冬の犬 (新潮クレスト・ブックス)

制作 : 中野 恵津子 
  • 新潮社
4.01
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本棚登録 : 452
レビュー : 49
  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900373

作品紹介・あらすじ

舞台は、『灰色の輝ける贈り物』と同じ、スコットランド高地の移民が多く住む、カナダ東端の厳寒の島ケープ・ブレトン。役立たずで力持の金茶色の犬と少年の、猛吹雪の午後の苦い秘密を描く表題作。ただ一度の交わりの記憶を遺して死んだ恋人を胸に、孤島の灯台を黙々と守る一人の女の生涯。白頭鷲の巣近くに住む孤独な「ゲール語民謡最後の歌手」の物語。灰色の大きな犬の伝説を背負った一族の話。人生の美しさと哀しみに満ちた、完璧な宝石のような8篇。

感想・レビュー・書評

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  • たまたま軽い気持ちで手にとったけれど、読んだ後に心にじんと響いて忘れられない一冊となる本があります。

    アリステア・マクラウドは、これまで耳にしたことのなかった作家でしたが、シンプルな装丁と「冬の犬」という表題に惹かれて読み始めました。

    舞台はカナダ北東部のケープ・ブレトン島。赤毛のアンの舞台プリンス・エドワード島の、さらに東に位置する最果ての地です。自然と格闘し生きる人たちの姿が描かれています。

    彼らはイングランドでの圧政を避け移住したスコットランド高地人(ハイランダー)の末裔。ゲール語という祖先の言葉を大切にしつつロブスター漁を生業とする人、痩せた土地でじゃがいもを栽培して家族を養う者、あるいは木こりとして生きる者がいます。

    カナダ北東部ノバスコシア地方の厳しい自然と、牛や羊、犬など人間とともにある生き物の姿が、彼らの汗と息づかいとともに生き生きと描かれています。

    これは作者マクラウド自身が、ケープ・ブレトンで育ちゲール語と英語の二つの言語に通じているからこそ作り出せた小説世界でしょう。なかでも、表題作の「冬の犬」がいい。少年の頃のちょっとした冒険が、端正な言葉で綴られていて、久しぶりに物語を読む楽しさを体験できました。

  • 前作「彼方なる歌に耳を澄ませよ」がもうたまらなく好きで、著者の訃報を新聞で見た時、そうだ、ほかの作品も読まなくちゃ~と思って・・・それで思い出して読んだはずなのですが、訃報もすでに4年前の話なのね。自分にびっくり。目を開けたまま冬眠してんじゃないかしら、私ったら・・・

    さて、「彼方なる~」は、ある家族の記憶と現実との間を波のようにいったりきたりする、詩のような歌のような作品だったとおぼろに記憶していますが、この短編集は動物がかなり重要な役を演じているものが多く、そのせいか寓話や神話のような雰囲気があって、前作とはまたちょっと違う印象でした。
    ただ、動物と言っても、描かれているのは、愛玩用のペットではなく、生きるための資源、サバイバル・ツールとしての家畜たち。
    だから、彼らを描くことで必然的に自然の厳しさと人間のちっぽけさも描かれることになり、ひ弱な私はすっかり恐れ入ってしまった。
    干し草の出来具合が家畜たちの運命を決めるところや、濡れた服が瞬間的に凍るシーンなど、とにかく極寒の地の暮らしは知らないことだらけ。やたら心臓をどきどきさせながら読みました。

    それだけでも、そこらへんの冒険ものなんて目じゃないくらいに興味深くおもしろかったのですが、そこで終わらないのがこの著者の素晴らしいところ。
    前作同様、血に刻みこまれているかのような一族の記憶や、登場人物たちの生き方のくせみたいなものが、長い時間の経過によって、ゆっくりと変化し昇華されたりしていく様子も描かれている。
    時間、が動物同様、すごく重要なファクターで。
    人がとにかく生きて年を取るという、ただそれだけのことがこんなにも美しいことなのか、と、読んでいて時々愕然としました。

    収録作品は全部好きだけれど、特に「完璧なる調和」が良かった。たまらず涙がこぼれ、二回も読んでしまいました。映画一本見たみたいな読後感。

    オンダーチェ、アリス・マンローに、この著者、と、どうも私はカナダ人作家が好きみたい。ド田舎で育った幼少期の記憶が体中にしみ込んでいて、カナダの大自然の描写を読むとそれがざわざわしてしまうのかな~。
    あるいは、オンダーチェ、ジュンパ・ラヒリ、この著者、のように、二つの言語、二つのアイデンティティに揺れる人々を描く作家も好きみたい。
    自分の嗜好にそういう偏りがあると気づいた今日この頃です。

