アニルの亡霊

  • 新潮社
4.05
  • (9)
  • (4)
  • (8)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 67
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105328030

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • マイケルオンダーチェ「アニルの亡霊」https://books.google.co.jp/books/about/%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%AB%E3%81%AE%E4%BA%A1%E9%9C%8A.html?id=89SYPQAACAAJ 読んだ。よかった。よかったけど辛い。法医学者がジェノサイド調査でスリランカへ派遣される話が幹。いろんな人物が入れ替わり登場しては消えその全員が傷ついている。ずっと暗闇の中で断片的に話は進み、描写は映像的で美しい(おわり

  • 読んだあとしばらく放心してしまった。重量級の小説。知らなかった、スリランカの内戦の凄まじさ。毎日のように出る誘拐による行方不明者、テロの怪我人や死者。その日常の中で暮らすということ。スリランカで生まれ外国で暮らして法医学者となったアニルはオンダーチェの生い立ちとも重なり合うところが多い。そのアニルが帰国して政治テロの大量殺人を暴こうとするという設定だからこそ、外から見たのではないスリランカと、そこに暮らす人々が生々しい。生々しく悲痛で、苦しい。光の描写が印象的。そしてラストシーンは映像的で素晴らしい。

  • 【再読】
    一回目→2001/10/
    二回目→2007/9/13
    三回目→2015/3/23

  • 「「ユングは絶対に正しいことを一つ言った。われわれの思考は神にとらわれている。その神と同じ側に身を置いてしまうところに間違いがある」 これがどういう意味であるにせよ、何となく深みのある警告のように思われて、彼らは心に留めておいた。」-『鼠』
    記憶の断片は、前後をバラバラにして並べられたとしても、互いに触手のようなものを伸ばして繋がろうとするように見える。もちろん、記憶の断片自体が能動的にそのような因果関係を作り出そうとするはずもなく、その感覚は断片を受け取った側の人間の意識が自動機械のように作り出す感覚だ。人は全く関係のない二つの出来事の間に、ありもしない関係性を「発見」してしまう。そんなオートマトン的関係性構築の仕掛けを意識的に打ち壊そうとし、記憶の断片の間を錯綜する糸を断ち切ろうする作家がマイケル・オンダーチェだと思う。

    断片を脈絡もなく示しておいて、謎解きの遍路へ読者をぐいぐいと引っぱることもできるだろうに、と思う。しかし、少なくとも意図的にそういう一つの企まれた方向に読む者を追い込まない態度がオンダーチェにはあるように思う。それでも、自分の中のオートマトンはしつこく断片どうしを縫いつけようとする。これらの記憶の断片は一つのストーリーを綾なすものとして読むべきものなのか、それとも、人生には触手が半分伸び欠けたままに放り出された記憶の断片が、意味はどうあれ、あちらこちらに散らばっているのが自然であるのだとする作者の意図を汲み取るべきなのか。そのどちらとも読みかねる。その掴みどころのなさが、実はオンダーチェの魅力であるのかもしれない。

    例えば学術的文献を読む際に、よく警句としても言われることだが、技術論文のような論理性が必要以上に強調されている文章からでさえ、人は読みたいものしか読みとらない。それは決して意図的に読みとらないのではなく、読み取れない、というべき事実だ。そうしてみると、オンダーチェの小説から何を読み取る(あるいは読み解く)かは、結局のところあまり突き詰めて考えても仕方がないことなのかも知れない。作家の意図がどこにあるのかを問うことは、正しい問いではないのかも知れない。意図はどうあれ、それは読むものに委ねられてしまっていることなのだろう、と思うのだ。

    あるいはそれでよいのかも知れないと思いつつ、心の奥にある小さな引掛りにいちいち気を取られる。スリランカの強烈な自然と内戦下の非常さが、物語の展開いかんに係わらず、こちら側の脳の中に侵入しようとしてくるのを意識してしまうのだ。憤りはそこかしこに、ある。だからといって、何かが意図的に糾弾されているようではない。そして、その憤りを読み取ったとしても、問題の根源は一つの視点からだけでは決して見通すことができないことも同時に理解される。そうは思うのだけれど、それでも、オンダーチェがこの作品を通して、読むものにその憤りの存在を知らしめることを、やはり意図していたのではないかという思いが、打ち消してみてもしつこく湧き上がるのである。

    そして、てっきりカナダの作家であると思っていたオンダーチェが実は主人公の一人であるアニルと同様の過去を持つ人であると知るに至って、ますますその思いが強くなるのである。

  • 著者の故国スリランカを舞台に静かに語られる虐殺の記憶。語り口がすばらしいです。

著者プロフィール

マイケル・オンダーチェ(Michael Ondaatje)1943年、スリランカ(当時セイロン)のコロンボ生まれ。オランダ人、タミル人、シンハラ人の血を引く。54年に船でイギリスに渡り、62年にはカナダに移住。トロント大学、クイーンズ大学で学んだのち、ヨーク大学などで文学を教える。詩人として出発し、71年にカナダ総督文学賞を受賞した。『ビリー・ザ・キッド全仕事』ほか十数冊の詩集がある。76年に『バディ・ボールデンを覚えているか』で小説家デビュー。92年の『イギリス人の患者』は英国ブッカー賞を受賞(アカデミー賞9部門に輝いて話題を呼んだ映画『イングリッシュ・ペイシェント』の原作。2018年にブッカー賞の創立50周年を記念して行なわれた投票では、「ゴールデン・ブッカー賞」を受賞)。また『アニルの亡霊』はギラー賞、メディシス賞などを受賞。小説はほかに『ディビザデロ通り』、『家族を駆け抜けて』、『ライオンの皮をまとって』、『名もなき人たちのテーブル』がある。現在はトロント在住で、妻で作家のリンダ・スポルディングとともに文芸誌「Brick」を刊行。カナダでもっとも重要な現代作家のひとりである。

「2019年 『戦下の淡き光』 で使われていた紹介文から引用しています。」

マイケル・オンダーチェの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×