闇の中の男

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105217174

感想・レビュー・書評

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  • 娘を迎えに駅まで行った時、ちょっと早く着いたので駅前の図書館に立ち寄る。予約本もなく図書館に行くのはほんと久しぶりだ。
    あまり長居しないように気を使いつつ、書架をうろついたところ、ポール・オースターを発見。「この人の本、昔図書館に通っていた頃よく読んだなぁ」と懐かしくなり借りた。

    2001年9月の同時多発テロが起きない世界、そこでは代わりにアメリカ内戦が起きているー という内容の作中作(主人公の妄想)と現実が交互に描かれ絡み合っていく。

    日本語版の発売は2014年で、この本は今回初読。
    相変わらず幻想的で暗い。暗闇の中で懐中電灯で照らしながら読んでいる気分になる。

    とは言え、柴田元幸さんの訳ということもあり読みやすい。ただ、僕の場合、引っ掛からなすぎてするっと行きすぎて、「何書いてあったっけ?」となってしまい何ページか戻って確認する、ということがよくあるのだが…笑

    アメリカが911で背負った苦しさを描いているが、エンディングでは傷つきながらも乗り越えていく強さと希望が感じられ、気づいたら夜が明け朝になってたかのような読後感。

    けったいな世界は転がっていく!

  • 『写字室の旅』との対応は、現実と虚構の混合、交錯か。

    何が現実で、何が虚構か。

    あり得たかも知れない現実。私たちは絶え間ない分岐のたった一つの枝にいるに過ぎない。

    圧倒的な悲しさによって呑み込まれた虚無。

    物語があるだけに、その断絶は堪える。

    他人は結局のところ、分からないのに、解釈し続けてしまう自分がいる。

    戦争にロマンやドラマはない。
    その点でオースターにしては珍しく、本作はアクチュアルだったな。

  • 語り手の老人ブリルを中心にその家族構成が少し複雑なので、多少わかりずらい。更に、ブリルは自分自身にブリックが主人公の物語を語っており、それが全体に含まれている。

    ブリックは朝目覚めるとパラレルワールドのような場所にいる。それはFalloutのゲームが始まる前の、核攻撃以前の内戦状態のような世界だ。ブリックは、その悲惨な世界や運命をもたらした当の本人、ブリルを殺す役目を負わされるわけだが、結局果たせずに殺されてしまうのは、まあ妥当なんだろうが、残念と言えば残念。

    オースターにはこういう、物語を語ることそれ自体に対して言及する姿勢がある。読者は、ブリックはブリルを殺すだろうと期待する。ところが、あっけなくブリックは殺されて、おそらく本来語るべきブリルの話に戻っていく(これは献辞からみて妥当だろう)。

    そして、そもそもブリックの物語は、おそらく死んだタイタスに関係し、それは最近のテロリストとの戦争にも絡んでいるのだと最終的にわかる。もしかしたら、タイタスはオースターの「ガラスの街」で描いたクインに類していて、文学への希望も愛も(カーチャとは戦争に行く前に別れていたという)失って、そこにもしテロリストとの戦争があったらこうなるかもしれないという投影なのかもしれない。

  • 随分久しぶりにポール・オースターを読む。話の組み立て方が相変わらず凝っている。物事の中で物語が展開するお馴染みのパターン。しかもそれは単なる入れ子の構造ではなく、物語が進むにつれ輪郭が曖昧になり入れ子の中身が渾然一体となってゆく。さすがにオースターらしい。途中までわくわくとした気分で高揚しながら頁を繰っている自分を意識する。

    しかし、途中から雰囲気が変わる。徐々に作中の人物に語らせる言葉に意図的な刺々しさを感じ始める。違和感が押し寄せる。剥き出しの感情、それも決して幸せな気分ではない。怒り。打ち降ろしようのない振り上げた拳。いらいらとした感情が登場人物の背後に蠢く。

