V. 上 トマス・ピンチョン全小説

  • 新潮社
4.08
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105372071

感想・レビュー・書評

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  • 話がどんどん膨らんでいく。あっちからもこっちからもストーリーが押し寄せてきて目が回るような読書体験。

  • 去年から積んでおいたV.やっと上巻読みました。相当集中しないと読めません。密度が濃い。

  • ピンチョン=難解というイメージが先行しているようだけれど、そんなことはない。一つ一つの章で区切りをつけて読みすすんでいけば特に理解し難いところはない。登場人物の多さと錯綜する二つの時間軸の存在が単に理解を妨げているだけだ。一度読んだだけで分かったつもりになるのは確かに難しかろうが、再読すればあらかた分かる。三読すればピンチョン・ワールドにはまること請け合い。批評家でない単なる読者のありがたいことは、すべてが分かる必要などないってこと。そう開き直ってしまえば、ケネディ登場以前のアメリカを背景にしたこの小説が21世紀の今読んでもとんでもなく面白いことにびっくりするはず。

    登場人物の多さと二つの時間軸についてはすでに述べたが、そもそも二つのレベルのちがう物語が一冊の本の形式に綴じられているのがこの作品だ。その一つは、1955年のクリスマス・イヴに始まるベニー・プロフェインというヨーヨー男の物語。ヨーヨーに自分の意志がないように、自分というものを持たず、行き当たりばったりな生活を続けている。ある時は一日中地下鉄に乗り続け、そうでなければ酔っぱらって他人の家に転がり込むという生活。どう贔屓目に見てもヒーローにはなれないタイプだが、この男やたらもてる。ビリヤードの球のように転がっていくプロフェインがぶつかる何人もの男女、NYを拠点に活躍するレコード会社の社長や小説家、画家、ジャズマンといった一癖も二癖もある連中との酒とパーティーとセックスだらけの生活。デカダンスに満ちた日々をクールに、けれど優しく描いたパートは、どう考えても愛し合っている二人の男女が自意識に絡めとられて身動きできずに傷つけ合うラブ・ストーリー。スラップスティック的色調で描かれているが、その裏にしみじみとした哀感がにじむ。

    もう一つは、ハーバート・ステンシルという男が収集した「V.」についての物語群である。ステンシルの父は二つの大戦時をスパイとして生きた。彼が残した手記に書かれていたのが、「V.」という謎の存在である。父の残した「V.」を追跡するのがオブセッションとなったステンシルは、手記に残された手がかりを頼りに「V.」に纏わる情報を集めるのだった。このパートは、もう一つの物語とは色調が全く異なる。ある時はスパイ活劇調であり、またある時はグラン・ギニョールめいた残酷さを帯びるといった具合に。「V.」とは何か、というのがヒッチコックがいう「マクガフィン」である。真面目な読者は、ついついそれにひっかかるが、話を引っぱっていくための道具に過ぎない。ヴィクトリアやヴェロニカといったヒロインたちや物語の鍵を握るマルタ島の首都ヴァレッタの頭文字。歴史を動かす大きな陰謀の陰に暗躍する危険な魅力を持つ「女」を象徴する文字である。

    面白いのは、この二つの相容れない物語が、ステンシル親子を蝶番にして繋がっていることだ。一例を挙げれば、プロフェインのつきあっているパオラは、マルタ島の詩人でステンシルの父シドニーに情報を流す二重スパイ、ファウスト・マイストラルであったという具合に。パオラがステンシルに読ませる父の手記が、まるまる十一章「マルタ詩人ファウストの告解」に充てられている。戦争を契機に一人の青年詩人が人間性を喪失し「非人間性」ではなく「無人間性」を持つにいたる経緯を綴った文学性の濃い自伝は、全く別の異なった一篇の小説を読んでいるような気にさせる。

