逆光 (下) (Thomas Pynchon Complete Collection)

  • 新潮社
4.24
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本棚登録 : 270
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (845ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105372057

作品紹介・あらすじ

"侵入者"は実在していた。歪み始める時間と空間、儚き者たちの恋と運命。"不都号"の面々は自分たちの任務に疑問を抱き始める。トラヴァース家の長兄リーフは賭博師として流浪を続け、次兄フランクはメキシコ革命に身を投じた。末っ子キットはヴァイブ家の元を去り大西洋を渡る。そして唯一の娘「嵐の子」レイクは…。膨大に登場する、愚かしくも滑稽な人物の数々。その愛しさと哀しさ。もつれ合う彼らの生は、やがて訪れる驚愕の一瞬を目撃すべく、急速に収斂してゆく-。歴史小説にしてSF、恋愛小説にしてポルノ、テロ小説にして大河家族小説。綿密な史実の積み重ねが現代を照射し、荒唐無稽な挿話が涙を誘う。文学の垣根を超える貪欲さと自由さが(改めて)世界中の絶賛と茫然を呼んだ空前絶後の巨篇、世界への祈り。

感想・レビュー・書評

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  • 上巻が理解出来ないと、やっぱり下巻もさっぱり理解出来なくて、上下巻でたぶん状況を理解できたのは1行もないかも・・・。でもきっと、きちんと読めれば話が色々と絡みあって、すごく面白い小説なんだろうなぁ・・・。

  • 2013/2/4購入

  • 上巻読了段階では予想だにしない展開。
    19世紀末のアメリカから始まった物語は、下巻において、20世紀初頭の「世界」―ここでいう「世界」は抽象的な世界ではなく、具体的な、いうなれば、大地の香り漂う「世界」!―を描いていく。そして、各登場人物たちの放浪はやがて一つの場所に収斂し――ああ!面白すぎる!!
    とにかく、下巻においては彼らのホーボーがやたらと面白く――といってもすんなりアタマに入ってくるわけではありませんが、中盤からグルーヴ出まくりで一気読みでした。この突然ギアがはいってしまう感覚もピンチョン体験。
    (加えて、「具体的な世界」と思っていたものに揺さぶりをかけられて、アタマがグラグラするのもピンチョン体験。恐ろしい)。

  • ピンチョン「逆光」の下巻
    相変わらずの空間列の飛び具合と各エピソードのぶつぎれ具合炸裂ですが、それもピンチョン小説の個性。最後で意外に収束するんで大丈夫です。まあ相わらずの知識とガラクタのごった煮状態で話はあちこち飛ぶし辛いんですが最後でキチンと風呂敷折り畳まれるので大丈夫です

  • 前作『メイスン&ディクスン』の刊行から九年後になる2006年に発表された。原題は“Against the Day”。「the Day」には、聖書の「裁きの日」の意味が付随する。それが、何故「逆光」という邦題になるかと言えば、dayをday(light)の意味に取る用法があるからだと訳者あとがきにある。たしかに、光と闇の対立という主題は作品の中で何度も言及されている。興味深いことに、通常主人公は光の側に位置するものだが、この作品では光は戦争の最終兵器の扱いを受け、ヒーローたちは、常に森の奥深くや夜の闇、或いは地下深くで活躍する。まさに、光に逆らっているのだ。

    前作でもそうであったが、ピンチョンは歴史的できごとを物語の中に組み入れることを愉快に感じるタイプらしい。本作でもマヨネーズその他歴史の中に初登場する事象を巧みに配置し、読者を飽きさせない。では、その時代とは、1893年から第一次世界大戦直後に至る時代、アメリカ西部においては「辺境(フロンティア)」が消滅していく時代であり、都市部では大量の失業者があふれ、炭坑では組合が結成され弾圧の嵐が吹き荒れた時代である。

    H・G・ウェルズの『タイムマシン』やジュール・ヴェルヌの『気球に乗って五週間』や『地底旅行』の時代でもあり、実際にスヴェン・ヘディンのさまよえる湖「ロプ・ノール」の発見は1893年から97年にかけての中央アジア探検においてであった。

    寄席芸にお題拝借というのがある。客があげた題を素材に即興で話をしたり紙を切ったりするものだが、ピンチョンが歴史という素材を扱う手際はそれを壮大なスペクタクル・ショーに仕立てたようなものだ。彼が使うのは、当時世界を騒がしていた話題、例えば「大工場、鉄道、探検、SF、映画、気球、奇術、西部の喪失、劣悪な労働条件、労働組合に対する弾圧、強欲、無政府主義、テロ」等々。

