- Amazon.co.jp ・本 (142ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105900335
感想・レビュー・書評
-
ロシア古典文学にはまっていたけど、現代ロシア文学を読んだことがないので、とりあえず、現代ロシア文学の女流作家の中編を読んでみました。
なるほど、こういう感じなのですね。
ごく普通の女性の生涯を描いた本作。
いわゆる純文学なのでしょう。ユダヤ人の作者ということで、理想の人間像を描いているような感じですね。
なかなか興味深い。
ちょっと、現代ロシア文学もどんどん行ってみますか。 -
シェル・シルヴァスタインの絵本『大きな木』(りんごの木が望まれるまま少年に実も枝も幹も与える。最期には切株となっても、老いたかつての少年に対して、疲れた体を休めるために座りなさいといって身を差し出す)で描かれる「無償の愛」は、母性や巣立っていく子供への包容力として広く受け入れられているのでしょう。
それでは、本書のソーネチカの愛は?
17年連れ添った夫に裏切られて、さらにその相手は娘として何くれとなく世話を焼いている若い女の子です。
“あの人のそばに、若くて、きれいで、優しくて、上品なあの子がいてくれたらこんないいことはない。人生ってなんてうまくできているんだろう。老年にさしかかったあの人にこんな奇跡が起こって、絵の仕事に立戻らせてくれたなんて。”
強がりではなく、その後も奇妙な擬似家族としてソーネチカは2人に愛を注ぎ、夫の死後も女性の生活を支え続けていくのです。
一時の悲しみや空虚を感じても、ここに嫉妬や怒りはない。とても受け入れられないという反発の声が聞こえそうです。
2つの愛の間には、どのような違いがあるのでしょうでしょう。
自らの分身である子供に対しては愛は幾ら注いでも目減りしないけれども、パートナーに対しては与えたものを自らにも与えて欲しいと願うという立場でみると、ソーネチカの愛は成立しない。
ここは他人に与え与えられる“愛の分量”で幸福か不幸かが決まるのではなく、自らを自律的に幸せにすることができる内面の豊かさを持つ稀有な人してソーネチカを捉えた方がいいのかもしれないと思うのです。
受忍を美徳とし、家族に尽くすことに自らの価値をみいだす前時代的な女性の一生として本書を読むことや、ソーネチカを無垢な心をもつ聖なる愚者の系譜とすることは、どちらにも違和感があります。
相手の幸せのために自らを犠牲にするといった依存性は彼女にはありませんし、幸福の物差しが彼女独特のものとはいえ、慎ましくとも自らを幸せにするために、彼女は行動していきます。
一つ思うのは、夫と出会ったときのソーネチカは図書館の臨時貸し出し係でした。彼女は貴重な書物を、資格のない夫に対して権限もないのに自らのカードを使って貸し出します。
個人所有されることはなく、隔たりなく素晴らしい世界に触れて分かち合う。そんな図書館の書物は、ソーネチカの愛や幸福を表しているようだなと感じるのです。
-
本好きが高じて図書館の書庫で働くソーネチカに始めは感情移入したけれど…。
人生を物語に例えるとしたら、ソーネチカの人生の主人公はソーネチカではないみたい。
主役やヒロインは他にいて、自分はその隣にいられるだけで幸せ…って、そんなことある!?
誰だって自分の人生の主人公は自分自身だろうと思っていたわたしにはちょっと衝撃であった。
でも、この本の主人公は間違いなく「ソーネチカ」なのが、皮肉というかなんというか。
だからといって、彼女を不幸だとは思わないのは、彼女は本の中に無限の世界が広がっていると知っているから。-
2024/03/29
-
2024/03/29
-
-
評価が難しい作品。
作品に流れている空気は好き。
しかし、ストーリーはどうかと聞かれたら、
好きとも言い切れないし、かといって嫌いでもない。
主人公の女性の人生が、
幸せであるか、不幸せであるかわからないように、
はっきりした答えが私の中では見つけ出せない。
主人公ソーネチカの考え方は理解できるか、
彼女の生き方に共感できるかと
自分に問い質してみるとうーん、って思わず唸ってしまう。
20代の自分にこの質問をぶつけられたなら、
絶対無理だと即答するが、
30代でこの作品を読み、ソーネチカという女性と向き合うと、
これだけ深く夫を愛し、芸術家である彼を理解し、
みなしごのヤーシャ、まして
夫との「共犯者」となった娘を母親のような愛情でくるむ事ができる
ソーネチカを「痛い」と思いつつも、心のどこかでは「うらやましい」と
感じている自分に気づいた。
他者から見れば過酷な状況に身を置いているのに、
それでも自分を幸せだと思い、
穏やかに己の人生を歩み続ける彼女。
幸せでもないし、不幸でもない。
ただ、人間の一生ってそんなものなのかなと。
幸せだけで出来ている人生も
不幸だけで出来ている人生も
ないはずだ。 -
当たり前の生を描いた物語なのだが、はじめは強烈な違和感がある。ソーネチカが自分の置かれた状況をひたすらに受け容れて、自然に生きてゆく。しかも、それを幸せに感じている。娘の同級生に夫を奪われているのに、夫の精神に活力を与えたこの少女に感謝すらする。とても理解が追いつかない。家族というものに対する考え方の違いもあると思う。それでも、考えれば考えるほどに、ソーネチカという女性の揺るぎない大きさに圧倒される。読み終えて、自分が狭量に思えるほど。まあ、物理的にも大きいと思うのだが……(笑)
-
美しくない本の虫であるところのソーネチカは、しかしあまりに従順で寛容に過ぎるようにも見え、始めから終わりまで感情移入し続けるのは難しいかもしれない。
女の一代記であるストーリーよりも、ソーネチカが本にのめり込む様子や、遠回しなようでストレートな性愛の描写、人物たちに降りかかる苦難と苦悩など、文章の(あるいは翻訳の)巧みさが印象に残った。
コメント欄ではお久しぶりです。
リュドミラ・ウリツカヤが好きで、つい嬉しくなって書き込みます。...
コメント欄ではお久しぶりです。
リュドミラ・ウリツカヤが好きで、つい嬉しくなって書き込みます。
この作家さんがノーベル文学賞をとってくれるかと期待しているのですが
誰もそんなことは言わないんですよね・(笑)
日本なら小川洋子さんか梨木香歩さん(多和田葉子さんという声も)
だと確信してますが、こちらはもっと誰も言いません(*'▽')
この作家さんが受賞したら、ひとりで乾杯する準備は出来ているんですよ。
変なコメントですみません。そのくらい好きだということです。
ではでは、失礼しました。
こ...
このリュドミラ・ウリツカヤさんも初読みの作家さんでしたが、なんとなく心が温まる良い本でした。どんどん読んでいきたいと思います!