ビッグバン宇宙論 (上)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105393038

感想・レビュー・書評

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  • 古代の天動説から始まり、地動説、ケプラーの法則、ニュートン、アインシュタイン、そしてビッグバンへと、天文学の歴史が文系の人間にも分かりやすく綴られている。天文学というより、科学という人間の限りない営みの歴史と言った方がいいかもしれない。
    中学生や高校生に読んでもらいたいと思う本。

  • 「光あれ」と神が言ったかどうかは知らないが、150億年ほど前にビッグバンと呼ばれる宇宙=空間の大膨張が起こったことは証拠が出そろって来ており、カトリック教会も実は喜んでいるのかもしれないが公式には自然界を説明する仕事は科学に任せている。1992年ようやくヴァチカンはガリレオを罰したことは間違いだったと認めた。

    天地創造は古代から各地で様々な物語によって語られて来た。やがて観測と理論が様々な事実を明らかにして来ている。大きなターニグポイントと言うか天文学上のヒーローは二人が有名だが、実際には数多くの人たちがビッグバンの証拠探しに貢献している。中にはビッグバン仮説を攻撃しながら計らずも証拠固めに手を貸してしまったものもいる。

    地球の大きさを初めてはかることが出来たのは紀元前276年生まれのエラストテネス。北回帰線上の街シエネで夏至の日に井戸の底を太陽が照らすことから、アレクサンドリアの同じ日の影の長さと2点間の距離から地球の外形を計算した。地球の大きさが分かれば月食の時間から月の直径は地球の凡そ1/4であることが分かり、簡単な三角測量(月をちょうど隠す大きさのものを目からどれだけ離すか)で月までの距離がわかる。そして半月の時の太陽と月の角度から太陽までの距離が分かる。古代ギリシャでは地球が太陽を回るモデルが既に出来ていた。

    しかし、地球が動くと言う説はあらゆるものは宇宙の中心、すなわち地球の中心に向かうという重力モデルでは説明がつかない。地動説の復活は1543年春、コペルニクスが刊行した「天球の回転について」がきっかけになるのだが、コペルニクスは脳出血で倒れこの本の完成はようやく一目見ただけであった。そして、原稿には無く、出版時に後から書き足された序文にこの本は地動説を覆すものではなく、計算に便利だとされたため不動の大地の足下は揺るがないままであった。1609年ケプラーは惑星が楕円軌道だと発見しガリレオが作った望遠鏡の話を聞くことになる。

    天文学上の最初のヒーローはガリレオ・ガリレイ。理論、観察、実験と発明の全てが高いレベルにあるまさに科学者の父だ。望遠鏡の発明はガリレオではなく、彼の功績は望遠鏡の精度を天体観測レベルに引き上げ、そして木星の衛星の観測からコペルニクス・ケプラーモデルが正しいことを証明したことだ。地球の動きを感知できないことについても相対性で説明がつく(この場合は電車の中でのキャッチボールのような)ことを理解していたが1633年の裁判で天文対話は禁書とされ37年には視力を失い、42年に亡くなった。カトリック教会は敬虔な信者だったガリレオを教徒として葬ることを拒み、それがようやく撤回されたのが冒頭に書いた1992年だった。このとき同時にようやく地動説も認めている。1642年生まれのアイザック・ニュートンがケプラーやガリレオの法則をまとめ、万有引力によって楕円軌道の惑星の運動を説明できるとまとめたのが1687年、しかしこの本ではなぜかニュートンは脇役としても登場していない。コペルニクス的転回というと一気にひっくり返ったイメージだが実際にはカトリック教会の影響力に反比例して科学者は地動説を取り入れていったようである。

