オスカ-・ワオの短く凄まじい人生 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900892

作品紹介・あらすじ

オスカーはファンタジー小説やロールプレイング・ゲームに夢中のオタク青年。心優しいロマンチストだが、女の子にはまったくモテない。不甲斐ない息子の行く末を心配した母親は彼を祖国ドミニカへ送り込み、彼は自分の一族が「フク」と呼ばれるカリブの呪いに囚われていることを知る。独裁者トルヒーヨの政権下で虐殺された祖父、禁じられた恋によって国を追われた母、母との確執から家をとびだした姉。それぞれにフクをめぐる物語があった-。英語とスペイン語、マジックリアリズムとオタク文化が激突する、全く新しいアメリカ文学の声。ピュリツァー賞、全米批評家協会賞をダブル受賞、英米で100万部のベストセラーとなった傑作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 以前から様々なところで紹介されているのを見て気になっていた本書、デヴィッド・ボウイの愛読書100冊にもリストアップされているのを見て、読んでみることにしました。

    主人公・オスカー、彼の姉、母親、そして祖父…彼ら一族の人生を描いた物語。
    ドミニカの政治や歴史、猥雑さ、オスカーの愛するSFやファンタジーや日本のアニメ、濃厚なカリブ海の空気、支配、苦痛、そしてフクという名の呪い…。
    あらゆるものを、巨大な手でぐぅっと束にして練り上げたような、密度と情報量に圧倒されました。
    痛々しくて顔をしかめてしまうような場面もあるのに、雑多なものの中から立ち上がってくる、主人公やその家族たちの凄まじいパワーや純粋な部分から目が離せないのです。

    ドミニカという国についても、アニメやSFについてもよく知らないけれど、著者による膨大な注釈と物語そのものや登場人物たちのエネルギーに引っぱられて読了。
    読み終えたときの疲労感と満足感にしばし、茫然としたのでした。

  • 世界文学の新潮流、ラテンアメリカ発マジックリアリズムというものを読む。

    加えて、 オタク文化といわれているマンガやアニメ、ロールプレイングゲームとか、 あたらしき、めずらしきものを知らされたる文学なり。

    いわゆるファンタジー文学や読み物にうといわたし、 とっつきは悪かったが、ぐんぐん引っ張って行かれたおもしろさであった。

    それはもちろん小説がリアリズムにつらぬかれているから、 いまや世界どこにでも共通する普遍の物語であったからであった。

    まず、舞台がほとんどドミニカ!
    うっすら知ってはいても、それは「どこじゃ?」という場所、国、 南北アメリカのど真ん中、アンティル諸島の中の小さな島のそのまた半分の国、ドミニカ共和国。

    あのキューバに近くて、アメリカ合衆国に近くて、実際主人公のオスカーは子供の頃、家族とともにニュージャージーに移住。それがそもそもこの文学のみそなんだが(アメリカのグリーンカード万歳?)

    第三世界から第一世界にワープしたような、 つまりテレビも電気もほとんどない世界からそれがあふれている世界へ。

    そもそも移民自由国なのに、あるある人種差別!
    移民たちは群れる(それをこの小説は「ゲットー」といっているが) 怒れる移民は内にこもる、性格が内気な少年は世の常、いじめられる、ふとってくる、 そうして立派なオタク青年になったオスカーが遭う悲恋の数々が縦糸。

    横糸はドミニカ共和国の歴史、残額無比の独裁者トルヒーヨ時代の話、わたしだってこの本で知っただけなのだが、ものすごい迫害治世(1930~1961年)
    いつの時代も、どこの国にも恐怖政治があるのだなあ、今もあるし。

