トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[下] (Thomas Pynchon Complete Collection)
- 新潮社 (2014年9月30日発売)


- Amazon.co.jp ・本 (748ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105372132
作品紹介・あらすじ
世界文学史上に空前の伝説を刻んだ33万語、100万字超の巨篇――新訳成る! 耳をつんざく叫びとともに、V2ロケット爆弾が空を切り裂き飛んでくる。ロンドン、一九四四年。情報局から調査の命を受けたスロースロップ中尉は――。 ピューリッツァー賞が「卑猥」「通読不能」と審査を拒否した超危険作にして、今なお現代文学の最先端に屹立する金字塔がついに新訳。詳細な註と膝を打つ解説、索引を付す。
感想・レビュー・書評
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今まで読んだ中で恐らく最も長く、難解な小説だった。
本を持つ手は筋肉痛になり、ほぼ毎日のように不眠・頭痛と戦いながらも、内容が面白いので、決して中断はできなかった。
原文を眺めながら所々邦訳を参考にして齧り付くように読み切った二ヶ月間だった…
ただ読後の達成感はハンパじゃなく、また内容の問題意識も重厚なので、この物語は一生私の心に残り続けると思う。
ポストモダン最高!ピンチョン最高!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これは高度な知性と技術によって構築されたロケットそのものであり、同時にまた破壊された情報と文化の残骸でもあるのだろう。超然とそびえ立つ本作は確かに難解で複雑だが、二項対立が無化され権力がシステマチック化された現実ほどではない。エロも戦争も科学も映画も並列して存在する20世紀、そんな不思議の国に起立するバベルの塔の様な本作は自分にとって歴史という罪への、敗北したカルチャーへの供物のように感じられた。時代が勝者によって作られようとも、ピンチョンが打ち込んだ楔は誰も消し去れやしない。そして驚くことにまだ笑える!
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もうね、何が何だかさっぱりわかりません。
誰の話なんだか、いつの話なんだか、何の話なんだか、一回道に迷ったら最後、いつまでたっても迷いっぱなし。で、気が付いたらいつのまにかロケットに押し込まれてドーン!と発射。
どうにもわからないから、正義とか裏切りとか、愛とか憎しみとか、要は僕でも理解できる感傷に逃げ道を探してわかったような振りをしてみたいんだけど、ピンチョン先生はそんなことは全く許してくれず、やたらと多い登場人物たちが頻繁に出たり入ったりするもんで全くついていけないドタバタ劇と、複雑に絡み過ぎていてもはや誰が誰に仕掛けたものかわからない陰謀の千枚漬けの中でひたすらもがき続けるような読書体験。共感の付け入る隙が一切見つかりません。
ちなみに、どんなお話かかいつまんで説明すると、「V2ロケットとか戦争とか巨大複合企業とか二元論とか植民地とかSMとかバナナとかドードーとか蛸とか、のお話」です。
で、その中に「電球バイロンの物語」という章の中で完結してくれる比較的わかりやすい物語内物語がある。「バイロンという永遠に切れることのない完璧な電球」と、「切れるからこそ需給関係が成り立つ消費財としての電球流通システムである巨大白熱電球カルテル」との対立、という構図。
はじめはカルテルに追われる逃亡者として、次に怒りを抱えた反逆者として電球たちに連帯を呼びかけようとするもかなわず、胸の内にはフラストレーションをくすぶらせつつも永遠に光りを放ち続ける無力な電球という宿命を無力さとともに受け入れ、沈黙の中で傍観者となるバイロン。あの電球のころんとした形と相まって可愛いような可哀想なような、ひねくれバイロン。
帯によると400人以上の登場人物がいるらしいんだけど、その中で、一番感情的な思い入れをしやすいキャラクターが「電球」てのもなんかの冗談なんじゃないでしょうかね。 -
決して読みやすくはない。それに長いし。旧訳にあった日本語として明らかにおかしい部分は直っているように思うものの、新訳だからといって特に読みやすくはなっていない。もともと原文を知らないので、訳について言及するのは避けておくが、欄外の註については一言ふれておく必要があるだろう。OSS等の略語や化学・工学に関する学術用語、映画や音楽の引用、言葉遊び、宗教学・神話学・隠秘学関連の知識等々が頻出するピンチョン・ワールドに少しでも近づきたいと思う読者には実に懇切丁寧な解説がなされている。
