時のかさなり (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900717

感想・レビュー・書評

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  • この小説の構成は凝りに凝っている。さすがロラン・バルトの弟子というところだろうか。

    時代は現代から過去に向って描かれている。
    語り手は、いずれも六歳の子供たち四人。曾孫→孫→子→親という順番。

    第一章を語るのは現代に生きるソルというこめかみに痣のある六歳の男の子。
    彼を甘やかし気味に育てる専業主婦のママとタロンという戦争ロボットを作っている会社に勤めるパパに大事に育てられている。

    第二章を語るのは、ソルのパパのランダル。パパは売れない劇作家で、ママは歴史学を教えていて多忙。

    第三章を語るのは、ソルのママのセイディ。優しい祖父母に育てられている。ママのエラは歌手なのだ。

    第四章を語るのは、セイディのママのエラ(クリスティーナ)。ナチス支配下のドイツが舞台に物語は描かれる。

    最後まで読むと60年に渡る一族の歴史が語られてるのだが、読者は必ず、何度も何度も前のページをめくり、複数の視点から物語を把握したくなる。

    六歳の視点から語られる出来事。家族がどのようにうつっているかというイノセントな視線。そして、彼女(彼)が大人になった時に子供の視点から語られる彼女。また祖母、家族。

    ナンシー・ヒューストンの作り出した何重にも重なる時の仕掛けに、敬服するとともに、60年の間の時代の流れを感じずにはいられない。

    特に、祖々母と曾孫の生きる時代の相違には、考えさせられる。
    そして、ふたりは、この世に一緒に存在しており、時を享受しているのだ。

    六歳の子供の語る物語としては、子供を持ったことがある親なら違和感を感じるかもしれない。
    六歳の子は個性があっても六歳の感性しか持ち合わせていない。
    その感性そのままに描かれている章もあるのだが、そうでない章もある。

    レーベンスボルンに関しては、BSのドキュメンタリーをちらっと見たことがあり、名前だけは知っていた。
    認識としては、ナチのアーリア化を促進するために、ナチ党員が北欧の女性と性交渉を行い、その子をレーベンスボルンで養育し、ある年齢に達したら、ドイツ家庭に引き取り育てるというものだと思っていた。
    しかし、実際は、それだけではなく、アーリア的な子供(「金髪」「碧眼」「長身」)が、ポーランド、ウクライナ他バルト海沿岸の国々で二十万人を超える子供が拉致され、ゲルマン的な教育を受けた後、ドイツの一般家庭に引き取られていったという。

    この悲しい現実を四章で六歳のエラが語っていく。家族だと思っていた人たちが家族でなかったという現実。
    そして、突然兄となった、自分と同じ経緯で引き取られた少年の悲哀。

    日本では北朝鮮の拉致事件が未解決のままだが、この事件がヨーロッパではあまり話題に上ることはない。
    ナチの犯罪のひとつとして二十万人超の拉致事件が発生したのかという事実を今更ながら知り、愕然としてしまった。

    曾孫のソルを両親は極めて平和的手法で子育てをしようとしているが、このソルという六歳の生意気な子供は、自分を『罪と罰』のラスコーリニコフ的な勘違いをしており、『悪霊』のスタヴローギンとまではいかないにしても、自分には神がついてるかのごとき傲慢さがちらほら顔を出す。

    ソルの父親のランダルは戦争ロボットを作る会社に勤めている。彼が作る戦争ロボットのメリットは、
    「不死身、家族がいないので戦死後年金を払う必要がない、食べ物、飲み物、セックス、トラウマも心配無用で、量産が可能なので代替や追加はいくらでもできる」

    この話を聞いた祖母の歴史学者のセイディは反論する。
    そう、男はなんのために戦をし、死んできたのか。戦争ロボットなんてナチと同じじゃないかと。
    しかし、実際、戦争ロボットはもう研究開発途上にあり、生身の人間を殺し合う戦争は、最もヒューマニズムに反する行為は肯定できないことは確かなのである。

