ビッグバン宇宙論 (下)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105393045

作品紹介・あらすじ

悠久の過去に生まれた宇宙誕生の証拠を探せ-。古代から20世紀のその瞬間に至る天才たちの知的格闘の歴史、壮大なるドラマ。

感想・レビュー・書評

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  • 後半はビッグバンモデルと定常宇宙モデルの争い。科学者同士の争いは時に醜く同じ観測結果を見ても別の理論の信奉者は別の結論を導きだす。しかし上巻でビッグバンを否定したアインシュタインは下巻冒頭ではハッブルの赤方偏移のデーターを元にルメートルが正しかったとビッグバンモデルに転向した。「この項を持ち込んでからというもの、ずっとやましい気持ちでした。・・・私には、あんな醜いものが自然界に実現しているとは考えられません。」

    ビッグバン仮説に対する定常宇宙論がどうやって赤方偏移、つまり遠くの宇宙は膨張し遠ざかる光を説明するのか?膨張すると空間にある物質は当然薄くなるが、もにょもにょっと新たな物質が生まれて薄まった分を埋めるので全体としては変わらないというのがそのモデルだ。エネルギー保存則は無視してしまうのね・・・E=MC^2なら物質が穴埋めした分エネルギーが減り冷えていくはずなんだが。

    ビッグバンモデルへの攻撃はルメートルがカトリックの聖職者だったことにもある。ルメートル自身は科学と信仰は切り離していたが反宗教派はビッグバン仮説を創世記と結びつけて攻撃した。またこのころハッブルの観測から計算された宇宙の年齢は20億年と地球上の岩石の放射線測定から計算された34億年に満たないなどの矛盾もあった。

    天文学で測定された宇宙にある部室の推定では存在比は水素1万に対し、ヘリウムが1千、酸素が2で炭素が1、その他は全て合わせて1未満である。ルメートルは原初の重い原子が次々と軽い分子に分解していくモデルを考えていたのだがそれではこの比率は説明できない。ロシアから亡命したガモフは逆に水素が核融合して重い原子を作るビッグバンモデルを考えこれで水素とヘリウムの比率は計算結果にあった。しかし炭素が作られるルートが見つからない。数学が不得手だったガモフは初期宇宙出の元素合成の問題に若いラルフ・アルファーを引き込む。ビッグバン初期のモデルを発表する際にガモフは仲の良かったハンス・ベーテを引き込むのだがこれはアルファー・ベーテ・ガモフとαβγをかけたシャレだった。このため若いアルファーは目だたなくなり後々悶着の種になる。ガモフのたちの悪いジョークはいろいろと騒動を引き起こしたがなかなかお茶目でもある。ののしり合いよりはよっぽどましだろう。この計算結果は大ニュースとなり1948年ワシントン・ポストは世界は5分で始まったと取り上げた。初期宇宙の元素合成は300秒でヘリウムを生み出した。

    原初の宇宙は陽子や中性子、電子が好き勝手に飛び回っている。宇宙の温度が1兆度から百万度の間の頃陽子と中性子から重水素の原子核ができヘリウムの原子核ができた。とは言え電子はあいかわらず激しく飛び回り分子としては存在していない。いわゆるプラズマと言うもので詳しくは大槻教授に説明してもらいたいがもう少し温度が下がると電子と結びつき水素とヘリウムになる。原初の宇宙は光の海でもあったらしい。やはり「光あれ」か。光は電子と相互作用するため明るいが不透明な世界が30万年ほど続く。そして温度が3千度に冷えた頃、水素とヘリウムはプラズマから分子へと状態を変える。これが分子が誕生した瞬間だった。同時に光は分子とは干渉せず宇宙を真直ぐ進み始める。この時の光はあらゆる方向に進み、つまり地球からみればあらゆる方向からやって来ている。空間の膨張とともに今では波長1mmのマイクロ波があらゆる方角からやって来ておりこれが観測されるのは1960年代まで待つことになる。

    宇宙に残されたもう一つの謎炭素原子以上の重い原子が出来ることを証明したのは皮肉なことに定常宇宙論を信奉しビッグバンに反対するイギリスのフレッド・ホイルだった。ヘリウムが二つ融合するとベリリウム8ができさらにヘリウムが融合すると炭素12の原子核ができる。しかし実際には少し質量が大きくなるためエネルギーを放出して質量差を調整しなければいけないのだが、ベリリウム8は不安定でこの質量さを調整する時間が取れないのだ。ホイルのアイデアは炭素の新しい励起状態(エネルギーが高い状態)がちょうどこのヘリウムとベリリウム8を足した重さであれば(エネルギーの高い状態は重い)その経路で炭素が出来る確率が高まると言うものだ。ホイルはサバティカルで招かれたカルテックで当時最も偉大な実験原子物理学者であったファウラーをたずね、初対面にもかかわらず上手くいけば大発見だとファウラーを口説き落とした。そして10日後ファウラーチームは新しい目的の励起状態を発見した。2億度の星の中でヘリウムから炭素が生まれる。そしてさらに重い元素も。やがて星は収縮しブラックホールとなるかあるいは超新星になって中に溜め込んだ元素を宇宙にばらまく。やがて違う所にガスが集まると重力により新たな星が生まれより重い元素が生まれていく。

