奪い尽くされ、焼き尽くされ (Shinchosha CREST BOOKS)
- 新潮社 (2010年7月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105900847
作品紹介・あらすじ
夏休みを持てあます少女。認知症の父と過ごす中年男。移動遊園地に集う人々。暴虐の限りを尽くすヴァイキングの男たち-。多彩な視点と鮮烈な語りが、人々の静かな絶望、消えずに燃え残った願い、湧き出す暴力の気配を描き出す。アメリカン・ドリームなき21世紀のアメリカ人の姿とその内面を、絶妙の心理描写と独特のユーモアで浮き彫りにする全9篇。ニューヨーク・タイムズ紙、タイム誌ほか各紙誌が絶賛した驚異の新人によるデビュー短篇集。
感想・レビュー・書評
-
後味の悪い話が9話詰まっている。共感できる登場人物は一人も出てこない。
保養地だけは少しおもしろかった。
おかしな兄弟愛に何度か噴きだした。
アメリカに興味ある人しか読んではいけない本だなと思った。
きっとアメリカ人が読むとおぉっ!と思うような描写が多々あるのだろうけど、日本人の、しかもアメリカなんて全然関心がない私には、退屈なだけだった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
九編からなる短編集。
正常な軌道から脱線してしまった人生を、なんとか立て直そうとする人々や、知らぬ間にぎくしゃくしてしまった人間関係に戸惑う人々。
ささやかな夢にすがるでもなく、それでも諦めるでもなく彷徨う人々。
そして暴力によってしか生きることの出来ない人々(そんな人々が恐れるのはやはり暴力なのだが)。
最後の一編である表題作以外は、アメリカの普通の人々の現状なのかも知れない。
一握りを除いて、多くの人々は人生を立て直すことが出来ず、人間関係はぎくしゃくしたまま、夢は永遠に叶うことはなく、暴力はあちらこちらに散らばっている。
最後の一編「奪い尽くされ、焼き尽くされ」はヴァイキングの話。
ここで描かれている暴力描写もさることながら、結局はその暴力に葛藤する様が見事に語られている。
この作者の作品はまだ本書しか翻訳されていないようなのだが、翻訳されることがあれば、間違いなく手に入れて読みふけることになるだろう。 -
冴えない人生が、素晴らしい出会いや機会を得て一発逆転サヨナラホームラン、一躍ヒーローインタビューなんてものの主役に。皆から羨望の眼差しが注がれるようになる……そんな事を夢見ているなら甘すぎる。そんなことは絶対ない。あるわけない。ということをしみじみと思い知らされる一冊。
全九篇の短篇の主人公たちは、美しいいとこに、意地悪な継父に、老いた実父に、自分がかつて踏みにじった者達によって生活も人生も踏みにじられ蹂躙され、そこではわずかな希望も瞬く間に焼き尽くされて灰になる。
状況はなにひとつ良くならず、望みはかなわず、期待は外れ、救われることはない。
その有り様を著者は淡々と、しかし精緻な文章で描き出す。
荒涼とした登場人物たちの心象風景から思わず目を背けたくなるのは、これがどこにでもある『普通の人生』だからなのか。
この本をうかつに読んではいけない。精神を擦り剥いてしまうから。皮膚がそげて、血がにじむ、あのひりひりとした痛みは、誰でもあまり気分が良いものではないだろう。 -
すばらしく巧い短編の書き手。人物像も世界観も自在に操り、端正な筋の運びでラストに余韻を残す。人生のささやかな躓きと鬱屈、この系統は現代作家に多いなとも思いつつだったが、ラストの表題作には意表を突かれた。
-
デビュー短編集らしく色んな雰囲気の作品があるが、社会の吹き溜まりのような場所で上手くいかずにもがいている普通の人々をユーモアある視点で描くレイモンド・カーヴァーのような感じの作品がいくつかあり、とても良かった。文体も綺麗なわけではなく、どちらかといえばワイルドなところがデニス・ジョンソンを彷彿とさせる。
-
こういう作品を読むと不安に、というかしんどくなる。
「現代のアメリカの現実を書ききった作品」とされる2009年の著者デビュー作。
『BRUTUS』2014.9.15号特集「強い酒、考える酒。」のなかの「酒と本」のなかに、この短編集に収録されている『茶色い海岸』の一部が引用されていたので、興味を引かれて図書館で借りて読んだもの。 -
第1回(2011年度)受賞作 海外編 第9位
-
思ってたほど救いのない内容でもなかった。中盤の「下り坂」「ヒョウ」「目に映るドア」がお気に入り。
カーヴァーの作品よりも、なんだか乾いてるけど生命力が強そうな登場人物が多い気がする。
この訳者の訳で他の作品も読んでみたい。