    次々と繰り出される挿話のバリエーションの豊富さに圧倒される。フィレンツェ、ヴェネチア、パリと旧世界の華やかな都市を経巡る舞台の意匠もさることながら、それぞれの物語を語る語り口の変化も見逃せない。オペラ座における暗殺事件の顛末を描いた第三章「早変わり芸人ステンシル、八つの人格憑依を行うの巻」ではヴァージニア・ウルフばりの話者の素速い転換で目眩く舞台転換を軽々とさばいてみせる。第九章「モンダウゲンの物語」では、歯科医アイゲンヴァリューが若き日の独領南西アフリカでの残酷と頽廃の日々をたっぷりと語り尽くすのだが、ここでも夢うつつの裡に語られる物語の話者が果たして誰だったのか判別し難くなる曖昧なナラティヴが駆使され、読者は眩惑される。

    定職や定住を厭うプロフェインは何らかの理由でアイデンティティーの確立を放棄している。彼の仲間である「病ンデル連」と称する知的スノブたちも自分は何をなすでもなく出来合いの言葉を投げ合っているだけ。ステンシルという名が暗示するのは大量の複製品である。ユダヤ系のエスターが自分の出自を示す鉤鼻を削りとるために通う整形外科医は、かつて戦争で傷つけられた上官の面貌の修復を期して形成外科医を目指した男のなれの果てだ。現代に生きる登場人物たちに蔓延するのはアイデンティティーの喪失という主題である。

    それに対して、豪華な舞台や配役を総動員してゴテゴテと造りあげているのが二つの大戦をはさむ時代。「V.」が象徴する世界である。絶世の美女や各国のスパイが諜報活動を行い、世界に起きる事件を操っているかのように見える世界。得も言われぬ色彩の乱舞する無可有郷や南極の極点にある世界を閉じ込めた球体の存在が信じられる魅惑的な時代。暴力や殺戮が支配する者とされるものを截然と分かつ世界。何か大きな装置が混沌とした世界を一つに纏め上げていて、人間はその中で決められた役割を果たしているような劇的な時代であり、世界である。

    プロフェインがいつまでもぐずぐずしているのは、混沌とした世界を割り切ることのできる大きな装置などありえないということを言いたいのかもしれない。しかし、恋人レイチェルは、そんなプロフェインや「病ンデル連」を認めない。ステンシルのように大きな世界を束ねる一つの解決策を求めるのではない別の道を探しているのだろう。アルトサックス奏者スフィアが呟く次の科白にそのヒントがある。

    「クールとクレイジーのフリップ=フロップ回路から抜け出るには、明らかに、スローでしんどいハードワークが必要だと。黙ったまま人を愛する。やけを起こさず、自己宣伝をせず、他人をヘルプする。クールに、されどケアを忘れず。Keep cool but care.常識で分かることだ。天啓が閃いたというわけじゃない。自分で言うのも恥ずかしいほど当たり前の認識に至っただけのことである。」この生き方、いつの時代であっても通じるのではないか。今のこの国の状態ならなおさらに。

    百科全書ばりの蘊蓄やら、挿入された歌曲(ジャズあり、ロックあり、モーツァルトのオペラあり)やら、多彩な才能を発揮するトマス・ピンチョンだが、1937年生まれで本作が発表されたのが1963年。若干26歳のこれがデビュー作だというから呆れてしまう。溢れるばかりの才気の輝きに、今更ながら脱帽である。

  • ぶっ飛んだ話も非常に多い。鼻を整形手術する描写では、モゾモゾしてしまった。他に、地下水道でのワニ狩りとかつてそこでネズミ相手に布教活動をした神父の話、暴動を起こすのか絵画を盗むのかてんやわんやするフィレンツェの話が面白かった。
    V.に関してきちんと解き明かされるのか?怪しい気がするが(ただの誇大妄想かもしれない)、それも含めて、下巻も楽しみ。

  • 帯に池澤夏樹さんの「今さら「V.」について何か言うことがるだろうか。」との言葉がある。僕が「V.」について知ったのは、30年真に読んだ池澤さんの「小説の羅針盤」での書評と思う。いつかは読もうと思ってから随分時間がかかった。最近では松岡正剛さんの「方法文学」での紹介もあり、いい加減に手を出さないとと思い、本屋に注文した次第。
    「V.」を探し求める話ということは耳にしたし、何が何だか判らないということも聞いた。兎も角、心して読み始める。