    ビッグバンに残された最後の課題はビッグバンの宇宙は均一で重力の偏りがないため星が生まれそうにないことだった。膨張する宇宙に少しでもゆらぎがあれば重力差が生まれ星が生まれる。最後の観測はあらゆる方向からやってくる放射線にゆらぎがないかを見つけることだった。当初1989年に衛星を使って観測を行う予定であったがチャレンジャー号の打ち上げ失敗のため計画は暗礁に乗り上げた。何とかスターウォーズ計画の標的に使われるはずだったロケットを確保したが今度は衛星を軽くしないと打ち上げ出来ない。そして1989年1月18日ついに打ち上げは成功した。そして3年に及ぶ観測の結果わずか10万分の1のゆらぎが発見された。

    1本の棒の影から始まった宇宙観測の歴史はこうして宇宙がどうやって出来たかを解き明かす所まで来ている。サイモン・シンはエピローグを一つの挿話で締めくくっている。

    神は天地創造以前に何をしていたのか?

    神は天地創造以前に、そう言う質問をするあなたのような人間のために、
    地獄を作っておられたのだ。

  • ふむ

  • 古代の天動説から始まり、地動説、ケプラーの法則、ニュートン、アインシュタイン、そしてビッグバンへと、天文学の歴史が文系の人間にも分かりやすく綴られている。天文学というより、科学という人間の限りない営みの歴史と言った方がいいかもしれない。
    中学生や高校生に読んでもらいたいと思う本。

  • 1

  • サイモンシンはたぶん天才だと思う。暗号解読を呼んだときもそう思ったけど、とても難しい内容なのに、非常に分かりやすく解説してくれる。

    もちろん、それをわかりやすく訳してくれる、訳者もすばらしいのでしょう。


    彼は人に注目して科学の進化を伝えてくれます。


    ビックバン関係の宇宙の本はこれまで何冊か読んでいるのですが、わかりやすさから考えたらこれが一番だと思います。古代からどのように宇宙について考えてきたかが述べられています。


    だけどやっぱりビックバンは、自分の理解の範囲を超えているという感じです。


    宇宙ができるときには爆発が起きて、その証拠に、遠くにある宇宙のほうが早く遠ざかっていて・・・。想像できない。


    この本を読んで最も勉強になったのは、水素やヘリウム以外の元素の作り方です。星が製造機だったなんてほんと宇宙ってすごいwスケールがヤバイ。


    でも昔の人が天動説を支持したのって当然のことだと思う。どう考えても普通の人はそう考えるよね。そのほうが分かりやすいもん。


    あと、この書籍で好きなところはは、哲学的な部分に触れているところ。「無知という山を登って、やっと上りきった所には神学者が座っていた。」こんな感じの文章があったが、うまいよなー、こういうの。


    この本を読む前はビックバンを盲信していたけど、この本を読んでビックバンのあまりの難しさに、もしかすると違うんじゃないかと思ってきた。もちろんぜんぜんそんな知識なんてないから、ただの感覚だけど。


    なんかもっともっとシンプルな気がするんだけどな・・・。

  • どこまで本当かわからないけど、とにかく科学者が人間くさく描かれていて面白いです。宇宙論を初めからきちんと押さえたい方にもお薦め。

  • ビッグバン宇宙論が大勢の科学者によって支持されるようになるまでの経緯が分かっておもしろかった。この本に登場する天文学者、物理学者の中には、有名な人もいれば、初めて名前を知った人もいたが、一番印象に残ったのは、定常宇宙論の提唱者で、死ぬまでビッグバン宇宙論に反対し続けたフレッド・ホイルだった。この人が書いたSF小説「10月1日では遅すぎる」は、昔読んだことがあるし、「ビッグバン宇宙論」の下巻98ページにも書いてあるように、「(複雑な進化が偶然によって起こるというのは)竜巻が廃品置き場を通り過ぎたら、新品のボーイング747ジャンボジェットができていたというようなものである。」と述べて進化論に反対した学者として、最近読んだ何冊かの本で言及されていたので、名前には馴染みがあった。しかし、恒星内で元素が合成させる仕組みを解明したのがこの人だとは知らなかった。ところで、ホイルが提唱した定常宇宙論は、自発的に原子を生成する「生成場」を仮定している。エドモンド・ハミルトンの「キャプテン・フューチャー」シリーズの中に似たような話があったぞと思って調べてみたら、「輝く星々のかなたへ!」だった。この作品では、銀河系中心で物質が常に生成されているということになっている。初めて「輝く星々のかなたへ!」を読んだとき、なんと荒唐無稽な設定だろうかと思ったが、この作品が発表されたのが1942年で、ホイルが定常宇宙論を提唱したのが1948年だから、もしかして、当時最新の宇宙論を先取りしていたとか。

  • ★SIST読書マラソン2017推薦図書★
    ★図書館だよりNo.58「読書への羅針盤」
     南齋 勉 先生(物質生命科学科)紹介図書
     インタビューを読む https://www.sist.ac.jp/media/20170602-174228-7612.pdf

    【所在・貸出状況を見る】
    http://sistlb.sist.ac.jp/mylimedio/search/search.do?target=local&mode=comp&materialid=

  • 陽子と電子のスープだった宇宙から、多様な元素が生まれるまでになった宇宙の進化について述べられている。エピローグにも書いてあるが、今後の宇宙の発展や、マルチバースについとも触れて欲しかった。

  • 上巻と同じ。

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著者プロフィール

イラストレーター

「2021年 『世界じゅうの女の子のための日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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