    オスカーの祖父母、母、姉と3世代にわたって、家族の壮絶な道のり、最後には泣けてくる、オタク青年オスカー本人の短い人生。

    それをあちらからもこちらからもの切り口でする、語り文学。ま、いろいろ賞(ピュリッツアー賞など)をもらったのもうなずける

    わたしも感動と共にすこしはファンタジーに慣れたかも
    でも、この本はファンタジーではないのだ。

  • 軽妙で読みやすい語り口の文章はとても上手く、定期的に「うおおお」とテンションが上がるシーンが来るかんじ。

    表題やあらすじからは非モテオタク男子の話を想像するが、実際は半分くらい彼の姉・母・祖母の来歴が物語られて「荒々しくたくましい女性たちの小説」という印象。特に姉ロラの第2章が白眉。男と家出した彼女を迎えに来た母から走って逃げようとするシーンの疾走感と迫力はすごい。

    肝心のオスカーの話は正直そんなに……持てない男の哀れな自己憐憫と破滅を物語る手付きはウエルベックのほうが好みかな。

    オタク・サブカル要素も表層の面白さ以外の意義があるのか疑問。『AKIRA』とかTRPGとか、俺らの知ってるやつが出てきてうれし〜以上の何かがあるのか。オタク的想像力を、ドミニカの独裁者トルヒーヨの悪夢的治世と対置というか衝突させて描いている……的なことがあとがきにあったが、そこまで成功しているのかは怪しいと思った。

    ラストで姪にあたる少女を新たに登場させていい感じに結ぼうとしてるのもなんだかなぁ。。

    文章が上手くて読みやすくてキャッチーで物語の筋は単純で
    、良くも悪くも『Twitter文学賞1位』に相応しく、それ以上の何かではないと感じた。

    あとこれマジックリアリズムではないと思います。超自然的な要素が少しでも出てきたらマジリア判定なの?
    訳者あとがきでも、本書のバルガス・リョサ『チボの饗宴』への目配せ(対抗意識)を紹介したすぐあとで「この、中南米マジックリアリズム全体に喧嘩を売っているとしか思えないディアスの態度…」と書いているが、いい加減、中南米文学=マジックリアリズムという無理解にもほどがある図式はやめませんか。出版社が商業的意図でやるならまだしも(新潮社だし)、翻訳者・研究者がって…… 裏表紙に推薦文が載ってる高橋源一郎も。(まぁゲンちゃんへの信頼はとっくに失せているので今さら幻滅とかはしないけど)

  • ここ最近読んだ小説の中で一番面白かった!虚実入れ乱れての物語の「うねり」みたいなものは訳者の方たちの力にもよるんだろうなぁ…そして中南米の知らなかった強烈な歴史にも興味を覚えるきっかけにもなった。

    それにしても「謝辞」に「下北沢」が入っているのは何故だろう…

  • 主人公のオスカーは、『指輪物語』とSF小説、マーベル・コミックス、日本のアニメをこよなく愛するデブのオタク。当然ながら女の子にはまったくモテないが、本人の中には、愛を求めてやまないドミニカ男の血が脈打っているのだ!かくして、恋に落ちてはフラれて落ち込むことをくりかえすオスカーの人生を、姉のロラや語り手のユニオールは、はらはらしつつ見守ることになる。
    これだけなら、オフビートでちょっと切ない青春小説にしあがっていたことだろう。だが、登場人物たちが共有するドミニカのルーツには、より暗い側面がある。ユニオール言うところのフク、カリブ海の呪いが。それはまるで、トルヒーヨ以降、ドミニカ人の愛とセックスは無垢のままではありえず、政治と暴力がつきまとうことになってしまったかのようだ。超自然的なほどの絶対的権力をふるう独裁者、世代が下り、場所がアメリカに移っても子孫たちを追いかけてくる呪い・・・これではまるで、オスカーが夢中になるファンタジーかSFマンガみたいではないか。
    国中の女たちをわがものとするために、その父親や夫たちをサメのプールに投げ込んだというトルヒーヨ、独裁者に美しい娘をさしだすことを拒んだために一瞬にして破滅したアベラードの、ファンタジー小説めいたエピソードから始まる一家のサーガに低い旋律を添えるのは、ラ・インカ、ベラ、ロラという3代にわたる女たちだ。主要な産物は売春婦だと言われるドミニカで、セクシーな身体をもつ女の子たちは、自分の身体を武器に自由を手にするつもりで利用され、傷つき、ときに生命の危機にさらされ、そんな娘たちの運命を知りぬいている母親たちは、娘たちを守ろうとしながらも支配し、憎みあい、愛しあうのだ。
    こうして、アメリカのニュージャージー州で育ち、アメリカ国籍をもつベラの子どもたちのひとりは、あまりにも冷酷で強靭な母親に押しつぶされながら必死にもがき、もうひとりは、まるで超自然的な何かに導かれたように、ひきこもりのオタク生活から命をかけた愛へと跳躍し、サトウキビ畑へと消え、母親とは違って、二度と還らない。
    読み手が理解しようがしまいがおかまいなく吐き出されるオタク・ワードとスペイン語をちりばめた饒舌にして思慮深い文章は、実に圧倒的なパワーで、ドミニカ移民の子どもたちをとらえつづける、個人と歴史をつなぐ大きな力を示している。
    あとがきによれば、ジュノ・ディアスはこの語りの形式にたどりつくまでに11年をかけたとか。それだけの執念とみなぎるパワー、切実さを感じる傑作だ。

