見知らぬ場所 (新潮クレスト・ブックス)

  • 新潮社
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本棚登録 : 524
レビュー : 65
  • Amazon.co.jp ・本 (415ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900687

作品紹介・あらすじ

母を亡くしたのち、旅先から絵葉書をよこすようになった父。仄見える恋人の姿。ひとつ家族だった父娘が、それぞれの人生を歩みだす切なさ(「見知らぬ場所」)。母が「叔父」に寄せていた激しい思いとその幕切れ(「地獄/天国」)。道を逸れてゆく弟への、姉の失望と愛惜(「よいところだけ」)。子ども時代をともにすごし、やがて遠のき、ふたたび巡りあった二人。その三十年を三つの短篇に巧みに切り取り、大長篇のような余韻を残す初の連作「ヘーマとカウシク」。-名手ラヒリがさまざまな愛を描いて、深さ鮮やかさの極まる、最新短篇集。フランク・オコナー国際短篇賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 「人情の機微に触れる」という文句がある。ふだん誰もが何気なく経験しているような、ふとしたできごとにあらためて目を止め、しみじみと味わったときに口に出る言葉だ。ジュンパ・ラヒリの手にかかると、気づかずに通り過ぎていたあれこれの日々が、ページを繰るたびに紙の上に記された活字の中から、立ち上ってくるように感じられる。

    コルコタ出身のベンガル人夫婦の子として生まれ、アメリカに暮らす移民二世を主人公とする8編の短編は、いずれも作家自身の経験からそう遠くは離れていないだろうと思わせるリアリティにあふれている。インドという国の躍進ぶりが話題になって久しいが、そのかげにはここに描かれたようなアメリカの大学で学位をとるために国を出た多くの俊才がいるのだろう。

    移民とはいえ、かつては苦労した父親も今では大学教授になっている。ボストンやマサチューセッツ郊外の落ち着いた町に居を構え、息子や娘は大学に通っている。インドの暮らしに郷愁を感じるのは母親くらいで、移民も二世になれば、アメリカの若者と変わりはない。親に隠れてマリファナを吸ったり、酒を飲んだり、異性との関係も早いうちからできている。

    人情の機微と書いたが、ここには親と子の情愛がある。妻に先立たれた夫と夫に先立たれた妻との愛がある。父の再婚相手と、死んだ母の思い出の間で悩む子どもの気持ちがある。突然家に転がり込んできた知人の家族との微妙にすれちがう日々の暮らしがある。小さいころに少しの間一つ屋根の下で暮らした男の子と女の子との思いもかけぬ再会がある。

    「読者は知っているが、登場人物は知らない」というのが、読者の興味を引き続けながら最後まで引っ張ってゆくために物語が利用する構造である。一つのストーリーの中で、主人公二人のそれぞれに交互に話者の視点が移動するというのは、どうやらこの作家お気に入りの手法らしい。第一部巻頭に置かれた短編集の表題作「見知らぬ場所」と第二部を構成する「ヘーマとカウシク」の三部作では、特にその手法が功を奏し、互いを思いながらも微妙にすれちがうメロドラマ的な構造が、ある時はしみじみと、またある時はせつなく読者の胸を打つ。

    「見知らぬ場所」は、アメリカ人と結婚した子持ちの娘の家を、妻に先立たれてひとり暮らしの父が突然訪れる話。同居を期待しているのかと案ずる娘と、パックのツアー旅行中に知り合った女性との交際をはじめた父の、少し距離を生じた関係が抑制を帯びた筆致で織り出され、この作家独特の世界に自然に導いてくれる。娘夫婦の新居の庭に植物を植える父と孫のやりとりがほのぼのと胸に迫る佳編である。

    第二部は、親同士が知り合いで、たまたまある時期同じ家に住んでいた二人の男女の人生を、三つの短篇として描き分けるという意欲作。「一生に一度」は、ヘーマという女性の視点で二人が互いを意識しはじめた頃の思い出を描いている。「年の暮れ」は、大学生になったカウシクが再婚した父とその家族に会いに母の死を看取った家を再訪する話。「陸地へ」は、不倫に疲れたヘーマが別の男性と婚約中、研究のために訪れたローマでカウシクと再会するという三部作の結びにあたる作品。

    時事的な話題を織り交ぜ、物語に今日的な主題を導入しつつ、いかにもメロドラマに相応しい舞台としてのイタリア風景を点綴し、愛の物語らしい設定に十分配慮した「陸地へ」は、これまでのジュンパ・ラヒリとはひと味ちがった世界を見せている。最後の場面、こうとしかありえなかったのであろう結末に、秘かに予告されてあったことを認めながらも、鼻の奥がつーんとし、目に熱いものが滲み出してくるのを不覚にも押さえられなかった。

  • 第4回フランク・オコナー国際短編賞を満場一致で受賞。

    まず引用(表紙裏より)
    「母を亡くしたのち、旅先から絵葉書を送るようになった父。仄見える恋人の姿。ひとつ家族だった父娘が、それぞれの人生を歩み出す切なさ(見知らぬ場所)。
     母が「叔父」に見せていた激しい思いとその幕切れ(地獄/天国)
     道を逸れていく弟への、姉の失望と愛惜(よいところだけ) 

