迷宮の将軍: Obra de Garci´a Ma´rquez1989

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  • Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105090159

作品紹介・あらすじ

幾多の激戦の末にスペイン軍を撃破、植民地の軛から中南米諸国を解き放ち、ついに独立へと導いた輝ける将軍シモン・ボリーバル。ラテンアメリカ統合の理想実現に燃えてひた走った英雄は、なぜ失意の迷宮に踏み入らねばならなかったのか?"解放者"と称えられた男。その最後の七ヵ月、コロンビアの大河を暗然と下りゆく死への旅路は。-栄光という闇の深さを巨細に描き切る。

感想・レビュー・書評

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  • 「この町では誰からも愛されていないんだからさっさと出て行こう」
    その言葉は将軍が何度も口に出していたのでだれも本気にしなかった。
    しかし今度は本気だったのだ。

    将軍は二十年間新大陸を植民地にしてきたスペインを相手に解放戦争を戦っていた。
    将軍はイスパノアメリカをヨーロッパ支配から独立させて、一つの大きな国家集合体を目指していたのだ。
    戦闘においても政治においても常に戦い、歴史上誰よりも広大な土地を開放し、<解放者>の称号を得ていた。
    しかしスペイン支配から解放された土地はそれぞれ独立を訴え、大臣たちは私腹を肥やすようになる。
    暗殺計画、自分自身の病床、そしてイスパノアメリカの集合国家は叶わないと分かった将軍は、最後の旅に出る。

    それが最後だった。シモン・ホセ・デ・ラ・サンティッシマ・トリニダット・ボリーバル・イ・ラ・パラシオスは国を去り永遠に戻ってこなかった。
    ヨーロッパの五倍もの広さの帝国を宗主国スペインから奪い取り、その土地を自由でしかも統一のとれた帝国として存続させるために二十年に渡って戦場で指揮を取り、ほんの先週まで鉄の手でそこを統治してきた。その将軍が、人々は自分を信じてくれているという慰めも得られないまま国を去ることになったのだ。将軍が本当に国を出て、どこへ行くつもりなのかを過たず見抜いていたのは、イギリスの外交官だけだった。その外交官は本国政府にあてた公式の報告書にこう書きつけている。「将軍には、どうにかこうにか墓場に辿り着くだけの時間しか残されていないでしょう」(P42)

    ***

    これを読んでいなかった!
    残しておいて忘れてたお菓子を引出しから見つけた気分(*^^)v

    冒頭では“将軍”が誰で何をしてきたのかは語られませんが焦ることはありません。ガルシア・マルケスは読者に親切です、ちゃんと語ってくれます(笑)
    というわけで、ガルシア・マルケスが尊敬する<解放者>シモン・ボリバル最晩年の旅を書き、その中で彼の功績、孤独、苦しみを表現します。

    ガルシア・マルケスには、ジャーナリズム形式小説や、実在の人物をモデルにした小説はありますが、実在の人物そのものを書くのは珍しいかもしれません。
    実際のシモン・ボリバルやその周囲の人物に対して取材も行ってはいますが、この小説で書きたかったのはあくまでも実際の行為ではなく、心の動きです。

    ガルシア・マルケスの小説においては「繰り返される描写」が特徴的ですが、この作品でも食欲が衰え体が小さくなってゆく将軍、休むためのハンモック、ハーブを入れた浴槽に死んだように浸かる将軍の姿が繰り返し描かれます。そしてそんな将軍に会う人々は、彼はもう死んでいると悟ります。

    巻末の解説では実際のボリバルの人物像、履歴が書かれています。
    ナポレオン戦争終結により、世界の目は新大陸に向けられ、余った武器や軍人が導入されていった、などの世界情勢の中で解説されていてわかりやすかったです。

    ボリバルに関しては、こちらの映画を見たことがあるけれど、地理的歴史的にはあまり理解できずでした(+_+)
    https://eiga.com/movie/81023/
    https://filmarks.com/movies/76850

