
そして、その猛烈に長い一段落の中で、視点と時制がぐるぐる回る。
その上、固有名詞よりも人称代名詞が多用されるため、誰の視点で綴られているのかがわからなくなる。
さらにもう一つ。本作を決定的に特徴付けているのが、句点「。」の代わりに読点「、」を使っている部分が多くあるため、文の切れ目がわからなくなる。
本当に読みにくい。
読むのに、相当の集中力を必要とする。
半ページでも流し読みしようものなら、もう何の話をしているのかわからなくなる。
これは私の解釈なのだが、これは、永遠とも思える長い時間権力の座についた大統領が死ぬ間際に見た「夢」のようなニュアンスを出したかったのではないだろうか。
常夏の小国、燦々と降り注ぐ太陽の昼下がり。
すべてが寝静まったかのような静かな空間で、ハンモックに揺られながら涅槃にさしかかろうとしている残虐な大統領が見ている「夢」みたいなイメージをもつと、上記のクセがなんとなく理解できるのだ。
すべてが曖昧。すべてが夢うつつ。
本当に読むの辛かった。大変だった。
でもね、面白いんだ。
とにかく人を殺す。女性を襲う。ひどい。
でもこれがガルシア=マルケスの文章に乗ると、憎めない。
コミカルで、ユーモアがあり非常に人間らしく、憎めない。
ユーモアのある文章というのは、この作家の一つの特徴だと思うけど、本作ではその才能を隅々まで堪能できる。
さっきも書いたけど、一文でも読み飛ばすと置いてけぼりを食うけど、その一文一文は読み飛ばすのが勿体ないくらい詩的で楽しい。
読み終わるまで相当時間がかかることは覚悟して。
その上で、少しずつでもじっくり吟味していったら、この作品の素晴らしさがわかると思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読み終わりましたよ…。忘れてた。この人の本は夏の暑さにうかされながら読まなきゃいけないんだった。冬に読んじゃダメ。そんな浮遊感を楽しみましょう。
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マジックリアリズム・クズ文学の名作。版を変えての再読だけれど、二回目も変わらず大統領はいじらしい。暴虐で卑怯で臆病なのに、あの愛の報われなさがかわいらしく哀しい。
現実世界と引き比べて読むなら、正しくないエピソードを詰め込んでブラックジョークでくるんだ、中南米における前近代性の物語なのかもしれない。しかしそれはいったん置いておいて、権力と孤独と老いについての詩として心に迫るものがあった。最後の夜の描写は圧巻。
最近ボスとブリューゲルの画集を見ていたせいか、本書からも平たくて無数の人物であふれる大きな絵が思い浮かんだ。画面奥に彗星と海があり、空にマヌエラ・サンチェスが、海に子供たちを乗せた船が見える。そんな中世的なイメージが、族長だった大統領にぴったりきた。
他6篇があるし解説が『2666』共訳者の内田兆史さんだし、この新潮社版はよかった。短編はどれも荒唐無稽で好きだけれど、なかでも「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」。可哀想な女の子の話だと聞いていたから楽しめるか心配していたし、実際に可哀想な女の子の話ではあるのだけれど、結末に奇妙な爽快感を感じるほど面白く読んだ。-
なつめさんこんにちは!
なつめさんも版を変えての再読なのですね。「族長の秋」で探したら数種類出ているのですね。
大統領は残酷無比ではあるけ...なつめさんこんにちは!
なつめさんも版を変えての再読なのですね。「族長の秋」で探したら数種類出ているのですね。
大統領は残酷無比ではあるけれど、個人的な愛に関しては決して手に入れらないし、まだ若い頃(と言っても百歳くらい?)には国民全員を覚えていたくらいだから、いじらしくも哀しい人物ですよね。
「エレンディラ」は、「百年の孤独」最初の頃にちょっと出ていて、のアウレリャーノ・ブエンティーア大佐の初体験と初恋のお相手だったような。大佐がプロポーズしていたら(すでにエレンディラは旅立っていた)どうなっていたんでしょうね。2020/03/28 -
淳水堂さんこんばんは。
ガルシア=マルケスの小説に登場する男性陣は、どんな欠点があってもどこかいじらしいところがあって、だいきらいには...淳水堂さんこんばんは。
ガルシア=マルケスの小説に登場する男性陣は、どんな欠点があってもどこかいじらしいところがあって、だいきらいにはなれないところがありますね。
エレンディラが『百年の孤独』に出ていたのは気づきませんでした。いつか再読するときが楽しみです。2020/03/29
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『ガルシア・マルケスと植物』というタイトルで論文が書けそうなくらい、植物に溢れた小説。登場人物の命もまた、植物と同じくらい軽んじられているけれども、もはや生と死の境目もなんやら曖昧になっていて、植物が枯れて土にかえるというくらいな重さしかない。が、かえってヒトの生き死にもまたこんなもんじゃないのか、と思わせられる。
あらゆる生命が公平に扱われている小説。 -
助けてください。
巨大な睾丸がどれ程巨大なのかを調査すべく、この本を購入しました。
ですが、序盤の文章が支離滅裂すぎるというか、一文目の「〇〇のおかげ」が何のお陰なのかもわからないまま話が進んで行き、ついて行く事が出来ません。
この繋がりのない文章たちは、どこまで読めば繋がるのでしょうか? -
かつて牛がそのバルコニーに顔を出したという混沌とした大統領府で、ハゲタカに食い荒らされた族長が発見されるシーンからこの物語は始まる。そして複数の語り手によって、彼の、権力への執着が生む疑心と臆病に満たされた、孤立した生涯の日々が語られる。語り手は、あるときは関係者、あるときは大統領自身、あるときはうわさ話であるが、だれもが(大統領ですら)名を持たない。主語の明確でない語りは、文章の端々に「そうであるならば」という言葉を響かせているようであり、仕掛けはギリシア神話に置かれていながらも、その情緒が日本的な精神性と大いに重なる印象が深く残る表題作は秀逸。
雨にはたき落とされた天使、凛々しく堂々たる体躯で生者を魅了する水死体など、神話的な枠組みで生と死を色濃く描く6短編を併録。 -
冒頭に収録された短編集がなかなか面白かった。
そのタイトルだけでも価値があると思う。
「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」なんて、読まざるを得ない。
内容が一番好きだと思ったのは「世界でいちばん美しい水死人」。
なんだか可愛らしかった。
タイトルになっている長編はというと、とにもかくにもマルケスらしい作品。
淡々と、あるどうしようもない権力者の半生を事細かに描いている。
権力とは一体何だろう、その実質とは、とこの世に語りかける作品……とかではない。
滑稽で、現実離れしていて、作り物めいた、しかしこの上なく人間らしい物語。
読み終わって孤独しか残らない。 -
何度も読んでいる、大好きすぎる小説。
百年の孤独文庫版の、筒井康隆先生の解説のなかで、百年の孤独の次はこの小説を読めと勧めている。
この小説の一番面白いであろう箇所、ロドリゴ=デ=アギラル将軍の最期については、その解説のなかでは触れられてない。ネタバレせずに、読んだ人に強烈にたまげてほしい、という筒井康隆先生の想いがあるんやと思う。