  • 単行本400ページの密度の濃い長編を読了。主人公はドミニカ系アメリカ人のオタク青年オスカー。小太りで女性には縁がなく、アニメやSFに関しては博覧強記(アメコミはもちろん、日本の「AKIRA」や「ガッチャマン」まで!) 
    そんな彼の『短く凄まじい人生』を描いた本書は青春小説と言えるが、決して軽快なものではない。それは、彼の姉、母、祖父母それぞれの人生を描くことで厚みを増していることと、何よりも彼らの人生を翻弄し続けたドミニカ共和国大統領トルヒーヨとその独裁統治を詳細に描くことによってこの小説の足腰が強固にできあがっているからだ。
    正直、本書を手にするまでドミニカの国情やトルヒーヨについてほとんど知らなかったが、読み終えた今は、ドミニカについて少し語れるくらいにはなったと感じる。(もちろん、読後に興味を覚えてドミニカやトルヒーヨについて自分で調べるという、読書がもたらす好循環を実践してみたわけだが 笑)
    この家族それぞれの人生は悲劇としか言いようがない。でも、そこは独特のユーモアと、たびたび登場する「マングース」や「顔のない男」といった隠喩によって、読後には悲壮感ではなく、ある種の爽快感が残った。オスカーも、日本でいう「オタク」などではなく、ドミニカ男のプライドを持った奴だったんだということが分かって声をかけてやりたくなった。アッパレ!と。

    また、本文中に著者自身によるかなりの量の注釈が入っているためページ数が増しているが、この注釈も秀逸で読み飛ばすべきでないことも付記しておこう。

  • カバーに書いてある通り、南米文学の豊穣さ・マジックリアリズムと、アニメ・ゲーム・マンガなどのオタクnerdが激突している。びっくりする面白さ!リョサの「チボの狂宴」と併せて読むと面白さ倍増。

  • 文学

  • 私に分かるかな~と思いつつ読み始めたけど、登場人物たちの凄まじい人生にからめとられてしまった。たくさんある注釈は分からんことばかりだが、それでも充分に魅力的だ。悲惨な出来事だらけなのに、たくましく生き抜くドミニカの人々の力強さ。一見何の強さも持ってなさそうなオスカーが最後にやらかしたことに心打たれた。

  • 評判通り、すごくおもしろかった!
    物悲しいけど、どこか少しだけ温かい気持ちになってほろりとしてしまう。
    ほんとに凄まじい家族の歴史に触れて、生きる意味ってなんだろうと久しぶりに改めて考えさせられる。それから、歴史を自らの手で、意志で語る意味も。

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