アンダーワールド 上

  • 新潮社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (621ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105418014

作品紹介・あらすじ

1951年、一本のホームランが天高く舞い上がる。ニューヨーク・ジャイアンツの優勝を決める劇的なホームランが生まれたその日、球場で試合を観戦していたFBI長官フーヴァーの元には、遙かソ連から核実験成功の報が入っていた…歴史的ホームランと核の時代の始まりを重ね合わせ、そこから紡がれゆくボールの行方を巡る物語とパラノイアの連鎖。冷戦時代とは、20世紀とは何だったのかを壮大なスケールで問い直す、現代アメリカ文学最大の作家による最高傑作、ついに邦訳刊行。

感想・レビュー・書評

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  • 父親に野球に連れて行かれた子供が、その父親が最期を迎える時に語るのはまさにその野球の話なのだ、と言ったことが書かれていて、私がプロスポーツの中でも特に野球が嫌いなのはこういう理由なのだ、と改めて納得した。

  • 長い…けど本当に面白いからもっと多くの人に読んでもらいたい…
    こういう分厚い邦訳本って値段設定が高過ぎるからハードルが高くなるのではって思います。日本にもペーパーバックみたいな安く長い傑作を読める文化があればいいのに。因みにペーパーバックも並行して読んでますが、全内容で1900円で買えました笑。なんか全然別の愚痴になってしまいましたがそれくらい内容が面白いのにもかかわらず値段が高すぎる。

  • 2015/1/31購入

  • 9.11から10年経つのに当たって読み始た。断片的なエピソードを積み重ねて現代社会の暗部を描き出そうとしているが、中々の難物。ただ、訳はかなり丁寧で、表現が素晴らしい。下巻にも期待。

  • 戦後アメリカ政治の、社会の、光と影をの断面を、多くのエピソードを配置をして描く。

    ・・・のだが、個々のエピソードの集積から、どのような全体像が浮かび上がるのか結局掴み切れず。
    これだけ長大な作品を読んだにしては、何も残らなかった。

    ただ、目の前を情景と人物が通り過ぎて行っただけだった。
    戦後アメリカの社会状況について、いくばくかの知識を持ち合わせているだけで大分違っただろう。そうでないと、イメージが膨らむ前に次から次へと場面が流れて行ってしまう。

    この著者のもう少し短めの長編か中編を読んで、特性を掴んでから挑戦した方がよかったかもしれない。
    とりあえず現状では面白さも目新しさも感じなかった。

  • 事実は小説より奇なり、と云いますが、結果的に小説が事実を予見してしまった(かのような)デリーロの大作。プロローグで描かれたホームランボールをひとつの軸に、冷戦後40年のアメリカを虚実とりまぜたエピソードで綴っていく。

    一見、脈絡のないいくつかの短〜中編をオムニバス的に配置しているのだけれど、読み進めていくと、どこかですべてが繋がっているということがわかってきます。地下の鉱脈をひとつ掘り当てると、結局すべては繋がっていたという、あんな感じ。『アンダーワールド』、大鉱脈です。
    (下につづく)

  • 切り取られていく過去のシーン。無意識の内に繋がりを求める心理が働く。何か符牒はないのか。野球のボール。名前。様々なイコン。自ら貯めこんだ記憶の中で溺れる。章が変わる度、パラグラフが変わる度、眩暈が起こる。フラッシュバックなのか。未だ語られていない過去なのか。それとも、未来なのか。上下二巻、1200頁余りの大作である「アンダーワールド」は、傑作であるという評判が高い。ふむ、異存はない。しかし少し考えてみると、傑作なのかどうかというのは何を判断基準に決められるのかが解らない。

    例えば、衝撃の大きさだろうか。確かにこの本を読んで真っ先に浮かぶ言葉は確かに、衝撃、かも知れない。1200頁という長大な物語が息をも吐かせぬスピード感で流れていく。映画のように、様々な挿話が語られていくだけでなく、記憶に刻まれていく。どこかしら象徴的ですらある世界貿易センターを巡る記述。ゴミ。爆発。その衝撃の大きさは、強く、かつ、長い。

    例えば、物語から自然と立ち上がって来るディテールの描かれ方の巧みさが、傑作の条件だとするなら、ドン・デリーロが描くニューヨークはものすごくヴィヴィッドに描かれている。鮮やかでありながら、しかも、もやが掛かったような相反する映像を脳の中に喚起する。これを、巧みと言わなくてなにをそう呼べばよいというのか。同じようにニューヨークを描かせたら巧い作家にポール・オースターがいるが、オースターの描くニューヨークがイディッシュ的ニューヨークであるのに対して、デリーロの描くのはイタリア系的ニューヨークだ。余談だけれど、どちらの描くニューヨークにも、他方が存在しているようではないのだが、それが同時に存在する街、それがやはりニューヨークなのだろう。