    次なるヒーローはアインシュタイン、ガリレオの相対性原理を思考実験で使ったアインシュタインは当時信じられていた光はエーテル中を進むと言う常識を疑うことになる。当時16才だった。やがて得られたアイデアは光は観測者に対して同じ速度で進むと言うもので、これが発展して特殊相対性理論が生まれる。そしてこの理論から生まれる結論は時間や空間が一定ではないと言うことだ。重力により時間や空間(アインシュタインによると時空としてひとくくりで扱われるもの)がゆがむ。ニュートンとアインシュタインのどちらの理論が正しいかを示したのは皆既日食の際の星の観測結果だった。太陽ぐらいの質量の星があれば重力により空間がゆがみ光は曲がって進むと言うのがアインシュタインの予測で1919年の観測で実証された。

    アインシュタインの重力理論にも困ったことが起こる。と言うのは宇宙は星などの質量により縮まなくてはおかしいのだ。困ったアインシュタインは収縮する宇宙を嫌い重力方程式に宇宙定数と言う項を滑り込ませる。この項は斥力として働き宇宙が縮むのを防ぎ、値を調整すれば宇宙は伸び縮みせず永遠でいられる。後にアインシュタインは後悔することになるのだが、スーパースターにも失敗はある。ちなみにニュートンモデルでも宇宙は縮んでいく。アインシュタインモデルを元に修正したのはロシアのフリードマンで宇宙が膨張すれば宇宙定数を無くせると考えたがアインシュタインはこの考えを否定する。フリードマンは無名のまま死に、このアイデアはベルギーの聖職者ルメートルに引き継がれる。ルメートルも膨張する宇宙をソルヴェイ会議に出席した際にアインシュタインに説明するが否定されてしまう。アインシュタインも理論と計算の正しさは認めながらも静的な宇宙に固執しており、権威を嫌ったアインシュタインが権威になってしまっていた。いずれにせよ1927年当時は理論を裏付ける観測はされていなかった。

    ガリレオに続く天文観測はレンズの口径、望遠鏡そのものの巨大化などで進歩していく。天の川銀河の観測に始まり遠くの星までの距離を見積もる方法が考えだされていく。初めて星までの距離を測定したのは1838年、ドイツのベッセルは地球の公転による角度のずれから白鳥座61番星までの距離を求めることに成功した。11.4光年およそ百兆kmである。これを元に天の川銀河の大きさも見積もり次に星雲に目が向かう。初めて星雲をカタログにまとめたのはフランスのメシエ、メシエ番号で整理され例えばアンドロメダ星雲はM31、ウルトラマンはM78だ。実在のM78はオリオン座にあり地球から1600光年これでは通信も出来ない。星雲は天の川銀河の中にあるのか外なのか?言い換えれば宇宙の大きさは天の川銀河と変わらないのかそれともその外に大きく拡がっているのか?この答えを見つける鍵は明るさが変わる星、変光星にあった。ガミラスとイスカンダルのように双子の星はよくあり、恒星の場合一方が明るい場合に暗いほうの影になると明るさが変わるしかしこのタイプの星はなんの貢献もしない。別のタイプの変光星は一気に明るくなりその後徐々に暗くなっていく。例えば北極星もこのタイプで周期は4日だ。ある観測の結果この星の固有の明るさと周期に相関があることが明らかになった。つまり周期の同じ星の見かけの明るさから相対的な距離が分かる。定期的に噴火する火山をイメージすればいいかもしれない。同じくらいのエネルギーの火山は同じくらいの規模の噴火を同じ周期で繰り返すと。宇宙望遠鏡に名を残すハッブルがアンドロメダ星雲を観測した結果この変光星を見つけアンドロメダ星雲はアンドロメダ銀河になった。

    太陽の光線スペクトルを分光するとその波長から燃えている物質がわかる。シリウスのスペクトルを調べると太陽とほぼ同じながら0.015%吸収線が長波長側にずれている。いわゆるドップラー効果がみられる。と言うことはシリウスは地球から遠ざかっていると言うことだ。宇宙は膨張しているのか?

