冬の犬 (新潮クレスト・ブックス)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900373

感想・レビュー・書評

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  • アリステア・マクラウドは寡作な作家で、生涯に短編小説16を収録した短編集1冊、長編1冊残しただけという。
    原題『Island』の短編小説は、日本では8編ずつに分けられ、前掲の『冬の犬』と『灰色の輝ける贈り物』という邦題で出版されている。長編小説の邦題は『彼方なる歌に耳を澄ませよ』。訳者は中野恵津子。
    赤毛のアンで有名なプリンス・エドワード島の東隣の島、ケープ・ブレトン島を舞台とした作品群である。
    隣の島なのに、赤毛のアンから思い描くプリンス・エドワード島とはまるで違う、生活環境の厳しい島という印象を受ける。冬は「ビッグ・アイス」と呼ばれる流氷の群れが接岸し、見渡す限りの氷原がひろがる、そのような島なのである。
    マクラウドの行き届いた、無駄のない描写は、ドキュメンタリーを観るような緊迫感をもたらす。
    そして、作家の内面的な豊かさ、卓越した人生観は、作中の人間や動物を明晰な光で照らし出し、大自然の懐の然るべき一点に結晶させる。
    生き物たちが醸し出す叙情味は、尊厳美を伴って、読む者を魅了せずにはおかない。

  • 夏の太陽の様に輝く人生もあれば、荒れ狂う嵐の様な人生もある。語られ続ける物語もあれば、ひっそりと消え去り忘れ去られる物語もある。失われゆくケルト系言語ゲール語をルーツに持つ寡作なカナダ人作家は土地に根付く家族達の歴史を中心としつつ、今にも失われつつありながら決して奪い去られない瞬きをこの短編集に閉じ込めることに成功した。懸命に生きてきた者たちの欠片が、吐息が、雪の様に積もる辛苦までもが静かに輝いている。驚くほどに人生は通り過ぎて行く、そんな悲しみすら祝福してしまう眼差しが素晴らしくも私を震えさせるのだ。

  • 「舞台は、『灰色の輝ける贈り物』と同じ、スコットランド高地の移民が多く住む、カナダ東端の厳寒の島ケープ・ブレトン。役立たずで力持の金茶色の犬と少年の、猛吹雪の午後の苦い秘密を描く表題作。ただ一度の交わりの記憶を遺して死んだ恋人を胸に、孤島の灯台を黙々と守る一人の女の生涯。白頭鷲の巣近くに住む孤独な「ゲール語民謡最後の歌手」の物語。灰色の大きな犬の伝説を背負った一族の話。人生の美しさと哀しみに満ちた、完璧な宝石のような8篇。」

  • ①文体★★★★☆
    ②読後余韻★★★★☆

  • カナダ東端の厳冬の島ケーブ・ブレトンを舞台にした6編の短編集です。
    犬についてのものは、「冬の犬」と「鳥が太陽を運んでくるように」です。他にも犬が登場するものはあることはあるのですが。

    「冬の犬」は、牧羊犬になれなかったが犬ぞりはうまく、極寒の海に落ちた少年を助けるも、他の子を噛みついたりしたということで射殺されてしまう犬の話です。
    「鳥が太陽を運んでくるように」は、馬車に轢かれた小犬を助けた男が、その後その犬の子どもたちの誤解により殺されてしまうというお話です。

    どちらの犬も名前はありません。そういう時代のお話ですので、今の日本の犬とは違います。

    カナダの牧場の厳しさ、冬の厳しさもわかりますが、他の作品にあると殺の詳細な描写は読むに堪えませんでした。

  • 4.03/543
    『カナダ東端の厳寒の島で、自然と動物と共に生き、人生の時を刻む人々を描く傑作短篇集。
    役立たずで力持の金茶色の犬と少年の、猛吹雪の午後の苦い秘密を描く表題作。白頭鷲の巣近くに住む孤独な「ゲール語民謡最後の歌手」の物語。灰色の大きな犬の伝説を背負った一族の話。ただ一度だけ交わった亡き恋人を胸に、孤島の灯台を黙々と守る女の生涯。人生の美しさと哀しみ、短篇小説の気品と喜びに満ちた8篇。』
    (「新潮社」サイトより▽)
    https://www.shinchosha.co.jp/book/590037/

    目次
    すべてのものに季節がある/二度目の春/冬の犬/完璧なる調和/鳥が太陽を運んでくるように/幻影/島/クリアランス


    著者:アリステア・マクラウド (Alistair MacLeod)
    訳者:中野 恵津子
    出版社 ‏: ‎新潮社
    単行本 ‏: ‎262ページ

  • 北アメリカの5大湖の東オンタリオ州から東に位置する半島の先、左には「アン」のプリンスエドワード島が見える。
    そこにケープブレトン島ある。ガボット海峡を越えるとニューファンドランド島。
    イギリスから渡ってきた最初の人々が住み着きそこで根を張って、子孫を増やしてきた。言葉はいまだに古い人たちはイギリス、スコットランド地方の、ローランドまたはハイランドなまりを聞くことが出来る。
    その島で育った、アリステア・マクラウドの珠玉の短編集。