  • 本書は、シモン・ボリバルが、大河マグダレーナ川を下る最期の旅数ヶ月が描かれている。

    シモン・ボリバルは、南アメリカの独立運動の指導者であり、大コロンビア共和国初代大統領である。

    1783年、カラカスの名家に生まれ、ヨーロッパへの遊学などを経たのち帰国して、独立運動に献身する。
    スペイン軍を打ち破り、大コロンビア共和国(現ベネズエラ、コロンビア、エクアドル)を樹立した。
    ペルーの独立援助を行い、ボリビア共和国を建設。
    死の年、大コロンビア共和国は解体し、失意のなか、祖国を捨てたシモン・ボリバルは最期の旅に出る。

    この最期の旅に関しては、少ない資料しか残されていないらしいが、マルケスは何年もを費やし、シモン・ボリバルを調べつくし、死までの将軍の絶望の数ヶ月を描く。

    南米の世界史に明るくないので、本書に挿入されているシモン・ボリバルの年表から目を通した。

    ひとりの将軍の最期ということだけでも十分カルシア=マルケスは読ませてくれるが、シモン・ボリバルや、独立運動前後の時代背景を把握するとよりリアルにこの小説を愉しむことができると思う。

    ガルシア=マルケスがこの偉大な将軍のことを書くというのは、同じく南米の偉大な作家としては必至だったのかもと思う。

    訳者は、私の大のお気に入り。神戸外大学長の木村榮一さんです。

  • 19世紀にスペインと戦い南アメリカ北部の独立を成し遂げた、「解放者」シモン・ボリーバルの最後の旅の日々を描いた物語。
    こういった物語で、これは史実通りなのかそれとも作者の脚色なのかを問うことは野暮である。

    人は死から逃れることはできません。
    私もいつかは死の床に着くのでしょうが
    その時誰が側にいてくれるのか。
    考えさせられる作品です。

  • シモン・ボリバルのことを調べ上げて書かれたマグダレーナ河を下る最後の旅。ガルシア=マルケスの描く河旅が文句なしに好き。シモン・ボリバルがどういう人物だったのか、なんとなくつかめた。

  • ボリヴィア共和国初代大統領であり、その国名の由来となったシモン・ボリーバル将軍最晩年の姿を抑制の効いた筆致で描いた1989年の作品。シモン・ボリーバルといえば、ラテン・アメリカ諸国では新大陸の解放者として伝説的に語られる英雄だが、その実像について詳しく語られることは、この国ではかつてなかった。

    コロンブスのアメリカ大陸発見後、南アメリカ大陸もまた15世紀末から16世紀初頭にかけ、発見征服時代を迎える。その後スペインの植民地となったイスパノアメリカ諸国は1820年代に宗主国スペインから独立を達成する。

    1783年ベネズエラの名家に生まれたシモン・ボリーバルは、早くから家庭教師につき、様々な学問を積むとともに、当時ナポレオンが席巻していたヨーロッパに渡り諸国を歴訪する。帰国したボリーバルは農園経営に携わるが、独立の機運に乗じ軍務につく。王党派の軍を相手に十五年近くを戦い、ついにベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビアにわたる広大な地域を解放した。

    彼を動かしていたのは、師のシモン・ロドリーゲス由来のロマン主義的理想である。それは、北はメキシコから南はチリ、アルゼンチンに至る全イスパノアメリカを巨大な共和国連合にしようというものであり、彼のあくなき戦いはそのためにこそ続けられた。しかし、解放までは共に戦った同志も、いざ宗主国から独立したとなるとそれぞれの権力欲やら私利私欲にからみとられ、互いに分裂抗争をくり返すことになる。

    政敵との確執に疲れ、病を得た将軍は、あっさりと権力の座を明け渡し国外に出ることを決める。お付き武官を連れ、数艘の平底舟に乗りマグダレーナ河を下る失意の英雄の最後の旅を描いたのが、この作品である。