    このような現代の事実や、歴史や戦争や時代などの深いテーマを六歳の子供たちは、強い個性をもって語ってくれる。

  • あとがきにもあるように、いわゆる「一族もの」は年代の古い順にすすんでいくものですが、本作はルーツの新しい人物(2004年)から古い人物(1945年)へ逆行していくという形を取っていて、その分ミステリアスな雰囲気をかもし出していました。読んでいくにつれ少しずつ謎が明かされていきます。
    レーベンスボルンがアーリア人を「生ませる」施設だったことは知っていましたが、子どもを拉致までしていたとは驚きでした。深い作品です。

  • ある家族の歴史現代から第二次大戦まで、時代と国、民族を4代に渡って6才児の視点で時系列逆行で描く。

    最初の男児がもう糞餓鬼&馬鹿母過ぎて(失礼)読むのやめようかと思ったのですが、これは最後の最後まで読まないとダメですね。
    曽祖母エラに関する話を、普通の構成じゃなくこういう形にしたので6才児が知りえないことはそのまま謎として、核となる部分をのぞき見したような読後感でした。でも、戦争を経て子孫はいい時代にいい人生を、って願いは砕かれる前半だった・・。

  • 「過去に何があったか知らなければ、未来を作り上げることなんてできない」
    息子、父、祖母、曾祖母のクロニクルを、それぞれ6歳の少年少女が物語っていく。
    物語の筋とは関係ないけど、4代に渡ってさかのぼっていくので、どうしてこんな人間になったんだろう?って謎が少し解けたりする。
    どの時代も、子育てに正解はないなということや、ナチスとユダヤの歴史の重みなど感じた。
    最後まで読むと、ああ、そういうことだったのか、と少しあまずっぱい気持ちになった。
    いろんな読み方ができる小説だと思う。

  • ぐいぐい読まされた。
    時間を遡っていく構成がおもしろい。謎が少しずつとけいてく。
    また最初に戻って読まずにはいられない。
    イスラエルとパレスチナの問題って、すごく複雑かつ深刻なのだなぁと今さらながら知った。
    ナチスとユダヤ人の問題なども織り込まれていて、深い。
    しかし一番最初の語り手である6歳児・・・怖いよ。こんな6歳児ほんとにいたらすごく嫌だ・・・。

  • 読み進めるにしたがって、すこしずつ親族の秘密があきらかになっていく、ミステリの要素もある。
    最後のクリスティーナ(エラ)の章を読み終えたとき、ものすごい衝撃が走った。

    断片的にちらばった言葉たちが一気につながった。

    そして何度も、前の3章を見返した。

    ぜひもう一度読もう。

  • [ 内容 ]
    2004年のカリフォルニア、豊かな家庭で甘やかされながら育つソル。
    1982年、レバノン戦争ただ中のハイファに移り住み、アラブ人の美少女との初恋に苦悩するランダル。
    1962年のトロントが祖父母に育てられ、自由奔放で輝くばかりの魅力に溢れる母に憧れる多感なセイディ。
    1944~45年ナチス統制下のミュンヘンで、歌を愛し、実の兄亡きあと一家に引き取られた“新しい兄”と運命の出会いを果たすクリスティーナ―。
    世代ごとに、六歳の少年少女の曇りない眼を通して語られる、ある一族の六十年。
    血の絆をたどり、絡まりあう過去をときほぐしたとき明かされた真実は…魂を揺さぶってやまない傑作長篇。
    フランス・フェミナ賞、Prix France T´el´evision賞受賞。

    [ 目次 ]


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    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • はっきりとした答えは無いのね。だけどさまざまな予感を
    覚えることができる。
    それぞれの時代を生きる、ある一族の子供たちの価値観の
    変化が、なかなか面白かった。でもちょっとしつこかったかな。

  • ほんとに時は重なっていた。
    4世代の物語。
    宗教も言語もそれぞれ

  • 「ユダヤ人ドイツで暮らしアメリカへいつしかドイツ語から英語に」

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ナンシー・ヒューストンの作品

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