    彼は31年間に16編の短編を書いた。この「冬の犬」は後半の8編を納めている。

    何代にもわたる家系を引き継ぎながら、狭い島で農業と牧畜で暮らす人たち。四季を通じて周りの海は姿を変え色を変え、日に染まった夕暮れ、霧の深い朝。四季それぞれの移り変わりの中で暮らす子沢山の一家の一日であったり、兄弟の絆や、父親が息子に伝える、牧畜の智恵だったり。忘れていた遠い暮らしの懐かしい風景が繰り広げられる。
    今は移住者も分化して血のつながりも曖昧になったがやはり名前を聞くと遠い遠い血のつながりがあるような人たちや、よそからきて住み着いた人たちとの交流、牛の種付け、馬の交配。生まれる子どもの世話。春から始まる牧草集め。暮らしは営々と続いている。

    四季折々のささやかな心浮き立つ行事の様子など、すべてが命を繋いでいくという終わりのない生活の中で、悲しみや喜びを載せて鮮烈にまた刺激的な出来事もこめて、濃く暖かく暮らしを描きだす。
    時には厳しい雪との戦い、馬で走ると巻き上がる光の粉の様な雪のかけら、馬の白い息。都気に襲う猛吹雪。冬の描写は美しく厳しい。
    春一面の芽を吹く一面の緑。そのなかでで生きている人と家畜の愛情深い交わりが今では遠くなった暮らしをしみじみと見せてくれる。


    「幻影」

    船の舳先からカンナ島の湾曲した先が見える。小さな半島だったが当時は船で行くのが近かった。やっと許されて双子がそこに行き、不思議な盲目の老婆に会う。その先に2人の曽祖父と曾祖母が住んでいた、雨を避けて駆け込んだ盲目の老婆の荒れた家の中は、犬と猫がすみつき、寒い日は壁板をはずして燃やしているようだった。
    ある日遠く黒いけむりがたち昇るのが見え老女の家が焼けたのを知った。盲目の父はその半島の昔のことを知っていた。
    今では車で海伝いに池が近い距離だが、子ども時代には遠く離れた不思議な島だと思っていた。陸地では酪農、海では兄弟は父とともに海老もとっている。なんだか「フォレスガンプ/一期一会」を思い出した。、子犬を拾って育て、その犬の子どもたちに殺された話。それは今でも死を前にした人の前に灰色の大きな犬が幻のように現れるという、その言い伝えは心の奥深くひそかに受け継がれていた。父の臨終で犬の気配はないか、父は何かを怖がってはいないか。子どもたちは息をつめて見守っている。

    冬の犬

    12歳のとき子犬が箱に入れられてやってきた。犬は大きくなるにつれ足は毛で覆われ、コリー特有の金色の毛に変わった。しかし訓練しても役には立たなかった。犬はますます大きくなり、羊は追い払う役立たずの乱暴犬になった。
    力があるのでそりをひかせて流氷を見に行った。アザラシが流れているのを見つけたが重くて海岸まで運ぶのに骨が折れた。氷の割れ目に半分浸かりながらもがいていると、流れていく流氷を飛び越えて犬は案内をするように走り陸にあがった。そしてなぜか安全な氷を渡ってまた戻ってきた。
    風の強い日だったので私の声が聞こえたのか知る由もなかった。
    うちのそっと帰り誰にも気づかれず服を着替えて居間に戻った。犬はそのまま寝そべっていて「どこへ行ってきの。こんなにびしょびしょで」わたしは犬の周りを何気なくモップで拭き取り。犬に助けられてことは誰にも言わなかった。それから二度目の春。こんもりした丘の上に座ったいた犬が撃たれた。弾は肩を射抜き犬は宙に跳び上がった。そして1キロも歩いて家に帰ろうとしたのだ。
    犬は私たちと暮らしたのは短い年月で、犬はいわば自業自得で自分で運命を変えたのだが、それでもまだあの犬は生き続けている。私の記憶に中に、私の人生の中に生き続けている。

    「完璧なる調和」

    父、アーチボルトはみんなでゲール語の歌を歌ってほしいと言うリクエストが来た。ちょっとした紹介番組だったが、歌を途中で切られるのが気に食わなかった。でもアーチボルト一族の歌のうまい人たちが集まった。
    最後まで読んで、長い長い涙まじりの溜息が出た。

    たまにこうした「完璧な宝石のような文章」といわれている本を読むのも読書の楽しみかもしれない。何を読んでもすぐに忘れるのに、これは何かいつか見たことや感じたことが思い出されるようだった。長く記憶できそうな作品だった。

  • 4-10-590037-4 262p 2004.1.30 ?

  • 雄大な風景描写とそこに生きるひとびとの生活は、厳しさを感じるとともに美しく感じる。ジャック・ロンドンもそうだけれど冬の描写が美しい極北の文学に強く惹かれるのはなぜなんだろうか?77

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