  • アリステア・マクラウドとウィリアム・トレヴァーの小説はとてもよく似ている。一編一編に書かれているものに込められた思いや情感が深く、ずっしりと重たいので、軽く読み飛ばすことができないからだ。書かれているのは過ぎ去った年月、祖先から脈々と受け継がれてきた血と自然、動物たち。私はこの本を深夜から夜更けにひとり裸電球を灯し、何ヶ月も時間をかけて一編ごとにじっくり味わうようにして読んだ。そして最後のクリアランスを読み終えて静かにページを閉じた時、私はたしかに遥か彼方、ケープブレトンの海から吹きすさぶ風をこの身に感じた。この本を読み終えたあなたもきっと感じるはずだ。

  • アリステア・マクラウド1977年から1999年の8篇からなる短編集。

    すべてのものに季節がある
    裕福とはいえない家庭の静かな思い出。
    帰省する兄と大人になりつつある姉と自分、老いていく父母、幼い弟の物語。

    二度目の春
    屠殺の描写など残酷ではあるが、淡々と静かな物語。

    冬の犬
    子供たちと遊ぶ犬を見て、一匹の犬との思い出が綴られる。

    幻影
    自分の不確かな血の由縁を語る比較的長めの作品。


    一緒に島を出ようと約束した男は戻ってこなかった。いつしか島の狂女と呼ばれた女の物語。

    哀愁、無情、平穏、静謐といった空気がどの作品からも漂う。
    また、死という避けられない現実が描かれていることが多く、淡々としながらもあたたかい文章でアリステア・マクラウドの魅力が詰まっている。
    大きな出来事ではない日常の一場面を描いているといった地味な作品であるため、読者それぞれが自分の読み方や感じ方が出来る。
    小川洋子さんの作品が好きなかたには好まれる作品ではないだろうか。

    寡作の作家マクラウド。
    あと残すは長編である「彼方なる歌に耳を澄ませよ」のみ。
    もっと多くの文章を読んでみたかった。

  • アリステア・マクラウドは寡作な作家で、生涯に短編小説16を収録した短編集1冊、長編1冊残しただけという。
    原題『Island』の短編小説は、日本では8編ずつに分けられ、前掲の『冬の犬』と『灰色の輝ける贈り物』という邦題で出版されている。長編小説の邦題は『彼方なる歌に耳を澄ませよ』。訳者は中野恵津子。
    赤毛のアンで有名なプリンス・エドワード島の東隣の島、ケープ・ブレトン島を舞台とした作品群である。
    隣の島なのに、赤毛のアンから思い描くプリンス・エドワード島とはまるで違う、生活環境の厳しい島という印象を受ける。冬は「ビッグ・アイス」と呼ばれる流氷の群れが接岸し、見渡す限りの氷原がひろがる、そのような島なのである。
    マクラウドの行き届いた、無駄のない描写は、ドキュメンタリーを観るような緊迫感をもたらす。
    そして、作家の内面的な豊かさ、卓越した人生観は、作中の人間や動物を明晰な光で照らし出し、大自然の懐の然るべき一点に結晶させる。
    生き物たちが醸し出す叙情味は、尊厳美を伴って、読む者を魅了せずにはおかない。

  • 夏の太陽の様に輝く人生もあれば、荒れ狂う嵐の様な人生もある。語られ続ける物語もあれば、ひっそりと消え去り忘れ去られる物語もある。失われゆくケルト系言語ゲール語をルーツに持つ寡作なカナダ人作家は土地に根付く家族達の歴史を中心としつつ、今にも失われつつありながら決して奪い去られない瞬きをこの短編集に閉じ込めることに成功した。懸命に生きてきた者たちの欠片が、吐息が、雪の様に積もる辛苦までもが静かに輝いている。驚くほどに人生は通り過ぎて行く、そんな悲しみすら祝福してしまう眼差しが素晴らしくも私を震えさせるのだ。

  • 4-10-590037-4 262p 2004.1.30 ?

  • 雄大な風景描写とそこに生きるひとびとの生活は、厳しさを感じるとともに美しく感じる。ジャック・ロンドンもそうだけれど冬の描写が美しい極北の文学に強く惹かれるのはなぜなんだろうか?77

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