博物館の裏庭で (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (484ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900694

感想・レビュー・書評

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  • 年明けから読み始めて、約一週間でようやく読み終えた、「ルビー・レノックス」の家族四世代に渡る、それぞれの人生模様を積み重ねた歴史は、何か輝かしい偉業を成し遂げたわけでもないし、家族って素晴らしいと思えるものでもなく、むしろ、辛く悲しく、陰湿で、下品で、現実味がありすぎて、何を言いたいんだと思うかもしれない。

    しかし、私にはそれにすごく共感できるものがあった。
    何故なら、私もそう思えるような人生を送ってきたからです。

    それに、よく目を凝らして見てみると、小さいながらも、細々と輝く愛も確かに存在する。
    その現実味溢れる、人生の再現度がすごいのであって、そこには、きれい事だけで人生は成り立たないことを実感させてくれる。

    確かに、バンティやパトリシアの人間性を読んでいくと、決して好きになれない要素が多いと思うかもしれない。
    でも、彼女たちも涙を流して泣いている場面もあるんですよ。

    別に彼女たちに限らず、意地の悪いレイチェルが、アルバートのことを自慢気に話していたり、子供の写真を胸にしっかり抱きしめていた彼女もそうだし、女に限らず男だって、ジャックとスパニエル犬のジェニーの戦時下での悲劇や、ロレンスの終盤での思いの丈を吐き出す様には、真に目頭を熱くさせるものがあり、それらの中には、本人たち同士でその思いが伝えられない悲劇もあるけれど、それが無くても、遠いどこかで自然と涙にくれることができる、それは正に家族の遺伝子が為す偉業であって、決して事故に遭いやすい遺伝子だけを持つ一族ではないのです。

    ルビーもネタバレの一件含めて、その人生は決して安易でやさしいものではなく、彼女の愛は大きくないのかもしれないし、「かわいそうなルビー」というフレーズの真意に涙したが、それでも、十五年待った甲斐があったと思えたり、過去は引きずって歩くものだと辛苦も受け入れて、彼女自身の人生を歩む様には、たとえ名誉や栄光がないとしても、素直に拍手を送りたい気持ちになりました。

    「人生はなぜこんなに美しいと同時に、こんなに悲しいのだろう?」と、思いを巡らしたこともあったルビー。

    それが人生だからだと私は思う。

    そして、何より私がいちばん嬉しかったのは、初の長篇にして、ウィットブレッド賞受賞作でも、作風がブロディシリーズと全く変わっていない、アトキンソンの変わらぬ信念だった。

    • 111108さん
      たださん、お返事ありがとうございます。

      図書館本で今手元にないことが悔やまれますが「異様なまでの情熱」という言葉は印象的で覚えてます。
      作...
      たださん、お返事ありがとうございます。

      図書館本で今手元にないことが悔やまれますが「異様なまでの情熱」という言葉は印象的で覚えてます。
      作り話とは思えない、その場にいて見ていたかのような細かい描写は本当にすごいですよね。アトキンソンの自伝的小説という意味ではルビーの世代の話が作り物めいてないのはわかるけど、その何世代も前の事も見ていたかのように描けるのが見事。
      だからこそ人がしてしまう矛盾した行動「そんな事言う?」とか「何故その選択を?」という疑問もその結果起こった悲劇も、いいとか悪いとかでなく「そういうこともあるんだ」と納得させてしまいますね。
      2022/01/09
    • たださん
      111108さん

      何か生きていくことに、多少の気楽さというか、少しほっとさせられる感覚を得られるのは、読書の素晴らしさのひとつかもしれませ...
      111108さん

      何か生きていくことに、多少の気楽さというか、少しほっとさせられる感覚を得られるのは、読書の素晴らしさのひとつかもしれません。
      2022/01/10
    • 111108さん
      たださん お返事ありがとうございます。
      ほんとにそうですね。
      たださん お返事ありがとうございます。
      ほんとにそうですね。
      2022/01/10
  • 現在と過去を行き来しながら、四代に渡る家族の歴史が少しずつ明らかにされる。読みながら、どんどん引きこまれた。
    死を自覚せざるを得ない戦争に行く男たちや、困難な時代を生きる女たちのしなやかなしたたかさが印象的だ。
    それぞれの人生では、いろいろなものが失われ、棄てられていくけど、受け継がれていくものが確かにある。

  • 1952年、英国の古都ヨークの平凡な家庭に生まれたルビー・レノックス。一家はペットショップを営み、お店の2階に暮らしている。部屋の片隅に眠る、古ぼけた写真、ピンク色のボタン、兎の脚のお守り。そんな小さなものたちが、それぞれの時代の記憶を語り始める―。はかない初恋や、家族とのいざこざ、異国への憧れ。そして、ルビーの母の、祖母の、曾祖母たちの平穏な日々を突然奪っていった、2度の戦争。ルビーの人生を主旋律とする物語は、さかのぼる三代の女たちの人生と響き合いながら、一族の壮大な歴史を奏でる。ウィットブレッド賞を受賞した、現代の「偉大なる英国小説」。

  • 舞台はイギリス、ある家族の4世代に渡る年代記。
    家族の物語とは時に笑いがあり時に哀しみがあります。
    「人生」というストーリーが家族一人一人にあり、しっかりと焦点を当てて描かれています。

    著者のユーモアのある独特のタッチが読んでいて心地良いです。
    特に家族の死に関しては普通重くなりますものが、これは著者の死生観によるのでしょうか、登場人物の前向きな姿勢に私は共感しました。
    もっと評判になってもいいと思える作品です。

  • 1952年、英国の古都ヨークでルビー・レイノルズが妊娠した瞬間の胎児の独白から始まり、冷静に不仲な両親を描写。
    博物館というのはヨークにある歴史ある博物館で、化石なども見える。
    気の合わない姉たちなど、みっちりと濃密でにぎやかな家庭の有様が描かれます。
    父のジョージは浮気者、実の母バンティは家事は有能でしつけの厳しい母親だが料理はそれほどうまくない。家族旅行の騒動には大笑い。
    街で2番目にテレビを買い、女王の戴冠式をテレビで見るのに近所の人が集まるので大量のお菓子を用意するなど、なかなか美味しそう。
    バンティは5人きょうだいの真ん中で育ち…
    その母ネルは大人しい女性で、戦争で2度も婚約者を失い、残った男性と結婚するしかなかった。
    ネルの母アリスは育ちがよかったのに貧しい暮らしに追われ、子ども達を残してある日フランス人と駆け落ち。
    従妹のレイチェルが後添えになり、これは母よりも貧しい育ちだったのだが主婦としては有能、ただし意地悪なところがあった。
    ルビーの人生も単純には行かない。
    古ぼけた写真の主やその意味、ウサギの足のお守り、ピンク色のボタンなど小さなものが家族に伝わっていく…
    家系の中にある3つの謎が最後の方になってわかってきて、カタルシスになります。
    著者は1951年ヨーク生まれ。86年短編で一等をとり、95年初の長編の本書でウィットブレッド賞受賞。

  • レポート用だけど気になってた本なので読めてよかった。
    現在と過去、そして未来。
    全てはつながっていて、劇的なようで平凡にあるだろう日常。

ケイト・アトキンソンの作品

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