    こんな屁理屈をこね回すまでもなく、アンダーワールドが、読むものに強烈な刺激を与え、何かをずしりと胸の内に残すのは不思議だ。それは何かこういうことなのですという理屈や、これこれの巧みさなのですというテクニックではなく、読むものごとに全く別の印象を与える可能性のある物語がそこにあるからなのだろう。そういう多義性がもし傑作の基準なのだとしたら、この本は間違いなく、傑作だ。

    そう書くと批判的に響くかも知れないが、実は、この本は随分と気に入っているのだ。ドン・デリーロの作品としては、この後に書かれた「ボディ・アーティスト」という短い物語に自分は強く惹かれているが、ボディ・アーティストにあるミニマリスティックな雰囲気、余り詳細に説明がなされている訳ではないのに、その場の雰囲気、登場人物の心情などが知らず知らず伝わってくるような文体が、個人的には好きだし、その雰囲気はこのアンダーワールドにも、確かにある。1200頁もある本をさしてミニマルでもないとは思うけれど、この本に散りばめられているエピソード群を読んで受ける印象とボディ・アーティストを読んで受ける印象は、ほとんど変わるところがない。

    錯綜した逸話が次々に語られるという小説の構成は、多義性ということを醸し出す一つの要因となっているだろう。ドン・デリーロは「コズモポリス」でも似たようなフレームワークを用いている。最近読んだ本の中にも同じような構成のものがあるし、どちらかと言えば好きな構成のだが、いい印象を残したものも、そうでもないものもある。例えば「ウォーターランド」。色彩を変えることなく、200年余りの歴史の中から断片的なエピソードが、行きつ戻りつ語られる。それらが収束していく先が見えてくるように、巧みに描かれていて、素直に読み終えることができた。一方、話題作だったらしい「ホワイト・ティース」は扱っている人間模様としては、アンダーワールドに近い作品だし、構成も似ていると思うが、どうも受け入れがたい。その違いは何からくるのかと考えるに、どうやら、論理的必然性、というやつに関係しているらしいと気付く。

    ホワイト・ティースで散りばめられるエピソード。それらが如何に錯綜する時間の中に配置されているように見えても、どうも底の浅い印象しか残らないのは、一つ一つの物語の系譜が直線的で、語られている物語以上にどこへも行きようがないのが感じられるからだ。作家が知らず知らずの内に求めてしまっている論理的必然性というようなものが匂ってくる、と言ってもいいかも知れない。それに対して、ウォーターランドも、そしてこのアンダーワールドも、各エピソードがそんな必然性を求めていない。更に言うと、アンダーワールドでは、収束していく先すら、はっきりとは示されていない。まるで、編集のいい加減なドキュメンタリーを見ているようですらあるのだ。

    このどこへも行かない感じは、実は最新作の「コズモポリス」で更に先鋭化し、アンダーワールドのエピローグに登場したサイバースペースの逸話をベースにした形で展開する。但し、その先鋭化に個人的にはついて行きそびれたのも事実だし、その印象がアンダーワールドに取りつくのに時間が余計懸かった原因ともなり、ドン・デリーロという作家にもう一つのめり込めない感じが少し残っているのも事実なのだ。

    しかし、このアンダーワールドは傑作だと思う。ポール・オースターとどこかで呼応するようにも思うドン・デリーロ。依然、もう少し、知ってみたい作家の一人であることは確かだ。

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著者プロフィール

1936年、ニューヨークに生まれる。アメリカ合衆国を代表する小説家、劇作家の一人。1971年、『アメリカーナ』で小説家デビュー。代表作に、本書『ホワイトノイズ』(1985年)の他、『リブラ――時の秤』(1988年/邦訳=文藝春秋、1991年)、『マオⅡ』(1991年/邦訳=本の友社、2000年)、『アンダーワールド』(1997年/邦訳=新潮社、2002年)、『堕ちてゆく男』(2007年/邦訳=新潮社、2009年)、『ポイント・オメガ』(2010年/邦訳=水声社、2019年)、『ゼロ・K』(2016年)、『沈黙』(2020年/邦訳=水声社、2021年)などがある。

「2022年 『ホワイト・ノイズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ドン・デリーロの作品

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