    結核に蝕まれ、食事すら喉を通らない将軍は、かろうじてスープで体力を維持しているが、その体は痩せさらばえるだけでなく、身長まで縮み出す。かつては偉大であり、そびえ立つように思われた巨人の影響力が衰えてゆく様を象徴する表現だろうが、持ち前のユーモアを引っこめ、沈鬱な描写の続くこの小説の中で、唯一苦い笑いを味わえるのが、執拗に繰り返される縮みゆく身体の詳細な記述である。

    親身になって世話をする部下や魔法のスープを作るため乗船した料理女、それに歴戦を共にした諸将に囲まれていながら、将軍は孤独である。唯一の後継者と思うスクレ将軍は辞職を願い出て帰郷する途中暗殺される。故国に残した愛人とは手紙のやりとりもままならない。自分には君主になる野心など微塵もないのに、信頼する部下でさえ、彼を担いでもう一度戦いたいという思いが感じられる。

    共和国というのはただでさえ美しい夢である。憧れたナポレオンでさえ戴冠したではないか。将軍の夢みる全イスパノアメリカ連合共和国などというのは、気宇壮大すぎて将軍以外の誰にも理解されるはずがない。蚊の襲撃や洪水、凄まじい蒸し暑さといった自然の苛酷さも将軍を苦しめる。熱帯の寝苦しい夜を厭い、歌の巧い部下と夜が明けるまで川辺で過ごす将軍の愁いは濃い。

    時系列に沿って将軍の最期までを淡々と記述しながら、その間に過去の恋愛沙汰が挿入されたり、将軍が死んだ後の部下の動向が記されたりという、評伝形式の叙述は、マルケスの作品としては地味な印象を受ける。が、それだけに「解放者」とまで謳われた一代の英雄が、行く先々で掌をかえしたような仕打ちを受けながら、それをあまんじて受けねばならない境遇が、ひとしお読者の胸を打つ。

    厖大な資料を読み解き、準備を重ねた上で書かれたものらしく、イスパノアメリカの「解放者」シモン・ボリーバルの最晩年がくっきりと陰影を帯びて浮かび上がる。カエサルの著作やスエトニウスの『ローマ皇帝伝』に学んだ重厚な文体は落魄の英雄の最期を描くに相応しい。著者あとがきに加え、シモン・ボリーバルの年表、地図、詳細な訳者解説がつき、南米の諸事情に疎い者にも親切である。

  • 幾多の激戦の末にスペイン軍を撃破、植民地の軛から中南米諸国を解き放ち、ついに独立へと導いた輝ける将軍シモン・ボリーバル。ラテンアメリカ統合の理想実現に燃えてひた走った英雄は、なぜ失意の迷宮に踏み入らねばならなかったのか?“解放者”と称えられた男。その最後の七ヵ月、コロンビアの大河を暗然と下りゆく死への旅路は。―栄光という闇の深さを巨細に描き切る。

  • 人生とは本当に迷宮だ。

    「いかに栄光に包まれようとも、いかに偉業をなしえようとも、人は幸福な未来とは幸せな人生を得ることができないのか?」

    そんなテーマが実にリアルに描かれた作品。
    将軍の残り僅かな余生を追ったやるせないドキュメント。

  • シモン・ボリバル、最期の旅。

  • シモン・ボリーバル将軍が迷い込んでしまった「迷宮」は一体何だったのか。不安定な政情か思い通りにならない環境か、老いて死にゆくことか、それとも若くして失った妻への思いか。

  • 事実に基づいた歴史小説のような、ファンタジーのような。これまたマルケス凄すぎる。
    読んでる間ずっと、将軍のことを頑張れー!!って密かに応援する自分がいて。なんか純粋で母性本能くすぐられる人なんです笑笑
    全然立場ややってること、時代も何もかも違うけど、この将軍て、ガルシアマルケスそのものみたいな気がしてくるのが不思議。

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