    よくもまあこれだけのネタを惜しげもなく一作の中に注ぎ込むものだという読者の呆れ顔を無視し、矢継ぎ早に場面転換し、新しい人物を登場或いは再登場させ、アメリカからバルカン半島、さらには中央アジアへと舞台を移しながら描くのは、ひと言で言えば父を殺された一家の男たちの復讐譚。

    炭坑で働くウェブ・トラヴァースには、労働組合を弾圧する資本家に対抗する手段としてのテロ活動を行うダイナマイト爆発魔「珪藻土キッド」の顔があった。家族に知られることなく活動していたウェブだったが、資本家スカーズデール・ヴァイブが放った殺し屋の手にかかって無惨な最期を遂げる。残された兄弟たち、リーフ、フランク、キットは、散り散りになりながらも父を殺した犯人とそれを命じたスカーズデール・ヴァイブを追いつめるのだった。

    こう書いてしまうと、いかにも時代がかったどろどろの復讐譚のように思いがちだが、そこはピンチョン。男たちの復讐を縦軸にしつつ、第一次世界大戦前夜のヨーロッパという時代背景を活かして、各国のスパイ合戦を横軸に絡ませ、潜行艇やら気球、果ては潜砂艇などというSFチックなアイテムまで繰り出して破天荒な物語を紡ぎ出した。スパイ物といえば妖艶な美女がお決まりだが、次々に登場する美女たちは、単なる飾り物にあらず、実に魅力的に創造されている。魅力的な男と女がいればそこに愛が生まれるのも必然。同性愛、異性愛を問わず多種多様な性愛が描かれているのも作者のサービスか。

    無政府主義という、今となってはいささか時代がかった思想にずいぶん肩入れした作品である。9.11以来、国家の威信をかけてテロとの戦いを合い言葉にするアメリカにあって、あえて爆弾テロを行う男とその家族を主人公にしたピンチョンの意図はともかく、厖大な資本力を背景にやりたい放題の権力に単身で拮抗しようとする男や女の姿は哀感を帯びて実に美しく読む者の胸に迫る。

    とかく文章が難しいと思われがちなピンチョンだが、本作に限って言えば長さを別にすれば、訳文も読みやすく冒険小説を読む感覚で読み続けられる。難解な数学理論が頻出するのは文系には辛いが、理系の読者には面白いかもしれない。きわどい描写もあるので、一概には勧めることはできないが、仲間や家族のために果敢に渦中に飛びこんでいく主人公たちの心意気に共感できるのは、本当は若者だけかもしれない。若い読者にこそ読んでもらいたい小説である。

  • 3ヶ月近くかけてピンチョンの逆光をようやく読了。疑似科学、SF、ファンタジー、歴史、エロ、テロ、恋愛、家族・・。あらゆる小説のバリエーションをいっしょくたに詰め込んだような物語。ひとつの家族の物語を軸に展開するので、わりとキャッチーな筋のはずなんだけど、感想としては「ちょっと何いってるかわからない」。

    独立していたり、互いに関連していたり、意味があったり、なかったりする膨大な関係の網の目がごちゃごちゃのまま語られるからわけわかんない。

    たぶん総体だと○年×月、こんなことがありました、てひとくくりの意味にまとめられちゃうんだろうけど、網の目のひとつひとつが、バカバカしいし、悲しいし、笑えるし、美しい。つまりはそういうことなんじゃないかと。だからあえて解きほぐさないんだと。

    こういうお話です、と一言ではとても表せないし、表してもしょうがない。統一感のないやたらとたくさんのパーツを積み重ねたいびつな物語だし、その一つ一つが等価で意味がある、あるいは等価で意味がない。

    ウェブ・トラヴァースという父親から始まる網をすべて書く、という壮大な試みなんだと思う。細部に至るまで想像して、想像し尽くした上ですべてを書き尽くそうとしているんだと思う。あったことも、あったかもしれなかったことも。だから理不尽に見えるほどわけわからないことで満ち満ちてしまうんだと思う。
    でも、M&Dと同様、最後にすばらしい終わりを用意してくれたおかげでやっぱりとても好きな小説だ、て自信もって言える。

    しばらくしたらもう一度読み返したいけど、そんな元気出るかなあ。
    あ、あと「V.」の読者に朗報です。メラニーは生きています!あれはラズベリージャムだったんだって。よかったね。

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