    どろどろとした感情を小説に持ち込まないで欲しいとか、ポール・オースターらしくないとか言って拒絶するつもりはない。しかし、この焦燥感と怒りの感情は双方向の遣り取りを生み出さない。一方的に言葉を発するものから受けとるものへ作用する。そして、それを受け止め損ねた読み手を置き去りにする。むしろその峻別を意図しているのか。そう勘ぐる程に言葉が鋭い。

    もちろん、これまでのオースターの作品とてニューヨーカー的リベラリズムが基調となっていたし、政治的な色で言えば青を志向していることは明らかであったけれど、個人的な主張を読み手に迫るようなことはなかったと思う。恐らく違和感の元はそんなところにある。オースターが揶揄する人物が「お前の旗を見せろ!」と迫ったことと同じことを、主旨は違うとはいえ迫つている。その矛先の鋭さが、ことの良し悪し以前に拒む気持ちを駆り立てる。

    中盤までの複線化した物語は、結局何処へも辿り着かない。それはオースターの小説によくある二疋の蛇が互いの尾を食らって徐々にその輪を小さくしていく展開と見えるのに。その先に待ち構える空白を巧みに描いて見せてくれるのがオースターの魅力であると思うのだが、この本の中に仕組まれた二重三重のからくりは、まるでメビウスの環のように思わず魅せられてしまう程であるのに、途中で打ち捨てられたままとなる。そんな消化不良も手伝って久しぶりのオースターにやや呆然とした気持ちになる。

    作家自身の心の闇。9.11以降のニューヨーカーのPSTD。どうしてもそんなようなことを考えてしまうけれど、何かを力ずくで取り除こうとすれば、それは新たな心の闇を生む。為すべきことは、ひょっとしたら沈黙なのかも知れない。口を禁んでいれば、少なくとも誰かを傷つけることはない。消極的な自殺願望。そんな思いの狭間で、オースターは答えを保留する。その態度に唯一救いを見る。

  • 初老の男のある一夜を描いた小説。寝られない男があてどなく思想を巡らすというのが、この小説のだいたいの内容であるが、その『あてどない思想』が面白い。物語を考え、孫との会話を思い出し過去に思いをはせる。今は一緒に住むことになった、傷心の家族のことを思いやる。それだけの小説なのだけど、アメリカと戦争、女性、人生など深遠な内容が含まれ、それだけで充分に面白い。さすがオースター氏。絶賛。

  • 軽い本を読んでいると軽い本が読みたくなるし、ポール・オースターはじっくりと落ち着いて読みたいので、まあ、その時期になったということですね

  • 可能性としての「911が起こらなかったアメリカ」の虚構の物語を作り出していく男と、そこに奇妙に絡んでいく現実の世界。
    この本を読む時、読者は物語を作り出していく男の目線に合わせて読み進めていくのだが、そもそもこの男自身が作家による虚構の産物に他ならないため何重ものメタ構造を理解しながら読まねばならず、時として自分が「どの現実」を生きているのか(『今この本を読んでいる私』を含め)が分からなくなっていく。
    非常に面白い。

  • 老いた男が眠れぬ夜を過ごす為に頭の中で物語を作り出す。物語の世界と現実の境は交錯しはっきりとしない。その世界は起こりうるかもしれない殺伐としたアメリカの未来だ。一方で老いた男は心に深く傷を負った孫娘に、亡くなった妻について語る。夫婦の歩みは山あり谷ありだが、そこには長年生きてきたからこその確かなものがある。現在を生きる私たちには不安な未来しかないし、先の見えない闇の中にいるのかも。それでもラストは、少しでもより良く生きるよう努力はできるって感じさせてくれる。

  • Man in the Dark 闇の中の男、男と訳されているものの、Manは一般に人である。作中の老人のみならず、人間全てが纏う闇とは何なのか。作中に限れば戦争や、浮気、喪失感、夜が闇にあげられるだろう。しかしそれは全て突き詰めれば人間にとっての、世界にとっての自然natureである。死者も正者もみな闇の中。

  • 小津安二郎の東京物語が作中で語られる。泣ける。映画を観たくなる。

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