- Amazon.co.jp ・本 (172ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105900793
作品紹介・あらすじ
歴史学者を目指すエドワードと若きバイオリニストのフローレンスは、結婚式をつつがなく終え、風光明媚なチェジル・ビーチ沿いのホテルにチェックインする。初夜の興奮と歓喜。そしてこみ上げる不安-。二人の運命を決定的に変えた一夜の一部始終を、細密画のような鮮明さで描き出す、優美で残酷な、異色の恋愛小説。
感想・レビュー・書評
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いかにもイアン・マキューアンらしく、緻密で、静かで、残酷な物語。
ほろ苦いなんて言葉では済まない人生の無情を、理知的な言葉で、対立する登場人物の立場や思惑やエゴをこれでもかと暴きたてながら、容赦なく突きつけてくる。
結婚式を挙げハネムーン初夜を迎えた若い夫婦の行き違いとその後を、そこに至るまでにそれぞれが辿った人生や二人が幸せを分かち合った時期のエピソードを挟み込みながら描いた作品。
所属階級や育った環境の違い、それぞれの家族が抱える問題や関係性…。
ボタンのかけ違いは、小さいようで、大きく。
まだ若く未熟だった二人の間に横たわる埋溝は埋まらず…。
読み手に、どうして、という疑問や感傷、余韻や想像の余地を与えないほどに、残酷なまでの明快な言葉で、二人で歩むはずだった幸せな未来の破綻の原因を述べ尽くしてしまうマキューアン節は好き嫌いは別れるだろうなあ、と思います。
しかし、人生におけるすれ違いを、これほど緻密な残酷さで描ける作家はやはり彼しかいない、と思い、ついつい手に取ってしまう、不思議な中毒性…。
「胸に帰来する感傷や悲哀」なんて生易しい言葉では全く足りない、胸の弱い部分を容赦なく針でブスリ、時には、鋭い刃でグサリ、と刺されるような痛みをあえて求めて味わってしまう私はマゾなのか…。
いや、マキューアンが描く登場人物が抱えるエゴや足掻き、そして失敗の経験が、少なからず私の中にも確かにあるってことを痛感して、すごく嫌なのに、それでもどこか共感してしまうからかもしれない。
この短い感想を書く間にも、くどくどしく何度も「残酷」という言葉を使ってしまったけれど、マキューアンの作品は「残酷」という言葉が、本当に何よりもよく似合うと思うのです。
マキューアンに興味がある人、彼のファンにはオススメ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
再読。
読み終わってからもずっと、波音と共に余韻が残る。
あらすじをまとめれば、時代背景はあるにしてもありがちな成り行きなのだけど、極上の読み物に仕立て上げるマキューアンの手腕は見事。
一度捕まえ損ねた波は、二度と打ち寄せることはないのだ。 -
本好きなひとたちからは、マキューアン好きそうと言われるけれど何故だ、なんとなく素直に好きとは言いがたい。なんというかこのムズムズする感じ、引っ張れるだけ引っ張られる緊張感の中、最終的に突き飛ばされるような結末と、その影でヒヤリとするような著者のシニカルな笑みがかいま見えるような、そういう居心地の悪さ。好きなひとはこういうのが好きなんだろうな。
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僕は、イアン・マキューアンの作品を、完璧な作品である、と言ったことがある。
そして、本作の読了時においても、その感想は変わることはなかった。
本作は、主題・プロット・構成・描写・文体、小説を構築する要素のいずれをとっても何らの新規性や事件性があるわけではなく、どちらかと言えば古めかしい主題を古めかしい手法で、王道に忠実に描き切った作品と言える。
だけど、読み始めてすぐに、魅力的な小説が総じてそうであるように、「首根っこを掴まれて物語に放り込まれ、離れることができなくなった」かのような、暴力的とも言える小説の魔力に憑かれてしまった。
これは一体なんなのか。
帯にあるタイムズ紙の評では、「マキューアンの長編小説が交響曲であるとすれば、この作品は室内楽曲である。より親密で、繊細で、しかし緻密さと精巧さにかけては、交響曲と同等か、むしろそれ以上である」という賛辞の言葉が並べ立てられている。
交響曲には交響曲の完璧な演奏が、室内楽曲には室内楽曲の完璧な演奏が存在する。
マキューアンはその両方を実現し、我々に聴かせることのできる、稀有な演奏家である。
読み始めてすぐに、それらの言葉は決して言い過ぎではないことに、我々は気づく。
いや、ほんと巧すぎる。 -
これ書いたのが男の人なのにびっくり。
嫌悪感と恐怖感と自分自身を売り渡さないこと、についてぐるぐる考える。
イギリス/1962年 -
3月1日再読。
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イアン・マキューアンの小品。性の解放が叫ばれる前の1962年の英国において、初夜を迎える若い二人の期待と不安。愛しているにもかかわらず、すれ違ってしまう感情。二人の青春のおかしみと哀しみを描く。
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映画を見ての再読。
極めて不注意な読者なので初めて読んだ時には「若い男女のすれ違い」の話と受け取って見逃しており、映画で小説よりはっきり描かれていたのが、フローレンスが父親から性的虐待を受けていた点だ。それが性への恐怖感、とりわけ射精への嫌悪の原因だったということ。いや、小説も注意深く読めば書いてある。「『わたしにほんとうに必要なのは、母を殺して、父と結婚することかもしれない』この大胆なジョーク」
二人の育ちや階級(クラス)の違いが料理に現れている部分などは小説ならではの詳細な描写で面白い。父親が作る簡単な食事で育ったエドワードは、オックスフォードの大学教師の家庭で「不思議な野菜」やヨーグルトやブイヤベースを初めて食べ、「まったくジャガイモが出ない食事」を食べる。
しかしマキューアン、映画のラストは蛇足すぎただろう。この小説の余韻を台無しにする感動シーン、本人が脚本で書いたとは…
イアン・マキューアンの作品






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