    子ども時代をともにすごし、やがて遠のき、ふたたび巡りあった二人。その三十年を3つの短編に巧みに切り取り、大長編のような余韻を残す初の連作「ヘーマとカウシク」

    ↑どれも素晴らしいです。
    最初の表題「見知らぬ場所」から惹きこまれました。
    私の父はもう亡くなりましたが、もし生きていたとしても、私が父に抱く思いというのはこんな感じなんじゃないかな・・・と。(母が生きているので、父は恋人は作らないと思いますが・・)。ベンガル系インド人、という共通した世界なのですが、日本人が読んでも深く共感できます。

    ・・・すごい脱線ですけど、川上弘美の「センセイの鞄」のラストの喪失感。あんな感じ(なによそれ?笑)
    でも不幸じゃない。
    大切な、いとしいものを抱きしめる感じ。

    大切な一冊になりました。買おうかなー。(しかしこの厚さ!絶対文庫本にならなさそうな・・・。)

  • 親子の話。初恋の話。

    インドからアメリカに出て、こどもは否応無くアメリカ人になっていって、親の目線、子どもの目線、どちらから見ても、何かを失っていく人たちの話。悲しいばかりでもないけど、切ないって言うんでもないけど、ただ喪失感に包まれる。
    とても淡淡とした、文章なのに。

  • これ以上のストーリーを書ける作家を私は知りません。巧いの一言です。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「巧いの一言です」
      でも★三つなの?
      komusumeさんって辛口なんですね。。。
      「巧いの一言です」
      でも★三つなの?
      komusumeさんって辛口なんですね。。。
      2012/09/03
  •  フランク・コナー国際短篇賞受賞。短篇集となっているが実際には中篇集と呼ぶのが正確かも。どのエピソードもアメリカ育ちのインド人二世が主人公で、その周りの家族の物語が書かれている。出自による安易なカテゴライズをすればどのエピソードの主人公も同じ枠に入るけど見ている景色は全く異なる。ラヒリの作品を読んでいて思うのは家族に対する一定の不信感が漂っているところ。あくまで他人だという価値観に基づいた話が多くて、通じてなくてもそのまま前に進むこともできるし、分かり合えないままなこともある。親と子、男と女といった各自の視点で描いていく点も相互理解の豊かさと難しさの両方が伝わってきてオモシロかった。あとヒヤッとするエンディングの話が多くて、そこも好きなところ。それは以前の短篇集「停電の夜に」から続いていて家族ものといえば多くの場合、感動物語に回収されがちなところ、そういう空気をぶった切る鋭さがかっこいい。しかもエンディングまでは丁寧に生活を描写しているから余計にその落差に驚く。ゆえにますます「次はどんなんですか?」と読みたくなりラヒリワールドに取り込まれていくので400ページあっても終わってほしくないなと名残惜しくなった。
     お気に入りとしては、後半にある中篇の連作が特に好きだった。この後にリリースされた「低地」のプロトタイプと言ってもいいかも。場所と時間をダイナミックに移動しながらも描写は細部に丁寧でグイグイ読ませてくる。人の死がリアリティを持って迫ってくる描写としてブラジャーの試着を持ってくるあたりがセンスよ…と言わずにはいられない。またYear’s endのあのビターな味わいも良き。子どもだからといって容赦ない。ぶっちゃけプロットだけ見ればよくあるメロドラマなのに彼女が書くと実在感が強烈になのはなぜなんだろう。そこにラヒリの魅力が詰まっていると思う。

  • 表題作は若い母親とその父親の交互視点が面白い。子は親が思っているほど薄情ではなく、親(特に父親?)は子が思っているほど家族が全てというわけではない。小さな子どもって本当に無自覚に真相を突いたりできるんだよね。偶然だとしても。

  • 家族生活、結婚生活の中の細かなヒビ。それはインド系移民の二世代でのみで発生するものではなく、誰か誰かの暮らしで発生するもの。

    それぞれの人生を平等に描く作品。各人は物語の役割として存在するわけではなく、それぞれの人生がある、というスタンスがリアルで読みたかった本だと思った。

  • インド系アメリカ人の生活や気持ちがよくわかる話だった。
    話自体は家族のことや恋愛あれこれだが、最後まで面白く読めた。
    民族は違っても人間の感情はさほど変わらないものだと再認識。
    少し前にイーユン・リーの小説も読んでいたのでバックグラウンドの違いも比較出来て良かった。

  • またもや一気読み。
    親と子とはいえ、個が織りなす(あたりまえすぎるが、関係するといってもよい)生活、そして、社会。ベンガル人=immigrantという表象を守り、コルカタに意味を見出す人たち、そして新しい土地に意味を見出し脱していく人たち。物語のそこかしこに世代の違いが、家族ノカタチがみえる。
    「ヘーマとカウシク」の書簡体から始まり、一人称の物語の語りに胸をぎゅっとつかまれ、揺さぶられた。なんともいえない物語の終わりにどうしていいのか、自分の心のもっていきどころがなくて。

    ラヒリはすごい。このあと、彼女はどんな物語を書くのだろう。

  • インド系の両親の間に生まれイギリスとアメリカで育った作者による時には切ないが美しい作品の数々。グローバル時代を深く豊かに生きるための必読書。(有馬 教員)

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