    ここまでが上巻です。

  • 題名を見て、ビッグバンに始まる宇宙の進化についての本だと思って読み始めたら、初めて地球の大きさを測ったエラストテネスや、地球が太陽の周りを回っていると唱えたピロラオス、アリスタルコスに始まって、コペルニクス、ティコ・ブラーエ、ケプラー、ガリレオが次々に登場。これはこれでおもしろいが、いつになったらビッグバンの話になるのかと心配になった。上巻は、ハッブルの法則が発見されて、これがビッグバンの証拠なのだろうかというところまで。宇宙の進化ではなく、宇宙論の進化についての本なのか。

  • SFもの以来のサイエンス本、過去の科学者の考え方・天文宇宙物理学の基本的な考え方を改めて習った。宇宙の起源はダークマターでそこから膨張して現在に至っているという概念である。コペルニクス・ティコブラーエ・ケプラー・ドップラー・ガリレオ等が何に悩みどう切り抜けてきたか参考になった。周転円・黒点・空間と時間・光エーテル・一般相対性理論・重力方程式・天の川銀河・超新星・分光学・ドップラー効果等とても懐かしい。これを人に説明できるくらい理解したい。

  • 天文学史がてんこ盛り。しかしやはり理系なだけあって数字や数式、公式ばかりなので何回か読むことをオススメする。上下巻が発刊されている

  • 科学と宗教と時代と。とてもおもしろい。

  • 今回もさすがという面白さ。
    平易で、大変分かりやすい文章。
    それでいて、科学の進歩、発見の感動を、共に分かち合えてしまう。
    地球は球形である、と認識するところからはじまり、少しずつ、広大な宇宙へと手を伸ばしていく。
    読み応え充分。
    http://koroppy.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/post-5d27.html

  • 科学とは理論と観測の両輪によって発展していく。
    とはいえ人が行うもので、政治・思惑・宗教によって大きく左右される。

    銀河の発見、天の川銀河以外の発見、距離の測定、など
    ひとつひとつを紐解いていく科学者達の努力と情熱がほんとうにすごい

    (メモ)

    ギリシャ時代の哲学者達
    地球、月、太陽の大きさ
    地球中心モデル
    コペルニクス
    太陽中心モデル
    ガリレオ
    望遠鏡による観測で太陽中心モデルを擁護
    宇宙は過去から存在していたのか?ある時点で創造されたのか?

    レーマー
    光の速度を計測

    アインシュタイン
    光の速度は観測者に対して一定
    特殊相対性理論
    空間と時間は伸び縮みする
    一般相対性理論
    宇宙が収縮しない理由として宇宙定数を唱える
    フリードマン、ルメートル
    膨張する動的な宇宙を主張
    ビックバン理論の走り

    ハーシェル
    天の川銀河の発見

    大論争
    星雲は天の川銀河内部の天体か?
    それとも別個の銀河か?

    ヘンリエッタ・リーヴィット
    ケフェウス型変光星の変更周期を元に、距離を測定できることを示した

    ハッブル
    星雲内に変光星を見つけ、別個の銀河であることを証明

    分光学
    吸収戦により天体の構成要素がわかる
    波長のズレはドップラー効果によるもの
    →大半の銀河が遠ざかっている

    ハッブル
    ハッブルの法則:銀河の距離と速度に相関性があることを証明
    →過去には全てが同じ場所に?
    →ビックバンの証拠なのか??

  • 『大切なのは、問いを発するのを止めないことです。
    好奇心にはそれ自体として存在理由があるのです。』

    A. アインシュタイン

  • 「フェルマーの最終定理」「暗号解読」でおなじみのサイモンシンの著作です。今回も、難解なサイエンスをわかりやすく書き下ろしてまして、さすがサイモンシンという感じです。
    現在はビッグバンによって宇宙ができたというような考えが一般的になっていますが、ここに至るまでの経過を、お得意の人間模様を絡ませながら展開させています。
    理論と実証の繰り返しによって、どんどんと謎が解明されていく。それでもまだまだわからないことばかり。宇宙に興味を持つための入門書的な存在として読みやすく仕上がっていると思います。
    (下巻もあります。)

著者プロフィール

イラストレーター

「2021年 『世界じゅうの女の子のための日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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