    主人公の一人、プロフェインが聖夜に軍港に登場する。海軍仲間との莫迦騒ぎは、猥雑でパンクとしか言いようがない。彼は、何の感情もなく仲間たちの中に流されていく。やがて、地下道でワニ退治を務める。語られるのはネズミ達を改宗しようと励んでいた神父の話。神父はV.こと、ベロニカというネズミと魂を通わせたという。
    (引用)V.は修道女になりたいと云う。その気持ちが伝えられたとき、私は、現時点で彼女が所属できるような公式の女子修道女がないと云った。
    一体、僕は何を読まされているんだ、という気も嘘じゃない。しかし、ごちゃごちゃしてるのに、変に引き付けられる文章で、そこそこの文章量が苦にはならない。

    判りづらいのは第三章である。
    唐突にもう一人の主人公、ステンシルの父親の物語が始まり、その語り手が第三者であり、それが色事師のウェイター、レストランの下働きに駆り出されたアナキスト、落ちぶれた芸人、列車の車掌、馬車の御者、軽業師の泥棒、ビアホールの女給、とコロコロ変わる。しかも彼らが登場人物をしっかり把握しているわけじゃないから、何が何だかということになる。

    以下は自分が読み返すときのための忘備録
    サー・アラスター・レン:英国貴族
    ビクトリア・レン   :その娘
    ミルドレッド     :ビクトリアの妹、11歳ぐらい
    シドニー・ステンシル  :主人公の父、デブ、金髪、
    ポーペンタイン     :父の同僚、ツイードを着ている。段々顔の日焼けが酷く。
    グッドフェロー    :ポーペンタインの相棒。ビクトリアと恋仲。白髪
    ボンゴ・シャフツベリー:ドイツ人
    レプシウス      :ドイツ人
    でも、これは間違っているかもしれない。
    最後の殺人シーンは誰が誰を殺したんだ。読み返したら、かえって判らなくなった。

    父ステンシルの話は、探検家ゴドルフィン、その息子エヴァンへと続く。ボッティチェリの「ビーナスの誕生」の盗みと革命騒ぎが交錯し、ゴルドフィンの口から南極大陸のヴィーシューの氷の下の七色クモザルの死体が語られる。思わず、なんじゃそりゃ、と思う。

    確かに面白いが、どう説明していいんだか判らない小説だった。その意味では予想通りなのかな。

  • 世界最高峰ともいわれる著者のデビュー作。覚悟をもって読むべし。

  •  世界一周をしているような雰囲気に浸れる。

  • 4.16/471
    『ヴィクトリア。ヴェロニカ。ヴェラ。……世界史の闇に? 遍在し? 暗躍する? 謎の女? V.。彼女は実在するのか? 聖なのか魔なのか? 謎に憑かれた男ステンシルとダメ男プロフェインの軌跡が交わるとき――。奇っ怪にして爆笑のエピソードを満載した天才の衝撃的デビュー作、20世紀文学の新古典が、30年の時を経てついに新訳!』(「新潮社」サイトより▽)
    https://www.shinchosha.co.jp/book/537207/

    原書名:『V.』
    著者:トマス・ピンチョン (Thomas Pynchon)
    訳者:小山 太一、佐藤 良明
    出版社 ‏: ‎新潮社
    単行本 ‏: ‎382ページ(上巻)

    メモ:
    ・松岡正剛の千夜千冊 456 夜
    ・死ぬまでに読むべき小説1000冊(The Guardian)「Guardian's 1000 novels everyone must read」

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  • 1回読んだだけだと主要人物が誰かということしかわからなかったので、感想は再読してから… でも触媒的な女性の描き方とか何故かモテる僕とか、ハルキぽくて好きじゃないんだ…

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