『重力の虹』とは、ロケットの軌道が描く放物線の隠喩である。第二次世界大戦末期、英国に対する報復兵器としてナチス・ドイツが開発したV2号ロケットにまつわる国際的な陰謀を、想像を絶するスケールで描いた小説。場面が切り替わるごとに、とんでもない数の人物が登場しては、某議員なら「口にするのも汚らわしい」と口にするだろうSMをはじめスカトロジー、ペドフィリアなど異常性愛の百科全書完成を企図したかのような、ポルノ・グラフィーまがいの卑猥かつ下品な語句が機関銃のように連射される文章に交じって、ロケットやプラスティック開発に関する解説抜きの専門用語がぽんぽん出てくる小説で、万人向けとはとても言い難い代物。
作者自身が持つパラノイア的といえる被害妄想や誇大妄想が、抑圧からの解放を待っていたかのように爆発的に展開しているのが最大の特徴といえる。ふつうなら、これだけ多様な挿話をひとつの小説内に封じこめるのは無理と考えて、いくつかに分けて別の小説にするものを、無理矢理、力ずくで一つの作品にしてしまった。旧訳についで新訳、と二度読んだが、正直なところ読み通すのが、つらかった。波に乗り、集中力が持続するときは、ドライブ感がある文章に乗せられて、ドーパミンが出まくり、とんでもなく面白いのだが、一つ躓くともういけない。卑語、俗語の多用に辟易してしまい、読み続けるのが苦行と化す。読むのにある種の体力を要する小説である。
極めて映画的な小説でもある。映画に詳しい読者なら、作者が設定したキャスティングに従って脳内で映画化を試みるといいかもしれない。アメリカ人のグループが登場すると西部劇やらハリウッド映画が、ドイツ人たちにはウーファ映画からフリッツ・ラングやムルナウの作品、と有名な映像から男優、女優が多数招聘され、小説に華を添えている。
作品の主題や作家の世界観を真面目に論じるのも気が引けるような破天荒な小説なのだが、馬鹿を承知で無理矢理こじつけてみるなら、「この<戦争>は、政治とは無関係。政治は完全にお芝居、民衆の注意をそちらに向けておいておく(ママ)ためのものであり…その陰でテクノロジーの要請こそが、専横的な力を揮い、事態を動かしていた…人間と技術とが一体となって、戦争というエネルギー・バーストを必要とする何者かに変化したのだ。表向きは「カネがどうした、わが国(どの国も挿入可能)の生存がかかっているのだぞ」と喚めきたてているものの、その意味は、おそらくこうだ」のようなところに見え隠れしているのではないか。
ピンチョンに、アナーキストに寄せる偏愛があるのはよく知っているが、後にはストレートに示されるその傾向がネガティヴな形で噴出しているのが『重力の虹』ではないだろうか。誰にも愛される主人公があちこち引きずりまわされ、道化めいた扱いをされ続けた挙句ぼろぼろになってしまうあたりに、救い難い世界に対する苦味が強く感じられ、せっかくのヒューモアも打ち消されてしまっているように感じられてならない。「全小説」と銘打たれたシリーズが刊行され、次々とピンチョンの小説が訳される中、ようやく代表作の新訳が完成したことはまことにめでたい。訳者曰く「三度読めば分かる」そうだ。ファンなら、読むしかないだろう。(上巻も含む) -
なんというか。あまりにも変すぎる小説。異国の文化の中にガッチリと根を下ろしていて、軽いテンションで読めない。
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下巻最初の方のペクラーの話がまだわかりやすく感じた。
が、相変わらず話は飛ぶし、ロケットに関しての解説は長いし、主人公だれだっけと思ってたら、ああ、そうだスロースロップだった気がする、程度の記憶で読んでた。
面白いかと言われるとそれほどでも? と思うが、続きは気になるので読み進めて何とか読めてしまった。
うん、長かった、重かった、眠いときがあった、そこそこ楽しめた。
長年気になってた本が読み切れた達成感の方が強い本だった。
それぞれの主人公で普通にシリーズモノとして出してくれてもいいような話だったよ。 -
ついに読み終わった……。天才の書いたヤバい小説。それひとつで一冊の小説が書けるようなイメージが次々と現れては消え、語りはあらゆる方角へとびまわり、ところがいきなり物語として余りにも唐突で強引で笑ってしまうほうどの結びつきを披露する。そして、それらを貫くロケットという抽象的な代物にまで昇華された存在──。そんなわけで、はっきりいって一読しただけじゃわけがわからない。解説を読んで振り返りながら整理して、やっと全体の複雑すぎる絡み合いが見えてくるよう。それでもただただ圧倒される。サラリーマンになったらこんなものを読む気力があるかはわからないが、絶対にもう一度、二度は読みたい。
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自殺願望を成就するために戦争に行くみたいな事が書かれていてなるほどと思った。戦争になるとそういう気分になるのかもしれない。
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【選書者コメント】新訳なら理解が出来るんじゃないかと期待大
[請求記号]9300:1758:下
トマス・ピンチョンの作品





