- Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105900458
感想・レビュー・書評
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この物語に関して私が書けることはそれほど多くない。
ただ、かけがえない、いとおしい物語が私の中に一つ増えたということだろうか。
最終盤の章を読みながら、私自身の祖父や祖母のことを思い出していた。感情の波が体中に押し寄せ、物語を読み終えた後しばらく放心状態だった。
読み終えてみると全ての章が、エピソードが、人物たちが心に焼き付いているかのようだ。
著者のマクラウドも、訳者の中野恵津子さんも鬼籍に入ってしまったが、物語は私たち一人ひとりの心の中で生き続ける。それが物語だ。
「誰でも、愛されるとよりよい人間になる」 -
アリステア・マクラウドは寡作な作家。
珠玉の作品ばかりで読む愉しみを味わえたが、この作品が最後。
短編を書くマクラウドの唯一の長編作品。
いつものようにゲール語、アイルランド、いつも通りのマクラウドの世界。
マクラウドが描く世界は不思議だ。
わたしはこういう暮らしをしたことがないし見たこともないのに、何故かいつも懐かしい。
国が違っていても、誰にでも心に残る原風景といったものがあると思う。
マクラウドはそんな景色を描いている。
スコットランドからカナダ東端の島に、家族と移り住んだ赤毛の男。
そこで営まれる哀しくも穏やかな暮らし。
予備知識なしに読んでも物語に漂うものは感じられると思うが、先に訳者あとがきに目を通して、スコットランドの戦いの歴史を頭に置いておくと、更に物語に入りやすくなるかもしれない。
物語中、父と母と幼い兄が氷の下に落ちたとき、懸命に主人のために生きた犬の部分など、命ある限り人間のために生きないではいられない犬の健気さも心に残る。
何でもない日常、豊かではないが静かで穏やかな暮らしの中に起こるささやかな出来事。
物語全体としては明るいものではなく暗さを感じるのに、気が滅入ることはない。それは作品に登場する人々が自信と責任を持って強く行きていることが感じられるからだろうか。
色褪せた、それでいて透き通ったマクラウドの世界を心から堪能出来る一冊。
もうこれでマクラウドの遺した作品は全て読んだ。
もっともっと、マクラウドの描く誇りある人々の暮らしに触れたかった。
それでも、読み返せばいつでもマクラウドの世界に入ることが出来る。 -
「クロウン・キャラム・ルーア」――赤毛のキャラムの子供たち
物語は、18世紀末最初にケープ・ブレトン島に立ったキャラム・ルーアと、その20世紀の子孫である「私」アレクサンダー・マクドナルドの家族の出来事を明らかにしていく。
かつて、フランスとイギリスはアメリカ大陸の覇権をめぐって争っていた。18世紀末、猛勇果敢なハイランダー(スコットランドのハイランド地区の人たち)は、戦争のために多くがカナダに移ることになった。
生きるために、キャラム・ルーアは12人の子供と妻、親戚を連れて大西洋を渡り、ケープ・ブレトン島にたどり着く。
子供たちはたくましく生き抜き、その子孫はカナダ東部に広がったり再びスコットランドに戻ったりして各地で生きるも、血のつながりが何よりも大切とされ、同族とわかるとゲール語で歌い合い酒を飲みかわす。
「赤毛で双子が多く、古いスコットランドの言葉である「ゲール語」の歌をこよなく愛する人たち」。
出だしは、アルコール依存症の貧しい兄を、高額な歯科医療を仕事として持つ「私」が訪ねる場面から始まる。
…なぜ、「私」はこの兄のもとに通うのか?
ここからこの壮大な叙事詩が幕を開ける…。
浸りきってしまった。
ページを閉じた後も、しばらく、暗い海と灯台が見えていた……。 -
アリステア・マクラウド・・100年前の作家、佳作、とてつもない短編の名手と謳われる。再読をしない私に取り、数少ない、「読み返したくなる作家の一人。
唯一の長編である当作、13年余の日月を掛けて丹念に綴った感のある誇り高きハイランダの紐帯と情緒、決して安泰ではない血と汗と涙が滲むときの流れである。
両親と末の弟を思いがけぬ事故で失った歯科医の次男。
文は回想と現時点を交互にあやなすように綴られて行く。
挿入されるカナダ ノヴァスコンシア州ヶプ・ブレトン島や周辺の何れも身内が思い出として絡んだ土地の情景。
登場するのはクロウン・キャラム・ルーア(初めに移住を決意した赤毛のキャラムの子孫の意)の人々。
ケルト語を話し、ケルト民族の歌をこよなく愛し、民族と深くまつわった食べ物や料理を愛すことで一族の紐帯はとてつもなく強く、今の時間へと連なってきている・・とは言え「最後に締める誰でも愛されると いい人間になるというのは大きく否と感じる~それはノスタルジックに溢れた安っぽい感傷だと・
マクドナルド一族はクラウンにのみ認められた由緒ある家柄・・それだけ紐帯の強さは感じるとともに排他的な気持ちを持つの現代だからだろうか。移民独特の空気感である。
岬、波しぶき、犬や馬と一体の日々の暮らし、亡くなった両親が移った集団写真を引き伸ばそうかと考えて・・ぼやけてしまうことから諦めるシーン・・回顧のメリットとデメリットが織りなす複雑な6世代の感慨を受けた読後だった。 -
①文体★★★★☆
②読後余韻★★★★☆ -
素晴らしい文学は映画的であり、素晴らしい映画は文学的である、と私はよく思うがこの作品もありありと頭の中に映像が浮かんでいた。登場人物たちそれぞれが魅力的で生き生きとしている。
まさに豊かであるとはこういうことだということが分かる物語である。79 -
歴史への責任
百年の孤独みたいなかんじ、と思って読んでた -
スコットランドからカナダへ移住した一家の6世代におよぶ物語。
厳しい自然の中、彼らは一族のつながりを大切に物語をつないでいく。時に優しく、時に勇猛に。
血は水より濃いのだから。
遥かスコットランド、ハイランドから、
ケープブレトンから、
聞こえてくるのは彼らの歌だ。